第1092話。【フラテッリ】。
本日3話目の投稿です。
【シエーロ】中央都市【エンピレオ】。
【知の回廊】最深部【ワールド・コア・ルーム】のエントランス。
「ここが【オーバー・ワールド】……」
アマンディーヌ・アポリネールが呟きました。
「ノヒト。我らは【竜城】に向かうが、其方らの朝食はどうする?大人数じゃから追加の用意が必要かもしれぬ」
ソフィアが訊ねます。
「ならば、私とトリニティとカルネディアとフェリシテは【竜城】で朝食を頂きますよ。【黒の結社】関係や、ジャンヌ・ラ・ピュセルの身柄を引き受ける件や、プライベート・オフィスなどの件で、一応私からもアルフォンシーナさんに諸々話を通しておきたいので。具体的な調整はミネルヴァとやってもらいますけれどね。ただし少し遅れるかもしれません。そちらは先に朝食を始めていて下さい」
「ウィローとカリュプソとフロンやノノ達、それから【ファミリアーレ】はどうする?」
「【ファミリアーレ】は昨晩から【ワールド・コア・ルーム】に引越して来ましたので、ウィローとカリュプソとフロン達と【ワールド・コア・ルーム】で食事させます」
「わかったのじゃ。ならば、後程また……」
「はい」
ソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は【エントランス】から【転移】して行きました。
「では、アマンディーヌ、フェリシテ、それからフロン、プリモ、セコンド、テルツォ、クアルト、クイント、セスト、セッティモ、オッターヴォ、ノノ、デチモ。後程ミネルヴァとカルネディア、それからゲームマスター本部のメンバーを紹介しますが、とりあえずは各自の住居を確認してもらいましょうかね。詳しくはミネルヴァに訊いて下さい」
「あ、はい」
「畏まりました」
アマンディーヌとフェリシテと、その他大勢は頷きます。
しっかし、フロンやノノ達人化個体の魔物を1人1人名前を呼ぶのは、クッソ面倒臭いですね。
彼女達を一緒くたに呼べるチーム名が何か必要かもしれません。
チーム名という事なら【レジョーネ】や【ファミリアーレ】はイタリア語ですので、イタリア語で統一しますか……。
フロンとノノ達には血縁関係はありませんが、【古代竜】10体は一応プリモを長女として姉妹という体裁になっているそうです。
姉妹ならソレッラ……。
いや、カプタ(ミネルヴァ)によると、今後も【ドゥーム】から人化能力を獲得した【超位】の魔物がゲームマスター本部の戦力として【オーバー・ワールド】に転属するという話になっていました。
そこには当然ながら雄が含まれる可能性があります。
ならば、あまり男女を問わない呼称が良いですね。
しかしイタリア語には男性名詞と女性名詞があっても、中性名詞はありません。
う〜ん。
例えば、兄弟を意味するフラテッロは男性名詞ですが、確か同門や同好の仲間というような意味も含む筈です。
フロンやノノ達は、全員カプタ(ミネルヴァ)の教育と薫陶を受けた門下生ですので、意味合い的にもおかしくはないですね。
フラテッロを複数形にして……【フラテッリ】。
こんな感じでしょうか……。
「それから、フロン達魔物11頭の人化個体は、今後【フラテッリ】というチーム名で呼びます。【フラテッリ】のリーダーはフロン。サブ・リーダーはノノです」
「【フラテッリ】。うん、わかった」
「何か、かっちょいかも〜」
フロンとノノ達11体の人化個体の魔物、改め【フラテッリ】は了解します。
やれやれですね。
初めてのメンバーの魔力登録を行って、私達は【ワールド・コア・ルーム】に入場しました。
・・・
【ワールド・コア・ルーム】。
「チーフ、トリニティ、お帰りなさい。アマンディーヌ、フェリシテ、【フラテッリ】、宜しく。ミネルヴァです」
ミネルヴァが挨拶をします。
「うぇ〜、マジか〜……」
「何と巨大な……」
「デッカーーっ!」
「これがミネルヴァ様の本体様?」
アマンディーヌとフェリシテ、それから【フラテッリ】のメンバーは、上空に浮かぶ【ワールド・コア】を見上げて唖然としました。
彼女達は、例によって【ワールド・コア】がミネルヴァの本体だと誤解しています。
ミネルヴァは直径999mの【ワールド・コア】を依代にしていますが、ミネルヴァは【ワールド・コア・ルーム】内に【創造主】が形成した魔導空間力場そのものでした。
まあ、初めて【ワールド・コア・ルーム】に足を踏み入れた者が、【ワールド・コア】をミネルヴァだと誤認するのは定番リアクションです。
「トリニティ。カルネディアを起こして来て下さい。身支度が整い次第、私の執務室でカルネディアにフェリシテの主人権限を移譲します」
「仰せのままに致します」
トリニティは【転移】しました。
「ミネルヴァ。アマンディーヌと【フラテッリ】の案内は任せます。住居を確認してもらったら、私の執務室に集合させて下さい。皆を紹介します。アマンディーヌと【フラテッリ】は、後で【チュートリアル】に参加させるつもりなので、その説明と段取りもお願いします」
「了解です。では、アマンディーヌ、【フラテッリ】。【コンシェルジュ】が、あなた達の住居に誘導しますので付いて来て下さい」
ミネルヴァは指示を出します。
「あ、はい。お願いします」
アマンディーヌは、何処からともなく聞こえて来るミネルヴァの声の出所が気になるのか周囲をキョロキョロしながら了解しました。
「あの〜、朝ご飯は?」
フロンが訊ねます。
「フロン達【フラテッリ】は、ゲームマスター本部のメンバーへの紹介が終わったら、フード・コートに誘導します。アマンディーヌは、あなたの執務室の方に朝食を運ばせます」
「ご飯だ〜」
「わ〜い」
「ふうどこうと……って何だろう?」
「食堂みたいな所じゃない?」
「行ってみればわかるでしょ」
【フラテッリ】のメンバーは、わちゃわちゃと姦しく話し始めました。
何だか、女子校の教員にでもなった気分です。
「皆様。お部屋にご案内します」
【コンシェルジュ】が言いました。
アマンディーヌと【フラテッリ】はゾロゾロと移動し始めます。
「チーフ。【チュートリアル】は【ラウレンティア】で宜しいですか?」
ミネルヴァが訊ねました。
「そうですね」
「了解しました」
私はフェリシテを連れて執務室に【転移】します。
・・・
ゲームマスター本部ノヒト・ナカ執務室。
「フェリシテ。あなたは、この後私達と一緒に別の場所に移動して朝食を取りますが、お腹が減っているのなら出前も出来ますよ」
私は執務室に置かれた【ワールド・コア・ルーム】内の飲食店のメニューを、一旦【収納】に仕舞ってから再度取り出してフェリシテに差し出しました。
フェリシテは晩餐会で何も食べていませんでしたからね。
彼女は生まれて間もない個体なので、人生……いや、【妖精】生で初めての食事という事になるのでしょう。
「ありがとうございます。え〜と……」
フェリシテは困惑気味に私を見上げました。
フェリシテは……メニューが自分の身体には大き過ぎて持てない……と考えて戸惑っている訳です。
「大丈夫。受け取ってみて下さい」
「はい……。えっ!?」
フェリシテが私からメニューの束を受け取ると、メニューは【妖精】のフェリシテの身体に合わせたサイズに縮小しました。
「私の【収納】に入ったモノは、全て使用者のサイズに合わせて大きさが自動調整されるギミックが働くのです」
「なるほど……」
フェリシテは納得します。
納得というか、理解不可能な事は、とりあえず丸っと飲み込む事にしたのかもしれません。
「とはいえ、あなたは生まれたばかりでしたね。メニューを見ても……何の事やら……という感じでしょう?」
「あ、はい。ただ、本能……と申しますか、何となく花の蜜や果物など甘い物が好物であるような気がします」
「それは【想像主】から与えられた初期設定ですね。ウルスラやキアラを見る限り甘い物以外も好んで食べているようですが、まず最初の食事は無難に甘い物にしてみますか?そのピンク色がケーキ・バイキングのメニューですよ」
「ありがとうございます。えっと、では、この……苺ショートケーキのウルスラ・スペシャル……なるモノは大変に美味しそうな気がします」
フェリシテはケーキ・バイキングの最初の見開きページに写真付きで載っている1つのケーキを指差しました。
「そうですか……って、ウルスラ何ですって?」
「ウルスラ・スペシャル。この文章は、そのように読むのではありませんか?」
「どれどれ……。あ〜、本当ですね。ミネルヴァ……」
「それは裏メニューとして、ソフィアさんやウルスラさんがケーキ・バイキングに発注して作らせたモノです。ソフィアさんから……裏メニューではなく、正規のメニューに載せるように……との要望がありましたので、最新版のメニューから掲載しています」
ミネルヴァが説明します。
アイツら……好き放題していますね。
「ソフィアやウルスラの裏メニューというのは他にもあるのですか?」
「はい。ほぼ全ての飲食店にあります。掲載を中止しますか?」
「いや、まあ、この程度の事は良いでしょう。ただし、ミネルヴァもソフィアとウルスラのワガママを唯々諾々と受けるのではなく、時には毅然と断る事も必要ですよ。アイツらは、すぐ調子に乗るんですから……」
「承知しています。その裏メニューの件でも色々と政治取引の材料とさせてもらったので、安いコストでした」
「政治取引?何か良からぬ事ではないでしょうね?」
「心配には及びません。幾つかセントラル大陸の登記調査をお願いしただけです」
「登記調査ですか?」
「はい。【ガストロノミア】と【ラ・リベルタ】について調べてもらいました」
「懐かしい名前ですね」
【ガストロノミア】はゲーム時代に【アルバロンガ】にあったNPCが経営するイタリア料理……いや、【アルバロンガ】料理のリストランテでした。
グレモリー・グリモワール(私)は廃業寸前だった【ガストロノミア】に出資して経営コンサルタントの真似事をしていたのです。
【ラ・リベルタ】はゲーム時代に【ドラゴニーア】のとある場所に本拠地を置いていたユーザーによる最古参クランでした。
実はグレモリー・グリモワール(私)は【ラ・リベルタ】の創設メンバーの1人です。
その後、クラン運営の方向性の違いでグレモリー・グリモワール(私)は【ラ・リベルタ】を脱退して、【ラ・スクアドラ・インカンタトーレ】を結成しました。
実日数は2か月程しか経っていませんが、何だか物凄い昔の出来事のような気がします。
「リストランテ【ガストロノミア】は、900年前同様にクリツィア・ルクレツィアの子孫達が一族で経営しています」
ミネルヴァが説明しました。
「そうでしたか。あ、その前にフェリシテに苺ショートケーキ・ウルスラ・スペシャルとやらの出前をお願いします。フェリシテ、飲み物は果汁100%のジュースで構いませんか?」
「はい。このピーチ・ジュースというモノをお願いします」
フェリシテは言います。
「ミネルヴァ。フェリシテの注文と、私はカプチーノを、お願いします」
「了解しました」
「それで、クリツィア・ルクレツィアという事は、クリツィアは家名を持ったのですか?」
「はい。クリツィアは【ガストロノミア】を含む高級レストラン、大衆レストラン、ピッツァ専門店、及び食堂・カフェ・居酒屋……などの経営で成功し実業家として財界に確固たる地位を築き……国の食文化発展への貢献……を褒章され【ドラゴニーア】政府から家名を授与されました。現在【ルクレツィア・グループ】は【ガストロノミア】の系列レストラン・グループの他、【ホテル・ドラゴニーア】などの世界中の高級ホテルを傘下に収める世界最大のホテル・レストラン・グループになっています」
「本当ですか?それは凄い。グレモリーに教えてあげたら喜ぶでしょう」
「既にグレモリーさんには、【ラ・リベルタ】の情報と一緒に伝えました。その情報の対価として、グレモリーさんに頼み事を聞いてもらえました」
「つまり、ソフィアとウルスラの小さなワガママを聞く対価で調べてもらった【ガストロノミア】と【ラ・リベルタ】の情報をグレモリーに伝え、その対価でグレモリーに頼み事をしたのですか?わらしべ長者ですか?」
「グレモリーさんに頼み事をお願いした対価で、また他から対価を得ていますので、わらしべ長者という表現は適切かもしれません」
何やら、またミネルヴァが暗躍していますね……。
「ミネルヴァ。それは倫理上問題ない行動なのですよね?」
「はい。チーフに対して説明出来ないような疚しい事は何もありません。今、途中経過を報告しますか?」
「途中経過って、まだ、わらしべ長者が続いているのですか?」
「今は、グレモリーさんに頼み事をお願いした対価で、【タカマガハラ皇国】の当代の皇と政治取引をした所までです。詳細は【共有アクセス権】でチーフのアクセス権限なら全て見られますが、現時点までの報告を行った方が良いですか?まだ何も結果が出ていない途中経過の段階ですが……」
「あ、そう。まあ、ミネルヴァには全幅の信頼を置いていますので、ミネルヴァが現時点では私への経過報告は必要ないと判断しているなら、報告は後でも構いません。ただし、主権国家に理由もなく謀略を仕掛けるような事は感心しませんよ」
「大丈夫です。【世界の理】とゲームマスターの遵守条項を守り、チーフに説明が出来ないような事は決して行いません。そして、私が行っているのは、謀略ではなく政治工作です」
政治工作を相手側から見ると、つまり謀略なんじゃ……。
まあ、ミネルヴァを信じましょう。
ただし一応後で途中経過とやらを少しだけチェックしておきますか……。
「わかりました。で、【ラ・リベルタ】の登記も調べたのですよね?【ラ・リベルタ】は、どうなっていましたか?」
「【ラ・リベルタ】もNPCによって存続していましたが、何やらおかしな事になっています」
「おかしな事?一体どんな事になっているのですか?」
私は身構えました。
ゲーム時代の良心的なユーザー・サークルが、現在ではカルト教団に変わってしまったという、【黒の結社】のような例もありますからね……。
お読み頂き、ありがとうございます。
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活動報告、登場人物紹介&設定集もご確認下さると幸いでございます。
・・・
【お願い】
誤字報告をして下さる皆様、いつもありがとうございます。
心より感謝申し上げます。
誤字報告には、訂正箇所以外のご説明ご意見などは書き込まないようお願い致します。
ご意見ご質問などは、ご感想の方にお寄せ下さいませ。
何卒よろしくお願い申し上げます。




