第1035話。へっぽこ軍団の終末世界旅行…36…クエスト・クリア。
【カラミータ】。
朝。
ソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は起床して身繕いと朝食を済ませました。
ソフィアは【収納】に【避難小屋】を回収します。
ソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は、【ロヴィーナ】のロデリック王とロズリン皇太王女、【カラミータ】のシドニー女王とメディア・ヘプタメロン、【ディストゥルツィオーネ】のヴァレーラ評議会代表とチェルノボーグ、それから【デマイズ】から来たベロボーグ派のアップダイク元皇太子とウランジア特使に……ソフィアによる魔力波放射……の段取りの最終確認をしました。
とはいえ特段何かをする必要はありません。
既に何日も前から、ソフィアによる魔力波放射の目的も効果も影響も関係各位には伝えられていて、為すべき対応が伝えられていたので、後は、それを実行するもしないも自由意志と自己責任の問題でしかないからです。
因みに【デマイズ】から【ロヴィーナ】に外交特別使節としてやって来たベロボーグ派のアップダイク元皇太子は、昨日の内にソフィアが【ロヴィーナ】から【カラミータ】に【転移】で連れて来ました。
ここ数日【ロヴィーナ】のロデリック王もロズリン皇太王女も首脳会議の為に【カラミータ】に泊まり込んでいて【ロヴィーナ】に戻っていないので、ベロボーグ派のアップダイク元皇太子が【ロヴィーナ】に居ても全く意味がないからです。
午前9時。
いよいよ、その時が来ました。
ソフィアは【カラミータ】の上空に佇んでいます。
「【神位高密度魔力収束爆発】ーーっ!」
ソフィアは【神位】出力の魔力波を、三次元的全方位に向けて放射しました。
ソフィアが叫んだ長ったらしい技の名前のようなモノには全く意味はありません。
ソフィアは、それらしい事を適当に言ってみただけでした。
ソフィアが実行した事は単に魔力を放射しただけで、魔法でも【能力】でも何でもないからです。
ソフィアの近くにいたウルスラとトライアンフは、ソフィアが魔力を放射した瞬間、何かしらの圧力のようなモノを肌に感じましたが、ダメージなどは受けていません。
すかさず、オラクルとヴィクトーリアが周囲の砂を調べ始め、メディア・ヘプタメロンは【収納】から観測機器のようなモノを取り出して地面に当てています。
「ソフィア様。間違いなく完全且つ不可逆的に【微小機械】は破壊されました。もう二度【微小機械】が活動する事はあり得ません」
オラクルが報告しました。
メディア・ヘプタメロンもソフィアに向かって大きく頷いて見せます。
斯くして【微小機械】の無力化は完璧に成功しました。
その時、ソフィアの頭の中に運営のガイド音声が響いたのです。
プレイヤー名ソフィア様……あなたは【箱庭の書の秘跡】・【終末後の世界・シナリオ】・【ドゥーム・マップ】のクリア条件を達成致しましたので……運営より【追加贈物】を進呈致します……【オーバー・ワールド】への帰還方法は【ドゥーム・マップ】の中央都市【カラミータ】の中央神殿の礼拝堂の【転移魔法陣】から行えます……今後とも、当世界での冒険をお楽しみ下さい。
このガイド音声の言葉は文字情報としてソフィアと【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】のメンバー全員のステータス画面に表示されました。
・・・
【カラミータ】中央神殿の礼拝堂。
ソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】と【ドゥーム】の首脳達は【カラミータ】地上部の廃墟となった古代都市の神殿の礼拝堂にやって来ています。
そこには光を放つ【転移魔法陣】が出現していました。
「ソフィア様。もう、お戻りになりますか?」
オラクルが訊ねます。
「いや、まだじゃ」
ソフィアは静かに言いました。
「つまり、【ドゥーム・マップ】の【サブ・クエスト】などを攻略して宝を持ち帰りますか?まだ残り88日ございますので、期限には猶予がございます。ただし、その場合、不死身ではないティア様だけは先に【オーバー・ワールド】にお帰り頂く事が宜しいかと思いますが?」
オラクルは言います。
「そうじゃな。ティアよ、其方は不死身ではない。じゃから今【オーバー・ワールド】に帰還せよ」
ソフィアはティアに指示しました。
「えっ?私1人で帰るのですか?私はソフィア様の首席使徒でございます。ソフィア様が残られると仰るなら、もちろん私も残ります」
ティアは、ソフィアの指示に異論を唱えます。
「いや、ティアは帰るのじゃ。これは命令じゃから反論は許さぬ。そしてノヒトに……我は、しばらく【ドゥーム】に残って、復興の端緒が開けるまでは【ドゥーム】の民達の為に働いてから帰る……と伝えよ。我は神として、我の首席使徒たるティア・フェルメールに確と命じたぞ。良いな?」
ソフィアは反論を許さない口調で言いました。
「か、畏まりました……」
ティアは不承不承ながらもソフィアの命令に服します。
「ソフィア様。【ドゥーム】の復興と申しますが、具体的に何をなさるのですか?」
オラクルが訊ねました。
内心でオラクルは……出来るだけ早くソフィアにも【オーバー・ワールド】に帰還して欲しい……と考えているのです。
「それは、まだわからぬ。じゃが、この状態では帰れぬ。この世界を見てみよ。砂漠しかない。確かに【微小機械】は無力化されたが、それが、どうした?【ドゥーム】の全てが死の大地に覆われておる事に何ら変わりはないのじゃ。【ドゥーム】の民達の中には我の使徒となった者も多い。我は自分の使徒を見捨ててはおけぬ。じゃから残って、我が為すべき事を為す」
ソフィアはキッパリと断言しました。
「わかりました。ただし畏れながら1つだけ、お約束頂きたいのですが構いませんか?」
オラクルは言います。
「何じゃ?」
「期限を切って下さいませ。例えば……期限が残り1週間あるいは10日に差し迫ったら、必ず【オーバー・ワールド】に帰還する……というようにです。その期限までは全力で復興に尽力致しましょう」
「うむ。では残り3日ではどうか?」
「ギリギリ過ぎませんか?もしも残り3日の時点で、パーティ・メンバーの誰かが行方不明になったりなどしたら、捜索をする時間が掛かり帰還の期限に間に合わなくなります。そういう事態も考慮すれば、最低1週間までが限界かと……」
「む〜、致し方あるまい。では残り日数7日を切る午前0時をデッド・ラインとしよう」
「ソフィア様。私達が【ドゥーム】に【再配置】されたのは【ドゥーム】標準時の正午でした。ですので時刻は正午を基点としなければなりません。また、残り日数7日を切る時点ではなく、8日を切る時点でなければ1週間前ではありません」
「少し細かいのではないか?」
「定義は大切でございます。特に生命が掛かっている場合には……」
「良かろう。では残り日数8日を切る時点の正午前までには、【オーバー・ワールド】に帰還する。じゃが、状況によってはデッド・ラインは2、3日延びる事も……」
「いけません」
オラクルはソフィアの曖昧な態度を……ピシャリッ……と制しました。
ソフィアはギリギリまで粘るつもりなのです。
しかしソフィアの身の安全を第一と考えるオラクルにとって、それは認められない事でした。
【ドゥーム】の状況がどうであろうとも、約束の期日が来たら即【オーバー・ワールド】に帰還する……この一点に於いて、オラクルはソフィアの最側近の筆頭従者として1秒も妥協出来ません。
「ならば我1人で【ドゥーム】に残って其方らは全員【オーバー・ワールド】に帰還しても構わぬのじゃぞ」
ソフィアは言いました。
「ソフィア様。もしも、そのような乱命が下されても私は従いません。しかし、この件で仮に【命令強要】が行使されましたら、私には、それに【抵抗】する術はございません。ただし、その場合には、以後私の自我はソフィア様によって完全に隷属され、私の自由意志は永久に死んだモノとお考え下さいませ」
オラクルはキッパリと言います。
「ぬぐっ。オラクル、其方は我を脅すのか?」
「いいえ。私にとって絶対者であるソフィアを脅すなど滅相もない事でございます。ただ嘘偽りのない本心を申し上げただけでございます。しかし仮に私にお約束下さいました期日をお守り頂けないのなら、もはや私の自由意志は死んだも同然。以後はディエチと同じような単なるロボットとして私を使役して下さいませ」
オラクルは言いました。
「ソフィア様。私もオラクルお姉様と完全に同じ考えでございます」
ヴィクトーリアが言いました。
「2人とも、やはり我を脅しておるではないか?」
ソフィアは、反抗して来たオラクルとヴィクトーリアに困惑します。
ソフィアの考えは……期限の最後の1秒まで【ドゥーム】に残って、何かやれる事をしたい……という事でした。
しかし、オラクルとヴィクトーリアがソフィアの安全を第一に考えて言っている事は明らかなので、ソフィアも強いて自分の願望を押し通す事も出来ません。
「相わかった。では、我が【オーバー・ワールド】に帰還するタイミングは、オラクルに一任する。これで文句はあるまい?」
ソフィアはオラクルに従う事にします。
「ありがとうございます。差し出がましい事を申し上げました事をお許し下さい。ではティア様は、【オーバー・ワールド】に帰還し、ノヒト様に委細をお伝え下さいませ」
オラクルはティアに依頼しました。
「はい。ソフィア様、皆さん、お気を付けて。お先に失礼致します」
ティアは言います。
ティアも、オラクルやヴィクトーリアのように……ソフィアを脅してでも、ソフィアと共に【ドゥーム】に残りたい……という気持ちもありました。
しかしティアは、オラクルとヴィクトーリアとは状況が異なります。
オラクルとヴィクトーリアには、ソフィアの内部【収納】に【バック・アップ・コア】という、言わば残機が存在していました。
生身の人種であるティアには、もちろん残機などありません。
ティアが自分の願望を通してソフィアと共に居る事は、脆弱な庇護対象を守らなくならないソフィア達にとっては邪魔にしかなりません。
この場は、ティアは【オーバー・ワールド】に帰還する事が最もソフィアの役に立つ最善の選択なのです。
そのくらいの判断は、ソフィアから首席使徒に任命される程に知性が高いティアなら、自ずから理解出来ました。
【宝物庫】などを取り外してオラクルに預けたティアは、【カラミータ神殿】の礼拝堂に浮かぶ【転移魔法陣】の上に立ちます。
ティアは、ステータス画面に表示された運営からのメッセージ……【オーバー・ワールド】に【転移】しますか?……という問い掛けに対して……YES……を選択しました。
刹那、ティアの身体は光の粒子に変わり【転移魔法陣】に吸い込まれたのです。
【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】のメンバーであるティアは、一足先に【オーバー・ワールド】に帰還しました。
「さてと……皆の者。期限が切られておる故、効率良く動かなければならぬ。何をすべきか、何をすべきではないか、まずは優先順位を考えてタイム・スケジュールを作成する必要があると思うのじゃが?どうか?」
ソフィアは訊ねます。
「スケジュールを作っている時間が勿体ないよ。行動あるのみじゃない?」
ウルスラが言いました。
「いや、ウルスラよ。こういう時は、時間を消費しても計画を立ててから動いた方が、結果的には時間に無駄がないモノなのじゃ。それにスケジュール作成はオラクルとヴィクトーリアがやれば、あっという間じゃ」
「そ〜なの?」
「そうなのじゃ」
「ソフィア様。タイム・スケジュールは既にヴィクトーリアと2人で作成しておきました」
オラクルが言います。
「なぬっ!?それは本当か?」
ソフィアは驚きました。
「はい。こういう事もあろうかと思いまして」
「つまり2人は、クリア条件を満たして帰還可能になった後も、我が……【ドゥーム】に残って復興を手伝う……と言い出す事を予測しておったのじゃな?」
「その事だけを予測していた訳ではありませんが、幾つかある選択肢の1つとしては想定しておりました。ヴィクトーリアも同じ見解でございます」
オラクルは説明します。
「うむ。さすがはオラクルとヴィクトーリアじゃ。して、我らが、まず真っ先に着手するべき事は何か?」
ソフィアはオラクルに訊ねました。
「まずは、【ドゥーム】の民全員にソフィア様の御気持ちを伝え、【ドゥーム】の民達の意思を糾合し協力を取り付ける事でございます」
オラクルは言いました。
「なるほど。通理じゃ。では魔法通信で我がスピーチしよう」
ソフィアは力強く頷きます。
終末まで残り88日……。
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