第1042話。【ドゥーム】からの移住者達の処遇。
【ワールド・コア・ルーム】。
私達が【ワールド・コア・ルーム】の中心に到着すると、表紙が開かれた【箱庭の書】が地面に落ちていました。
私は【箱庭の書】を【理力魔法】で拾い上げ【収納】に回収します。
【箱庭の書】は、プレイヤー個人やプレイヤー・パーティが当該の【秘跡・マップ】にエントリーを完了した後、本来なら光の粒子に変わって消滅する仕様でした。
しかし、この【ドゥーム・シナリオ】の【箱庭の書】は、私によって世界から除外され、また私が無限魔力を流しっ放しにして亜空間の入口を維持し続けている為に消滅せず現場に残っているのです。
この【箱庭の書】を開いた【コンシェルジュ】は、【ドゥーム・シナリオ】にエントリーされました。
【コンシェルジュ】は【ドゥーム】に居るミネルヴァの分離体と合流しているので、その運用はミネルヴァの分離体に任せておけば問題ありません。
【ドゥーム】から連れて来たNPCの大人達は、頭上に浮かぶ巨大な【魔法石】(【ワールド・コア】)を見上げてアングリと口を開けて固まっていました。
彼らは【魔法石】についての知識を持っているので、この巨大な【魔法石】がどれ程の力を内包しているのか理解したのでしょう。
【ワールド・コア・ルーム】に初めて来た人達には、お馴染みのリアクションですね?
コレがミネルヴァの本体だ……と説明したら納得してくれました。
理解を超える物事に接して思考を諦めた……とも言えます。
そうこうしていると、【ドゥーム】からの移住者を接遇する為に【コンシェルジュ】達が集まって来ました。
「え〜っと、とりあえず【ドゥーム】からのゲストの皆さんは、【ワールド・コア・ルーム】のホテルに入ってもらいましょうか?そう言えば、もう【ファミリアーレ】はホテルに入居していますか?」
「チーフ。【ファミリアーレ】はホテルに引っ越して来ました。そして【ドゥーム】からの移住者達は空腹かもしれませんよ」
ミネルヴァが言います。
「なるほど。現地は夕刻の食事時でしたからね。では、【ワールド・コア・ルーム】内の飲食店で好きなように食事をしてもらいましょう。支払いは、もちろんソフィア持ちです」
「わかりました」
「あ〜、【ドゥーム】の各シェルターの責任者と庇護者は、この場に残って下さい。今後の事を話し合いましょう」
該当者達は了解しました。
ミネルヴァは【コンシェルジュ】達を使役して3千人の【ドゥーム】民達を【ワールド・コア・ルーム】内の飲食店に案内します。
3千人は大人数ですが、【ワールド・コア・ルーム】は巨大なので大した人口密度ではありません。
各飲食店に振り分ければ、問題なく3千人を収容して食事をしてもらえるでしょう。
「【パンゲア】各地に何か問題はありますか?」
私はミネルヴァに訊ねました。
「小さな懸案はありますが、全て私の方で対処可能な事ばかりでしたので既に関係各位に指示を与えてあります。問題ありません」
ミネルヴァは答えます。
あ、そう。
ならば良し。
私の【パノニア王国】での移民作戦も今夜(昨夜)の分は終了しているので、つまり今夜(昨夜)の【パンゲア】での業務は完了しました。
ならばトリニティとカリュプソを【パンゲア】から引き揚げさせましょう。
トリニティ、カリュプソ、ご苦労様……ソフィア達と一緒に撤収して来て下さい。
私は【念話】で指示しました。
仰せのままに致します。
畏まりました。
トリニティとカリュプソが【念話】で了解します。
すぐにトリニティとカリュプソと、ソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】が【ワールド・コア・ルーム】にやって来ました。
「ソフィア。とりあえず【ドゥーム】からの移住者の皆さんには食事をしてもらっています。支払いはソフィアにツケておきますので宜しく」
「なぬっ?3千人分の飲食代をか?」
ソフィアは顔を顰めます。
ソフィアは巨万の資産を所有している癖に、存外にケチなのですよね。
「ソフィアが自分で……【ドゥーム】のNPC達の衣食住の面倒を看る……と言ったのですから、当然経費はソフィア持ちですよ」
「ぬぐっ、致し方あるまい……。我もお腹が空いたのじゃ。しばらく美味しいスイーツが食べられず甘い物に飢えておる故、先ずはケーキ・バイキングから行かなくてはのう〜」
ソフィアはケーキ・バイキングがある建物に向かって歩き始めました。
「そうだね〜。ケーキ・バイキングに行こう〜。ハイ・ヨー、トライアンフ〜っ!」
ウルスラが同調します。
「はい、逮捕」
私はソフィアが着用している鎧の襟刳を掴んで捕獲しました。
「ぐえっ、ノヒト、何をするっ!」
ソフィアが抗議します。
「あなたは責任を果たしなさい。ケーキ・バイキングは、その後です」
「ケーキが〜……」
ソフィアは悲鳴を上げました。
私は【ドゥーム】にいる時にソフィアに対して……【神蜜】があるから、と安易に自殺を図った事……など諸々の行動に対してキツくお説教をしました。
本来なら……1年間スイーツ抜き……などの罰を与えようかと思ったのですが、オラクルやヴィクトーリアからの聴取で……ソフィアは【ドゥーム】滞在中に相当頑張って【ドゥーム】の民を救おうとしていた……という報告を受け、私はソフィアへの罰を一応免除したのです。
「【ドゥーム】の元住民の処遇をキチンとしてもらいます。ソフィアが……庇護する……と約束したのですから、今後の事を取り決めなくてはいけません。なので【ドゥーム】の各シェルターの責任者と庇護者にも残ってもらっているのです。ウルスラ達は好きにして構いませんよ」
「わ〜い。ケーキ・バイキングへGOっ!」
トライアンフに跨ったウルスラは駆けて行きました。
しかし、オラクルとヴィクトーリアとティア・フェルメールは、その場に残っています。
まあ、非生物ユニットの【自動人形】であるオラクルとヴィクトーリアは飲食をしませんからね。
「私は同じ海生人種として【ドゥーム】の民達の今後について責任を果たしたいと思います」
ティア・フェルメールは言いました。
あ、そう。
「では、私の執務室で話しましょう」
「我もお腹が空いておるのじゃ」
ソフィアがブツブツ呟きます。
「執務室に出前を届けさせますよ。【ドゥーム】の各シェルターの責任者や庇護者も食事をしながら会議をします」
「本当か?」
「はい」
「ならば良いのじゃ。我は、ジャンボ・オムライスとチョコレート・ケーキとショート・ケーキとカスタード・プリンと焼きプリンを10人前ずつ頼むのじゃ」
ソフィアは言いました。
あ〜、はいはい。
私達は私の執務室に向かいます。
・・・
ゲームマスター本部ノヒト・ナカ・執務室。
私は、一同に【ワールド・コア・ルーム】の飲食店のメニューを配りました。
【ドゥーム】の代表団は見慣れない食べ物の数々について、飲み物とお茶菓子を給仕している私付きの事務員兼お世話役の【コンシェルジュ】達に色々と質問しています。
しばらくして迷いながら注文を決めた【ドゥーム】の代表団は、落ち着いて飲み物とお茶菓子を口にして目を見張りました。
美味しかったようです。
「では、とりあえず話し合いは食事の後にしましょう」
「ノヒトよ。アルフォンシーナとロザリアを、ここに招いても構わぬじゃろうか?」
ソフィアが言いました。
「構いませんよ」
「わかったのじゃ。すぐ呼ぶのじゃ」
アルフォンシーナさんはティア・フェルメールと並ぶソフィアの首席使徒ですが、海洋や海生人種の問題を担当するのはティア・フェルメールです。
しかし有能であるとはいえ、まだ若く大海宗に就任して間もないティア・フェルメールだけより、大神官として800年の在位期間を有し経験を積み重ねたアルフォンシーナさんを、ソフィアが助言役として呼んだのは正しい判断でした。
また、アルフォンシーナさん付きの相談役で【ドラゴニーア】の国家的頭脳と呼ばれるロザリア・ロンバルディアの知識も役に立つでしょう。
ティア・フェルメールも、アルフォンシーナさんとロザリア・ロンバルディアがいた方が問題解決の最適解が得られると理解しているので、ソフィアが直接の管轄権者ではない2人を呼んだ事に対して気分を害したりはしていません。
既にソフィアが待機させていたらしく、アルフォンシーナさんとロザリア・ロンバルディアは仕事着として差し支えない服装をして、すぐに到着しました。
話を聞くと、2人共残業中だったそうです。
ご苦労様ですね。
もしかしたらソフィア達が【箱庭の書】の中に飛ばされてしまった事をミネルヴァから報告され、対応を協議する為に緊急招集が掛かっていたのかもしれません。
改めて一同は略式の挨拶と自己紹介を交わしました。
ロザリア・ロンバルディアが何だかソワソワしています。
【ワールド・コア・ルーム】に来た事で感激していたのだとか。
ロザリア・ロンバルディアは【ワールド・コア・ルーム】が初めてでしたね。
なるほど。
アルフォンシーナさんとロザリア・ロンバルディアには、ミネルヴァから簡単な状況説明と情報共有が行われました。
2人は全く動じる様子もなく、全てを一旦飲み込んで丸っと了解してしまいます。
さすがは超大国【ドラゴニーア】の統治実務責任者と、そのブレーン……肝が座っていますね。
まあ、ソフィアの公的な最側近であるアルフォンシーナさんですので、ソフィアからの無理難題や無茶振りには慣れているのでしょう。
ロザリア・ロンバルディアも、日頃アルフォンシーナさんから難しい問題を相談されているでしょうしね。
しばらくして食事が給仕されました。
【ドゥーム】の代表団は口々に……美味しい……と頬を綻ばせています。
それは何よりですね。
【ドゥーム】というのは、自然界に水や植物が存在しないという特殊な環境ですから、食材や調味料が少なくて偏ってもいます。
彼らは海生人種なので、本来なら魚介類が主食と設定されていますが、もちろん海も川もないので稀にスポーンする魚系の魔物以外に魚介類は手に入りません。
【ドゥーム】代表団は、魚介類の料理がとても気に入ったようです。
初めて食べた魚介類が口に合うのは、海生人種として遺伝子にプログラムされた本能なのかもしれません。
・・・
食後。
「ミネルヴァ。【ドゥーム】の皆さん達が食事に満足した様子でしたら、順次ホテルに案内して休ませてあげて下さい」
「わかりました」
ミネルヴァが了解しました。
「さてと、ティア。では、あなたが司会をして下さい」
「では、会議を始めさせて頂きます。議事進行は、只今ノヒト様から御指名に預りました、私ティア・フェルメールが取り仕切らさせて頂きます」
ティア・フェルメールは起立して挨拶をします。
先ずは……【ドゥーム】からの移住者は今後何処で生活するのか?どのようにして暮らして行くのか?……という問題提起が成されました。
「それは海生人種で、我の庇護下にある民達なのじゃから、セントラル大陸周辺の海じゃろう?」
ソフィアはザックリとした見解を示します。
「具体的に何処の海域ですか?」
「好きな場所を選べば良い。海は広いのじゃからの」
こいつ、さては【ドゥーム】からの移住者の受け入れ先について何も考えていなかったな……。
「端的に言うなら、【ドゥーム】の民達を【スキュリア】、【セイレニア】、【マーメィディア】、【サハグラド】の4大海底都市国家の何れかに移住させるのか?その場合は【ドゥーム】の民達で纏まっての移住か複数に分かれるのか?あるいは既存の4大海底都市国家とは別にコミュニティを形成するのか?そこから決める必要がございます」
ロザリア・ロンバルディアが発言しました。
「うむ。それは道理じゃ。皆の者、其方らはどうしたい?」
ソフィアは【ドゥーム】代表団に意向を訊ねます。
ソフィアは自分で……悪いようにはしない……と言った癖に面倒事を当事者達にブン投げただけですけれどね。
【ドゥーム】代表団は相談して一応の方針を決定しました。
彼らの希望は……【ドゥーム】の者達は当面は1箇所に纏まって暮らした方が良いのではないか?何れ4大海底都市などに移住を希望する者達が現れるかもしれないが、それまでは【ストーリア】に順応する期間を設けて欲しい……との事。
当然の話です。
「ところで、【ドゥーム】から移住される皆さんは、泳げるのでしょうか?」
アルフォンシーナさんが、そもそも論を質問しました。
「それは海生人種なのじゃから泳げるじゃろう?アルフォンシーナも、おかしな事を言うモノじゃ」
ソフィアは笑います。
「海生人種の子育ては乳児の頃は海底都市の【結界】内や陸上などで行われ、乳離れすると浅瀬で親や保護者が子供達に泳ぎ方を教える……というふうに聴いた覚えがございます。なので生まれたままの海生人種は、もしや泳げないのでは?と思いました」
アルフォンシーナさんは説明しました。
「アルフォンシーナ猊下が仰る通りです。私達海生人種は大人から泳ぎ……というかエラ呼吸の方法を習わなければ、普通に溺れます」
ティア・フェルメールが言います。
「なぬっ!では、砂漠に覆われて海などがない【ドゥーム】で生まれ育った海生人種達は泳げぬのか?」
ソフィアは訊ねました。
「水中での呼吸に関しては各シェルターにある共用の浴槽やプールなどで覚える者もおりますが、全員がエラ呼吸を身に付けている訳ではありません。何分とエラ呼吸を覚えても、【ドゥーム】には自然界に海や河川がないので、私達には、あまり必要がない能力でしたので。また泳ぎに関しても同様です」
【ドゥーム】代表団の元【ロヴィーナ】王ロデリック・ロヴィーナが言います。
「何と……水中呼吸や泳ぎから適応訓練をする必要があったとは、完全な想定外じゃった」
ソフィアは言いました。
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