第1051話。適当な名前。
【ロヴィーナ】。
【ドゥーム】西の主要都市【ロヴィーナ】も再整備が完了していました。
いや、再整備というのは、おかしいですね。
【ドゥーム・マップ】は、ゲーム会社によって最初から【終末後の世界】としてデザインされているのですから。
そもそも都市名の【ロヴィーナ】からして廃墟を意味します。
つまり綺麗に整備されてしまった【ロヴィーナ】は、もはや【廃墟】としてのアイデンティティを喪失していました。
都市城壁の外には農地が広がっていますが、【カラミータ】のように地平線の彼方まで田畑や果樹園や牧草地が続くという程ではなく、都市周辺から視線を遠くに向けると未だ開拓の手が入っていない原野や森も見えます。
カプタ(ミネルヴァ)によると、農地開拓は中央都市【カラミータ】の周囲から着手されたので、その他の土地は今後順次開発を進めて行く計画なのだとか。
しかし【カラミータ】の周囲に広がる【ドゥーム】最大の平野である【大平地】は全て農地や果樹園や牧草地として開拓が完了しているので、あそこだけで途方もない農業収穫量が確保されているそうです。
なので、カプタ(ミネルヴァ)は……【大平地】以外の開拓は優先順位を考えて急ぐ必要もない……と判断しているのかもしれません。
【ロヴィーナ】の市街では、【カラミータ】同様に【自動人形】・シグニチャー・エディションや、汎用【ゴーレム】の【ハンディ・アンディ】や、汎用【ドロイド】の【ジャック・オブ・オール・トレーズ】が行き交っています。
【カラミータ】との違いは、周囲に未開地が残されているので【開拓農夫】の数が多い事と、殆どNPCの姿が見えませんね。
【カラミータ】では少人数ではありましたが、蝎型【魔人】の【ギルタブルル】であるスコルピアを始めとして【魔人】達が【ドロイド】に指示を与えていました。
「カプタ(ミネルヴァ)よ。確か【ロヴィーナ】は【魔人】のコミュニティじゃと聞いた筈じゃが、【魔人】の姿が余り見えぬのう?」
ソフィアが私と同じ疑問を持ったようで質問をします。
「彼らは【吸血鬼】族や【夢魔】族が多く、種族的に日照を忌避し、また日照による継続・ダメージも受けるので昼間は屋外活動をしません。日照耐性を持つ【真祖格】の個体もいるのですが、どちらかと言えば彼らも夜の活動を好みますので、大半の者を夜間シフトに充当しています」
カプタ(ミネルヴァ)が説明しました。
「ふむふむ、なるほど。ならば【ロヴィーナ】に駐屯しておる件の強者とは【真祖】の【吸血鬼】や【夢魔】か?」
「彼女達は魔物です。ああ、アレがそうです」
カプタ(ミネルヴァ)が上空を指差します。
「【古代竜】じゃな?つまりカプタ(ミネルヴァ)自慢の配下最強2個体とは【古代竜】という訳か?」
ソフィアは眩しそうに目を細めて言いました。
カプタ(ミネルヴァ)が指し示す上空では、雄大な巨体で滑空して来る2頭の【古代竜】の姿があります。
「いいえ。【古代竜】は1頭だけです」
カプタ(ミネルヴァ)がソフィアの推測を否定しました。
「ん?」
なるほど。
【マップ】には【古代竜】3頭と、【古代・グリフォン】1頭の光点反応があります。
「百聞は一見に如かず。とりあえず会ってみればわかります」
「うむ。わかったのじゃ」
ズッシーーンッ!
ドッシーーンッ!
2頭の【古代竜】が地響きを立てて着陸しました。
着地が荒っぽいので、あの2頭の【古代竜】は、スポーンして間もない若い個体でしょう。
つまりカプタ(ミネルヴァ)が言うように、2頭の【古代竜】はカプタ(ミネルヴァ)配下の中で最強戦力などではあり得ません。
そして地上に降りた2頭の【古代竜】の背中には、2人(?)の人影が見えました。
「ほう、【古代竜騎士】なのか?」
ソフィアが言います。
「そうです」
カプタ(ミネルヴァ)が頷きました。
カプタ(ミネルヴァ)が配下の最強戦力と称した……彼女達……とは、あの【古代竜騎士】の2人(?)なのでしょう。
「ほら、やっぱり、ミネルヴァ様だった」
「本当だ〜っ!」
2人(?)の【古代竜騎士】は【古代竜】の背から……ヒョイッ……と跳び降りて、こちらに向かって駆け寄って来ました。
女性達は、銀白色に光を放つ【フル・プレート・アーマー】に身を包んでいました。
【オリハルコン】の鎧です。
片方の【古代竜騎士】の女性は、背中に2振りの巨大な剣を袈裟懸けに背負っています。
あれは巨剣【ドラゴン・バスター】と大剣【レーヴァテイン】ですね。
【ドラゴン・バスター】と【レーヴァテイン】は【神の遺物】の剣の中では最大級・最重量の2振りでした。
何しろ【ドラゴン・バスター】は【竜】を殺す事を想定していますし、【レーヴァテイン】は【巨人】を殺す事を想定してデザインされているので、相応の大きさと質量が必要なのです。
当然ながらクッソ重いので、使い手を選びました。
NPCが【ドラゴン・バスター】や【レーヴァテイン】を使うと、【オーガ】や【ミノタウルス】や【オーク】や【ドワーフ】など怪力自慢の種族でなければ、武器の性能に【下方補正】が入ります。
ある程度ステータスの初期値や成長傾向を種族に関係なく振り分けられるユーザーでも、キャラ・メイク時に膂力にステータスを満振りしなければ、【ドラゴン・バスター】や【レーヴァテイン】は使い熟せません。
もちろん両手持ちの武器として扱わなければならず、素早さや防御を犠牲にして攻撃力と破壊力特化という使用法になります。
その剣を二刀流ですか?
という事はトンデモない膂力の持ち主なのでしょう。
まあ、彼女の種族を考えれば可能なのでしょうが……。
もう片方の【古代竜騎士】の女性は、背中に巨大な【大戦斧】を2本袈裟懸けに背負っています。
あれは【モーズグズの斧】と【モートソグニルの斧】ですね。
この2つの【大戦斧】も両手武器でした。
【モーズグズの斧】と【モートソグニルの斧】は、単純重量比較なら【ドラゴン・バスター】や【レーヴァテイン】よりも更に重いでしょう。
ただし、大剣よりリーチが短い分だけ、相対的に重心が身体に近くなるので武器としてギリギリ扱えました。
もちろん1つを両手持ちで扱う事が大前提です。
間違っても普通の人種には同時に2本使いなんか出来ません。
「フロン、ノノ。こちらの皆さんは神聖にして高貴な方々です。行儀良くしなさい」
カプタ(ミネルヴァ)は毅然とした口調で命じます。
「神聖?」
「高貴?」
2人(?)はピンと来ない様子で首を捻りました。
「この方は私の上席者で【ドゥーム】に君臨するチーフ・ゲームマスターのノヒト・ナカ様です」
カプタ(ミネルヴァ)が紹介します。
「上席者?」
「君臨?」
2人(?)は……はて?……という仕草を見せました。
「つまり、私より偉い方です」
「「お〜っ!」」
2人(?)は理解したようです。
カプタ(ミネルヴァ)は私達を順番に紹介しました。
また、2人(?)の【古代竜騎士】には、【ドゥーム】庇護者のミネルヴァの分離体がカプタ・カピトーリアという名前になった事も伝えられます。
そしてカプタ(ミネルヴァ)から2人(?)の【古代竜騎士】の正体が告げられました。
「この子はフロン・フィグ。人化を取っていますが種族は魔物の【古代・グリフォン】です。この子はノノ・ローガンド。同じく人化を取った【古代竜】です」
カプタ(ミネルヴァ)は説明します。
「ほほう。【古代・グリフォン】と【古代竜】であったか?なるほど、なるほど」
ソフィアは納得しました。
「人化を取れるようになりましたか?【神の軍団】の師団長のビアンキ(【帝竜】)と、アッズーロ(【青竜】)は、もうすぐ人化出来そうなのですが、先を越されてしまいましたね」
「はい。【ドゥーム】は【オーバー・ワールド】より時間の流れが早いので、その分だけ従魔のステータスの成長も早まります」
カプタ(ミネルヴァ)は言います。
「それにしても、フロン・フィグにノノ・ローガンドですか?カプタ(ミネルヴァ)、あなたも大概名付けが適当ですね?私も他人の事は言えませんが……」
「はい。チーフを見習ってわかり易さ重視で名付けを行っています」
「ん?何がじゃ?フロン・フィグとノノ・ローガンド……別に適当な名付けではないじゃろう?」
ソフィアが訊ねました。
「アナグラムになっているのですよ。フロン・フィグは……fron・fig……griffon……グリフォン。ローガンドは……rogand……doragon……ドラゴン。ノノは、もしかしたらイタリア語の序数の9……つまり9番目の個体という意味なのでは?」
「はい。ノノは、私が9番目に【調伏】した【古代竜】なので、9番目の・ドラゴンのアナグラムという訳です」
カプタ(ミネルヴァ)は説明しました。
「ふむ。ノヒトも、【ファミリアーレ】の子らと我に与えた【自動人形】・シグニチャー・エディションの初期ロットには、神界のイタリアという国の数字で1、2、3……それから、我の10というふうに何の捻りもない名付けをしておるのう。なるほどノヒトもカプタ(ミネルヴァ)も確かに適当じゃ」
ソフィアは納得します。
私のネーミング・センスのなさについては自覚があるので否定しません。
フロンに序数の個体名が割り当てられていない理由は、【古代竜】に比べて【古代・グリフォン】は希少種なので、現在カプタ(ミネルヴァ)陣営にフロン以外の【古代・グリフォン】がいないからでしょうね。
「つまり、この子達の他に……1番目や、2番目や、3番目……という個体名を持つ【古代竜】もいるのですね?」
「はい。私が最初期に【調伏】した魔物の内、【古代・グリフォン】 のフロンと、1番目から、この9番目、それから10番目までの【古代竜】が人化を取れるようになっています」
「カプタ(ミネルヴァ)が最初期に【調伏】した魔物は数百頭なのでは?数十年掛けて、数百頭の中から人化を取れるようになったのが11個体だけですか?やはり魔物が人化能力を身に付けるのは難しいのですね?」
「はい。元来、種族特性などとして【変身】出来ない魔物が後天的に人化を取れるようになるには、基本的に【超位級】の位階があり、尚且つスペックだけではない何らかの条件があるようです。フロンと、プリモからデチモまでの魔物、それから【魔人】の幹部候補達は、私が付きっきりで教育と指導を行いました。なので人型種族との触れ合いやコミュニケーションの頻度が人化能力獲得に関係している可能性が高いと思います。現在は内戦が起きてしまった経緯から、【魔人】と魔物を別々のコミュニティに分けて統治していますので、新たに人化能力を獲得する魔物は現れていません」
「なるほど」
「チーフ。フロン、それからプリモからデチモまでの人化能力を身に付けた11頭の魔物は、【オーバー・ワールド】に転属させてチーフの部下として働かせて下さい。ヤワな鍛え方はしていませんので、【魔界】平定戦の尖兵としても役に立つ筈です。特に、このフロンとノノは、私の配下中で最強の2個体です。彼女達は【ブレス】と魔法に加えて近接武器戦闘でも傑出した能力がありますので、戦闘では活躍する筈です。それに人化出来る魔物は、おそらくチュートリアルも受けられると思いますので、更なる強化が可能だと思われます」
「わかりました。【オーバー・ワールド】に連れて帰りチュートリアルを受けさせて部下として使いましょう。戦闘以外での活躍は期待出来ないのですか?」
「はい。端的に言えば【調伏】した【古代竜】と【古代・グリフォン】は全て戦闘馬鹿の脳筋ばかりです。【古代竜】も【古代・グリフォン】も人種より知性が高い筈なのですが、性格的な問題か、まだ若いからか、あるいは私が育て方を間違ったのか……事務処理能力や管理能力などは皆無で、【ドゥーム】の運営には携わっていません。魔物にも【ドロイド】達の管理職として働いている個体もいますが、少数です。管理職人材は専ら【魔人】達に頼っています」
カプタ(ミネルヴァ)は苦笑いしながら言いました。
「ははは……。まあ、適材適所ですね」
【古代竜】や【古代・グリフォン】は長命で、千年やそこいらは軽く生きられます。
つまりスポーンして数十年であれば、人種の感覚ならば、まだ生後数年の幼児みたいなモノでしょうかね。
後200年もすれば、多少は情緒が落ち着いて来るかもしれません。
【神の軍団】の神兵達はスポーンして数百年生きた個体も沢山いますので、そういう意味では大人なのでしょう。
「ねえねえ、ミネルヴァ様……じゃなかった、カプタ(ミネルヴァ)様。ノヒト様とソフィア様とトリニティ様って強いの?」
フロンが訊ねました。
「もちろん。とても強いですよ」
カプタ(ミネルヴァ)は答えます。
「ミネルヴァ様よりも?」
ノノが訊ねました。
「チーフは私より圧倒的に強いですね。チーフの上位者は、全宇宙に【創造主】しか存在しません。この分離体のスペックは総合力において守護竜より強いと思いますが、ソフィアさんは他の守護竜より10倍以上のスペックがありますので、本体ならともかく分離体では勝てないでしょう。準【神格】のトリニティに対しては、もちろん私が優越します」
「へえ、なら戦ってみたい」
フロンが言います。
「私も、私も」
ノノも言いました。
「無礼ですよ。お行儀良くしなさい」
「「え〜……」」
フロンとノノは不満気に言います。
「我は構わぬぞ」
ソフィアが言いました。
「ええ。一度きちんと序列というモノを教えておいた方が良いでしょう」
トリニティも言います。
「チーフ。申し訳ありません。お願い出来ますか?軽く手合わせすれば、この子達も気が済むと思いますので……」
カプタ(ミネルヴァ)が言いました。
確かに脳筋の戦闘狂相手にはキッチリと力関係をわからせておいた方が、後の扱いが御し易いという事はあるでしょう。
「致し方ありませんね。ソフィア、トリニティ、大怪我はさせないように手加減しなさい」
「うむ」
ソフィアは腕をグルグル回しながら頷きます。
「仰せのままに致します」
トリニティは不敵に笑いながら言いました。
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