第1055話。【ネプチューン港】造船所。
【ドゥーム】の大陸南端【造船所オブジェクト】。
私達はカプタ(ミネルヴァ)に連れられて【造船所オブジェクト】に到着しました。
この【造船所オブジェクト】は完全に砂に埋まっている廃墟の扱いでしたが、現在はカプタ(ミネルヴァ)によって整備されていて、先進的な乾ドックを4基備えた巨大な造船所となっています。
ゲーム時代この【造船所オブジェクト】を発掘すると、確定で1隻の【砲艦】が入手可能なスポットとしてユーザーには有名でした。
しかし、発掘する為には膨大な砂を除去しなければいけませんし、仮に【砲艦】を入手しても【ドゥーム・マップ】をクリアしなければレベル半減・所持金半減のペナルティを科されるので、費用対効果的には妥当です。
もちろんカプタ(ミネルヴァ)は【造船所オブジェクト】の再整備の経緯で【砲艦】を獲得しました。
その【砲艦】は、【ドゥーム・マップ】の【サブ・クエスト】でフロンやノノ達が獲得した他の【砲艦】と共に【ドゥーム】各主要都市の防衛や警戒任務に役立てられているそうです。
「この港の廃墟の地名は単に【造船所オブジェクト】でしたが、識別の必要上【ネプチューン港】と名付けました。大規模なドックを有する造船所は【ドゥーム】の大陸北端の海岸にもあり、そちらは【ポセイドン港】と名付けてあります」
カプタ(ミネルヴァ)が説明しました。
「なるほど。しかし……カプタ(ミネルヴァ)、これは自重なしですね?」
私は半ば呆れて言います。
「もちろんです。【ドゥーム・マップ】の【時間加速装置】としてのメリットを最大限に活かさなければ、私はチーフから無能と思われてしまいますので、頑張りました」
頑張り過ぎですよ。
【ネプチューン港】の4基の乾ドックでは、無数の【ドロイド】達によって巨大な艦船が建造されていました。
「これは、つまりゲームマスター本部で使用する艦ですか?」
「はい。チーフが設計し、サウス大陸の【タナカ・ビレッジ】にある【イーヴァルディ&サンズ造船所】で間もなく完成予定の【エクスプローラー】と同型の【超級飛空航空母艦】が8隻、艦載機の【戦闘ドローン】が1千機、広域索敵と艦隊対空防御を担う【ミサイル・飛空巡航艦】が18隻、対艦攻撃を担う【ミサイル・飛空駆逐艦】が36隻、【超級輸送艦】が9隻、【工廠艦】が9隻、既に建造と艤装が完了しています」
「フル・スペックの空母打撃群が9艦隊完成済なのですか?」
「はい」
「【工廠艦】とは?」
「シピオーネさんが運用していた【飛空駆逐艦】の【静波】号の艦隊運用思想を参考に建造してみました。艦そのものが兵器工場の役目を果たします。【静波】号は艦内工場で主にミサイルなどの兵器を製造し基地に寄港しなくても補給を可能とする事を目的としていましたが、ゲームマスター本部艦隊の【工廠艦】はミサイルなど搭載兵装の製造・補給はもちろん、艦載機の【戦闘ドローン】の製造・修理、そしてドック艦として艦隊に所属する艦船の修理を、基地港に戻らず遠征先の空域で行えます」
「とんでもないですね……」
「全てはチーフのリマインダーにあった艦隊配備計画を参考にしています。しかし現行では艦隊を運用出来ません」
「何故ですか?」
「【メイン・コア】が未装填です。【エクスプローラー】級を始め、チーフが設計した艦船は全て作戦遂行能力向上と省人化を企図して【メイン・コア】に99階層【フル・遺跡】級の【ダンジョン・コア】を使用します。【ドゥーム】には【遺跡】自体が存在しないので【ダンジョン・コア】は入手不可能です。【ダンジョン・コア】を別途入手してもらわなければ、現状単なる箱でしかありません」
「わかりました。【魔界】平定戦で少なくとも12箇所の【遺跡】は攻略しなければいけないので、それで空母打撃群を1艦隊は就役させられますね。他の艦船の【メイン・コア】は追々です。それまで造船所では【メイン・コア】に【ダンジョン・コア】を必要としない別の用途の飛空船を造っていて下さい」
「【ドゥーム】艦隊として、既に【メイン・コア】を必要としない27隻の【揚陸艦】と58隻の【フリゲート】を建造して実戦配備して運用しています。それらの艦船の【メイン・コア】は【ダンジョン・コア】より性能が劣る【超位級】の【魔法石】ですが、艦自体のスペック不足を【自動人形】・シグニチャー・エディションや他の【ドロイド】を大量動員して艦隊クルーにする事で問題解決しました。チーフの省人化の設計思想とは正反対の運用になっていますが、【ドゥーム】では【自動人形】・シグニチャー・エディションなど【ドロイド】を膨大な数量確保出来ますので、このような運用としています。因みに、チーフと入れ違いで【ドゥーム・マップ】に【再配置】された【コンシェルジュ】が【ドゥーム】艦隊の司令長官をしています」
「そうですか……。【ドゥーム】の【時間加速装置】としてのメリットを活用するならば、艦船は【メイン・コア】方式を止めて、【自動人形】・シグニチャー・エディションによるクルーを大量投入する方が合理的かもしれませんね?」
「いいえ。チーフが設計した【ダンジョン・コア】を【メイン・コア】とした艦船の方が遥かに高スペックです。【ドゥーム】艦隊は、言わばチーフの設計の劣化コピーに過ぎません。実際【ドゥーム】艦隊では【古代竜】などとの戦闘では少なくない損害を出しています。やはり、【ダンジョン・コア】入手の見込みが立つなら、長期的・将来的な事を考えて現時点で建造可能な最強の艦隊を編成すべきです」
「う〜ん、私としては建造に時間が掛かりコストが高い少数のワン・オフより、早くて安くてソコソコの性能の量産の方が結果的には良いような気がします。ワン・オフが量産に勝つのはロボット・アニメの世界だけで、実際は戦略的に量産の方が強いのですよ」
「それはチーフやゲームマスター本部に向けられる多数のNPCからの……崇敬と畏怖……を、どう評価するか?という視点が抜け落ちています。【ドゥーム】は【オーバー・ワールド】から隔絶した【隠しマップ】なので、何隻の艦船が撃沈されても【オーバー・ワールド】に情報は漏れないので問題はありませんが、【オーバー・ワールド】でゲームマスター本部が運用する艦隊の艦船が、万が一にも【敵性個体】からの攻撃で墜ちるような事態になったら、チーフやゲームマスター本部に対する崇敬や畏怖を毀損しかねません。やはり【オーバー・ワールド】で運用するゲームマスター本部の艦隊はNPCにとって絶対に敵に回してはなならない……常勝不敗の神の艦隊……であるべきで、間違ってもNPC達から……ゲームマスターと敵対しても、もしかしたら勝てるかもしれない……などという誤った期待を抱かせてはいけません」
「そういうモノでしょうか?私は生産効率を追求した方が結果的には良いと思います。艦隊クルーの生命が掛かっているなら話は別ですが、艦隊クルーは【自動人形】・シグニチャー・エディションなどの【ドロイド】達です。撃破されたら修理したり、また生産すれば良いだけでしょう?」
「【ドゥーム】において私が配下にした【魔人】と魔物が内戦に至った原因の1つが、私が配下から侮られてしまったからです。私が直接【調伏】した個体は私に絶対服従しますが、私が直接【調伏】した訳ではない間接的な配下に対する影響力は絶対ではありません。私が運用する【ドゥーム】艦隊は、魔物などの【敵性個体】と戦って少なくない頻度で撃沈を含む損害を出していました。損害が出ても損害を上回る生産力があれば物的損害は相殺可能なので、私は当初それを重大な問題だとは考えていませんでした。しかし、ちょくちょく撃破される艦隊の艦船を見て、私に間接的に従う配下は、私の力を……その程度……だと考えて、私の命令を無視して内戦などになってしまったのです。現在【ストーリア】のNPC達の大多数がチーフに従うのは、チーフが最強無敵のゲームマスターだと皆が認識しているからです。そのチーフの……武名と威光を背景にした崇敬と畏怖……を毀損すれば、チーフに叛意を抱くような愚か者が増える可能性があります。もちろんチーフ個人は最強無敵なので、そういう愚か者を片端から各個撃破する事は簡単です。しかし、本来しなくても良い愚か者への対応にリソースを蕩尽しなければならなくなり業務効率は悪化します」
「なるほど、そういう考え方もあるかもしれませんね……。トリニティは如何思いますか?」
「私は、マイ・マスターの仰せのままに致します」
トリニティは言いました。
「トリニティ。ゲームマスター本部の方針について最終的には私が決裁して全責任を負う事は当然としても、部下が自分の意見を全く持たないようでは困ります。トリニティは、私とミネルヴァと並んで、独立裁量権を持つゲームマスター本部の意思決定権者です。なので、間違っていても構わないので、私はトリニティの個人的意見を知りたいのです」
「では、申し上げます。愚かな私には何が正しいのかはわかりませんが、個人的には、カプタ(ミネルヴァ)様の御意見は私好みです。マイ・マスターの……武名と威光を背景にした崇敬と畏怖……が毀損され、マイ・マスターの事を何者かが侮るような状況になるのは、とても不愉快な気分です」
「なるほど。不愉快ですか……」
「もちろん、その上でマイ・マスターの仰せのままに致します」
「わかりました。【オーバー・ワールド】で運用するゲームマスター艦隊は、現有リソースで建造可能な最強の艦船を揃えて不沈艦隊を編成しましょう。カプタ(ミネルヴァ)、その為には99階層の【フル・遺跡】の【ダンジョン・コア】が合計で幾つ必要なのですか?」
「99個を想定しています」
カプタ(ミネルヴァ)は言います。
「多過ぎませんか?主要艦9隻からなる空母打撃群が9艦隊。旗艦の1隻を担う【エクスプローラー】は既に【メイン・コア】が装填済です。つまり必要なのは80隻分ですよね?」
「【エクスプローラー】は【ソフィア艦隊】の旗艦なのでは?ソフィアさんに断りなく、ゲームマスター本部で【エクスプローラー】を運用してしまって差し支えないのでしょうか?」
「あ……そうですね。なら81隻分は折込済として、残り18個分の【ダンジョン・コア】は何に使うのですか?」
「【強襲揚陸艦】を3隻、【ミサイル・飛空駆逐艦】を6隻による2個艦隊分の艦船を追加建造したいと思います。正規空母を旗艦とした大規模な空母打撃群だけではなく、小規模で即応型の遠征打撃群も必要です」
なるほど、なるほど。
カプタ(ミネルヴァ)は徹底的に好き放題やる気ですね?
「わかりました。ならばスペックを落として生産効率を高めた【ドゥーム】型の【揚陸艦】と【フリゲート】も【オーバー・ワールド】用に生産して下さい」
「チーフ。劣化コピーは【オーバー・ワールド】では運用しない事に決まったのではありませんか?」
「ゲームマスター本部の艦隊としては運用しません。ゲームマスター本部の艦隊でなければ、撃墜されても私やゲームマスター本部への畏怖は毀損されませんよね?その艦隊は、ルシフェル達【魔界】の現地軍所属の艦隊にします。ルシフェル達の天軍が以前から【魔界】で運用していた【カマエル】艦隊も【リュミエル】艦隊も老朽化が激しくて、そろそろ近代化改修で延命する事も限界でしょう。【知の回廊の人工知能】が愚民化政策によって【魔界】の産業力を抑制していたので彼我の戦力比較によって艦隊の老朽化問題が顕在化して来なかったようですが、【魔界】平定戦でグレモリーの艦隊と合同作戦を行うとなると、速力でも機動力でも輸送力でも火力でも天軍の【魔界】艦隊は能力不足です。今から天軍の【魔界】艦隊の人種クルーを新規艦隊に合わせて訓練し直しても間に合いませんので、艦隊クルーの【自動人形】・シグニチャー・エディションも生産して下さい」
「何個艦隊を編成しますか?」
「単位は【揚陸艦】3隻に護衛の【フリゲート】が6隻で1個艦隊ですか?」
「そうです」
「それに加えて大容量の輸送力が欲しいところです。スペックを落とした【超級輸送艦】を建造して艦隊に組み入れられますか?」
「【フリゲート】6隻では、【揚陸艦】3隻と【超級輸送艦】1隻を守れません。【駆逐艦】を2隻追加しませんと」
「なら、スペックを落とした【駆逐艦】2隻とクルーも追加で……とりあえず9個艦隊の生産をお願いします」
「【ドゥーム】艦隊では【自動人形】などの【ドロイド】をクルーとして運用を最適化してありますが、【魔界】に出荷する艦隊は人種による運用も考慮した方が良いですね?」
「そうですね。汎用性の担保をお願いします」
「了解しました」
私達は【ネプチューン港】を後にしました。
お読み頂き、ありがとうございます。
もしも宜しければ、いいね、ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークをお願い致します。
活動報告、登場人物紹介&設定集もご確認下さると幸いでございます。
・・・
【お願い】
誤字報告をして下さる皆様、いつもありがとうございます。
心より感謝申し上げます。
誤字報告には、訂正箇所以外のご説明ご意見などは書き込まないようお願い致します。
ご意見ご質問などは、ご感想の方にお寄せ下さいませ。
何卒よろしくお願い申し上げます。




