第105話。ソフィアのデタラメな能力。
名前…オリジナル6
種族…【バンパイア】
性別…男性
年齢…なし
職種…【大魔導師】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】、【空間魔法】など。
特性…飛行、【吸収】、【眷属化】、【才能…空間魔法】
レベル…99
自宅警備員。
グレモリー・グリモワールのパーティ・メンバー。
転移魔法が使える。
ユーザー。
【パラディーゾ】北部。
午後。
私とソフィアとオラクルは、順調に進撃を続けていました。
「そりゃーーっ!どっせーーいっ!ちぇすとーーっ!」
ソフィアは、見つけた【超位】の魔物を、片端から尽く撫で斬りにしています。
もはや、【超位】の魔物でさえ、ソフィアの前では、【低位】の魔物と変わらない様子。
ブレスを刃物で切断してしまうなんて……意味がわかりません。
私も真似をしてみたのですが、この世に斬れぬ物なし、の【神剣】では同じ事が出来ましたが、【アルタ・キアラ】や、ソフィアと同じ武器の【クワイタス】では、成功しませんでした。
「ノヒトよ。そうではないのじゃ。もっとこう、グワーンと魔力を高めて、シュパーンッと斬るのじゃ」
ソフィアに説明を求めた私が馬鹿でした。
どうやら、刀身に込める魔力の量や質には関係なく、私には……というか、ソフィア以外には出来ないのではないか、という結論が、なんとなく、わかり始めています。
つまり、敵のブレスを斬る為に、ソフィアの突き抜けたステータスの余剰部分が作用しているらしい事がわかりました。
また、世界の理を捻じ曲げるようなデタラメな事をしていますね。
ソフィアは、私が復活をさせました。
その後に、私がソフィアと名付けたのです。
この世界では、固有の名前を持つ魔物は、名持ちと呼ばれ、同じ種族の個体名を持たない魔物より、ステータスが強化される、という設定がありました。
ソフィアも、名持ちとなり、ステータスが元の状態より強化されています。
しかし、ソフィアは、戦闘系のステータスは、初めから全てカンストしていました。
そのカンストしていたステータスが、私が名付けをした事で、設定限界値を超えて突き抜けてしまったのです。
ソフィアは、この限界値を振り切った、余剰のステータス部分を、いわば、第2の脳、のように使って、デタラメをしていました。
それらは、この世界の設定や仕様を超えた何かなのです。
この世界の仕様を知り尽くし、使いこなす、ゲームマスターの私でさえ、ソフィアのやる事を再現出来ないのですから、それは、正にデタラメとしか言いようのない現象でした。
「どっらあぁああーーっ!」
ソフィアが【古代竜】のブレスを切断し、返す刀で、今度は【クワイタス】の刀身から、魔力の刃、のようなモノを飛ばして、【古代竜】を真っ二つに斬り殺してしまいます。
ソフィアは、また、新しいデタラメを発明しましたね……。
刀身から魔法を飛ばす事は出来ます。
しかし、ソフィアがやっているのは、高密度の魔力そのものを飛ばす、というモノ。
もちろん、この世界の理を無視したチート技でした。
どうやら、あの刀身から魔力を飛ばす技は、【防御】でも、【魔法障壁】でも、防げないようです。
超音速で飛んで来る、防御不可能な、飛び道具ですか?
信じられません。
【防御】でも、【魔法障壁】でも防げない、とか、私の【神の武器】シリーズと同じような、チートです……。
いや、【神の武器】シリーズは、遠隔物体を、触れずに切断したり貫通したり、は出来ないので、ある意味では【神の武器】シリーズ以上の事をしている、とも言えるでしょう。
本当に、ソフィアは、とんでもない事をやらかします。
「【神竜の斬撃】!」
ソフィアは、叫びました。
どうやら、刀身から魔力の刃を飛ばす技は、たった今、ソフィアによって、【神竜の斬撃】と名付けられたようですね。
「ちょりゃあぁああーーっ!【神竜の斬撃】!」
ソフィアの攻撃で、また1頭の【超位】の魔物が頭から真っ二つに両断されました。
魔法ではないので、技名を詠唱する意味はないのですが、ソフィアは、そういうのが好きなのです。
今、また、ソフィアは、【神竜の斬撃】で、【超位】の【魔狼】である【マルコシアス】を両断しました。
コアを傷付けないように、キチンと軌道をコントロールしているのが、見て取れます。
無造作に戦っているように見えて、とても芸が細かい。
ソフィアは、やはり戦闘の申し子です。
ソフィアは、【タナカ・ビレッジ】を発ってから気合いの入り方が違っていました。
きっと、ノーマンズ・ランドの中で900年もの間、たった1人で、マスターの帰りを待ちながら健気に集落を守り続けていた、【神の遺物】の【自動人形】であるクイーンに会ったからでしょう。
ソフィアは、クイーンの為にも、一刻も早く、サウス大陸を平和な土地にしたいと考えているのだと思います。
それは、私や、それから、たぶんオラクルも同じ気持ちでした。
私達は、決意も新たに快進撃を続けます。
・・・
夕刻。
私達は、もう【パラディーゾ】近郊まで到達していました。
もう、間もなく、【パラディーゾ】の都市城壁が見えて来るはずです。
予定より、丸一日早く来てしまいました。
ソフィアが張り切って戦ったからです。
私とオラクルも、ソフィアに急かされるので、かなり頑張りました。
「ソフィア。今日は、ここまでにしましょう」
「もう少しやるのじゃ」
「明日の朝一番で【パラディーゾ】の中央塔に入りましょう。【ファヴニール】は逃げませんよ。それに、焦りは、ミスを生みます。着実に勝る効率はないのですからね」
私は、ソフィアを、たしなめます。
「うーむ、わかったのじゃ」
私達は、現在地点に転移座標を設置して、【アトランティーデ海洋国】の国境、千年要塞まで戻りました。
・・・
千年要塞。
早速、今日、狩った獲物からコアを摘出しました。
コアは確保、肉は解体後【ドラゴニーア】の騎竜繁用施設へ、その他の素材は買取に回します。
昨日の買取査定の結果を聞きました。
おーっと……。
私は、【超位】185頭のコアと肉以外の部位。
その額は……555万金貨(5550億円相当)。
ソフィアは、【超位】207頭のコアと肉以外の部位。
その額、なんと……621万金貨(6210億円相当)。
鼻血が出るかと思いました。
私の保有現金は、713万金貨(7130億円相当)。
ソフィアの保有現金は、765万金貨(7650億円相当)です。
マジか……。
買取手続きを、お願いして、入金を確認。
「ところで、これだけ連日【超位】の魔物を大量に売却しておるというのに、全く値崩れが起きぬの。相場はどうなっておるのじゃ?」
ソフィアが訊ねました。
通常、短期間に魔物が大量に売却されると、需要と供給のバランスから、相場値が下がり、必然的に買取金額も下がります。
「将来的に供給量が下がる事を見越して、相場は上昇基調らしいよ」
そうです。
私達が、近い内にサウス大陸の魔物を駆逐してしまう、という観測が、ほぼ間違いない、と市場関係者は予測し、将来的に魔物素材の供給量が下がる、という見通しになっている、との事。
なので、私達が大量に魔物素材を売っても、むしろ相場は、ジリジリと値上がりし始めているのだ、とか。
「なぬっ!では、今日、売らずに取っておいて、将来、もっと値上がりした時に売った方が得ではないか?」
ソフィアが声を荒らげました。
まあ、そうでしょうね。
「ソフィア。相場の事に素人が首を突っ込むとロクな事には、なりませんよ。それに、私達は、儲けの為に戦っているのではないのですからね。儲けは、ついでです」
「それと、これとは、話が違うのじゃ。我らは、何も、インサイダー取引や、市場操作をしようというのではない。適切な時期を見計らって売却し、利益を最大化しようという、正当な商い、なのじゃ」
ソフィアは、目くじらを立てました。
「私は、売ってしまいますよ。そういう相場師みたいな事は、面倒臭さそうなので」
「うーむ……」
ソフィアは、腕組みして考えながら、やがて、売却を決めたようです。
どうやら、ソフィアも、私の言うように、面倒臭さそうだ、と判断したようですね。
それに、現在、私達の獲物の買取査定は、冒険者ギルドと【アトランティーデ海洋国】や【ドラゴニーア】などの周辺諸国からの支援により予算が付いているので、他の大陸よりも高く買い取ってもらえています。
もしも、サウス大陸が解放されて、魔物の脅威が低下したと判断されれば、その優遇措置はなくなりますからね。
将来の相場値上がりと、優遇措置撤廃が、相殺され、結果的に買取金額が高くなるといっても、大して変わらないのではないかと、私は個人的に考えています。
懐が、とても暖かくなった私達は、王都【アトランティーデ】の王城に【転移】しました。
・・・
夕食。
私とソフィアは、ゴトフリード王に、クイーンと【タナカ・ビレッジ】の庇護を依頼しました。
ゴトフリード王は、快諾してくれます。
また、私は、クイーンに対して、人権を認めてくれないか、と頼みました。
オラクルやクイーンのような【神の遺物】の【自動人形】は、知性と自我と感情を持ちます。
私の造った【自動人形】にも、知性、と呼べる物は備わっていますが、自我と感情は、存在しません。
【神の遺物】の【自動人形】は、特別な存在なのです。
「【神竜】様と【調停者】様の依頼とあれば、これは、真摯に対応せざるを得ませんな。わかりました、すぐに法改正を行います」
ゴトフリード王は、そう言って、エイブラハム相談役と協議をし始めました。
私とソフィアと、それからオラクルは、ゴトフリード王に礼を言います。
私は、すぐに【ドラゴニーア】のアルフォンシーナさんに【念話】で、【神の遺物】の【自動人形】に人権を認めてもらえないか、と打診しました。
アルフォンシーナさんの返答は、既に法案を提出していて、可決の見込みである、との事。
どうやら、ソフィアから、神託が出ていたようです。
ならば、よし。
つまり、オラクルには、近々、人権が認められます。
そうなると、私有財産を持たせてあげたくなりますね。
「オラクル、とりあえず、明日、ギルドカードを作りましょう。そして、私から250万金貨を、あなたの口座に送金します」
「我からも、250万金貨を譲渡するのじゃ」
「よろしいのですか?」
「もちろんです。その、くらいの働きはしてくれています」
「なのじゃ」
「ありがとうございます」
「ゴトフリード王、【アトランティーデ海洋国】の贈与税は、何%ですか?」
「えーと……」
ゴトフリード王は言い澱みました。
「今回のケースですと、最大税率の30%でございます」
おお、【ドラゴニーア】より20%も安い。
「と、すると、私とソフィアから、贈与される250万金貨には、75万金貨ずつの課税がされ、可処分所得は350万金貨となる訳ですね?」
「仰る通りでございます。しかし、オラクル殿は、【ドラゴニーア】の国民という扱いになるのでは?と、すると、この場合、【ドラゴニーア】の税率が適応され、【ドラゴニーア】に納税するのが、筋かと……」
エイブラハム相談役は、言います。
あ、そうか……。
「ははは、オラクル、ごめんよ。可処分所得は、250万金貨だね。随分、目減りしてしまった」
「うむ。税法ならば仕方がないのじゃ」
「いいえ、過分な、ご配慮痛み入ります」
私は、アルフォンシーナさんに、その旨を伝えました。
アルフォンシーナさんは、財務省に申し送りをして、段取りをしてくれるそうです。
明日、オラクルのギルドカードを作り、私とソフィアがオラクルの口座に送金をすれば、後は勝手に税金が差っ引かれる事になるでしょう。
ともかく、税金問題は、クリアにしておかなくてはいけません。
【神格者】である私やソフィアでさえ、国家が定めた税法を律儀に守るからこそ、国民は信頼して税を支払ってくれているのですから。
・・・
夕食後。
剣聖一行がやって来ました。
爵位返上について話し合います。
「俺は、残務処理と引き継ぎが終わり次第、爵位を返上する事になった。とはいえ、俺は名誉職みたいな立場だから、実務的な引き継ぎに時間はかからない。ただ、少し式典やなんかが、行われて、そちらで時間がかかるようだ」
どうやら、剣聖の爵位返上は、穏当に済む事になったようですね。
そして、爵位の返上と同時に、剣聖には、ゴトフリード王から、国家功労賞が授与され、儀礼格式で、王家に準ずる格を認められる事になるのだ、とか。
まあ、順当な処遇なのでしょう。
剣聖達は、サウス大陸奪還作戦が終了した時点で、いずれかの都市の礼拝堂で、チュートリアルを行う事に決まりました。
「して、クインシーよ。爵位を返し、チュートリアルを経た後、何をするのじゃ?」
「冒険者ギルドのグランド・ギルド・マスターの仕事を少し真面目にやるつもりですよ。今までは、クサンドラとフランシスクスに任せきりでしたからね。その他には、本腰を入れて、弟子でも鍛えてみようかと……」
剣聖は、バツが悪そうに頭を掻きながら言います。
剣聖は、かつて【大密林】に10万のレイド・パーティで挑み、3体のダンジョンボスに襲撃され、剣聖とクサンドラさんの2人以外全滅という憂き目に遭いました。
その時のレイド・パーティの大半が剣聖の弟子達だったのです。
率いた弟子達を全滅させ、自分が生き残ってしまった自責の念から、剣聖は、以来、弟子を取るのを止め、彼の道場は休業状態なのだ、とか。
私とソフィアが、剣聖の仇である3体のダンジョンボスを倒した結果、剣聖は、気持ちの踏ん切りがつき、ようやく再び自分の人生を歩み出す事を決めたようです。
人生の新たな一歩と言えば、剣聖は、クサンドラさんを妻に娶る事にしたのだ、とか。
300年あまり、独身を貫き、数々の女性と浮名を流して来たという、稀代のモテ男……剣聖クインシー・クインも、とうとう、年貢の納め時、という訳です。
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