第1041話。タイム・アクセラレーター。
本日2話目の投稿です。
【ドゥーム】中央都市【カラミータ】の中央神殿。
「え〜っと、順番に問題を片付けて行きましょう。【ドゥーム・シナリオ】を……お蔵入り……にするには、【ワールド・コア・ルーム】の図書室から【ドゥーム・シナリオ】の【箱庭の書】を取り出して本を開き、私が亜空間に無限魔力を流しっ放しにして、【超神位魔法】でバイパスを構築にした上で、他の【ドゥーム・シナリオ】の【箱庭の書】から【ドゥーム・マップ】へのエントリーを全て禁止してしまえば良い訳ですよね?」
「はい。その方法で【オーバー・ワールド】と今私達がいる【ドゥーム・シナリオ】の【マップ】は1繋ぎの空間になり、他の【箱庭の書】から【ドゥーム・シナリオ】へのエントリーは永久に不可能になります」
ミネルヴァの2体目の分離体は言いました。
「その場合【オーバー・ワールド】と【ドゥーム・マップ】の相対的な時間の流れはどうなりますか?」
「【オーバー・ワールド】の1秒が【ドゥーム・マップ】の1日に相当する時間軸のままです」
!
「それは……とんでもない事になりますね?」
「と、言いますと?」
「つまり私達は全てのユーザーが憧れた夢のチートMOD……【時間加速装置】……を手に入れたに等しいのではありませんか?」
「なるほど【時間加速装置】……その通りですね」
「ミネルヴァ。では速やかに【サントゥアリーオ】にある【ウトピーア法皇国】によって奴隷にされ【魔力子反応炉】に繋がれていた人達の育て直しの為に使用されている【保育器】と、【知の回廊】内の【自動人形】・シグニチャー・エディションの生産工場と、【タナカ・ビレッジ】にある【イーヴァルディ&サンズ】の軍用艦製造ドックを【ドゥーム・マップ】に移設しましょう。その他【シエーロ】の農業畜産など食糧生産インフラもです」
「既に準備に着手しました」
「さすがはミネルヴァ。仕事が早い」
「チーフの補佐が私の仕事ですので」
「あと【時間加速装置】たる【ドゥーム・マップ】に移設する必要がある生産設備は……」
「私達の陣営の工場や研究室なども可能な限り全て移設してしまいましょう。【神の遺物】製造工場だけは、【ワールド・コア・ルーム】から動かせないのが残念です」
「それは致し方ありませんね。しかし【自動人形】・シグニチャー・エディションの生産工場と、【イーヴァルディ&サンズ】の軍用艦製造ドックと、食糧生産インフラが移設出来るだけで圧倒的な効率化です。私達の陣営が現在直面している生産に関する諸問題の、ほぼ全てを【ドゥーム・マップ】という【時間加速装置】の確保によって丸っと解決してしまいました。【魔界】の食糧確保の為に、【シエーロ】の農業工場をフル稼働していますが、事実上アレも必要なくなりますね」
「はい」
「唯一の懸念は【時間加速装置】の中は文字通り時間が加速するので、寿命があるNPCにとっては【オーバー・ワールド】を基準として見た場合、相対的に寿命が短くなるという事ですが……」
「現状のゲームマスター本部人員の中でアープを除いた全員と、【天使】コミュニティの中の【改造知的生命体】達には寿命がありませんので、そういう個体を【ドゥーム・マップ】のスタッフやクルーとして働かせれば問題ありません」
「そうですね。【時間加速装置】担当スタッフの選抜と配属はミネルヴァに任せます」
「お任せ下さい」
「それから今後【ドゥーム・マップ】は当面ゲームマスター本部の直轄管理【領域】とします。【時間加速装置】を無軌道に解放してしまうと大変な事になりますので、これはマストです」
「了解しました」
「何をノヒトとミネルヴァだけで納得しておるのじゃ?そのタイム・アクセラレーターとは何じゃ?我にもわかるように話をして欲しいのじゃ」
ソフィアが言います。
「【オーバー・ワールド】の1秒は、【ドゥーム・マップ】の1日に相当します。私がゲームマスター権限で【オーバー・ワールド】と【ドゥーム・マップ】を接続して相互に往来可能にした場合、【オーバー・ワールド】と【ドゥーム・マップ】の時間の流れの違いは、途轍もない影響を及ぼします。例えば【ドゥーム・マップ】に農場や工場を造り、その生産物を【オーバー・ワールド】に運べば、事実上86400倍に生産性が上がります」
私はソフィアに説明しました。
「ふむ、なるほど」
「あまり驚いていませんね?」
「正直ピンと来ぬな」
「良いですか、【ドゥーム・マップ】の1年は【オーバー・ワールド】では365秒……つまり6分5秒でしかありません。【魔力子反応炉】に繋がれていた人々の育て直しは【オーバー・ワールド】では3年〜5年掛かる予定でしたが、それを【ドゥーム・マップ】で行えば【オーバー・ワールド】を基点として見れば、僅か18分から30分程度で完了してしまいます。【自動人形】・シグニチャー・エディションの生産数も現行の日産100体から日産864万体に増えて、【イーヴァルディ&サンズ】で行う大型艦船の製造も1隻当たり最短2分程で完了し、僅か1時間程で強力な空母打撃群の艦隊を形成する艦船を全て製造可能です。仮に【ドラゴニーア】と同じ生産設備を全て【ドゥーム・マップ】に造れば、たった6分5秒で【ドラゴニーア】の年間生産物を全て生産出来てしまいます」
「ふぁ?そ、そんな事になったら、我の【ドラゴニーア】は生産力で【ドゥーム】に全く太刀打ち出来なくなってしまうではないか?経済的にも安全保障的にもパワー・バランスが完全に崩壊してしまうのじゃ」
「だから私とミネルヴァは【ドゥーム・マップ】をゲームマスター本部直轄管理地にしようと考えているのです。チートMODである【時間加速装置】を主権国家によるパワー・ゲームに利用させる訳にはいきませんからね」
「うむ。それは、そうじゃな。あ……いや、この【ドゥーム・マップ】の民達は、現在ほとんど我の使徒になっておる故、【ドゥーム・マップ】は我のモノになるという事には……」
ソフィアは【時間加速装置】たる【ドゥーム・マップ】の持つ恐るべき価値に気付いて、権利を主張しようとします。
「それはダメです。【オーバー・ワールド】と【ドゥーム・マップ】の接続も往来も私の【超神位魔法】がなければ誰にも不可能なのですから、ソフィアに【ドゥーム・マップ】の権益を認める事は出来ません。あくまでもソフィアが【ドゥーム・マップ】の領有権を主張するなら、私と一戦に及ぶ覚悟をして下さい」
「ぬぐぐっ。この【ドゥーム・マップ】は、我がクリアしたというのに……」
ソフィアも、さすがに【時間加速装置】の権益を独り占めするのは虫が良い話だと理解したのか、悔しがりました。
「ただし、ソフィア達が【ドゥーム・マップ】に来て遊んだりする事は認めましょう。もちろんティアのように寿命がある生命体が【ドゥーム・マップ】内に留まると【オーバー・ワールド】を基点として見た場合、86400倍という猛烈なスピードで死期が早まるので長時間【ドゥーム・マップ】で活動する事は推奨しませんけれどね」
「という事は、我とウルスラとトライアンフとオラクルとヴィクトーリアには寿命がない故、どれだけ【ドゥーム・マップ】にいても問題はない訳じゃな?」
「そうです」
「ふむ。では、毎日【ドゥーム・マップ】で睡眠するようにすれば、【オーバー・ワールド】の1日を長く使えるのじゃ」
【ドゥーム・マップ】の【時間加速装置】としての恐るべきギミックを睡眠に利用とするという発想は、何ともソフィアらしいですね。
ソフィアは元来不老不死で不死身の【神格者】なので、生き急ぐ理由はないと思うのですが?
「いずれ、段階的に各主権国家に限定的な【時間加速装置】としての【ドゥーム・マップ】の使用を認める事は考慮しましょう。【ドゥーム・マップ】で農畜産業などを行えば、世界の食料生産力に起因する飢餓などの問題は全て解決してしまいます。それに様々な研究や実験などを【時間加速装置】である【ドゥーム・マップ】で行えば時間が掛かる研究の成果を相対的に86400倍の時間効率で得られますので……。これは、私は世界に史上最大の価値観の転換を引き起こす……時間……という究極の資源を手に入れてしまったのではないのでしょうか?」
「我としては、食料問題解決の為に【ドゥーム・マップ】での【オーバー・ワールド】向けの農業畜産の生産と輸出を早く開始してもらいたいモノじゃな」
「そうなると【オーバー・ワールド】の農畜産物の相場は、単純計算で現状の86400分の1に低下してしまい、産業として駆逐されてしまいます。農畜産物だけではありません。全ての産業に於いて、【オーバー・ワールド】は【時間加速装置】として相対的に86400倍の生産力を有する【ドゥーム・マップ】に敵いません。これは扱いを間違えると【オーバー・ワールド】の全ての産業が滅びてしまい経済が破綻しますね……」
「何とも恐ろしいのじゃ」
「何はともあれ、先ずは【ドゥーム・マップ】のループを止めてしまいましょう」
「うむ。頼むのじゃ」
「いや、その前に……。メディア、チェルノボーグ。あなた達【ドゥーム】の庇護者で、取り急ぎ【ドゥーム】の全住民の処遇を決める必要があります。【ドゥーム・シナリオ】のループが止まっていて、尚且つ時間が流れている現状、【ドゥーム】の全住民の時間は【オーバー・ワールド】を基点として86400倍の速度で進行しています。つまり【オーバー・ワールド】を基点として見れば、86400倍の速度で老化している事になります。それを受容するか否かを、すぐ決めて下さい。もしも【オーバー・ワールド】での生活を選ぶなら、速やかに移動させなければいけません。【オーバー・ワールド】には海生人種が沢山暮らしていますし、ゲームマスター本部として責任を持って移住のサポートもしますので、【オーバー・ワールド】に移住する上での心配はありません」
私はメディア・ヘプタメロンとチェルノボーグに提案しました。
「うむ。我は【ストーリア】における海洋の守護竜じゃからして、【ドゥーム】の海生人種も当然守ってやるのじゃ。我は【オーバー・ワールド】を拠点として活動しておる故、我の使徒達には【オーバー・ワールド】に移住してもらった方が守るにしても都合が良い。【ドゥーム】の民達の処遇は、我が悪いようにはしないと約束するのじゃ。どうじゃ、我が君臨する【ストーリア】に移住せぬか?」
ソフィアが移住を勧めます。
「そうなると全人種の意思を確認しなければいけませんね」
メディア・ヘプタメロンは言いました。
「現在【ドゥーム】の人種は、ほぼ全員がソフィア様を信仰しておりますので、ソフィア様が【オーバー・ワールド】に移住するように、お命じになれば、【ドゥーム】の人種の、ほぼ全員が【オーバー・ワールド】への移住を希望するでしょう」
チェルノボーグが言います。
「そうですか」
「現在【ドゥーム】の民達は5つのシェルターに集まっておる。各シェルターには我とオラクルとヴィクトーリアが【転移魔法陣】を設置してある。【転移】で、すぐにノヒトを各シェルターに連れて行けるぞ」
ソフィアが言いました。
「では、そうしましょう」
方針が決まります。
・・・
6時間後。
私は、ソフィアに連れられて【ドゥーム】の各シェルターを【転移】して回り、全住民を一旦古代都市【カラミータ】に集めました。
6時間も掛かった理由は、【ドゥーム】復興の為に地上の古代都市などで作業をしていた人達などを集合させるのに手間取った事もありますが、操業中だった【ドゥーム】各シェルターの工場などを安全の為に停止させたり、失火などが起きないように火元の確認などをする為に時間が必要だったからです。
しかし、この6時間は無駄ではありません。
この時間を使って【オーバー・ワールド】のミネルヴァ本体は【コンシェルジュ】に【ワールド・コア・ルーム】の図書室から【ドゥーム・シナリオ】の【箱庭の書】を取り出させ、図書室があるゲームマスター本部の建物の窓から飛び出して、【ワールド・コア・ルーム】の広い場所を目指してスペックの限界性能を振り絞って全速力で移動する時間を稼げました。
【ドゥーム・マップ】での6時間は、【オーバー・ワールド】では僅か0.25秒ですけれどね。
ソフィアは集合した【ドゥーム】の全住民に状況を説明して【オーバー・ワールド】に移住するか【ドゥーム】に残るかを訊ねました。
すると彼らは、その場で全員……ソフィア様が君臨する異界に移住したい……と意思表示します。
私は、お年寄りなどは、もしかしたら……このまま生まれ故郷の【ドゥーム】で死にたい……などと希望するかと思いましたが、そうした高齢者達も口々に……ソフィア様の君臨する地で最期を迎えたい……と希望しました。
あ、そう。
ならば良し。
【終末後の世界】である【ドゥーム】は、絶滅の危機に瀕した限界コミュニティなので、配給が主となる経済になっていて、住民達は通貨を使用していませんし、家財道具などの私有財産も各世帯に必要最低限しか持っていないので、ソフィアが……当面必要な衣食住は、我が責任を持って全て用意する……と宣言した事もあり、殆ど全員手ぶらのような軽装です。
何か必要なモノがあれば、後から私やミネルヴァの分離体やトリニティが運んであげれば問題ありません。
「では、ソフィア達は先に【帰還の魔法陣】で戻って下さい」
「わかったのじゃ」
ソフィアは頷きました。
ソフィアとウルスラとトライアンフとオラクルとヴィクトーリアは順番に【帰還の魔法陣】から【転移】して行きます。
チーフ……ソフィアさん達は全員無事に【ヌガ法国】の法都【ヌガ】の玉座の間に帰還しました……また、【ドゥーム】のNPCの受け入れも準備が完了しています。
ミネルヴァの本体が超速【念話】で報告しました。
了解です……では、やりますよ。
私は超速【念話】でミネルヴァの本体に伝えます。
【ドゥーム・マップ】から【オーバー・ワールド】に【念話】を送る場合には、別に超速である必要はないのですけれどね。
私は【共有アクセス権】のプラットフォームを利用して超速【念話】でミネルヴァ本体に合図を送りました。
ミネルヴァ本体は、何をやれば良いのか理解していますので細かな指示は必要ありません。
ミネルヴァ本体の指示で、【ドゥーム・シナリオ】の【箱庭の書】を持って【ワールド・コア・ルーム】の広い場所(【ワールド・コア】直下の広場)に移動した【コンシェルジュ】が【ドゥーム・シナリオ】の【箱庭の書】を開きました。
瞬時に私は【ワールド・コア・ルーム】の広場に存在する【箱庭の書】をキーとして開いた亜空間に、ゲームマスターの無限魔力を流しっ放しにして【超神位魔法】で永続的にバイパスを構築にした上で、他の【ドゥーム・シナリオ】の【箱庭の書】からのプレイヤーの【秘跡・エントリー】を全てシャット・ダウンしました。
私達以外に【ドゥーム・シナリオ】に並行して挑戦しているプレイヤー・パーティがいた場合、彼らを排除しなければいけませんでしたが、現在私達以外に【ドゥーム・シナリオ】に挑戦しているプレイヤーは存在していません。
これで【ドゥーム・シナリオ】は、お蔵入りになってしまいました。
あ〜、やってしまいましたね。
もう後戻りは出来ません。
私は約3千人の【ドゥーム】の住民達を全員連れて【転移】しました。
・・・
【ワールド・コア・ルーム】。
到着です。
連日【パノニア王国】から大量の移民を輸送しているおかげで、3千人くらいの同時【転移】は楽勝ですよ。
慣れとは恐ろしいモノですね。
【ドゥーム・マップ】にはミネルヴァの2体目の分離体と、【ワールド・コア・ルーム】で【ドゥーム・シナリオ】の【箱庭の書】を開いて【ドゥーム・マップ】に【再配置】された【コンシェルジュ】だけが残りました。
お読み頂き、ありがとうございます。
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・・・
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