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第11話。魔道具屋街で掘り出し物?

火系魔法。

低位…ファイア(火)

中位…フレイム(炎)

高位…ファイアボルト(轟火)

超位…インフェルノ(業火)

神位…ディバイン・ファイア(煉獄)

……などなど。

【竜都】の魔道具屋街。


 私は目ぼしい店舗を回って、最高品質の【魔法石】を在庫の許す限り手当たり次第に買い占めていました。


 ソフィアに消滅させられた【ミスリル・ガーゴイル】に使っていたソフトボール大の物が、一般的に流通する最高品質に相当します。

 それ以上の品質あるいは大きさの物は、(ほとん)どが国家やギルドの管理または大企業が購入するのみで、一般のお客が買える小売店の店頭に並ぶ事は稀でした。


 まあ、スペース・シャトルのエンジンやスーパー・コンピューターなどが街場の電気屋やパーツ屋で売られる訳もないので、当然と言えば当然なのですね。

 ソフトボール大の物でも、私が【魔法(マジック・)公式(フォーミュラ)】を刻めば十分に強力な【魔法石】です。


 それから、品質がソコソコの【魔法石】も大量購入しました。


【魔法石】は幾つあっても困りませんからね。

 発展途上国や辺境では【魔法石】が通貨の替わりとしても使えたりします。

 この世界(ゲーム)で【魔法石】は最も汎用性の高い物質または資源の1つと言って差し支えありません。


 私は【魔法石】以外にも魔法関係の大量の物資を補給しました。

 900年前のゲーム時代と比べて、性能や品質や品揃えは少し低いように感じましたが、現状仕入れられる限りの最高の品々が私が購入出来たモノであるという事なので致し方ありません。

 ユーザーが消失してしまった現代の世界(ゲーム)は文明が衰退してしまっているようですので……。


【スクロール】は結局買いませんでした。

 ここで売っている【スクロール】類は、ゲーム時代の感覚ならば……ユーザーが【スクロール】としては使用せず、内容を消去して単なる【スクロール原紙】に戻して単なる素材として管理するレベルのモノ……と言えば、どういう品質か理解し易いでしょう。

 ゲーム時代に、こんなレベルの【スクロール】で商売をしていたら、その店はユーザーから笑われてしまいますよ。


「さてと、ソフィア。そろそろ戻りましょうか?……ソフィア?」


 ソフィアの姿が見えません。

 迷子?

 私は溜め息を吐きました。


 ()()は誘拐などが出来る子供ではありませんので身の安全は心配ありませんが、午後の予定に遅れるのは頂けません。


 私は【マップ】を起動して辺りを見回しました。


 いました。


 ソフィアは一軒の魔道具屋の店先に飾られている等身大の人形を見ています。


「傍を離れたらダメでしょう?」

 私はソフィアの所に歩み寄りました。


「ノヒト。これを買ってくれ」


「ん?【自動人形(オートマタ)】ですね……」


 薄汚い人形です。

 指の何本かがなくなっていて眼球もありません。

 所謂(いわゆる)ジャンク品ですね。


 労働を主眼におく所謂(いわゆる)ロボットではなく、こういう対人へのコミュニケーションやサービスを目的とする【自動人形(オートマタ)】を造らせるのは大体王侯貴族でした。

 眼球には宝石に類するモノが埋め込まれている事が多いので廃棄される時に外されてしまう場合があるのです。


 おや?

 ほお、これは……。


 私は、この【自動人形(オートマタ)】の特異性を見抜きましたが、店主が近くにいたので、それを悟られないように振舞います。

 おそらくソフィアも、それに気が付いているので私に……購入して欲しい……と頼んだのでしょう。


 この店の主人は、()()の価値がわからぬらしいの。


 ソフィアが【念話(テレパシー)】で伝えて来ました。


 値札を見ると金額は二足三文のジャンク品扱い。

 私は即断で購入を決めました。


「仕方がありませんね……。ご主人、これを買いたいのですけれど……」

 私は娘にせがまれて仕方なくガラクタを買う羽目になった父親……という小芝居をして見せました。


「壊れていますが構わないですか?後で返品は受けつけませんよ」

 魔道具屋の店主は言います。


「構いません。この子の人形遊びの相手にします。()()()()()は望みませんよ」


「輸送はどうしますか?」


「そのまま持って帰ります」


「腰をおかしくしないようにね。コイツ見た目より重いから。私も腰をやっちゃってね」

 魔道具屋の店主が腰をさすりながら言いました。


「ずいぶん古い人形ですけれど、どういう(いわ)れの物ですか?」


「良くわからないね。隣の店に大昔から飾ってあってね。非売品だったんだけど気味の悪い人形だろ?先月隣の店の爺さんが亡くなって、娘さんは跡を継ぐつもりがないからって在庫を同業者に売って処分したんだよ。それでウチが粗大ゴミ扱いで、この壊れた人形を買い取ったんだけどね」


 隣の店には閉店の紙が貼り付けてありました。


「なるほど。ありがとう。よっこらしょっ、と」

 私は壊れた【自動人形(オートマタ)】を……重い……という芝居をしながら背負いました。


 私の膂力(パワー)なら、本来この程度の重量物なら無に等しい軽さです。


「気をつけてね。毎度あり」

 魔道具屋の店主は……扱いに困っていた粗大ゴミが売れた……と喜んで見送っていました。


 いいえ、あなたは大損しましたからね。


 私は、【自動人形(オートマタ)】を背負って歩き出します。


 小学生くらいの大きさの【自動人形(オートマタ)】の重量は60kg以上ありますね。


 私は足取りも重たげにソフィアを連れて路地裏へ……。

 人目がなくなった事を確認して【自動人形(オートマタ)】を【収納(ストレージ)】にしまいました。


「【神の遺物(アーティファクト)】の【自動人形(オートマタ)】じゃの」

 ソフィアが言いました。


「そうですね」


 この【自動人形(オートマタ)】はゲームの中では超高額で販売されていました。

 高い機動性を持ち魔法と格闘術を使い熟し高度な知性と……何より自我と感情を持つという奇跡の人形なのです。


 この【自動人形(オートマタ)】達をズラリと並べてパーティを組むユーザーは、俗に【人形使い(パペット・マスター)】と呼ばれ、その驚異的な戦闘力、高額な【自動人形(オートマタ)】を複数体所有出来る資金力、そして……こいつ友達いないのか?……という3つの意味で他のユーザー達を震撼させていました。


「修理出来るか?」


「欠損している眼球と指は問題ありません。抜き取られている【コア】の入手が少し手間ですね」


「【魔法石】か?」


「大きさは、そこまでの物は必要ありませんが、品質が【超級】でなければダメです。とりあえず、しばらくは、お蔵入りになりますね」


 この【自動人形(オートマタ)】の再起動は、しばらく保留して、私の【収納(ストレージ)】の肥やしにしておきましょう。


「その【コア】も【遺跡(ダンジョン)】に行けば手に入るのじゃろうて」


「場合によっては【ダンジョン・コア】より希少かもしれませんけれど、入手は可能です。【ダンジョン・ボス】の【コア】であれば、この【自動人形(オートマタ)】の【コア】に流用出来ますね」


「我とノヒトの2人ならば【ダンジョン・ボス】を倒して【コア】を入手するくらい簡単じゃろう?」


「まあ、そうですね」


 チーフ・ゲームマスターの私と、【神竜(ディバイン・ドラゴン)】のソフィアは、この世界(ゲーム)では【創造主(クリエイター)】に次ぐ戦闘力を持つ存在でした。

創造主(クリエイター)】は基本的に世界(ゲーム)の現実には【物質化(マテリアライズ)】して現れる事がないので、私と【神竜(ソフィア)】の2柱が現世最高にして最強の【神格者】という位置付けです。

 設定上、私とソフィアと比肩し得るモノは宇宙に存在しません。


 ・・・


【ドラゴニーア】の都市外縁部の外。

【竜都】北方の軍事演習場。


 私は【調停者(ゲームマスター)】の正装である【ゲームマスターのローブ】に【神剣】を帯剣した姿で、【ドラゴニーア】軍艦隊旗艦で【超級飛空航空母艦(スーパー・キャリアー)】の【グレート・ディバイン・ドラゴン】の艦橋から軍の閲兵をしています。

 そして……【神竜(ディバイン・ドラゴン)】形態に現身(げんしん)したソフィアが威風堂々と上空を旋回。

 兵士達をビビらせ……いいえ鼓舞していました。


 閲兵式のクライマックスは上空高くに昇った【神竜(ソフィア)】が体から閃光を放って消え、やがて兵士達全員に【神の恩寵(ディバイン・グレイス)】の光が降り注ぐというモノ。

 兵士達は異様に盛り上がっていました。


 これ……別に私が居なくても良いんじゃね?


 ・・・


 虚空に掻き消えた【神竜(ソフィア)】は【竜城】の礼拝堂の【降臨の魔法陣】に【転移(テレポート)】したのです。


 私は、一旦【竜城】に【転移(テレポート)】で戻りました。

 礼拝堂に出ると人化して幼女形態に戻ったソフィアが神官服を着させられていました。


 私はソフィアを連れて、再度【グレート・ディバイン・ドラゴン】の一室に【転移(テレポート)】。


 この部屋は許可を得て私の専用部屋としてもらい、先ほど【転移座標】を設置してありました。

 動く物体に【転移座標】を設置するのは、かなり難しい……というより本来は設定上不可能なのです。


【転移座標】の【魔法陣】構築は【超位魔法】。

 それだけでも難易度は極めて高いのです。


 さらに移動する目標(ターゲット)に……となると【超位】の上、ユーザーにも行使出来ない神の領域【神位魔法】でも難しいでしょうね。

 つまり膨大な魔力を持つ【神竜(ディバイン・ドラゴン)】のソフィアにも不可能です。


 私は【超神位(運営者権限)魔法】という物理法則を無視したチートで、これを行っていました。


 私は移動する【転移魔法陣】に亜空間を通して自分の魔力を流しっ放しにする事で、その自動追尾と【魔法陣】のギミック維持を可能としているのです。

 これは【超位魔法】を、常時・永久に発動させ続ける事と同じ事。

 そんな馬鹿みたいな魔力量を持つモノは、世界(ゲーム)に魔力が無限と設定されているゲームマスターしか存在しません。


 ・・・


【ドラゴニーア】艦隊旗艦【グレート・ディバイン・ドラゴン】の御座。

 本来は軍の最高司令官である大神官アルフォンシーナさんの席なのですが、今日は私が使わせてもらっています。


 ゲームマスターは【神格者】。


 ゲームマスターである私は、大神官のアルフォンシーナさんよりも儀礼格式的に上位者です。

 単なるゲーム会社の社員に過ぎない私は、神様扱いに戸惑いますが……この世界の礼法では、これが世界基準だ……と言われては辞退する事も出来ませんでした。


「ノヒト様。【ドラゴニーア】の大権者達でございます」

 アルフォンシーナさんが3人の男性を紹介しました。


「【ドラゴニーア】元老院議長、フェルディナンドでございます」


「【ドラゴニーア】執政官、ジャンピエトロでございます」


「【ドラゴニーア】大判事、ハインリク・ロベンクランツでございます」


「【調停者(ゲームマスター)】のノヒト・ナカです。どうぞよろしく」


 フェルディナンドさんとジャンピエトロさんは【(ヒューマン)】。

 二人とも長老と呼んで差し支えないような老齢な風貌です。


 一方でハインリクさんは若々しい容姿。

 しかし彼が3人の中で最年長。

 ハインリクさんは長命な【ハイ・エルフ】でした。


 私は大権者さん達と一言、二言挨拶の延長のような当たり障りのない会話を交わしましたが、何を話せば良いのか……。

 とりあえず、もっともらしく……今後とも【ドラゴニーア】の民の為に尽くすように……と言っておきました。


 アルフォンシーナさんを含む4人は深々と礼を執ります。


 因みにアルフォンシーナさんはハインリクさんよりも、ずっと年上なのだとか。

 女性に年齢の事を訊ねるのは失礼なので、私はアルフォンシーナさんが何歳であるのか?は知らない事になっていますが……。


「アルフォンシーナ様は(よわい)800歳を超えていらっしゃいます」

 エズメラルダさんが、そっと耳打ちしてくれました。


 千二百年前に【神竜(ソフィア)】が【テュポーン】と戦う為に復活しました。

 その復活の儀式で当時の大神官は亡くなっています。

 その後を継いだ大神官はアルフォンシーナさんの先代。

 つまり私達がゲームの世界で活動していた時に見掛けていたNPCの大神官は、その人物です。


 その先代大神官は在位400年で逝去。


 寿命が種族限界の10倍にも伸びる【聖格者】にしては短命のようですが、先代の大神官は就任して【聖格】を得た時点で、かなりの高齢だったのだとか。

 なるほど。


 そして、今から約800年前にアルフォンシーナさんが【神竜神殿】の大神官に就任します。


 アルフォンシーナさんは生まれつき強い魔力を持ち、幼い頃には既に【神竜(ディバイン・ドラゴン)】の神託を受ける事が出来たのだとか。

 この……神託を受ける事が出来る……という事が大神官になる為の必須条件。


 神託とは、【神竜】の声が頭の中に直接聞こえるのだそうです。

念話(テレパシー)】と違うのは同時多数に声が聞こえる事。


念話(テレパシー)】が個人通話なら、神託はオープン・チャットみたいな事かもしれません。


 おそらく【神竜(ソフィア)】と【パス】が繋がり易い性質だと神託が聞こえるのではないでしょうか?

 大神官は【神竜】と【パス】が繋がる事が必須ですからね。


 因みに【竜城】にいる【女神官(プリーステス)】の内、【高位】の方達は全員【神竜(ソフィア)】からの神託を受けられるみたいです。


「以前は厳粛な御言葉で語りかけて下さったのですが、最近の神託は……お腹が減ったのじゃ……とか……誰か、お菓子を持って来て欲しいのじゃ……とかそんな感じです」

 エズメラルダさんが苦笑いしながら言いました。


「それでも【神竜(ソフィア)】様が、現世に()わすという事に勝る喜びはありません。私は人生で現在が最も幸せです」

 アルフォンシーナさんが恍惚とした表情で言いました。


「それは間違いありませんね。何だか毎日が色鮮やかになったように感じられます」

 エズメラルダさんが言います。


「羨ましい。【女神官(プリーステス)】と近衛竜騎士団は、いつも【神竜】様のお傍にいられるのですからね」

 元老院議長のフェルディナンドさんが言いました。


「全くですね」

 執政官のジャンピエトロさんが同意します。


「私は最高評議会の時に、【神竜】様の荘厳な御姿を見て、あまりの尊さに震えが止まらなかったですからね」

 ハインリクさんが言いました。


 ハインリクさん、それビビってただけでは?


「そうでしょう?私は昨晩お風呂で【神竜】様のお体を洗って差し上げたんですよ」

 エズメラルダさんが自慢しました。


「なんと!それは【女神官(プリーステス)】総出の大仕事だったのでしょうね?」

 執政官のジャンピエトロさんが驚きます。


「いえ、昨日は私と数名の者で致しましたが?」

 エズメラルダさんは……意味がわからない……という表情で言いました。


 私はエズメラルダさんに【念話(テレパシー)】を飛ばします。


 ソフィアが人化していることは、お三方は知りません……それは秘密ですよ……忘れましたか?


 エズメラルダさんは、こちらを見て……ハッ……とした顔をしました。


誓約(プレッジ)】の魔法で機密の核心部は喋れないようになっていますが……。

 機密を維持したいなら、なるべく疑念を抱かれるような話題は避けるべきでしょう。


「魔法で大量の湯を掛け、他の者がデッキ・ブラシを持って擦るのです。かなりの重労働ですが、これも【神竜】様の為と思えば、むしろ喜びなのです」

 エズメラルダさんが取り繕いました。


 うん、誤魔化し方に不自然さはありません。

 エズメラルダさんのフォローは完璧でしょう。


「なるほど。【女神官(プリーステス)】とは大変な御役目ですな」


「いや、全くですな」


「頭が下がりますね」


 3大権者は一様に感心しています。


 そんな話題の中、当事者の【神竜(ソフィア)】は、神官服のコスプレをしてアルフォンシーナさんの後ろに控え大きな欠伸(あくび)をしていました。

お読み頂き、ありがとうございます。


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