第108話。マイニング・ビークル(掘削車)とハイ・エリクサー。
名前…モフ太郎
種族…【兎人】
性別…男性
年齢…なし
職種…【剣宗】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】
特性…【才能…剣術、迅歩、見切り】
レベル…99
大学勤務、工学修士。
世界武道大会5連覇。
数学的知識を使いゲームのバトル攻略法を編み出し、スター・プレイヤーとして有名になった。
彼のアドバイスを元にゲームシステムは改良されている。
世界では、冒険物語の主人公としても人気があり、同じ種族であるハリエットも憧れる存在。
【パラディーゾ】南方。
私達は、進軍していました。
左翼前方ではファヴこと【ファヴニール】が暴風のように神の怒りを体現し、右翼前方ではソフィアが爆雷の如く猛威を振るっています。
さしずめ、風神雷神ですね。
私は、オラクルを守りながら高速で飛行していました。
もはや、私には、この進撃は、移動という意味でしかなくなっています。
それくらい、2柱の守護竜の戦いは、凄まじいモノでした。
時折、ファヴが撃ち漏らした魔物が背後に流れてくる事もありましたが、オラクルが【石化】で石化してから、首など致命傷となり得る部位を【加工】で切断する、という凶悪な方法で淡々と処理してしまいました。
もちろん、魔物の素材としての価値を手放すような真似はしません。
魔物を絶命せしめた後、オラクルは【石化】を解いて、きちんと回収していました。
本来、【超位】の魔物に【高位魔法】の【石化】は、【抵抗】されるはずです。
しかし、オラクルの【石化】は、おおよそ1割程度の確率で、効果を発揮していました。
成功率が少ない?
普通に考えれば、そうですが、オラクルの装備から言えば、そんな事はありません。
オラクルの【石化】は、装備する【神の遺物】の盾【アイギス】に埋め込まれた【超位魔人】である【メデューサ】の眼が開かれる事によって発動していました。
これは、魔力消費は微量、さらに、瞬時に何度も連発可能。
1割の成功率しかないとしても、確率論的に言うなら、1秒間で10連発の【石化】を発動させれば良いだけなのです。
チート。
何故、【超位】の魔物に【高位魔法】がこれだけ効果を発揮しているのか?
簡単な事でした。
ファヴが、自らの【神位結界】の効果を変え、敵性個体の【魔法障壁】を弱体化させていたからです。
守護竜は、自らの【神位結界】の発動効果を、何か一つ付加する事が可能でした。
例えば、ウエスト大陸の守護竜【リントヴルム】は、この付加効果で、おそらく……人種の進入を阻む……という効果を発動させてしまったのだ、と思います。
つまり、今回、私は、ファヴに、敵性個体の【魔法障壁】を減衰する目的で【神位結界】の発動効果を付加するように依頼していた、という事。
種明かしをすれば、とても単純な事なのです。
ここは、ファヴの直接庇護する領域。
ファヴのお膝元、ファヴの庭、ファヴの家なのです。
ファヴの庇護領域内で、ファヴに挑むのは、愚かとしか言いようのない事。
今、【超位】の魔物の魔法防御は、【中位】レベルまで大きく減衰していました。
なので、【高位土魔法】の【石化】が、面白いように成功するのです。
このようなチートは、【パラディーゾ】が滅びているからこそ可能な事でした。
もしも、ファヴの庇護領域に、ファヴの庇護する民が存在していたら?
ファヴは、おそらく、民達の防御力を高める、など民の庇護を優先せざるを得なかったでしょう。
魔物達は、【パラディーゾ】を滅亡させた事で、逆に自分達を危険に曝す事となっている訳です。
行程は、順調過ぎるほど、何ら懸念なく進捗していました。
ソフィア、休憩にしますよ。
ファヴ、休憩です。
私は、ソフィアとファヴに対して順番に【念話】を飛ばしました。
・・・
私達は、サンドイッチを食べながら、何度目かの休憩をとっています。
私はBLT、ソフィアは玉子サンド、ファヴはハムとチーズ。
「ソフィアお姉様。あと200kmほどです。完全に暗くなる前に【ダイアモンドブルク】に着けそうで、良かったですね」
ファヴが言いました。
【パラディーゾ】は赤道直下の国。
今の季節は日が多少長い為、日本人の感覚では夜という認識の時間帯でも、まだ多少明るいのです。
高緯度帯のように、白夜になったりはしませんが……。
「うむ。ここにおる者は、皆、夜目が利くが、それでも夜は戦意が下がる。我は、眠いから、夜戦は嫌いなのじゃ」
ソフィアが言いました。
「ファヴ。【ダイアモンドブルク】の先には、【大鉱脈】がありますよね?」
「はい」
「む?【大鉱脈】とは何じゃ?」
「世界最大のアダマンタイト鉱山にして、ダイアモンド鉱山。そして、その深層には、周期スポーン・エリアがあります。エリア・ボスは、【鉱石竜】。その眷属は【岩石竜】。いずれも、頑強な外皮を持ち、防御力に秀でる、厄介な相手です」
ファヴは、立て板に水の如く解説してくれます。
「ファヴよ。其方は、何故、そのような事を知る?我は【創造主】から、周期スポーン・エリアについてなど、何も知らされておらなんだのじゃ」
なので、ソフィアは、【青の淵】で、【青竜】との強制エンカウントという地雷を踏み抜き、大事件を起こしました。
「はい。900年前には、使徒たる聖職者達を、サウス大陸各所に派遣して、あらゆる物事を調べさせていました。知識を得る為です」
ファヴは、偉いですね。
それに、比べて……。
私は、ジト目でソフィアを見ました。
「なっ、何じゃ、ノヒト。我は、勉強が嫌いなのじゃ」
ソフィアは、何故か、開き直って逆ギレします。
一瞬、ソフィアとハリエットが重なって見えました。
「ソフィアお姉様には、生まれながらに、至高の叡智が備わっています。僕は、知能の働きでは、ソフィアお姉様には、到底及びません。なので、雑多な知識を身につける事で、それを少しでも補いたかったのです。ソフィアお姉様は、そのままで立派です」
ファヴは、ソフィアをフォローします。
出来た弟ですね。
知識欲と向学心が高い弟……ファヴ。
怠惰な姉……ソフィア。
この評価が、私の中で確定しました。
それは、ともかく、【大鉱脈】です。
「ファヴ。【大鉱脈】には、アレがありますよね?【掘削車】が」
「どうでしょうか……スタンピードの混乱でどうなったか?おそらく【神の遺物】ですので、壊れずに、坑道や、鉱山の整備施設には相当数があると思いますが……」
【掘削車】とは、鉱物を掘り出す【重機車両】の事。
巨大なドリルがついた、ファンタジー・ロマン的な乗り物ではなく、高出力の【加工】で、硬いアダマンタイトの鉱床を物ともせず掘り進む【神の遺物】です。
「何台か、もらえないかな?」
私は、【掘削車】が欲しかったのです。
それは、もう喉から手が出るほど。
「そうですね。僕の一存では、返事はすぐには……」
「ならば、神託を出して、聖職者に許可を取ってもらえないかな?これは、強制ではなく、要請。断ってくれても構わないし。もちろん、対価も払う。1台10万金貨では、どうだろうか?」
10万金貨は、日本円換算でなら100億円です。
相場より、かなり高額でしたが、【掘削車】は、鍛治・鉱業ギルドが、ほぼ独占している【神の遺物】。
市場には、ほとんど出回りません。
また、私が想定する使用法なら、その価値は十分にあります。
「わかりました。少し、待って下さいね……」
ファヴは、パスが繋がっている聖職者と話し始めました。
「ノヒトよ、どうしたのじゃ?そのように、必死に欲しがるような物か?たかが、穴掘り機じゃろう?」
「ソフィア、【掘削車】の価値に気が付かないようでは、資本家としては、成功出来ませんよ」
「なぬっ?儲け話なのじゃな?我にも一枚噛ませるのじゃ」
「もちろんですよ。私達のビジネスです。ふふふ……」
「そうじゃな。わっはっはっは……」
私は、ゲームマスターの業務に必要な為、武器装具系の【神の遺物】は、ほぼ全て【収納】に保管しています。
しかし、オラクルのような非生物NPC、【掘削車】のような乗り物、【魔法装置】などは、ほとんど持っていませんでした。
これらは、【アルタ・キアラ】や【クワイタス】などという固有名を持たない為、【無名の神の遺物】と総称されています。
因みに私が持っている【神の遺物】の中には、【ミネルヴァの写本機】という名持ちの【神の遺物】の【魔法装置】がありますが、これは、固有名を持つので、【無名の神の遺物】ではありません。
私は、【無名の神の遺物】を持っていません。
何故か?
私が、あらゆる武器装具やアイテムを持つ理由は、それらを使用する事で、バグや不具合が発生しないか、を調査する為でした。
【神の遺物】の類は、一般の武器装具にはない特殊なギミックやエフェクトを伴っていたりします。
また、【ハリエット】が持つ【神の遺物】の太刀【鬼切】のように、基本的に魔力を通し辛い金属としてプログラムされているヒヒイロカネ製であるにも関わらず【神の遺物】であるから、という、ご都合主義によって、魔力が流れ易く設定改変がされていたりもしました。
これが、バグや不具合を誘発し易いのです。
例えば、ジェシカが持つナイフ状の武器【ハルパー】の【アルゲイポンテース】は、敵を斬ると、何故かダメージを回復させてしまう、というバグを発生させました。
もちろん現在はデバッグされていますが……。
つまり、【神の遺物】は、バグや不具合を起こし易いから、私は、ゲームマスターの業務として、たくさんの【神の遺物】を持たされ、性能や動作を調べる必要があったのです。
しかし、あまりにも管理アイテムが膨大な為、たくさんいるゲームマスターで、役割分担が割り振られていました。
調べるのは、【神の遺物】以外の物も全てなのです。
他の業務もこなしながら、私1人で調べられるような数ではありません。
つまり、私の調査担当は、武器装具など携帯可能な物で、名持ちの【神の遺物】。
その他の物は、それぞれ他のゲームマスターが担当していた、という訳です。
で、話は戻りますが、【掘削車】が欲しい理由。
この【掘削車】は、強力な装甲と、高出力な【加工】発動機能を持ちます。
しかし、そんな機能は、私の能力の方が、はるかに強力なので、いりません。
私が欲しいのは、掘り出した鉱物や土砂などを地上に運ぶまでの間、一時的に保管しておく、【掘削車】内臓の格納庫。
この格納庫の容量は、1万t。
確かに大きな容量ですが、【宝物庫】と同じです。
【収納】アイテムとしては、重厚長大な【掘削車】は、不便極まりないでしょう。
デカくて重くて、持ち運べません。
なので、【収納】アイテムとしては、どうでも良いのです。
【掘削車】の内臓格納庫には、私が喉から手が出るほど欲しい機能がありました。
それは、選別機能。
【掘削車】は、鉱脈からアダマンタイトなどの利用価値がある鉱物を採掘する機械。
掘り出した岩盤を丸ごと格納すると、その岩盤から、アダマンタイトなどの利用価値がある物質と、岩石・土砂などの無用な物質を選別し、岩石・土砂などは、固めて、排出する機能があるのです。
これは、便利です。
他の【収納】アイテムにも、自動選別・自動整理の機能なら、あるではないか?
はい、そうです。
ただし、【収納】アイテムの選別・整理機能は、あくまでも個別の物体単位の選別・整理なのです。
しかし、【掘削車】の自動選別・自動整理機能は、一味、違いました。
一つの塊の岩石から、特定の……または、複数の鉱物を選り分けて格納する事が出来ました。
つまり、個別の物質単位で選別・整理が可能なのです。
私は、ゲームマスター権限を使えば、【神の遺物】の【魔法装置】のコマンドを変更出来ました。
私は、【掘削車】の格納庫の選別・整理機能のコマンドを変更して、これを魔物の、自動解体機、として利用しようと考えているのです。
これは、画期的で素晴らしい装置ですよ。
魔物の死体を、【掘削車】の格納庫に入れるだけで、部位ごとに選別・整理されて、出て来る。
解体を自前でやれば、冒険者ギルドではなく、商業ギルドに素材を売れます。
解体手数料が差し引かれず、また、【掘削車】解体装置なら、各素材の劣化や品質低下も起こらない為、より高額で買取してもらえるはず。
いや、そんな事すらも、些末な事ですね。
【掘削車】の格納庫の価値の本質は、もっと別にあるのです。
私は、今まで、魔物のコアと肉以外の部位は、全て一緒くたに売却してしまっていました。
しかし鮮度が良く、不純物が混合していない、最高品質の状態なら、【ポーション】や【エリクサー】の材料となる【竜】や【古代竜】の血液は欲しかったのです。
しかし、解体作業は、どんなに精緻に行っても、僅かな劣化や不純物の混合は避けられません。
それでも、【ポーション】や【エリクサー】は、作れますが、私が欲しいレベルの品質ではなかったのです。
【掘削車】の格納庫の選別機能なら、劣化せず不純物のない状態で、【古代竜】の血液が入手可能。
これで、【錬金術】系の事業も行えますね。
おそらく、最高品質の血液から造られる【エリクサー】なら、【超位魔法】である【完全回復】に匹敵する効果が得られるはずです。
これを、【ハイ・エリクサー】と名付けましょう。
うん、この世界史上初の【ハイ・エリクサー】を製造する事が出来ますね。
【ハイ・エリクサー】工場と製薬会社を設立しましょう。
社名は、アブラメイリン・アルケミーでは、どうでしょうか?
私が知る限り、最高の【錬金術士】だったユーザー……かつての仲間の名前から取りました。
アブラメイリン・アルケミーの、主任研究員は、リスベットにやってもらいましょうね。
夢は膨らみます。
「ノヒト。許可が取れました。その金額なら、喜んで売る、という事です」
ファヴは、言いました。
「よしっ!ソフィア、私達は、もう、働かなくても、お金には、困らなくなりますよ」
「なぬっ!本当か?」
「はい。ふふふ……」
「わっはっはっは……」
「お二人とも、何だか、悪い顔をしていますよ……」
ファヴが、ドン引きしながら言います。
実際のところ、お金なんか、どうでも良い……いや、あれば、それに越した事はありませんが、本当の目的は、金儲けではないのです。
【ハイ・エリクサー】は、夢の薬。
これがあれば、失われなくても良い、たくさんの命が救えますからね。
強力な【治癒】が使える【高位女神官】の数は、限られています。
【完全治癒】が使える者に至っては、以前の【ドラゴニーア】では、大神官のアルフォンシーナさん1人だけでした。
現在は、私が魔法を指導した為に、何人か、【完全治癒】を使用出来る者が出て来たようですが、それでも、1日1回という使用制限があるのです。
因みに、アルフォンシーナさんは、私の魔法指導の結果、現在では、1日に数回の【完全治癒】が行使可能になっていました。
しかしながら、致命傷を負ったり、不治の病を患ったり、という重篤な患者が同時多数発生した場合は、とても対応しきれません。
【ハイ・エリクサー】を備蓄さえしておけば、魔法詠唱者は、使用制限を気にせず、魔法が使えるようになります。
【ポーション】は飲めば魔力が何割か回復し、【エリクサー】は飲めば魔力が全回復しますが、【ポーション】や【エリクサー】には、副作用がありました。
薬と毒とは、表裏一体。
短時間に多量に摂取し過ぎると、脳や臓器に負荷がかかり、最悪の場合、死に至る可能性もあるのです。
【ハイ・エリクサー】なら、瞬時に魔力が全回復し、また成分に不純物を含まない為、副作用も起こりません。
【ポーション】や【エリクサー】に含まれる不純物が副作用を引き起こす原因なのです。
今までは、治療に当たる【魔法使い】の魔力切れで【治療】が出来ず、死なせてしまっていた傷病者などが、【ハイ・エリクサー】の普及で激減するでしょう。
私は、【ハイ・エリクサー】が市販されるようになれば、世界は、より良く変わると思います。
私が【掘削車】を欲しがる理由は、【ハイ・エリクサー】製造の為でした。
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