第1066話。【ユニペグ】。
【ドゥーム】東方都市【ディストゥルツィオーネ】。
【ディストゥルツィオーネ】の中央神殿に到着した私達は、煌びやかなオリハルコンの鎧を装着した騎士(?)9人による儀仗で迎えられました。
どうやら、この儀仗隊はノノと同様に人化能力を身に付けた【古代竜】達のようです。
2列に並ぶ儀仗隊の間を、馬に似た有翼の生き物がポクポクと蹄を鳴らして歩み出て来ました。
「ほ〜う。【ペガサス】か?我は【ペガサス】を【竜城】で飼う予定なのじゃ。そういえば、この後【オーバー・ワールド】に戻ったら、ノヒトが我のペットとして【ペガサス】と【古代・グリフォン】を番で捕まえてくれる約束なのじゃ。ノヒト、忘れてはいないじゃろうな?」
ソフィアは言います。
ソフィア達は【オーバー・ワールド】との相対時間で3か月あまり【ドゥーム】に強制転移され【秘跡】に巻き込まれていたので、その間に……ソフィアの為に私が【ペガサス】と【古代・グリフォン】を捕獲する……という件の約束を忘れてくれないかと思ったのですが、どうやら思い出させてしまいました。
実のところ【ペガサス】は【シエーロ】に野生種の群が生息していて、既にミネルヴァの指示で【天使】達が捕獲して馴致した個体がいるらしいので私の手間はありません。
しかし、【古代・グリフォン】は超絶レア種で絶対数が少ない上に、ミネルヴァのサーベイランスで確実に存在を把握出来た個体は既に個人が【調伏】していたり(フロン)、NPC国家が所有している(【アーズガルズ】にいるらしい)ので、野良の【古代・グリフォン】を探すのは多少面倒でした。
ミネルヴァは何頭か野良の【古代・グリフォン】の動静について情報を掴んでいるようではあるのですが……。
まあ……今日見付からなければ後日……という事になっているので、私が半日程ソフィアに付き合って【古代・グリフォン】を探す体裁を取れば、見付からなくてもソフィアを納得させ当面の時間稼ぎは出来るでしょうけれどね。
【古代・グリフォン】であるフロンが……自分と同族の【古代・グリフォン】をペットにする……と言ったソフィアの方を驚いたような顔で向きました。
しかし略式儀礼だとはいえ、今は一応【神格者】を迎える挨拶の場なので、フロンは立場を弁えて黙っています。
この世界において【古代・グリフォン】は強者なので、ペットとして飼っている者などいません。
フロン自身もカプタ(ミネルヴァ)に【調伏】された個体でしたが、本質的にはカプタ(ミネルヴァ)とフロンは主従関係であり、一応従者のフロンの側が自らの意思でカプタ(ミネルヴァ)に服従している格好でした。
愛玩動物のように扱われている訳ではないのです。
「約束は覚えていますよ。ただし、この生物は【ペガサス】ではありませんけれどね」
「なぬ。有翼の馬は、即ち【ペガサス】じゃろう?」
「いいえ。これは【ユニペグ】です」
「あっ、ソフィア様。この【ペガサス】には短いけど角があるよ」
ウルスラが言いました。
「ん?本当じゃ。なるほど、【ユニコーン】との混血か?」
「そうです」
【ユニペグ】とは雄の【ユニコーン】と、雌の【ペガサス】が繁殖して生まれた個体です。
逆に雄の【ペガサス】と、雌の【ユニコーン】を交配させた個体は【ペガコーン】と呼ばれていました。
【ユニペグ】は珍しいですが自然繁殖で生まれる事があります。
しかし【ペガコーン】は誰かが人為的に番わせないと自然界では生まれません。
それは繁殖期の雄【ユニコーン】は繁殖欲が旺盛で、馬型の生き物の雌なら手当たり次第に、場合によっては人種の女性相手にすら見境なく発情するのですが、【ペガサス】は基本的に【ペガサス】同士でしか繁殖しないからです。
まあ、世界設定的に地球の神話や伝説に登場するユニコーンの特徴を踏襲している訳ですね……。
【ユニコーン】や【ペガサス】は設定上、魔物に分類されています。
しかし、人種NPC達の通俗的な解釈によると、【ユニコーン】、【ペガサス】、【フェニックス】、【サンダー・バード】、【麒麟】……など、一部の魔物は……【聖獣】……と呼ばれ、所謂魔物とは区別されていました。
【聖獣】と呼ばれる理由は、これら一部の魔物は原則として中立で、危害を加えない限り人種を襲わず、【調伏】しなくても人種が飼い馴らせる場合があるからです。
とはいえ【遺跡】や【スポーン・オブジェクト】の中にスポーンする個体は、【聖獣】でも侵入者を殺しに来ますけれどね。
また、魔物と動物は、体内に【魔法石】の【コア】を持つか否かで区別されていました。
ただし、【コア】を持っていても【神格者】は魔物には分類されません。
【ユニペグ】はポクポクと蹄を鳴らして私達の前まで歩いて来て、前脚を折りたたんで頭を下げるような姿勢を取ります。
「彼女が【ディストゥルツィオーネ】の首長のコルナーラです」
カプタ(ミネルヴァ)が【ユニペグ】のコルナーラを紹介しました。
「ノヒト様、ソフィア様、皆々様。カプタ(ミネルヴァ)様より当地【ディストゥルツィオーネ】の首長を仰せつかっております、コルナーラでございます。どうぞ宜しくお願い申し上げます」
コルナーラは挨拶をします。
角と翼を両方持つから……コルナーラ。
安直な名付けでした。
しかし、コルナーラは流暢に人語を話しますね。
【ユニペグ】の発声器官は、人型の生命体のそれとは異なるので、魔法的に空気を震わせて言語を話しているのでしょう。
「ノヒト・ナカです。どうぞ宜しく」
「コルナーラよ。我はソフィアじゃ。宜しくなのじゃ」
ソフィアは言いました。
「この【ユニペグ】が魔物の自治領域である【ディストゥルツィオーネ】の首長なのですか?」
「はい」
カプタ(ミネルヴァ)は頷きます。
「ノヒト。どうした?」
ソフィアが私に訊ねました。
「【ディストゥルツィオーネ】は魔物による自治が行われていると聴いていたので少し意外でした。【ユニペグ】は、【古代竜】を含む多くの魔物の集団を従えるような魔物ではないと思います。基本的に魔物は自分より弱い者には従いません。【ユニペグ】は希少な魔物ですが、純粋な戦闘力という意味では、【古代竜】はもちろん【竜】にも及びません」
「それはそうじゃの。カプタ(ミネルヴァ)よ、どういう事じゃ?」
ソフィアは訊ねます。
「コルナーラは行政組織の長。つまり、【ディストゥルツィオーネ】を支配している訳ではなく。私と【ディストゥルツィオーネ】の魔物達の取り次ぎ窓口のような役割です。つまりコルナーラの権威は私が後ろ盾となり担保しています」
カプタ(ミネルヴァ)が説明しました。
「行政の長とな。【ドラゴニーア】の執政官のようなモノか。執政官は軍権を持たぬ。執政官に官僚達が従うのは、【ドラゴニーア】はそういう法律と政治システムだからじゃが、本質的には執政官の職権を担保する、より上位の者がおるからじゃ。それは【ドラゴニーア】の元首たる我と【ドラゴニーア】の軍権を握るアルフォンシーナじゃ。それと同じような理屈か?」
「そう考えて頂いて差し支えありません」
カプタ(ミネルヴァ)は頷きます。
「わかったのじゃ」
「わかりました」
ソフィアと私は納得しました。
「それから儀仗隊の彼女達はノノと同じ人化能力を習得した【古代竜】達です」
カプタ(ミネルヴァ)がコルナーラの後方で儀仗する鎧の一団を紹介します。
「プリモ・ローガンドです。以後お見知りおき下さい」
人化した【古代竜】達はプリモから順番に自己紹介を始めました。
全員ローガンドの家名を名乗り便宜上姉妹関係にあると言いましたが、ローガンドの家名は単にドラゴンのアナグラムなので、言わば種族名のようなモノ。
なので、ノノやプリモ達ローガンドの者達は、それぞれ個別にスポーンした個体であり遺伝的血縁関係はありません。
そして、この人化能力を獲得した魔物達は、フロンとノノと一緒に【オーバー・ワールド】に連れて行く事になっていました。
私達は、お互いに挨拶を交わします。
「【ドゥーム】で人化が可能になった魔物は、女……あ、いや雌しかおらぬのじゃな?」
ソフィアが訊ねました。
「【古代竜】や【古代・グリフォン】など【超位級】の魔物は、概して雌の方が強大です。おそらく魔力量などの様々なステータスのスペックが高い個体程、人化能力に覚醒し易いのでしょう。もちろん個体差はありますし、また現時点での話でしかありません。今後年月を経て、【古代竜】を始め陣営の魔物達が全体的に成長すれば、時間の問題で雄の人化個体も出現すると思われます」
カプタ(ミネルヴァ)が推定します。
「なるほど」
チーフ……実は当初の予定ではソフィアさんを案内した【デマイズ】の視察は適当に都市内の工場を見せてお茶を濁すつもりでしたが、急遽の予定変更で【デマイズ】で特別な朝食を摂ってもらう事になり、ソフィアさんが【デマイズ】名産の【ジャイアント・トリュフ】と【甘露】に興味を持たれたので【甘露】と【ジャイアント・トリュフ】の菌床培地となる葉の採集地の視察をする事になりました……これに時間が掛かり、視察の予定が押してしまいました……なので、最初のスケジュールでは昼食後にチーフ達は【オーバー・ワールド】に帰還する予定でしたが、予定を延長して午後も視察を続けようと思います……構いませんか?
カプタ(ミネルヴァ)は【念話】で訊ねました。
ソフィアとの約束では1日(24時間)【ドゥーム】に滞在する予定でしたが、延長しましょう……どうせ【ドゥーム】の1日は【オーバー・ワールド】の1秒でしかありませんので、仮に何日か予定が伸びたとしても誤差です。
私は【念話】で了解します。
そもそもの計算違いは今朝ソフィアの寝起きの機嫌が悪かったので、カプタ(ミネルヴァ)が機転を利かせてソフィアを宥める為に【デマイズ】で特殊な朝食を用意してくれた事に端を発していました。
ソフィアは、ああなると面倒臭いので、そのフォローが原因でスケジュールが押したなら、それは致し方ありません。
「ソフィア。本来なら昼食後に【オーバー・ワールド】に帰る予定だったのですが、まだ視察予定が残っています。なので【ドゥーム】での滞在を半日程度延長して視察を継続します」
「うむ。わかったのじゃ」
ソフィアは頷きました。
「では、少し早いですが昼食にしましょう」
カプタ(ミネルヴァ)が言います。
「【ディストゥルツィオーネ】の名産や、ご当地グルメは何があるのじゃ?」
「それは、お楽しみです」
「ほほう。期待させおるではないか?楽しみじゃ」
私達は、食事が準備されている【ディストゥルツィオーネ】中央神殿内の広間に向かいました。
・・・
神殿の中庭。
昼食は屋外の立食形式で、【ドゥーム】の食材盛り沢山のバーベキューが行われています。
これが一番当たり外れがなく無難で、また手間も掛かりません。
「この柔らかい白身の肉は何じゃ?ホロホロ鳥のようでもあり、ウサギのようでもあるが?」
ソフィアはグリルでバーベキューを焼いている調理係の【自動人形】・シグニチャー・エディションに訊ねました。
「【フライング・マンタ】です。【ディストゥルツィオーネ】の近郊には群生地があるのです」
【自動人形】・シグニチャー・エディションが説明します。
「おーーっ!これがオニイトマキエイに近似した空飛ぶ魚類の魔物か?初めて食べたのじゃ。うむ、美味い」
「お口に合いましたのなら幸いです」
「このキノコは何じゃ?」
「【歩き茸】でございます。こちらも【ディストゥルツィオーネ】の名産です」
「ほほ〜。あの歩くキノコの魔物か?これも初めて食べたのじゃ」
「お口に合いましたのなら幸いです」
「歩くキノコは美味である事が知られておるが、冒険者が偶然見付けた個体を稀に狩って来るだけで安定供給は難しい。何しろ野生種の歩くキノコは森の中をトコトコ歩いて逃走してしまい見付け難いし、環境不変フィールドでない管理された人工林などで栽培しようとしても、歩くキノコは木の根から養分を吸い、また菌糸を木の内部に食い込ませて宿り木をすぐに枯らしてしまう強力な腐朽菌類じゃから、環境不変の森以外では栽培するのが難しい。【ドゥーム】で栽培法が確立しているとするなら、是非教えて欲しいのじゃ」
ソフィアは言いました。
「お待ち下さい。コルナーラ様……」
バーベキュー・グリルの焼き番の【自動人形】・シグニチャー・エディションは……自分の権限ではソフィアの要望に答えられない……と判断したのか、上席者のコルナーラを呼びます。
「ソフィア様。【歩き茸】の栽培法は簡単です。【歩き茸】が好む種類の木が生える環境不変フィールドの森の領域を囲むように頑丈な高電圧柵を二重に設置して、一番内側の柵の中で【歩き茸】を育成し、二番目の柵の中で【巨猪】を放牧しておけば宜しいのです。【巨猪】は【歩き茸】を好んで食べる天敵ですので、【歩き茸】は【巨猪】を恐れて一番内側の柵の外には逃げられなくなります」
コルナーラは説明しました。
「なるほど。天敵を使って閉じ込めて人工栽培を行う訳か?良い事を聞いたのじゃ。早速セントラル大陸で【歩き茸】が育つ森を探し試してみよう」
ソフィアは頷きます。
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