第107話。ファヴニールのチュートリアル。
名前…エタニティー・エトワール
種族…【天使】
性別…女性
年齢…なし
職種…【高位僧侶】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】、【防御魔法】など。
特性…飛行、【才能…防御力S、防御魔法】
レベル…99
現役女子高生。
グレモリー・グリモワールのパーティ・メンバー。
グレモリーに憧れ弟子入りを志願した。
名前もグレモリー・グリモワールをもじっている。
紙装甲のグレモリーを鉄壁の守りで支えた、防御魔法のエキスパート。
ユーザー。
【パラディーゾ】。
私達は、中央塔地下の闘技場にいました。
ソフィアが、ファヴこと【ファヴニール】に訓練をつける、と言い出したからです。
【ファヴニール】は、守護竜。
生まれつき戦闘力に関わるステータスがカンストしているので、本来、訓練は必要ありません。
しかし、ソフィアが……指導が必要じゃ……と、頑として譲りませんでした。
何でも、ソフィア流戦闘術、なるモノを伝授する、のだとか。
「違うのじゃ。もっと、こうじゃ。ビシッと来てから、シュパーンッじゃ。やってみよ」
ソフィア流戦闘術の開祖、ソフィア師は、指導します。
「こうですか?」
ファヴは、素直に従っていました。
「違うのじゃ。もっと、シュピーンッからの、バシーーッじゃ」
「こうして……こう?」
「うむ。なかなか筋が良いの。さすが、我が弟じゃ」
「ありがとうございます。ソフィアお姉様の指導のおかげです」
何ですか、この茶番は?
傍若無人な姉と、素直な弟の構図。
オラクルは、そんな2人を、お遊戯会を見学する保護者のような微笑ましい視線で眺めています。
時折、パチパチと手を叩いたり。
「2人とも、そろそろ、昼食です。昼食を食べたら、出発しますよ」
私は、作戦行動下にも関わらず、呑気な2柱の守護竜に、声をかけました。
ソフィアが唐突に訓練などを始めたので、今日の昼食は、この場で野戦食。
既に、ゴトフリード王には、その旨を伝えてありました。
オラクルがストックしてある食料を【宝物庫】から取り出して、ランチの準備をし始めます。
ソフィアのオヤツとして、オラクルやディエチは、大量の食料を携行していました。
「うむ。ファヴよ。今後も折をみて指導してやるのじゃ」
「はい。ありがとうございます」
ソフィアとファヴは、2柱とも戦闘力に関わるステータスがカンストしています。
しかし、ベースの能力が異なっていました。
ソフィアの方が、基本性能が圧倒的に優れているのです。
ソフィアは、【神竜】……全ての守護竜の頂点に君臨する存在でした。
ソフィア以外の守護竜も【神格者】ですが、【神竜】と呼ばれるのは、ソフィアただ1柱。
ソフィアは、守護竜の中にあっても、別格の存在なのです。
昼食は、ハンバーガー。
ソフィアは月見バーガーが、ファヴはチーズバーガーが好みのようです。
・・・
昼食後。
私達は、【ベルベトリア】の礼拝堂に【転移】しました。
ファヴにチュートリアルを受けさせる為です。
私は、ファヴをチュートリアルの魔法陣の上に立たせて、イベント発動キーの【ファヴニール】の彫像を回転させました。
魔法陣から光が放たれて、ファヴの身体はかき消えます。
・・・
1秒後。
帰還したファヴの両手には、【ブロードソード】と【ドラゴニーア金貨】が1枚、握られていました。
「どうじゃった?」
ソフィアがファヴに声をかけます。
「苦戦しました。何度試しても、ブレスを両断する事が出来ませんでした」
ファヴは、ガッカリした様子で言いました。
「ファヴ、あれは、ソフィアにしか出来ません。ソフィアの特異体質だからこそ、為せる技なのですよ」
私は、落ち込んでいる様子のファヴを慰めます。
ソフィアがブレスを切断出来るのは、ソフィアのステータス・ゲージが設定限界値を突き抜けており、その突き抜けた余剰部分が、第2の脳、として機能しているからでした。
ゲージが突き抜けてしまったのは、私がソフィアという名前を名付けた事により、元々カンストしていた【神竜】の戦闘に関わるステータスが、限界値を超えて向上してしまったからです。
ファヴは、元々【ファヴニール】という、個体名を持っていますので、名付けは、出来ませんでした。
つまり、ファヴには、ソフィアのようにステータス・ゲージが設定限界値を超えてしまう、などというバグは、発生しません。
つまり、ブレスを切断してしまう、あるいは、武器から魔力の刃を飛ばす、などというデタラメな戦い方は、不可能なのです。
「そうなのですか?さすが、ソフィアお姉様は、凄いです」
「うむ。我は、至高の叡智を持つ、天空の支配者であるのじゃからな」
ソフィアは、フンスッと胸を張りました。
「しかし、せっかくソフィアお姉様から指導して頂いた技が無駄になってしまいます」
ファヴは、少し悲しそうに言います。
「いや、我の流派の奥義は、表面的なモノに非ず。その崇高なる精神にこそ、価値があるのじゃ。悲観するものではない」
ソフィアが、もっともらしい事を言いました。
「なるほど。武道の神髄、を示して下さっていたのですね?ソフィアお姉様の深遠なる意図に気付かず、表面的な現象のみに執着してしまうとは……。僕は、まだまだ、修行がたりませんね」
ファヴは、瞳をキラキラさせて言います。
「うむ。それを学べただけでも、ファヴは、一歩成長したのじゃ」
「ソフィアお姉様、ありがとうございます」
何、この茶番?
ファヴ……ソフィアは、たぶん思い付きで適当な事を喋っているだけで、崇高なる精神だとか、武道の神髄だとか、深遠なる意図だとか、そんなモノは、全く考えていないと思いますよ。
ファヴのステータスを確認しました。
名前…【ファヴニール】
種族…守護竜
性別…雄
年齢…なし
職種…【領域守護者】、サウス大陸守護竜、【パラディーゾ】庇護者・国家元首
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】など。
特性…飛行(守護竜形態時)、ブレス、【神位回復・神位自然治癒】、人化、【才能…転移、天意、天運】など。
レベル…99(固定)
ふむふむ、なるほど。
泉の妖精からもらった【才能】は、ソフィアと同じですか。
これは守護竜共通なのかもしれません。
など、の部分が気になりますね。
守護竜は、戦闘フォーマットにある魔法は、全て使えるはずです。
生産系などは、どうでしょうか?
私は、ソフィアが【理力魔法】を使っているのを見た事がありますが、【加工】などを使っている所は見た事がありません。
私が、ソフィアに……他に、どんな魔法が使えるのか……と訊ねても、要領を得ない答えで、いつも誤魔化されてしまいます。
「ソフィア、ファヴ。あなた達……守護竜は、【加工】などの生産系魔法や、その他の非戦闘系魔法を、どの程度使えるのですか?」
「守護竜は、一応、全ての魔法が使えるように【創造主】に創られています。ですが、非戦闘系は、関連ステータスと熟練値が低いので、上手くはありません」
ファヴは答えました。
うん、理路整然とした答えが返ってきます。
ソフィアに守護竜の設定について私が知らない情報を訊ねても……よく、わからないのじゃ……で、済まされますからね……。
ファヴは、理知的です。
なるほど。
つまり、守護竜は、熟練値などを上げれば、非戦闘系の魔法も上達する訳ですね。
「我は、使わぬのじゃ。面倒臭いのじゃ」
ソフィアは、何故か自慢気に言います。
あ、そう。
「ソフィアお姉様は、さすがです」
ファヴは、何故か、ソフィアを褒めました。
「ソフィア、ファヴ。非戦闘系の魔法も、工夫や応用次第で、戦闘に役立ちます。ソフィアは、私の最大攻撃力の魔法……【無限核融合】を覚えたがっていましたよね?【無限核融合】は、私にしか使えませんが、【無限核融合】のように小さな魔法を組み合わせて強力な効果を発揮させる、という方法は、魔法の運用において極めて重要な事なのです。【無限核融合】を発動させる複数の魔法の一つ一つは、全て、ダメージ判定が付かない非戦闘系の魔法です。つまり、非戦闘系の魔法も組み合わせれば強力な攻撃手段となり得ますよ」
「むー、確かに、あの魔法は、途轍もない威力じゃった。あのように強大な魔法なら、是非とも覚えたいのじゃ」
「ソフィアお姉様が覚えたい、と言うほどの魔法ですか?それは、どんなモノなのでしょうか?」
私は、その場で【無限核融合】を見せてあげます。
「攻撃威力値、無限大!そんな馬鹿な!」
ファヴは、驚愕しました。
私は、【超神位魔法……対消滅】で、【無限核融合】を消します。
「え!あれだけの高エネルギー反応を、一瞬で消滅させた?今の魔法も、凄いです!」
ファヴは、言いました。
「うむ。ノヒトは、我よりも強いのじゃ。それから、【創造主】は、もっと強いのじゃ。世の中には、上には上がおるのじゃ。じゃから、我は、日々、新たな必殺技を編み出しておるのじゃ」
「さすが、ソフィアお姉様。現世最強の存在でありながら、さらに高みを追求する姿勢が素晴らしいです」
「うむ。最強の存在とは、常に孤高なのじゃ」
あ、そう。
因みに、ソフィアのステータスですが……。
名前…ソフィア
種族…【神竜】
性別…雌
年齢…なし
職種…【領域守護者】、セントラル大陸守護竜、【ドラゴニーア】庇護者・国家元首
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】など。
特性…飛行(【神竜】形態時)、ブレス、【神位回復・神位自然治癒】、人化、【世界の理への介入】、【才能…転移、天意、天運】など。
レベル…99(固定)
世界の理への介入……。
これが、ソフィアの使うデタラメの根源ですね。
私達は、【転移】で、【パラディーゾ】に戻りました。
・・・
【パラディーゾ】の南。
私達は、進撃を再開しました。
ソフィアとファヴが両翼に展開し、私は中央を進み、私のすぐ背後にオラクル、という布陣。
とはいえ、陣形などという戦術的意図がある訳ではなく、ソフィアとファヴは、時々、満杯になった【宝物庫】の中身を、私の【収納】に移し替えに来るだけで、左右のはるか遠くで、好き勝手に暴れているだけです。
ファヴは、さすが守護竜。
単体の【超位】の魔物など、全く問題にしません。
瞬殺です。
ソフィアが教えたブレスを収束して放つという技も、すぐに覚えてしてしまいました。
優秀ですね。
因みに、【ファヴニール】は、【神竜の咆哮】は、吐けません。
【神竜の咆哮】は、ソフィア固有のオリジナル技なのです。
ファヴのブレスは、ソフィアの【神竜の咆哮】と比べて、10分の1の威力しかありません。
【神位級】の攻撃魔法【神の怒り】と同等の威力でした。
どうやら、守護竜は、地水火風の四大元素魔法と、雷、氷結、光、闇、などの多彩な属性のブレスが放てるようです。
ファヴが加わり、私達の進軍速度は、劇的に上がりました。
単純に3人の戦力が4人に増えて、戦力が25%増強された、という以上の効率アップです。
今までは、オラクルを守る為に、私とソフィアは、どちらかがオラクルの側で、後衛を務めていました。
今は、オラクルの護衛に誰かが張り付き、残りは、前衛に出られるのですから、前衛は2倍。
パーティ全体で、4割ほどは戦闘効率が上がっています。
私達は、高速で敵を粉砕しながら、南下を続けました。
・・・
休憩タイム。
ソフィアがホールケーキを出して、オラクルが牛乳や紅茶を給仕してくれます。
ソフィアは、私が欲しがっても、普段なら絶対に分けてくれない高級パティスリーのホールケーキを人数分出してくれました。
どうやら、弟のファヴに、気前の良い姉、と思ってもらいたいようです。
「ソフィアお姉様。このまま、南下して、【パラディーゾ】の南の街【ダイアモンドブルク】に進軍した後は、どうするのですか?戦略構想を教えて下さい」
「うむ。ノヒトよ。我の代わりに説明してやるのじゃ」
ソフィアの代わり?
あなた、進軍行程は、何も知らないでしょう?
まあ、弟の前で、良い格好を見せたいのでしょうから、空気を読んであげますが……。
「今の進軍速度なら、今日、夜半には【ダイアモンドブルク】に着きます。明日、【ダイアモンドブルク】から出発して、【ムームー】の中央都市【ラニブラ】を目指します。【ラニブラ】を拠点として、スタンピードの元凶である、南東、南西の遺跡を攻略します。その後は、【ティオピーア】、【オフィール】、【ムームー】、【パラディーゾ】の残敵を掃討し、サウス大陸奪還作戦は、完了です」
「なるほど。その後は、僕は、復興に協力するのですね?」
そこまでは、考えていませんでしたね。
しかし、それが妥当な考えです。
「いや、ファヴは、我らと冒険に出かけるのじゃ。サウス大陸が片付いたら、次はウエスト大陸に向かうのじゃ。【リントヴルム】の奴めを、ぶっ飛ばすのじゃ」
「リントお姉様を?何故です?」
ファヴは、困惑気味に訊ねました。
私とソフィアは、ウエスト大陸の守護竜【リントヴルム】が、庇護国家の【サントゥアリーオ】から人種を追い出して引きこもり、鎖国している現状を伝えます。
「あやつめは、守護竜の存在意義を忘れておる。躾が必要じゃ」
「あの心優しいリントお姉様が、人種を排除するなんて、信じられません。何か深い理由があるのでは?」
「あやつは、昔から考えが甘いところがあったのじゃ。優しさと慈愛は違うのじゃ。優しさが人種を滅ぼす事もあり得る。時には、厳しさも持ち併せねば、守護竜の使命は果たせぬのじゃ」
ソフィアは、真面目な顔で言いました。
「なるほど、わかりました。しかし、僕がサウス大陸の復興に参与しなくても問題ないのでしょうか?」
「必要ないのじゃ。守護竜は、【神位結界】を張って、大陸に害を及ぼす敵と戦うのが使命なのじゃ。復興とは、即ち、政。政は、助言だけして、後は、人種に任せれば良い。特段の指導が必要な事柄があるのなら、パスが繋がった者に、それを伝えれば良い。それに、ファヴは、我らと一緒に冒険してみたくはないか?」
「それは、もちろん。では、サウス大陸の復興の端緒が開けたら、ソフィアお姉様と一緒に冒険へ出かけます」
ファヴは、嬉しそうに言います。
無責任なようですが、ソフィアの言には、一理ありました。
以前、ソフィアが話した言葉を借りるなら……守護竜は、庇護者ではあっても、支配者ではありません。
守護竜は、人種の営みを見つめ、時には過ちを正します。
しかし、人種に命じて強いるような事は、余程の事がない限りありません。
だからこそ、ソフィアは、【ドラゴニーア】で孤児達の支援を行う際、公人としての政策ではなく、私人としての支援事業という形で行なっているのですから。
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