第1052話。【ロヴィーナ】の魔人コミュニティ。
【ロヴィーナ】。
私達は【ロヴィーナ】の都市城壁を出て、開けた場所に移動しました。
カプタ(ミネルヴァ)が【調伏】した魔物の中で最強の2個体だという【古代・グリフォン】のフロン・フィグと【古代竜】のノノ・ローガンドと手合わせをする為です。
フロンとノノは、カプタ(ミネルヴァ)配下で人化を取れるようになった11個体の魔物の内の2個体でもありました。
人化を取ったフロンは【ハーピー】のような姿に、同じくノノは【ドラゴニュート】のような姿になっています。
「では、1対1で戦ってもらいましょう。ソフィアとトリニティは防御以外の魔法と【能力】、それから武器の使用を全面禁止にします。ソフィアは【ブレス】も禁止。フロンとノノはエニシング・ゴーズです」
私は試合のレギュレーションを決めました。
「攻撃は素手のみで、【闘気】を使うのは構わぬのじゃな?」
ソフィアが確認します。
「はい。ですが、素手でも全力の攻撃はダメですよ。相手は身内だと思って手加減をして下さい」
「うむ」
「仰せのままに致します」
ソフィアとトリニティは了解しました。
【魔法】や【能力】を禁止にしても、ソフィアとトリニティなら素手に【闘気】を纏っただけで十分にオーバー・キルです。
相当に手加減をしないと、カウンターで良いのが入ったりすればフロンとノノの頭が爆散して即死という可能性もあり得ました。
ここは【復活】ギミックがある【闘技場】ではないので、万が一があるといけません。
「え〜、何で全力で殺し合わないの?」
「うん、ハンデなんかいらないよ」
フロンとノノは不満を口にしました。
「ソフィア、トリニティ。空に向かって少し実力を見せてあげて下さい」
「【神竜の咆哮】」
「【滅びの呪い】」
ソフィアとトリニティは上空に向かって【ブレス】と【呪詛魔法】を放ちます。
「げっ……やっぱり【ブレス】と【魔法】と【能力】は禁止にしてもらおう……」
「う、うん、そうだね……」
フロンとノノは、ソフィアとトリニティの【ブレス】と【魔法】の威力値を計測して言いました。
「対戦相手はどうやって決めますか?」
「ならば【ドラゴン・バスター】を持つフロンから相手にしてやろう。【ドラゴン・バスター】の対竜特効のギミックは、【神竜】たる我にも効くか試してやるのじゃ」
ソフィアが言いました。
「では、私の相手はノノですね」
トリニティが頷きます。
こうして第一試合は、ソフィア対フロン、トリニティ対ノノに決まりました。
「では、始め」
私は試合開始の合図を掛けます。
私の合図の直後、フロンとノノは魔法が使えない相手と戦う場合の定石通りに空中に飛び上がりました。
ソフィアは現身して【神竜】形態になれば翼で飛べますし、トリニティにも翼がありますが、ソフィアとトリニティは魔法と【ブレス】が禁止なので、どちらにしろ遠距離戦闘になれば相対的に不利である事には違いありません。
フロンとノノは、泰然自若として地上に佇むソフィアとトリニティに向かって【ブレス】と【魔法】による遠隔飽和攻撃を浴びせて一気に仕留めに掛かりました。
しかし、ソフィアとトリニティは涼しい顔で、フロンとノノの攻撃を防ぎきります。
「そ〜いっ!」
ソフィアが【闘気】を纏って地面を蹴りジャンプしました。
ヒューンッ……ドゴッ!
ソフィアのジャンピング・ヘッド・バットがフロンに命中します。
「ぼえ〜っ……。参りました」
フロンは、ソフィアの頭突きを腹部に食らって胃の内容物を吐き出しながら言いました。
トリニティも【闘気】を練ってから強靭な尻尾をコイル・バネねように使って上空に飛び上がり翼を広げてノノを追撃します。
グワシッ!……ブンッ!……ヒューン、ドガーーンッ!
トリニティは無造作にノノの尻尾を掴み、地面に叩き付けました。
「へぶしっ……。降参します」
ノノは言います。
フロンとノノは、ソフィアとトリニティに軽く捻られてしまいました。
実に呆気ない。
フロンとノノのスペックなら、もう少し戦いようはあった筈です。
フロンとノノは、折角初手で飛行によって有利な高所を取ったのに、ソフィアのジャンプや、トリニティの翼による飛行で簡単に攻撃が届くような中途半端な低空に滞まっていたのが悪手でした。
本来なら【飛行】による加速で、もっと高高度に位置取りしなければならなかったのです。
まあ、あまり距離を取り過ぎると、フロンとノノの攻撃も減衰してしまうので、あの距離感だったのでしょうが……。
その後、対戦相手を変えて2試合目が行われましたが、結果は同じでした。
今度はフロンとノノも少しは考えて【飛行】詠唱によって加速して十分に距離を取ろうとしたようですが、1試合目で手の内を見せたソフィアとトリニティも同じ手は使いません。
開始の合図と同時にソフィアとトリニティは【迅歩】で一気に間合い詰めて、急所は外しながら肩口や向こう脛にエグい打撃をお見舞いしました。
フロンとノノは何もさせてもらえずに地に崩れ落ちます。
ソフィアとトリニティの力の差を見せ付けた上での完勝でした。
「【完全治癒】。さてと、次は私の番ですね。2体同時で構いませんよ」
「ノノ。このノヒト様が一番弱そうだから、私達が一緒に戦えば勝てるよ」
フロンが言います。
「うん。弱そうだもんね」
ノノが頷きました。
「始め」
カプタ(ミネルヴァ)が試合開始の合図をします。
ヒュンッ、トン。
私は超高速で移動して、フロンとノノの肩口を軽く押しました。
ズッダーーン……ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……ガッシャーーンッ!
あ……軽く押したつもりでしたが、減速が不十分で慣性が付き過ぎていたようです。
フロンとノノは激しく切り揉みしながら遠くまで転がって行きました。
「きゅ〜っ……」
「あぼ〜んっ……」
フロンとノノは気絶しています。
「【完全治癒】」
私はフロンとノノを治療しました。
手加減をミスってしまい力が強過ぎた為に、フロンとノノの背骨が捻じ切れていて、危うく死んでしまうところだったというのは内緒です。
さすがは【古代竜】と【古代・グリフォン】の身体は頑丈。
おかげで彼女達は即死を免れました。
もしも即死してしまっていたらストックが少ない【神蜜】を使わなくてはいけなくなりましたからね。
・・・
岩山の中の【ロヴィーナ】シェルター。
私達は、【ロヴィーナ】のシェルターの中に入ります。
序列決めの試合を終えて、フロンとノノは、すっかり私とソフィアとトリニティに対して従順になりました。
【マップ】の光点反応は真っ青です。
脳筋の戦闘狂は、強さで彼我の序列を決めるので単純明快。
取引きや駆け引きなどの面倒な事がありません。
【ロヴィーナ】のシェルターは内部が開けていていました。
【カラミータ】と【ディストゥルツィオーネ】と【デマイズ】の各シェルターは、都市の地下にあり、その広さは日本の地下街と同じようなスケール感ですが、【ロヴィーナ】と【ダウン・フォール】のシェルターは都市近くの地表に露出した巨大な岩山の中を刳り貫いてあるので、内部には広大な空間があります。
その【ロヴィーナ】のシェルター内部の広いスペースには中央広場がありました。
中央広場には、一見場違いな沢山の棺が並べてあります。
カプタ(ミネルヴァ)は……【ロヴィーナ】には【吸血鬼】族や【夢魔】族の【魔人】が多い……と言っていましたね。
つまり、この棺は【吸血鬼】達のベッドか、あるいはカプセル・ホテルです。
「棺だらけじゃ。まるで【地下墓所】のようじゃな?」
ソフィアが訊ねました。
「はい。【ヴァンパイア】達は睡眠する時にはベッドではなく棺でないと心身が休まらないそうです。閉所恐怖症の反対で広場恐怖症というモノがありますが、もしかしたら【吸血鬼】達が棺を好むのは、それが原因かもしれません」
カプタ(ミネルヴァ)が説明します。
「なるほど」
カプタ(ミネルヴァ)は棺の間を縫うように歩き、1つの棺の前で止まります。
私達もカプタ(ミネルヴァ)の後に続きました。
コンコン……。
「カーミラ。カーミラ……起きて下さい」
カプタ(ミネルヴァ)が棺の1つをノックして言います。
カパッ……。
「ミネルヴァ様、おはようございます。こんな早くに何か御用ですか?」
カーミラと呼ばれた【ヴァンパイア】が棺の蓋を開き、眠そうに目を擦りながら起き上がりました。
「私の上席者で【ドゥーム】に君臨するチーフ・ゲームマスターのノヒト・ナカ様と、チーフと私の部下に当たるゲームマスター代理のトリニティ、それから【オーバー・ワールド】の惑星【ストーリア】でセントラル大陸と海洋の全てに君臨する【神竜】のソフィアさんを連れて来ました。紹介しますので起きなさい」
カーミラは、寝ぼけ眼で起き上がります。
「ノヒト様、トリニティ様。御二方の御威名は、いつもミネルヴァ様より聴いております。どうぞ宜しくお願い致します。ソフィア様は守護竜様ですね?どうぞ以後お見知りおき下さいませ」
カーミラは恭しく自己紹介しました。
「彼女は、カーミラ・ダークブルーです。【ロヴィーナ】の首長を任せております。【ロヴィーナ】は農業畜産も行いますが、主要な産業はアンオブタニウムの採掘と精錬です。採掘は【ドロイド】が行い、カーミラ達【魔人】は魔法によりアンオブタニウム鉱石の精錬とインゴットへの加工を行っております。優秀な【ノーム】の鉱夫や【ドワーフ】の職人がいれば採掘と精錬の効率が上がるのですが、寿命がある人種を【ドゥーム】に連れて来ると【オーバー・ワールド】より相対的に寿命が早く尽きてしまいますので、致し方ありません」
カプタ(ミネルヴァ)が説明します。
「アンオブタニウムじゃと?それは極めて希少で工学的にも有用な金属ではないか?まさか【ドゥーム】ではアンオブタニウムが大量に採れるのか?」
ソフィアが驚きました。
「アンオブタニウムの埋蔵量は【ドゥーム】でも【オーバー・ワールド】同様に、とても希少です。【ドゥーム】全体の生産性を高い水準で保つ為には、【魔人】達の高いスペックを遊ばせない必要があります。ですので、【魔人】達には、なるべく付加価値が高い労働に従事させる必要があり、試行錯誤の末にアンオブタニウムの採掘と精錬を事業化しています。一部カーミラ達のような特に有能な者達は研究者チームとして働かせる事も出来ますが、当然ながら個人差の問題はあります。【魔人】全員に研究者としての適性がある訳でもなく、中々思い通りには行きません」
「あ〜、【魔人】は道具を扱う能力に【下方補正】が掛かるのじゃったな。であれば仕事を選びそうではある。確かに職能技術に関しては【ノーム】や【ドワーフ】や【人】や【ゴブリン】など手先が器用な種族がいた方が労働効率は高いじゃろう」
「マイ・マスター。アンオブタニウムとは?」
トリニティが小声で訊ねます。
「魔法的に精錬すると魔力伝導率が100%になるという超伝導金属です。つまり理屈の上では、アンオブタニウムで魔力線を造って敷設すれば、遠隔地へ魔力を送る場合の送伝抵抗が0になり送伝効率が飛躍的に高まるので、将来的に実用化が望まれている有用な金属地下資源ですね」
「それは素晴らしい」
「しかし、ソフィアやカプタ(ミネルヴァ)が言うように、アンオブタニウムは地中埋蔵量が極端に少なく【錬金術】でも生成不可能な謎物質なので魔力伝導率100%の送伝インフラが実用化出来るようなレベルではありません」
「なるほど」
「ただし、アンオブタニウムは地下深い鉱脈ではなく、比較的浅い表土層に稀に極小さな原石が結晶化しているので環境不変ギミックで無限に採掘が可能という意味では、効率良く採掘する技術を開発出来れば、新たな産業革命を起こす可能性がある有望な物質ではありますね」
「地下深くの鉱脈は無限ではないのですか?」
「そうです。基本的に環境不変ギミックが働くのは地下深い岩盤層より浅い表土層に限られています。なので地下深い鉱脈は掘り尽くせば枯渇します。ただしセントラル大陸の【ピアルス山脈】の地下にあるオリハルコン鉱脈などは……無限鉱脈……なので掘り尽くしても時間経過で回復しますけれどね。アンオブタニウムは鉱脈を形成せず地中に僅かずつ結晶化するので、環境不変ギミックで一昼夜で回復しますが、どうしても採掘量と採掘効率は低くなります。現在【ドラゴニーア】などの先進国では、アンオブタニウムが比較的小さくて超高性能な軍事目的の【魔法装置】の回路などに使われていますが、民間に行き渡るような量は確保出来ていません」
「そうですか……」
「皆さん。そろそろ食事にしましょう」
カプタ(ミネルヴァ)が言いました。
「お〜、それは良い。以前の【ドゥーム】の食事は、死なない為の栄養補給という意味合いが強かったが、これだけ農業畜産が盛んになれば、美味しい食事にありつけるじゃろう。楽しみじゃ」
ソフィアは言います。
私達は【ロヴィーナ】のシェルター内にある食堂に向かいました。
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活動報告、登場人物紹介&設定集もご確認下さると幸いでございます。
・・・
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誤字報告をして下さる皆様、いつもありがとうございます。
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