第1101話。所有権変更。
【樹海】南方の岩場。
私は、ソフィアのペットにする【古代・グリフォン】の番を捕獲しに来ています。
一応【古代・グリフォン】を逃がさないように岩場全てを覆う【神位】の【結界】を展開しました。
まあ、ゲームマスターである私が魔力反応による個体識別が行える近距離に【目標】を捉えている以上、もはや逃げられませんけれどね。
暴れられると面倒なので、とりあえず……。
「【超神位……昏睡】」
【マップ】に表示されている【古代・グリフォン】の巣にいる5個の光点反応が動かなくなりました。
「ソフィア。行きましょう」
「もう、話しても良いのか?」
ソフィアは言います。
「【古代・グリフォン】の意識を完全に刈り取りました」
「対象を視界に捉えなくても【マップ】座標だけで魔法を当てられるのはチートじゃな?それに本来なら至近魔法の【昏睡】を遠隔に飛ばせるのも卑怯じゃ」
「さっきのは厳密には魔法ではなく、ゲームマスター権限ですね」
「どっちにしろ狡じゃ」
「仕様です。それに、ゲームマスターである私のように有効射程が長くはありませんが、【マップ】座標で目標をロック・オンして遠隔からスタンド・オフ攻撃を仕掛けるのは、人種の【魔法使い】にも可能ですよ。平均的なユーザーの【魔法使い】の場合は【マップ】の縮尺を近距離サイズに拡大した状態であれば、ロック・オンが可能です。距離が伸びれば相応に高度な魔法制御能力や空間認識能力を必要としますが、グレモリーは数km単位という超遠隔からのスタンド・オフ攻撃を得意としています。当然グレモリーと同等の事は、【神格者】の【神竜】であれば問題なく出来る筈です」
「我は、そういう、みみっちい魔法制御は面倒なのじゃ」
あ、そう。
私達は、岩場に作られた【古代・グリフォン】の巣に降りました。
・・・
岩場の中は、深く窪んでいて【古代・グリフォン】が1頭通るのがギリギリという出入り口に比べて、内部は広い空間になっています。
穴の底は草地になっていて、岩の隙間から清浄な地下水が湧き出していました。
飲み水には事欠かないようです。
なるほど快適そうですね。
巣の中には、【古代・グリフォン】の成体が2頭と、雛が3頭、そして【翼竜】の肉が4頭分転がっていました。
私はオリハルコンの枷を5頭の【古代・グリフォン】に嵌め、【魔法陣】で【古代・グリフォン】が魔力を収束出来なくします。
「順番に意識を覚醒させますので、【調伏】して下さい」
「5頭いるのじゃ」
「親が2頭と、子供が3頭ですね」
「5頭貰って良いのか?雌雄の番という話じゃったが?」
「親だけを連れて行ったら、子供が飢えるかもしれませんからね。見たところ、この雛達は随分大きいので生きられるとは思いますが念の為です」
「わかったのじゃ」
「まずは、これからにしましょう」
私は一番大きな個体の【昏睡】を解除して覚醒させました。
「くっ!何者だ?」
【古代・グリフォン】は私達を見て驚きます。
しかし、完全に拘束されているので動けません。
「我はソフィアじゃ。其方を【調伏】するのじゃ」
ソフィアは言いました。
「私を彼の偉大なるルシフェル様の従魔たるグリファ・プルクラ=ロストラと知っての狼藉か?このような事をして、ルシフェル様が黙ってはいないぞっ!」
グリファ・プルクラ=ロストラなる【古代・グリフォン】は言います。
「ノヒトよ。この者は、こう言っておるが?ルシフェルとは、ノヒトが不在の間に【シエーロ】と【魔界】で好き放題しておった【天使】の小僧の名前じゃったな?」
「あ〜、一応ルシフェルの個人資産は【シエーロ】の公共物や大量破壊兵器などの問題があるモノ以外は、全てグレモリーへの損害賠償として所有権が移される事になっています。グリファとか言いましたか?あなたの雛達もルシフェルの従魔になっているのですか?」
「貴様に教える必要はない」
あ、そう。
ルシフェル……【樹海】に棲むグリファ・プルクラ=ロストラとかいう【古代・グリフォン】が、あなたの従魔だと名乗って、私とソフィアに反抗的な態度を示しているのですが、あなたから私とソフィアの言う事を聞くように命じて下さい。
私は【念話】で【魔界】にいるルシフェルに指示しました。
ノヒト様……大量の【自動人形】・シグニチャー・エディションを増援として送って下さり、誠にありがとうございます……おかげで進捗がタイム・スケジュール通りに進められそうです……グリファの事は承りました。
ルシフェルが【念話】で言います。
因みに、このグリファ某の雛達も、あなたの従魔ですか?
私は【念話】で訊ねました。
私の従魔となっているのは、グリファ・プルクラ=ロストラとフォン・マグニ=クラヴスの番だけです……雛達は【調伏】していません。
ルシフェルは【念話】で答えます。
あ、そう……つまり、この【古代・グリフォン】の番は、あなたからグレモリーに所有権が移譲されますし、3頭の雛達はソフィアが【調伏】して連れて帰るので、その旨あなたからグリファ某に説明して下さい。
私は【念話】で伝えました。
畏まりました……【自動人形】・シグニチャー・エディションの件、重ねて感謝致します……ありがとうございました。
ルシフェルは【念話】で言います。
ルシフェルが何度も【自動人形】・シグニチャー・エディションの増援について礼を言ったのは、余程タスクが捌けずにデス・マーチに苦しんでいたのでしょうね。
まあ、それも含めての刑罰なので全く気の毒だとは思いませんが。
そして、【古代・グリフォン】の番の名前は、グリファ・プルクラ=ロストラとフォン・マグニ=クラヴス。
グリファとフォンという個体名は、【グリフォン】の字面からの由来でしょう。
家名の方は、美しい・嘴と大きい・爪。
なるほど。
こういう風に、ラテン語などを用いて一見して意味が良くわからない名前にすると安直なネーミングでも、それらしくなるのですね。
そういえば、マリス・ミスクリアントとかニファーリアス・マンスローターとかは何となく、それっぽい感じがします。
つまり……意味が良くわからない……という事が【名付け】のコツなのかもしれません。
あ、そうそう。
忘れない内にグレモリー・グリモワールに連絡して……ルシフェルの個人資産が新たに見付かったので所有権の譲渡を行う……と伝えておかなければ。
ミネルヴァ。
私は【念話】でミネルヴァを呼び出します。
チーフ……グレモリーさんに連絡して状況を説明したところ、何だか面倒そうなので当該の【古代・グリフォン】の番に関しては所有権を放棄するとの事です。
ミネルヴァが【念話】で報告しました。
わかりました。
私は【念話】で了解します。
「……ノヒト・ナカ様。今、私の主であるルシフェル様より【念話】がありました。あなた様は、主ルシフェル様が絶対の忠誠を尽くす【調停者】様なのだとか?そして、こちらの御方はノヒト様の盟友たる【神竜】様であるとの事。ルシフェル様からは……御二方の御意向の通りにしろ……と厳命されました」
グリファ・プルクラ=ロストラが怖ず怖ずという様子で言いました。
「では、グリファとフォンと雛達は、このソフィアの従魔にします」
「ん?親の番はグレモリーに所有権があるのじゃろう?」
ソフィアが訊ねます。
「グレモリーは……この【古代・グリフォン】達の所有権を放棄する……そうです」
「ふむ。本来の所有権者が要らぬというなら、我が貰っておこう」
私は、速やかにグリファ・プルクラ=ロストラとフォン・マグニ=クラヴスの主人権限をルシフェルからソフィアに移しました。
通常、【調伏】された従魔の主人権限の移譲は、主人権限者本人(今回の場合はルシフェル)が行う必要があります。
しかし、私のゲームマスター権限は、ルシフェルの主人権限を優越するので、全く問題ありません。
それから、グリファ・プルクラ=ロストラとフォン・マグニ=クラヴスの3頭の雛達は、通常の手続きでソフィアが【調伏】しました。
グリファ・プルクラ=ロストラとフォン・マグニ=クラヴスは既に名前がありましたが、3頭の雛にはソフィアが【名付け】を行います。
「其方らの名前はツクネとネギマとテバサキじゃ」
ソフィアは【名付け】をしました。
あまりにも酷い名付けですね。
まあ、ソフィアが良いなら私が口出しする事ではありません。
因みに、第一子の長男がツクネ、第二子の長女がネギマ、第三子の次男がテバサキです。
どうでも良い情報ですね。
グリファ・プルクラ=ロストラの話によると、彼女は【樹海】の事実上の庇護者となっていて、【樹海】の秩序維持に貢献しているそうです。
つまり、グリファ・プルクラ=ロストラ達の一家をソフィアが連れ去ってしまうと、【樹海】の魔物達に混乱や権力の空白が生じて良くない事が起きるかもしれません。
私はミカエルに連絡して、【樹海】に天軍を送り警備体制を強化するように指示しました。
それと同時に【ドゥーム】にいるカプタ(ミネルヴァ)に連絡して、【樹海】の警備に派遣される【天使】達の穴埋めに【自動人形】・シグニチャー・エディションを送ってもらうように要請します。
直ぐに、ミネルヴァから……【ドゥーム】から大量の【自動人形】・シグニチャー・エディションが到着した……との報告がありました。
さすがは【時間加速装置】ですね。
「カリュプソ。グリファ達を、また【竜城】まで輸送して下さい」
「畏まりました」
「カリュプソ。頼むのじゃ」
「お任せ下さい」
カリュプソは、母【古代・グリフォン】のグリファ・プルクラ=ロストラと、父【古代・グリフォン】のフォン・マグニ=クラヴス、それから子供【古代・グリフォン】のツクネとネギマとテバサキを連れて【転移】しました。
「ノヒト。ツクネとネギマとテバサキは、番となる【古代・グリフォン】を見付けなければいかんのう」
ソフィアは言います。
【古代・グリフォン】は【グリフォン】とも繁殖出来ますが、可能なら【古代・グリフォン】の雛が生まれる可能性が高まる【古代・グリフォン】同士で繁殖させた方が良いですからね。
「【エルフヘイム】が繁殖している【古代・グリフォン】の雛と交換すれば良いでしょう」
「うむ。希少種を繁殖させて数を増やすのは中々大変じゃ」
それから30分程、私達は【樹海】で間引きを行いました。
【樹海】で事実上の【領域・ボス】として君臨していたグリファ・プルクラ=ロストラが居なくなるので、重しが外れて統制を失った魔物達が暴れたりしないようにです。
30分経って、【竜城】にグリファ・プルクラ=ロストラの一家を送り届けたカリュプソが、【知の回廊】で急遽編成された天軍の警備隊を連れて【転移】して来たので、私達は役割を交代しました。
警備隊は、グリファ・プルクラ=ロストラの一家が巣としていた岩場の空洞と、その周囲を改造して駐屯地にするそうです。
「ソフィア。少し早いですが【エデン】に向かいましょう」
「うむ。【エデン牛】のランチじゃな?」
ソフィアが頷きました。
「こちらの予定が想定より巻いたので、まだ【エデン】では食事の準備が整っていません。小一時間程【エデン】の都市内でも歩いて暇を潰しましょう」
「良かろう。【エンピレオ】以外の【シエーロ】の都市を見るのは初めてじゃから楽しみじゃ」
「それ程期待しない方が良いですよ。【シエーロ】では【エンピレオ】の【知の回廊】のような都市の中央に建つランド・マークに技術力が集約されています。なので、【竜都】などの先進都市と比べると【シエーロ】各都市の街並は田舎臭いのです。グレモリーの邸宅【マジック・カースル】も地下構造以外はモダンというよりクラシックでしたよね?【シエーロ】の都市は、大体あんな感じです」
「我は別に田舎は嫌いではないのじゃ」
あ、そう。
私は、どちらかと言えば、田舎より大都市での生活を好んでいます。
いいえ、好みの問題というか適応の問題ですね。
地球人としての私は、自然豊かな場所に旅行で何日か滞在するのは構いませんが、住むとなると徒歩圏内で必要なモノが何でも揃う環境でなければ、もはや生きていけないでしょう。
私とカリュプソと、【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は、ミネルヴァが【エデン】に展開してある【コンシェルジュ】を【目標】にして【転移】しました。
・・・
【シエーロ】南方領域【エデン】の中央神殿の礼拝堂。
【エデン】の【天使】達が私達を出迎えてくれます。
私達は簡単な挨拶を交わしました。
「ご苦労様」
私は【転移目標】の役割を果たしてくれた【コンシェルジュ】を労います。
とりあえず私達は、礼拝堂に【転移座標】を設置しました。
私や私と【共有アクセス権】で繋がる者達は、【コンシェルジュ】や【スパイ・ドローン】の【キー・ホール】などを【目標】にして大概の場所に【転移】が可能でした。
なので、もはや【転移座標】の設置作業は必要ないかもしれません。
しかし油断は禁物。
不測の事態は、いつ起こるとも知れないからです。
実際、私はゲーム時代のゲームマスター業務では端末のキー操作1つでゲーム内の全ての【マップ】に移動出来たので、【転移座標】など1つも設置していませんでした。
その後に異世界に飛ばされてしまって、【転移座標】が必要になるなんて、当時は想定外でしたからね。
これからも何が起きるかわかりません。
私達は、昼食の用意が整うまでの時間潰しで、【エデン】の市街地に繰り出しました。
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