第1030話。へっぽこ軍団の終末世界旅行…31…ランプの妖精。
【ピラミッド】最深部。
ソフィアとウルスラとトライアンフは、第3階層を駆け抜けます。
もう時間的に夕食時なので、ソファはやっつけ仕事のように投げやりに【ピラミッド】の地下迷宮を踏破して、あっという間にボス部屋までやって来ました。
ソフィア達がボス部屋に入ると、ボスがスポーンします。
ボスは【スフィンクス】が、【眷属】の【スフィンクス】20頭を従えていました。
スポーンしたのが【スフィンクス】なのは第2階層の中ボス戦と同じですが、【スフィンクス】の頭部が少し違っています。
「羊の頭をした【スフィンクス】だよ」
ウルスラが言いました。
「うむ。レア種じゃ。本来なら珍しき魔物は【調伏】したいところじゃが、もう今日は面倒臭いのじゃ。ウルスラ」
ソフィアは、ウルスラに合図します。
「は〜い」
ウルスラは定位置のトライアンフの口の中に避難しました。
「【神竜の咆哮】」
ソフィアは最強の必殺ブレスを吐きます。
死体を回収する気なら武器で首を切り飛ばしたり、【神竜砲】などピンポイントの超火力で頭部などを消滅させれば良いのですが、もはや面倒臭くなったソフィアは、範囲攻撃1発で【敵性個体】を殲滅してしまいました。
ボス部屋に【宝箱】がスポーンします。
「ウルスラ。片付いたのじゃ」
ソフィアは言いました。
「は〜い」
ウルスラがトライアンフの口から出て来ます。
「ところで、トライアンフの口の中は唾液でベタベタにならぬのか?」
「うん。トライアンフの本質は【知性体】だから、唾液とかは出さないように出来るみたい。中は部屋状になっていて結構広くて快適だよ」
「なぬっ!トライアンフの口の中には部屋があるのか?どれどれ見せてみよ……。ん?いや、別に普通の猫の口の中じゃが?」
「うん。私が入る時だけ部屋になるみたい」
「何とも奇怪な。では我も中に入れるのか?」
ソフィアはトライアンフに訊ねました。
「んにゃ〜」
トライアンフは鳴きます。
「トライアンフの口のサイズを通れる大きさじゃなきゃ、トライアンフの口の中の部屋には入れないってさ」
ウルスラが通訳しました。
「ふむ、そうか。もしかして【避難小屋】のようにウルスラが持ち込んだアイテムなどをトライアンフの口の中の部屋に置いておく事も出来るのではないか?」
ソフィアは訊ねます。
「にゃ」
トライアンフは鳴きました。
「出来るってさ。そっか、ならテーブルとか椅子とかベッドとかを置けたり、【宝物庫】にケーキを満タンに容れてトライアンフの口の中の部屋に何個も置いておけば、【避難小屋】と同じようにも使えるじゃん。トライアンフは当たり判定なしで無敵の【知性体】だから、そこも無敵の【避難小屋】と同じで便利だね」
ウルスラは言います。
「いや、【避難小屋】以上のスペックじゃ。基本的に中身が入った【収納】アイテムを別の【収納】に仕舞う事は出来ぬという【世界の理】的な設定がある。しかし例外的に【避難小屋】だけは、中身が入った【収納】アイテムを内部に置いておける故、実質的に二重【収納】アイテムとして使えるのじゃ。しかし【避難小屋】は自ら移動はせぬ。一方でトライアンフは自ら移動可能じゃ。自走式の【避難小屋】とは……凄まじい性能じゃ。我も【チェシャー猫】を【使い魔】にしたいのじゃ」
ソフィアは言いました。
ソフィアは【チェシャー猫】を欲しがりましたが、通常【チェシャー猫】は完全中立の環境NPCなので、ユーザーやNPCなどのプレイヤーが【使い魔】など味方ユニットには出来ない設定があるのです。
しかしトライアンフは、【運】系最高の【才能】である【天運】持ちのソフィアが以前グレモリー・グリモワールから譲渡された【ガチャ・チケット】で【ガチャ】を回して出た【召喚の祭壇】からウルスラが【召喚】した【チェシャー猫】でした。
ソフィアも、またゲームマスターであるナカノヒトでさえ気付いていませんが、実はソフィアの脳に共生する【知性体】のフロネシスは本質的にソフィア自身なので、ソフィアと同様にフロネシスも【天運】も使ってます。
つまりソフィアはフロネシスと合わせて……【天運】2倍効果……という本来なら有り得ない豪運持ちでした。
なのでソフィアは、【ガチャ】を回したり、【宝箱】を開けたり、【召喚の祭壇】から何かを【召喚】したり……などなど、【運】値が関係するイベントを行うと、その都度……【天運】2倍効果……という、この世界の設定には存在しないブッ壊れた幸運に恵まれているのです。
従って、本来ならプレイヤーが【召喚】不可能な【チェシャー猫】が、ソフィアが獲得した【召喚の祭壇】から出現しました。
因みに、この【運】が関係するイベントは、複数人のプレイヤーで同時に行っても全員分の【運】値が合算されたりはせず、自動的に最大【運】を持つプレイヤーの【運】で行使されています。
なので先程【交易所】で身体が小さなウルスラが【ガチャ】を上手く回せなかった為に、ソフィアが手伝った際にも…… 【天運】2倍効果……が働いていました。
「ふむ、そうか。さてと【宝箱】の中身を回収して、さっさと帰ろう。もう腹ぺこなのじゃ」
ソフィアは言います。
「そ〜だね〜。あれ?何か【宝箱】の形がいつもと違くない?」
ウルスラが言いました。
「ん?確かに形と、それから色も少し違うようじゃ。……【罠】はないようじゃが……中身は何じゃ?」
ソフィアは【宝箱】を開きながら言います。
ソフィアが【宝箱】に入っていたアイテムを取り出すと、【宝箱】は光の粒子に変わって消えました。
「それ、真鍮製のポット?」
ウルスラが訊ねます。
「【鑑定】……【神の遺物】の【魔法のランプ】じゃ」
「ランプ?何かポットか水差しみたいに見えるね?」
「うむ。古代様式のオイル・ランプじゃな。ランプに油を注ぎ、このポットの注ぎ口のように見えるところに燃芯を差し込み火を付け灯りとするのじゃ。しかし、そのランプ本来の用途に加え、この【魔法のランプ】は位階が高い【知性体】を封じておける魔法のアイテムじゃそうな」
「ふ〜ん」
「確か【イスタール帝国】歴代の皇帝は、この【魔法のランプ】を複数所有しておって、【火の精霊王】たる【イーフリート】を複数同時に使役するらしい。じゃから、強国【イスタール帝国】にあっても皇帝は最強戦力として畏怖されておるそうな。その【イスタール帝国】伝来の【イーフリート】を封じた複数の【魔法のランプ】の元の持主はグレモリーじゃったそうじゃ。現代に続く後【イスタール帝国】アベスターグ朝は、初代皇帝じゃったグレモリーから帝位と共に【イーフリート】を封じた【魔法のランプ】複数を譲渡され受け継いでおるらしい」
「へえ〜……。あっ、そう言えば、オラクルが……この【ピラミッド】の【サブ・クエスト】をクリアすると【クエスト・フェロー】の【上位妖精】を味方ユニットに出来る……って言ってたような?という事は、その【魔法のランプ】の中に、その【上位妖精】が封じられてるんじゃないかな?」
「お〜、そうじゃった。すっかり忘れておったのじゃ。おっ、確かに【魔法のランプ】のスロットが埋まっておる。中に何かがおるようじゃ」
ソフィアとウルスラは【交易所】でグダっていた所為で、【ピラミッド】に来た、そもそもの目的を完全に忘れていました。
「ソフィア様。どうやったら【魔法のランプ】から【上位妖精】を解放出来るの?」
「何々……【魔法のランプ】に【知性体】を封じる際は封じる対象から許可を受けるか、然もなければ封じる対象のヒット・ポイントを一定以下まで削り屈服させ【魔法のランプ】に封じる……とな、なるほど。【魔法のランプ】に封じられている【知性体】を【召喚】する際には【魔法のランプ】を布などで3度磨く事で解放される……そうじゃ。ふむ、やってみよう。1、2、3、出よ、ランプの【妖精】」
ソフィアは【鑑定】して【魔法のランプ】のギミックを説明する公式設定を読み、神官衣の袖で【魔法のランプ】を……キュッキュ……と、3度磨きます。
すると……。
ボワァ〜ン。
【魔法のランプ】から煙りが立ち昇りました。
やがて煙りが渦を巻き受肉して【上位妖精】がスポーンします。
「よ、呼ばれて飛び出て、こんにちは〜……私は【上位妖精】のキアラです」
【上位妖精】のキアラが恥ずかしそうに自己紹介しました。
「何か、頭が悪そうな奴が出て来た」
ウルスラが言います。
「うむ。おちゃらけておるの……」
ソフィアは同意しました。
「ち、違うのです。この登場の台詞は、お約束として決められていて、私の意思ではないのです」
キアラが弁解します。
「お約束なら致し方あるまい。我も降臨イベントでは、お約束の口上を何万回も喋ったからの」
ソフィアは言いました。
「ご理解頂きまして恐縮です」
「して、キアラとやら。其方は、この【ドゥーム・マップ】の【クエスト・フェロー】という事で相違ないか?」
「仰せの通りです」
「では、我に協力してくれるのじゃな?」
「はい。微力ながら、【秘跡】の攻略をお手伝いさせて頂きます」
「うむ。キアラの役割は……いや、我は、お腹が減った故、其方の役割は夕食を食べながらにでも、ゆっくり話そう」
「畏まりました。それで、皆様のお名前は?」
「ああ、まだ名乗っておらなんだな。我は【神竜】のソフィアじゃ」
「アタシは【妖精女王】のウルスラだよ。で、この猫型の【スピリット】がトライアンフ」
ソフィアとウルスラは自己紹介します。
「ソフィア様とウルスラ様とトライアンフ殿ですね……って、でぃ、【神竜】様と【妖精女王】陛下っ!」
キアラは驚愕しました。
「そうじゃ。宜しく頼む」
「宜しくね〜」
「は、はいっ!宜しくお願い致します」
ソフィア達は、【ピラミッド】最奥から入口に【転移】します。
オラクル……【ピラミッド】を攻略して、【クエスト・フェロー】を味方にしたのじゃ。
ソフィアは【念話】で報告しました。
お疲れ様です……少し遅かったので、お迎えに上がろうかと考えていたところです。
オラクルは【念話】で伝えます。
途中で【交易所】という店で買い物をしたり、【ガチャ】を回したりで時間が掛かったのじゃ……【交易所の妖精】とも知り合いになったしのう。
ソフィアは【念話】で説明しました。
買い物に【ガチャ】でございますか?……それに【交易所の妖精】?……その方は、【クエスト・フェロー】の【上位妖精】とは違う方なのですか?
オラクルは状況がわからず【念話】で訊ねます。
うむ……まあ、話せば長い故、そちらに戻ってから説明するのじゃ……お腹が減ったのじゃ。
ソフィアは【念話】で言いました。
畏まりました……夕食の支度は整っております。
オラクルは【念話】で言います。
では、戻る。
ソフィアは【念話】で伝えました。
ソフィアは【ピラミッド】上空に滞空していた【スパイ・ドローン】の【キー・ホール】を回収して、ウルスラとトライアンフとキアラを連れて改めて【転移】します。
・・・
【カラミータ】。
ソフィア達が帰還すると、オラクルとヴィクトーリアとティアが待っていました。
「戻ったのじゃ」
ソフィアは言います。
「お帰りなさいませ。この方が【クエスト・フェロー】の【上位妖精】様ですか?」
オラクルが訊ねました。
「そうじゃ」
「キアラでございます。宜しくお願い致します」
キアラは自己紹介します。
一同は改めて挨拶と紹介をして、【避難小屋】の中で夕食を始めました。
・・・
夕食後。
「……それで、【交易所の妖精】に怒られてしまったのじゃ」
ソフィアは【ピラミッド】での出来事を、オラクルとヴィクトーリアとティアに話して聞かせます。
「あら、まあ……」
オラクルは相槌を打ちながら、ソフィア達の話を興味深そうに聴いていました。
「そういう訳じゃからして、【ガチャ】の景品が我とウルスラが回した分で【圧縮箱】27個、それから【宝箱】の中身が【魔法のランプ】と【圧縮箱】2個あるのじゃ。【圧縮箱】を開けてみるのが楽しみじゃ。この後、早速【圧縮箱】を解凍してみようと思う」
「ソフィア様。それは明日になさっては如何でしょうか?」
「何故じゃ?」
「ご覧下さい……」
オラクルはソフィアの視線を誘導します。
オラクルが示した先では、満腹になってトライアンフの背中で寝落ちしたウルスラがいました。
「む……。そうか、ならば致し方あるまい。明日改めて戦利品の開帳をするとしよう」
ソフィアは頷きます。
「そうなさいませ。ウルスラ様も、きっとソフィア様と一緒に【ピラミッド】を攻略した成果を喜び合いたいだろうと思われますので」
「うむ、そうじゃな」
終末まで残り91日……。
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・・・
【お願い】
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