第1034話。へっぽこ軍団の終末世界旅行…35…並行線。
本日2話目の投稿です。
【カラミータ】。
昼食後。
「ソフィア様。先程【デマイズ】から【ディストゥルツィオーネ】のヴァンダービルト元王の特使だというウランジア殿という方が到着し、【カラミータ】のシドニー女王陛下、【ロヴィーナ】のロデリック王陛下、【ディストゥルツィオーネ】のヴァレーラ評議会代表閣下と謁見されました。ソフィア様もお会いになりますか?」
オラクルが訊ねました。
「オラクルやティア達が会って、こちらの用件は伝えたのじゃろう?我が、会う必要があるのか?」
ソフィアは興味がなさそうに言います。
「それが状況が良くわからないので、はっきりした事は申せませんが、どうやらウランジア特使は、何者かによる【精神支配】を受けています」
「【精神支配】?ヴァンダービルトのか?」
「いいえ。おそらく【上位悪魔】のベロボーグでしょう」
「あ〜、然もありなんという話ではあるのじゃ。【ディストゥルツィオーネ】の庇護者である【上位悪魔】のチェルノボーグが驚く程、穏当で良識的じゃったから忘れがちになるが、本来【悪魔】とは人種を【精神支配】したり【憑依】して操ろうとする者達じゃったな……。それではベロボーグ派の連中は全員ベロボーグに【精神支配】されておるのか?」
「【悪魔主】ならばともかく、【上位悪魔】1個体程度のスペックでは大人数を同時に【精神支配】する事は不可能でしょう。おそらくはヴァンダービルト王とベロボーグ派の中枢にいる数人を【精神支配】して操って、【デマイズ】のベロボーグ派全体を操っているのだと思います」
「なるほど……。しかし、その方が【悪魔】族らしいと言えば、らしいのじゃ。むしろチェルノボーグのように大した見返りもなく真摯に人種を庇護する【上位悪魔】が特異な個体と言える。チェルノボーグは、何故あのように人種に対して友好的……というか同情的なのじゃろうか?【悪魔】族らしくないのじゃ」
「個体差としか申し上げられないと思われます。おそらくチェルノボーグが【生贄のトーテム】というアイテムを依代としていて、人種との関係性にワン・クッションあるからではないかと?ミネルヴァ様に聞いた話では……【悪魔】族は人種と直接【盟約】を結ぶと、パスを通じて人種の卑怯な性質や、欲深い性質や、本質的には残虐な性質を感じ取り、それをフィード・バックして悪意を増幅する……との事。つまりデフォルトの状態の【悪魔】族とは、存外に純粋無垢な存在なのではないのでしょうか?チェルノボーグが直接思念を交わした相手は今は亡きクアトロッタ・ヘプタメロンだけです。クアトロッタはチェルノボーグに……【ドゥーム】の人種を守って欲しい……と託して死にました。クアトロッタが自らの生命を対価とした【召喚】によりチェルノボーグを呼び出してまで命じた遺言が、【ドゥーム】の人種を守る事。つまり【悪魔】族は人種の悪意を学んで悪事を働くようになるので、チェルノボーグがスポーンして唯一直接感じ取った思念が全く濁りがない純粋な自己犠牲と利他的行動であったので、チェルノボーグは穏当で良識的な性質になったのかもしれません。もちろんチェルノボーグは永年に渡り人種の営みを観察していますので、人種の悪意にも当然触れている筈ですが……」
「ふむ。そこはクアトロッタとの最初の【盟約】による影響が、現在のチェルノボーグにも人種にとって良い意味で拘束力となっているのかもしれぬ。で、我が、そのウランジアなるヴァンダービルトの特使……いやベロボーグに【精神支配】を受けている者に会ってどうするのじゃ?こちらの都合を伝えて、後は相手がどういう行動を選択しようとも、我は知らぬ。【神格者】たる我が配慮をしてやっているのにも拘らず、我の忠告を無視するならば何か被害が出ても、それはベロボーグ派の自己責任じゃ」
「【神格者】のソフィア様であれば、【超位】以下の如何なる【精神支配】も解除してしまえます。とりあえずソフィア様がウランジア特使の【精神支配】を解いてしまえば、何かしらベロボーグ派の情報を聴き出す事は出来るかと思います。情報は聞いておいて損はないと思いますが?如何でしょうか?」
「ふん。そこまで我が歩み寄る理由もないが、相わかった。オラクルが、そう考えるならば会おう」
「恐縮でございます」
ソフィア達は、【デマイズ】から来たベロボーグ派の外交使節団と会う為に、ウランジア特使がいるゲスト・ルームに向かいました。
・・・
【カラミータ】のゲスト・ルーム。
ソフィア達が地下通路を歩いてゲスト・ルームに向かうと、ゲスト・ルームの前には警護役らしき者が4人立っています。
2人は【カラミータ】の軍人で、2人はソフィアが知らない者達でした。
【カラミータ】の軍人2人は、ソフィア達を見付けると居住まいを正してキビキビとした所作で敬礼をします。
ソフィアの【マップ】に表示される彼らの光点反応は真っ青でした。
ソフィアが知らない2人は警戒した様子でソフィア達を見詰めています。
武器を構える事はありませんが、明らかに友好的ではありません。
どうやら彼らは【デマイズ】から来たベロボーグ派の者達のようです。
彼らの光点反応は薄らとピンク色が混ざる白色でした。
「ウランジアなる者に会いたいのじゃが、ソフィアが来たと伝えて欲しい」
ソフィアは端的に伝えます。
「「……」」
ベロボーグ派の警備達は、何やら躊躇していました。
「ソフィア様。ウランジア特使は、ソフィア様には……会う理由がない……と申しております」
【カラミータ】側の警備兵が報告します。
「とりあえず。もう一度ウランジアにアポイントを取ってくれ。我には会う理由があるし、本来ならウランジアにも会わねばならぬ必然がある筈じゃ。それでも会わぬと言うなら、我にも考えがある。我は【神竜】であるぞ。その我が、その気になれば【上位悪魔】のベロボーグなど簡単に滅ぼす力がある。我とウランジアに何か行き違いがあれば、ベロボーグの滅殺は現実となるかもしれぬ。それはヴァンダービルトも同様じゃ。ウランジアは、それでも良いのか?ウランジアの態度1つで我は強硬な手段に出る可能性もあるという事を考えてみよ。ウランジアは、我にベロボーグとヴァンダービルトを始め【デマイズ】にいる者達と敵対させたいのか?と詰問せよ。我は出来る事ならば平和的に事を進めたいが、あくまでもウランジアが我に会わぬというなら、例えばベロボーグ派全滅という事になっても、それはウランジアの責任じゃ。その覚悟がウランジアにはあるのか?」
ソフィアは言いました。
ソフィアは明らかに脅迫していますが、本当にベロボーグ派を全滅させるつもりなどありません。
「畏まりました。そのように、お伝え致します」
【カラミータ】の警備兵は頷きます。
「お待ちを……。それは、私が特使様にお伝えしましょう」
ベロボーグ派の警備が言いました。
「うむ」
ソフィアは了解します。
ベロボーグ派の警備は扉をノックして入室の許可を得て中に入って行きました。
すると部屋の中から誰かを叱責するような女性の声が聞こえて来ます。
おそらくベロボーグ派の警備は、ソフィアの脅迫を本気だと考えて自分の家族の事などを考えたのだと思われました。
つまり頑なに……ソフィアには会わない……と言っているウランジア特使を説得しようと考えているのかもしれません。
やがて室内は静かになり、先程のベロボーグ派の警備が扉を開けました。
「ウランジア特使様がお会いになります」
ベロボーグ派の警備が伝えます。
「うむ。ご苦労じゃったな」
ソフィアはベロボーグ派の警備を労いました。
・・・
ゲスト・ルーム。
「【精神支配破棄】」
ソフィアはゲスト・ルームに足を踏み入れて開口一番、【神位能力】で室内全員の【精神支配】を解除してしまいます。
「ソフィア様。今、何をなさったのですか?」
ベロボーグ派の特使の接遇の為に同室していた【カラミータ】のシドニー女王が訊ねました。
「ウランジアの【精神支配】を破棄しただけじゃ。何ら悪い影響はない」
ソフィアは説明します。
「そうですか……」
「さて、我は【創造主】から与えられた……【ドゥーム】を救え……という使命により、こことは異なる世界から来た【神竜】のソフィアじゃ。して、ウランジアとは誰か?」
ソフィアは訊ねました。
「わ、私が【ディストゥルツィオーネ】の正統王で在らせられるヴァンダービルト・ディストゥルツィオーネ陛下より【カラミータ】女王シドニー陛下への特命使節を仰せつかっております、ウランジアでございます」
【アシカ人】の女性……ウランジア特使は答えます。
「ふむ。わかった。まずは我からの通達を伝える。それを【デマイズ】に伝えよ。我は、明日の朝9時に【神位】の魔力波を【ドゥーム】全方位に向け最大出力で放射する。これは、【微小機械】を無力化する目的で行われる。我の【神位】の魔力波は強力じゃから、その際は【微小機械】だけでなく、厳重な魔力波対策や【創造主】のギミックで保護されていない、あらゆる【魔法装置】なども壊れる。じゃから明日の午前9時までに、【デマイズ】のシェルター外にある壊れては困る【魔法装置】をシェルター内に回収したり、屋外にある【乗り物】などもシェルター内に退避するように、ベロボーグとヴァンダービルトに申し伝えよ」
「私は……異界の神を僭称する怪しい者の話は聞いてはならない……とヴァンダービルト王陛下より厳命されております。従って、今のお話は聞かなかった事に致します」
「好きにすれば良い。じゃが、我の魔力波によって【魔法装置】や【乗り物】などが壊れて困るのは誰かを考えよ。我は最大限【デマイズ】には配慮したのじゃから、【デマイズ】にどのような被害が出ても我は一切関知せぬ故、それだけは心しておくが良い」
「あ、あのう。あなたは、本当に異界の神で、本当に【微小機械】を無力化出来るのですか?」
「そうじゃ」
「……」
ウランジア特使は考え込みました。
「とりあえず、我が伝えるべき事は伝えた。で、ウランジアよ。其方はベロボーグに【精神支配】をされておったようじゃが、ベロボーグは其方らを【精神支配】して、何を企んでおるのじゃ?」
「ベロボーグ様が?何かの間違いでは?私達【ディストゥルツィオーネ】正統政府に与する者達は、ベロボーグ様の心優しき恩寵に守られて暮らしております。彼の悪しき【悪魔】であるチェルノボーグと、チェルノボーグに洗脳されている【ディストゥルツィオーネ】を不法占拠している悪魔教団の者達と、私達は違います」
ウランジア特使は答えます。
「う〜む。既にベロボーグの【精神支配】は解けている筈なのじゃが……。ウランジアよ、何故チェルノボーグを悪し様に言うのか?我から見ると、チェルノボーグは【ディストゥルツィオーネ】の民達を真摯に庇護しておるように思えるのじゃが?むしろベロボーグこそ、悪しき【悪魔】ではないのか?」
ソフィアは質問しました。
「そのような事はありません。悪しきチェルノボーグと、チェルノボーグに洗脳された異端者達は、【フレッシュ・キューブ】なる禁忌に手を出していました。【フレッシュ・キューブ】は人肉でございます。人肉食は【世界の理】に反します。畏くも【創造主】様が御定めになった【世界の理】を守っているのは、私達ベロボーグ様に帰依する【ディストゥルツィオーネ】正統政府と、その国民達でございます。【神竜】とは【調停者の首座】と並んで【天地開闢】より【創造主】様に御仕えする最も高貴なる【神格】である筈。あなたが本物の【神竜】であるならば、私達の側に立つ筈ではないのですか?あなたがチェルノボーグと【ディストゥルツィオーネ】の不法占拠者達の側に付いている事が、あなたが偽神である証拠。私達は偽神には従いません」
ウランジア特使は決然として言います。
「なるほど。其方らは件の【フレッシュ・キューブ】の禁忌に対して、看過出来ずにチェルノボーグと【ディストゥルツィオーネ】の民達と対立した訳か?その言い分は理解出来る。我は、チェルノボーグと【ディストゥルツィオーネ】の民達に【フレッシュ・キューブ】による人肉食を永久に止めさせた。つまり、【フレッシュ・キューブ】の取り扱いについては我はベロボーグ派と完全に同じ考えじゃ。チェルノボーグと【ディストゥルツィオーネ】の民達に、我が【フレッシュ・キューブ】を二度と作らせも食べさせもしない事を【契約】させた事を以って、ベロボーグ派はチェルノボーグ派と和解してはどうか?あの【フレッシュ・キューブ】は生存を追い詰められた上での窮余の策だったのじゃ。そこは【創造主】も其方らが【調停者の首座】と呼ぶ、チーフ・ゲームマスターのノヒトも大目に見てくれると思うのじゃ。ウランジアよ、其方の子供が飢えて死にそうな時、其方は自らの身を斬られても我が子を生かしたいとは思わぬか?【フレッシュ・キューブ】は、そういうモノだったのだと我は思うのじゃ」
ソフィアは噛んで含むようにしてウランジア特使に語り掛けました。
「見解の相違ですね。私は、子供達に……【世界の理】を守るように……と教えております」
ウランジア特使は答えます。
結局、ソフィアとウランジア特使との会談は並行線のまま終了しました。
ただし明日午前9時の……ソフィアによる魔力波放射……については、ウランジア特使から【デマイズ】に通達してくれる事となったので、一先ずソフィアは……それで良し……と考えたのです。
ウランジア特使が【世界の理】を持ち出してチェルノボーグと【ディストゥルツィオーネ】の民達を糾弾している以上、それはソフィアの立場から見ても正しい見解でした。
一方で飢餓に苦しむ者達が、止むに止まれず禁忌の【フレッシュ・キューブ】に手を出さざるを得なかった事も、ソフィアには理解が出来ます。
なので、ソフィアは、それ以上ウランジア特使にチェルノボーグと【ディストゥルツィオーネ】の民達への理解を求める事は諦めました。
世の中には白か黒かでは割り切れない事もあるのです。
ソフィア達は、夕刻に【ロヴィーナ】に到着したベロボーグ派の特使にも会いに行きました。
【ロヴィーナ】に訪れた特使はヴァンダービルト王の長子であるアップダイク元皇太子。
アップダイク元皇太子も、ウランジア特使と同様に【精神支配】を受けていたのです。
しかしソフィアがアップダイク元皇太子の【精神支配】を破棄しても、やはりアップダイク元皇太子はベロボーグへの帰依を翻意せず、あくまでもチェルノボーグと【ディストゥルツィオーネ】の民達を批判し続けました。
一応アップダイク元皇太子も、ソフィアからの通達を……【デマイズ】に伝える……と約束してくれたので、ソフィアは、それだけで納得して【カラミータ】に戻ったのです。
終末まで残り89日……。
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