第1033話。へっぽこ軍団の終末世界旅行…34…シェイク・ダウン。
【カラミータ】。
日の出前。
東の空が明るくなり始める頃、オラクルとヴィクトーリアは徹夜作業を終えます。
昨晩オラクルとヴィクトーリアは、【カラミータ】と【ロヴィーナ】と【ディストゥルツィオーネ】を回って幾つかの【魔法装置】を修理して回りました。
【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】が最初に各シェルターを訪れた際に、給水などライフ・ラインに類するインフラの修理やメンテナンスは行っていましたが、昨晩は優先順位が高くないので後回しになっていた各工場の【プロトコル】などを修理したのです。
特に【ディストゥルツィオーネ】はヴァンダービルト元王らベロボーグ派がシェルターを退去する際に、生産設備や機器類を持ち去ったり破壊してしまったので被害が深刻でした。
なのでヴィクトーリアは【カラミータ】と【ロヴィーナ】2箇所の修理を掛け持ちましたが、オラクルは【ディストゥルツィオーネ】に張り付いて修理を行ったのです。
オラクルの働きで【ディストゥルツィオーネ】の生産設備は、ほぼ修理が完了しました。
今後は【ディストゥルツィオーネ】も現在よりは多少文明的な生活水準に改善される事でしょう。
しばらくするとトライアンフが目を覚ましました。
ヴィクトーリアがトライアンフに朝ご飯を与えます。
するとキアラが自分で起き出して身繕いを始めました。
キアラは寝起きが良いようです。
次にティアが起き出して来ました。
ティアが身繕いを済ませていると、ソフィアの専属料理番のディエチが朝食の準備を始めます。
とは言え、【ドゥーム】では満足に食材が手に入らないので出来合いの食事を皿に盛り付けたり湯を沸かしたりという程度。
その朝食の匂いで、眠っているソフィアが鼻をクンクンさせ始めました。
これはオラクルとヴィクトーリアが考え出したソフィアの目覚まし方法なのです。
熟睡中のソフィアは起こしても、そう簡単に起きません。
しかし食べ物の匂いがすると眠りが浅くなり目を覚まし易くなるのです。
「ソフィア様。お目覚めの時間でございます」
オラクルがソフィアを優しく撫でて覚醒を促しました。
「……ん、ああ……おはようなのじゃ」
食べ物の匂いで半覚醒していたソフィアは、すぐに起床します。
「おはようございます」
オラクルは挨拶をしました。
オラクルがソフィアを着替えさせている間に、ヴィクトーリアがウルスラを起こします。
寝起きが悪いウルスラは半分寝たままヴィクトーリアに着替えさせられていました。
皆が起きて朝食が始まります。
・・・
朝食後。
「今日も暇じゃな……何をしようかの」
ソフィアは言いました。
ソフィアは、【微小機械】を無力化する予定の明日まで、これと言って特にやる事がありません。
「ソフィア様。アタシの【ゴーレム】制御の練習に付き合ってくれるんじゃないの?」
ウルスラが言います。
「うむ。それくらいしか現状やる事がないのじゃ」
「【デマイズ】から向かって来ているヴァンダービルト元王の使者は午前中には【カラミータ】に、夕刻までには【ロヴィーナ】に到着予定のようです」
オラクルが報告しました。
「奴らがモタモタと屋外を移動しておる故、我は何日も待たなければならなくなったのじゃ。いっその事、こちらから迎えに行ってはどうじゃ?」
「彼らは【カラミータ】と【ロヴィーナ】とは定期的に連絡を取り合っているようで、もう近郊までは来ているようですが、生憎と位置座標を伝えないらしく正確な現在地がわかりません。こちらから迎えに行っても行き違いになるかもしれませんので待つのが宜しいかと」
「う〜ん、致し方あるまい」
急っかちなソフィアは、待たされる事が大嫌いなのです。
「ソフィア様。未明頃にメディア・フプタメロンと雑談を致しました。メディアは【神の遺物】の武器を失ったそうです。それで彼女から……ソフィア様が【ピラミッド】内の【ガチャ】で獲得した【神の遺物】の中から武器を購入したい……と頼まれたのですが?」
ヴィクトーリアが報告しました。
「対価によっては売却しても構わぬが?」
ソフィアは言います。
メディア・ヘプタメロンの主武装である【神の遺物】の二叉の銛……【バイデント】……は、ソフィアとの初対面時に、ソフィアが行った亜光速アタックに巻き込まれて消失してしまいました。
ただしソフィア自身は、その事を知りません。
つまりメディアは、ある意味ではソフィアの所為で武器を失ったのです。
しかしメディアは、ソフィアの亜光速アタックで生命を救われていたので、ソフィアに損害賠償を要求したりはしませんでした。
「メディアは……【太陽を呼び戻す魔血石】……という特殊な【神の遺物】アイテムを持つそうです。それを対価にして交換をしたいそうです。グレモリー様がお書きになった……【ゾンビ】でもわかる【秘跡】攻略法によると、【太陽を呼び戻す魔血石】は【遺跡】の【宝箱】などからは出ない希少なアイテムであるらしく、ソフィア様に損はないと思われます」
ヴィクトーリアは言います。
「そのような希少なアイテムを対価としてしまっても良いのか?メディア程の強力な【ヴァンパイア】なら準備を整えて挑み、【ピラミッド】を何度か周回すれば、いずれ【神の遺物】の武器くらい入手出来そうなモノじゃが?」
ソフィアは訊ねました。
「それは現状メディアにとって【太陽を呼び戻す魔血石】の価値が相対的に低いからのようです。【太陽を呼び戻す魔血石】は天候を操作出来る強力な【神の遺物】です。豪雨だろうと吹雪だろうと【太陽を呼び戻す魔血石】を使えば、すぐに晴天になるギミックがあるのだとか。しかし、現在の【ドゥーム】では使い所が全くありません。であるならば武器に変えてしまっても惜しくはないのでしょう」
「なるほど。確かに大気中に湿度を含まない【ドゥーム】では常時雲1つない快晴で、時々起きる天候変化は砂嵐くらいのモノじゃからのう」
「はい。【太陽を呼び戻す魔血石】に砂嵐を収めるギミックはないそうです」
「おそらく砂嵐は気象上……晴れ……と判定されるのじゃろう?」
「そのようです」
「わかった。で、メディアは何を欲しがっておるのじゃ?」
「【虐殺者の権杖】だそうです」
「ふむ。【虐殺者の権杖】は、使用者の放つ範囲攻撃魔法が【強化補正】されるギミックの魔法杖じゃったな?」
「メディアは【魔人】です。一般に【魔人】は、人種の平均に比べて武器や道具類の扱いに関するステータスが全体的に【弱体化補正】されます。更には信仰系や聖なる武器やアイテムを使うとダメージを受けるというペナルティも受けます。ただし魔剣や魔槍や呪いの武器系統など、所謂……混沌……に類する武器やアイテムなら【弱体化補正】やペナルティが起こらないそうです。メディアが使っていた【バイデント】も混沌に類する武器だったのだとか。【虐殺者の権杖】も、混沌系の魔法杖です」
「良かろう。【虐殺者の権杖】と【太陽を呼び戻す魔血石】を交換してやるのじゃ」
ソフィアはヴィクトーリアに【虐殺者の権杖】を預けます。
「畏まりました。メディアに、そのように伝えます」
ヴィクトーリアは【虐殺者の権杖】を受け取りました。
「【魔人】は混沌に類する武器やアイテムでなければ【弱体化補正】されるのか?だとするとトリニティは以前【ヴァルキリーの鎧(ヴェルダンディの鎧)】を着ておったが、あれも混沌の系統という事か?」
ソフィアは素朴な疑問を口にします。
「【ヴァルキリー】は……死の戦乙女……とも呼ばれます。死を想起するので、どちらかと言えば【ヴァルキリーの鎧】も混沌系統の防具なのでしょう。しかしながらトリニティ様程の強大な御力をお持ちの方は、【弱体化】も問題とはならないと思いますが……」
オラクルが説明しました。
「うむ。ノヒトの従者となった以降のトリニティは【神位魔法】や【神位能力】こそ使えぬが、魔力量や各種ステータスだけを見れば【神位級】じゃからの。規格外の存在じゃ」
ソフィアは頷きます。
ソフィア達は行動を開始しました。
オラクルとヴィクトーリアとティアとキアラは【ドゥーム】の首脳会議に参加します。
ソフィアとウルスラとトライアンフは狩に出掛けました。
・・・
【カラミータ】近郊。
ウルスラは【誘引の角笛】で魔物を集めてから、【砂岩・ゴーレム】を造り、【サンド・ワーム】や【砂漠・ワーム】を狩っています。
空中から飛来する魔物はソフィアが簡単に倒していました。
ソフィアは【ピラミッド】の【交易所】の【ガチャ】で引いた【魔導戦車】の性能を試したかったのですが、地中から攻撃して来る【ワーム】系の魔物には相性が良くないのでお預けになっています。
すると【カラミータ】からメディア・ヘプタメロンが飛んで来ました。
「ソフィア様。ご精が出ますね?」
メディアは声を掛けます。
「メディアか?どうしたのじゃ?会議に参加しなくて良いのか?」
ソフィアは訊ねました。
「私に関係する事は、もう粗方片付いたのです。後は、人種が自分達の事を決めれば良いでしょう。それから昨晩ヴィクトーリア様にお会いした際にお願いしておりました、【太陽を呼び戻す魔血石】と【虐殺者の権杖】との交換をして頂きました。ありがとうございます。ソフィア様達が、こちらで狩をなさっておられると伺いましたので、ご一緒して【虐殺者の権杖】を試させて頂こうかと思いました。宜しいですか?」
「うむ、構わぬ。【範囲魔法】を強化する【虐殺者の権杖】のテストには、この【ワーム】の群は、お誂え向きじゃからの。存分に試すが良い。ウルスラ、一旦メディアと交替じゃ」
ソフィアはウルスラに声を掛けます。
「は〜い」
ウルスラが制御を中断すると、【サンド・ワーム】と格闘していた【砂岩・ゴーレム】軍団は砂に戻りました。
「では……【重力崩壊】」
メディアは【超位闇魔法】を詠唱します。
ドゴーーンッ!
「ほ〜う、確かに【虐殺者の権杖】のギミックによって魔法が強化されておるようじゃ」
ソフィアは感心しました。
「まだまだでございます。【葬列】」
メディアは続けて【超位魔法】を詠唱します。
すると、たった今メディアが倒した【サンド・ワーム】がユラユラと起き上がり、近付いて来る【サンド・ワーム】に襲い掛かりました。
「ほ〜う、【死霊術】の【範囲魔法】版か?」
ソフィアは訊ねます。
「良くご存知で。【葬列】は【不死者化】の【範囲魔法】版です。砂漠で【サンド・ワーム】の狩をすると、【サンド・ワーム】は共食いをする習性があるので死体に集まって来ます。なので、このように【不死者】にして、なるべく早く移動させなければいけません。その際狩った獲物の数が多いと全ては持ち帰れず、その場に捨て置かなければならない事もありました。ですが、こうして【範囲魔法】でいっぺんに移送が可能となれば、せっかく倒した獲物を無駄にしなくても良くなり便利です」
メディアは説明しました。
「我の友人にもグレモリー・グリモワールという強大な力を持つ【大死霊術師】がおるのじゃが、グレモリーは対象が複数でも【不死者化】で一気に【不死者】を造ってしまうそうじゃが?」
「その方は【大死霊術師】ですから特別なのです。私は、【死霊術士】としては大した能力はありません。【不死者化】は魔力消費の量と魔法制御の難しさを無視すれば、確かに【範囲魔法】としても行使出来ます。しかし、私の能力では同時に複数の【不死者】を制御する事など到底出来ません。【葬列】は【不死者】にした対象の内、制御するのは1個体だけで、残りは制御された1個体に追随して移動するように出来る魔法なのです。なので魔力消費と魔法制御の負荷が、それ程高くないので、私でも多数の狩の獲物を【不死者】にして運べます」
「なるほど。じゃから……葬列……か?」
「はい。葬儀に参加した者達の列ではなく、死者自体が列を作る訳ですが……」
「ふむふむ。戦闘で使役する訳ではなく、狩の獲物を運ぶだけの用途なら合理的な魔法じゃのう」
「はい。それから私がソフィア様達がいらっしゃる狩場にお邪魔して【虐殺者の権杖】のシェイク・ダウンをさせて頂くつもりだと申しましたら、オラクル様から……ならば、ついでに、そろそろ、お昼なのでソフィア様達をお呼びして欲しい……と頼まれました」
「おお、そうか。ならば戻るとしよう」
ソフィア達は狩まくった魔物を【宝物庫】に入るだけ詰め込むと、入らない分は集めて積み上げ獲物ごと【転移】で【カラミータ】に戻ります。
そして、ソフィアとオラクルとヴィクトーリアは、手分けをして狩の成果を【カラミータ】と【ロヴィーナ】と【ディストゥルツィオーネ】に分配して運び、その後に昼食を食べました。
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