第1062話。悪夢を見たソフィア。
【ロヴィーナ】の中央神殿。
私とカプタ(ミネルヴァ)は、仮眠組がいる中央神殿に【転移】して来ました。
ソフィアとウルスラとキアラは、仮眠というか8時間ガッツリ睡眠を取りましたけれどね。
私達は合流して挨拶を交わします。
「おはようございます。良く眠れましたか?」
カプタ(ミネルヴァ)が訊ねました。
「い〜や、今朝は寝覚めが悪いのじゃ」
ソフィアが憮然とした顔で答えます。
「何か不手際でもありましたか?」
カプタ(ミネルヴァ)が心配そうに訊ねました。
【ドゥーム】においては、一応カプタ(ミネルヴァ)がお客のおもてなし役ですからね。
「カプタ(ミネルヴァ)に不手際など別にないのじゃ」
ソフィアは機嫌が悪そうに言います。
礼拝堂の真ん中に【避難小屋】をテントの代わりに設置して眠っていただけのソフィアに対して、カプタ(ミネルヴァ)が不手際など出来よう筈もありません。
【避難小屋】は外部からの干渉を完全に隔絶してしまう【神の遺物】の小屋なのですから。
【ドゥーム】は熱帯気候なので空調がない建物で眠れば多少の寝苦しさを感じるかもしれませんが、ソフィアが使用していた【避難小屋】は内部の温度・湿度・大気清浄などが常に最適に維持されます。
また【避難小屋】は【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】が全員で使うには、やや手狭だとはいえ、【神の遺物】の小屋なのでベッドなどの備え付けの調度品も使用者にとって最良のコンディションとなるよう自動的に調整されていました。
なので、【避難小屋】のベッドで眠っていたソフィアは、寝汗で不快になったり首を寝違えたりする事はありません。
「そうですか……。私に何か出来る事はありますか?」
カプタ(ミネルヴァ)は訊ねました。
「ないのじゃ」
ソフィアは言います。
「カプタ(ミネルヴァ)様。心配いらないよ〜。ソフィア様は嫌な夢を見ただけだから」
ウルスラが言いました。
「夢ですか?」
カプタ(ミネルヴァ)は訊ねます。
「うん。何か妹の夢を見たんだってさ」
「妹さんのですか……」
ソフィアの妹という設定になっているのは守護竜の【アンピプテラ】と【リントヴルム】と【アジ・ダハーカ】と【ニーズヘッグ】ですが……。
「ウルスラ。アンの奴めの話題を出すな。気分が悪くなるのじゃ」
ソフィアは言いました。
なるほど、ソフィアが見た嫌な夢の共演者は【アンピプテラ】でしたか。
【アンピプテラ】はソフィアが大切に飼っていたペットの【黄金の卵を産む鶏】を焼き鳥にして食べてしまったりと、色々やらかしていたそうですからね。
ソフィアは卵が大好物です。
【黄金の卵を産む鶏】が毎日1個産む卵は……至上の美味……と設定されていました。
しかし、【黄金の卵を産む鶏】を殺して食べてしまえば、当然ながら以後卵は手に入らなくなります。
食いしん坊で無類の卵好きのソフィアにとって、【黄金の卵を産む鶏】は、至宝だったのだとか。
まあ、私にとっては、どうでも良い話です。
「なるほど」
カプタ(ミネルヴァ)は事情を飲み込んで頷きました。
「して、ノヒトよ。我の朝ご飯はどうなっておるのじゃ?」
ソフィアが訊ねます。
ソフィアの朝食については特に何も考えていませんでした。
私は今まで公営酒場にいて、ちょこちょこツマミを口にしていたので空腹ではありません。
トリニティと、【古代・グリフォン】のフロンと【古代竜】のノノの人化魔物コンビも2時間程度仮眠しただけで、その直前まで公営酒場で何かしら食べていたので朝食は要らないでしょう。
「なら、またシェルター内の食堂に行きますか?無料ですし」
「う〜む。食堂の料理は美味しかったが、メニューを選べない給食方式が続くのもアレじゃしな……」
贅沢な事を言いますね。
「そうですか?じゃあ、バレ飯ですね」
「ほほう、バレ飯とな?飯というからには米料理なのじゃろうが、それは一体どんな料理なのじゃ?オムライスや天津飯や玉子丼や親子丼、それからカレーライスに牛丼にカツ丼……こう見えて、我は、ご飯モノは結構好きなのじゃ」
ソフィアは言いました。
どう見えてだかは知りませんが、ソフィアは盛大な勘違いをしています。
「バレ飯とは……フィールド・ワークなどで野外に出掛けた際、食事を主催者側が用意していないので一旦現地で解散して各自で食事を食べに行ってもらう……という意味です」
「なぬーーっ!我の朝ご飯を用意していないじゃとーーっ!」
寝起きの機嫌が悪かったソフィアは顔を真っ赤にして怒り出しました。
「そんな大声を出す程の事ではないでしょう?そこいら辺の飲食店で適当に済ませれば事足りるのですから」
嫌な夢を見たから……などという訳のわからない理由で関係がないのに当たり散らされては堪りません。
「我の食事は適当などでは済まされないのじゃっ!我は何をおいても食事を日々の最大の楽しみにしておるのじゃっ!ノヒトは計画性のない薄ら馬鹿じゃっ!」
「食事くらいで馬鹿呼ばわりとは失敬な。ならば、初めから私などをアテにせず【収納】内の食料でも適当に食べていれば良いのです。ソフィア達は、いつも小腹が空いたら、そうしているではありませんか?」
「ノヒトっ!其方は、また我の食事を適当扱いしおったなっ!?我の【収納】に食料などないのじゃ!我らは【ドゥーム】で3か月過ごしている間に【収納】の食料備蓄を食べ尽くし、【オーバー・ワールド】に戻ってもノヒトに言われて【ドゥーム】の海生人種の行く末を話し合って、そのまま【ドゥーム】に戻って来た故、我は食料の補充が出来なかったのじゃっ!」
あ〜、そうでしたね。
「ウルスラは【ワールド・コア・ルーム】で食料を買い込んだのではありませんか?それを分けてもらうとか?」
ウルスラとトライアンフは会議に参加していません。
おそらく【ワールド・コア・ルーム】で食べ物を補充しているでしょう。
「アタシとトライアンフはケーキ・バイキングで、ケーキだけ補充したけど、ご飯はないよ」
ウルスラは言いました。
あ、そう。
「まったく、ノヒトは無計画の大馬鹿なのじゃ!ぐぎぎぎ……」
ソフィアは歯軋りします。
薄ら馬鹿が、大馬鹿にクラス・アップしましたね。
酷い言われようです。
ソフィアの夢に登場した【アンピプテラ】の、とばっちりが私にも跳ねて来ましたよ。
しかし、何も朝ご飯抜きになる訳ではなく、朝ご飯の段取りが未定だっただけで、そこまで怒る事かと反駁したくなります。
そもそも、これって私の責任なのでしょうか?
もちろん違います。
まあ、私は大人なので売り言葉に買い言葉で火に油を注ぐような事を言うつもりはありませんが……。
とはいえ、これは多少面倒臭い事になりました。
ソフィアは大概短気ですが、特に空腹時には怒りの沸点が低くなりがちです。
【ロヴィーナ】にはシェルター内の食堂の他、今まで私とカプタ(ミネルヴァ)がいた公営酒場などの飲食店がありました。
そこで各自が好きなように食事をすれば何も問題はありませんが、ソフィア的には……【アンピプテラ】の夢を見て機嫌が悪い時に、自分の食事の手配を忘れられていた……という事実だけで怒るに足る理由になるのでしょう。
まったく他人からしたら理不尽極まりないですよ。
「ソフィアさん、ご心配なく。私の方で、ちゃんとソフィアさん達の為に特別な朝食を準備してあります。この後、今日最初の視察地である【デマイズ】にご案内しますが、当初から朝食は【デマイズ】で召し上がってもらう予定だったのです……」
カプタ(ミネルヴァ)が取り繕いました。
そんな話は聞いていなかったので、この場を収める為のカプタ(ミネルヴァ)の方便なのでしょう。
ソフィアの夢見が悪かった……などという下らない理由で八つ当たりをされているのに便宜を図ってやるのは甘過ぎるような気もしますが、ヘソを曲げたソフィアは面倒なので致し方ありません。
「何じゃ、用意してあるのではないかっ!まったく、驚かしおってっ!じゃが、ノヒト……我の食事の準備がない……などとは冗談にしても趣味が悪いのじゃっ!」
ソフィアは頬を膨らませて抗議しました。
「いいえ。これはチーフに視察のスケジュールを伝えていなかった私の落ち度です。許して下さい」
カプタ(ミネルヴァ)が私をフォローしてくれます。
「うむ。我は寛大じゃからして許すのじゃ。じゃが、ノヒトは反省せよ」
ソフィアは偉そうに言いました。
「あ〜、はいはい」
もしもソフィアが本当に寛大ならば、こんな、どうでも良い事で、いちいち怒ったりしません。
カプタ(ミネルヴァ)……フォローしてくれたのですね?……何だか申し訳ありません……機嫌が悪いソフィアは面倒臭いので、あなたの方便に今回は全乗っかりさせてもらいます。
私は【念話】で謝意を伝えます。
いいえ……チーフの補佐が私の役目ですので、これも職責の範囲内です。
カプタ(ミネルヴァ)は【念話】で言いながら、片目を閉じてみせました。
「カプタ(ミネルヴァ)よ。我はお腹が空いておるのじゃ。早く【デマイズ】の朝食会場に案内するのじゃ」
ソフィアは急かします。
「わかりました。では早速現地に向かいましょう」
きっと今頃【デマイズ】では、急遽カプタ(ミネルヴァ)からの緊急指令を受けた【自動人形】や【ドロイド】達が超速で食事を準備しているのではないでしょうか?
ともあれ朝っぱらから一悶着ありながらも、私達は【デマイズ】に【転移】しました。
・・・
【ドゥーム】北方の主要都市【デマイズ】。
私達は【デマイズ】の神殿に到着します。
神殿では蟻型の【魔人】である【蟻魔人】達が私達を出迎えてくれました。
【蟻魔人】は上半身が人型で、下半身が蟻という【魔人】です。
私は昆虫が苦手なので、ビジュアル的に【蟻魔人】も苦手でした。
【蜘蛛魔人】や【蠍魔人】は節足動物系なので……蟹などの甲殻類の親戚だ……と自己暗示的に思い込む事で、まだ比較的平気(という事にしている)でしたが、昆虫系は……。
なるべく顔を見て視線を下げないようにしましょう。
【蟻魔人】は核家族の単位でコロニーを形成する習性がありました。
【蟻魔人】のコロニーには、【超位級】の【女王蟻魔人】と、【高位級】の【王配蟻魔人】がいて、その配下は全て女王と王配が繁殖して生まれた【中位級】以下の子供達です。
【蟻魔人】の女性達は【働き蟻魔人】と呼ばれ、コロニーを維持する為に様々な労働に従事します。
やがて成長して長く生き、経験値を獲得して位階が上がった【働き蟻魔人】は【女王蟻魔人】に【進化】する事が出来ました。
【蟻魔人】の男性達は【兵隊蟻魔人】と呼ばれ、コロニーを守る為に戦闘をしたり、コロニーの食糧を得る為に狩猟を行います。
やがて成長して長く生き、経験値を獲得して位階が上がった【兵隊蟻魔人】は【王配蟻魔人】に【進化】する事が出来ました。
【女王蟻魔人】と【王配蟻魔人】に【進化】した個体は、生まれ育ったコロニーから独立して旅立ち、他のコロニーから独立した個体を見付けてパートナーとなり繁殖して新しいコロニーを形成します。
「チーフ、ソフィアさん。彼女が【デマイズ】の首長です」
カプタ(ミネルヴァ)が女性の【蟻魔人】を紹介しました。
見ると彼女の身体は他の【蟻魔人】達より際立って大きく、また背中には2対4枚の立派な翅があります。
【鑑定】すると、彼女が【女王蟻魔人】でした。
「ミネルヴァ様……あ、いえ、カプタ(ミネルヴァ)様より【デマイズ】の首長を拝命しておりますアントワネットでございます。皆様の御威名はカプタ(ミネルヴァ)様より聞き及んでおります。以後お見知りおき下さいませ。これなるは私の配偶者であるアントニヌスでございます」
【女王蟻魔人】のアントワネット女王が気品ある仕草で恭しく挨拶をします。
「アントニヌスです。どうぞ宜しくお願い申し上げます」
【王配蟻魔人】のアントニヌス王配が深々と頭を下げました。
アントニヌス王配の背中にも翅がありますが、他の【蟻魔人】には翅がありません。
「どうぞ宜しく」
「うむ。宜しくなのじゃ」
私達は、お互いに簡易的な挨拶を交わし自己紹介をします。
「【蟻魔人】は【超位級】のアントワネットと【高位級】のアントニヌス以外は個々の戦闘力において【魔人】としては弱いのですが、集団戦では群として一糸乱れぬ統制を見せ強力な防衛戦力として頼りになります。なので、アントワネット一家は通称【蟻兵団】と呼ばれ【ドゥーム】では他の種族達から一目置かれています。また彼女達は種族の性質として勤勉で規律があり、【魔人】としては珍しく農畜産業でも能力を如何なく発揮してくれています」
カプタ(ミネルヴァ)が説明しました。
「アントワネットとアントニヌス……。もしかして【蟻魔人】は蟻だから、そのように名付けたのですか?」
「はい。わかり易さ重視です。他にもアントワンやアリーやアリストテレス……など【蟻魔人】の名付けは基本的に蟻に因んでいます」
カプタ(ミネルヴァ)は答えます。
あ、そう。
安直ですが、ネーミング・センスについて私は他人の事を批評出来ません。
「そのような事は、どうでも良いから、とりあえず朝ご飯を食べたいのじゃ」
ソフィアは言いました。
「では、シェルターに案内します」
カプタ(ミネルヴァ)が促します。
私達は主要都市【デマイズ】の地下にあるシェルターに向かいました。
お読み頂き、ありがとうございます。
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・・・
【お願い】
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心より感謝申し上げます。
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