第1029話。へっぽこ軍団の終末世界旅行…30…迷惑な客。
【ピラミッド】内【交易所】。
「何が出るかな〜、何が出るかな〜、我は【自動人形】か【願いの石板】か【超位魔法習得のスクロール】が欲しいのじゃ〜。えいっ!」
ソフィアは、おかしな節回しで即興の歌を口遊みながら【ガチャ・ベンダー】のハンドルを気合いを入れて回しました。
ガチャガチャ……ゴトンッ。
【ガチャ・ベンダー】からはアイテムの種類に限らず、必ず【圧縮箱】が出る仕様です。
ソフィアは【交易所】で売られていた【ノーマル・ガチャ・チケット】、【レア・ガチャ・チケット】、【激レア・ガチャ・チケット】の3種の【ガチャ・チケット】の在庫各9枚綴りを全て購入していました。
何故10枚ではなく半端な9枚綴りになっているのか?と言うと。
【ガチャ】の仕様は以下の通り。
【ノーマル・ガチャ・チケット】。
1%の確率でレア・アイテム(【中位アイテム】)が出現。
0.1%の確率で激レア・アイテム(【高位アイテム】)が出現。
0.01%の確率で超激レア・アイテム(【神の遺物】が出現。
【レア確定ガチャ・チケット】。
レア・アイテム(【中位アイテム】)以上が確定し、1%の確率で激レア・アイテム(【高位アイテム】)が出現。
0.1%の確率で超激レア・アイテム(【神の遺物】)が出現。
【激レア確定ガチャ・チケット】。
激レア(【高位アイテム】)以上が確定。
1%の確率で超激レア・アイテム(【神の遺物】が出現。
……があり、下位の【ガチャ・チケット】を10枚セットにする事で1段階上位の【ガチャ・チケット】1枚として使えるので必然的に9枚綴りが最大ロットになる訳です。
それから上記の【ガチャ・チケット】とは互換しないスポンサー協賛イベントなどや、一定時間CMを視聴したりアンケートに協力したり、ゲーム【ストーリア】のプラットフォーム上からスポンサーの商品を購入する事で特別に無料で配布される……【超絶レア確定ガチャ・チケット】……という【ガチャ・チケット】もありました。
【超絶レア確定ガチャ・チケット】は【神の遺物】が確定します。
「ソフィア様。アタシも、アタシも【ガチャ】を回したい」
ウルスラが言いました。
「ダメじゃ。この【ガチャ・チケット】は我が自分のお金で買ったのじゃ。ウルスラも【ガチャ】を回したければ自分の【ギルド・カード】で買えば良いのじゃ」
ソフィアは言います。
「じゃあ、ソフィア様のを1枚売ってよ〜。ソフィア様が、この店の【ガチャ・チケット】の在庫を全部買い占めちゃったから、もうアタシが買う分がないんだもん」
「致し方あるまい。1枚だけ譲ってやるのじゃ。1銀貨じゃ」
「1銀貨?ねえ、【交易所の妖精】、この【ノーマル・ガチャ・チケット】の定価は幾ら?」
ウルスラはカウンターの中に佇む【交易所の妖精】に訊ねました。
「【ノーマル・ガチャ・チケット】は10銅貨、【レア確定ガチャ・チケット】は1銀貨、【激レア確定ガチャ・チケット】は1金貨ですが、【交易所】は商品販売価格が2倍に設定されておりますので、【ノーマル】20銅貨、【レア】2銀貨、【激レア】2金貨ですね」
【交易所の妖精】は和かに説明します。
「う〜んと、【ノーマル】は定価10銅貨で、【交易所】価格は20銅貨……それをソフィア様から買うと1銀貨……って定価の10倍、【交易所】の5倍じゃんか〜っ!?ちょっと、ソフィア様、狡っこいよーーっ!」
「ウルスラが【ガチャ・チケット】を要らないと言うなら、我は別に売ってやらなくても良いのじゃ」
「むきーーっ!ソフィア様のケチんぼっ!独占禁止っ!これは、虐めだっ!ハラスメントだっ!ストライキの権利を行使するっ!ノヒト様ぁ〜、ソフィア様が酷いよ〜っ!【オーバー・ワールド】に帰ったら絶対にノヒト様に言付けてやるーーっ!」
「ぬぐっ、ノヒトに告げ口するとは卑怯な……」
「卑怯は、ソフィア様だよっ!5倍も金額を吹っ掛けるなんて法外だよっ!ソフィア様は守護竜じゃなくて、守銭奴竜だっ!守銭奴竜の【ドケチ竜】だーーっ!」
「ぬぐぐぐ……。ウルスラめ、言うに事欠いて、守銭奴竜の【ドケチ竜】とは、この我に対する度を超えた非礼……許さぬぞっ!」
【チェシャー猫】のトライアンフは、【交易所】の店内の端っこに香箱座りをして……猫も食わない……とばかりに、ソフィアとウルスラの諍いを無視していました。
しかし、ソフィアとウルスラのみっともない争いは、どんどん悪化して行きます。
ナカノヒトや【神竜神殿】の大神官アルフォンシーナ・ロマリア、あるいはオラクルやヴィクトーリアがいないと、ソフィアとウルスラを制する叱り役や宥め役がいないので、ソフィアとウルスラの馬鹿馬鹿しい喧嘩を収める者が誰もいません。
「あっかんべ〜だ。守護竜の【神竜】様じゃなくて、守銭奴竜の【ドケチ竜】なんかに礼を尽くす必要なんかないもんね〜。や〜い、や〜い、守銭奴竜の【ドケチ竜】。ぶ〜っ!」
ウルスラは飛び回りながら、ソフィアに唾を吹き掛けました。
「き、汚っ!お、おのれっ!ウルスラ、至高の存在である、この我に向かって唾を吐くとはっ!そこへ直れっ!手打ちじゃっ!手打ちに致すっ!」
とうとうソフィアは【収納】から長巻の【クワイタス】を取り出し、その柄に手を掛けます。
「へっへ〜んっ!や〜だよ〜っ、守銭奴竜の【ドケチ竜】。バ〜カ、バ〜カ」
ウルスラは【交易所】の中を……ピュンッ、ピュンッ……飛び回りながら、尚もソフィアを煽りました。
「こっのーーっ!」
ソフィアは【クワイタス】を抜こうとします。
バンッ!
【交易所の妖精】がカウンターを叩きました。
ソフィアとウルスラは思わず……ビクッ……として【交易所の妖精】の方を向きます。
「お客様……【交易所】内は、【創造主】様がお定めになった【世界の理】により……交戦禁止領域……に指定されております。また、特別に【交易所】内には全ダメージ無効の特殊ギミックも施されておりますので、そもそも戦闘行為は出来ません。それに営業の迷惑となりますので、揉め事、トラブル、喧嘩の類は一律全て禁止でございます。その……ご利用のルール……を、お守り頂けないのでしたら、以後ソフィア様、ウルスラ陛下の御両名は、世界中の全【交易所】に出入り禁止にさせて頂かざるを得なくなりますが、宜しいですね?」
【交易所の妖精】は相変わらず和かな営業スマイルを崩していませんが、額に青筋を立てて反論を許さない口調で言いました。
「「ごめんなさい」なのじゃ……」
ソフィアとウルスラは、【交易所の妖精】の只ならぬ迫力に押されて、即座に謝罪します。
「おわかり頂ければ、結構でございます」
【交易所の妖精】は頷きました。
「こ、【交易所の妖精】は、アルフォンシーナみたいじゃ……」
「うんうん。普段はニコニコしているけど、怒らせるとチョー怖いタイプだね……」
ソフィアとウルスラは肩を竦めて言います。
「では、ウルスラ。【ノーマル・ガチャ・チケット】を1枚を無料で進呈するのじゃ」
ソフィアは【ノーマル・ガチャ・チケット】をウルスラに差し出しながら言いました。
「えっ!無料で良いの?」
ウルスラは驚きます。
「うむ。我は少し大人気なかった。じゃから、これは仲直りの印じゃ」
「ありがとう。なら、アタシも、苺ミルクを5本ソフィア様にあげるよ。仲直りの印に……」
ソフィアとウルスラは、【ノーマル・ガチャ・チケット】と苺ミルク5本を交換しました。
その様子を見て【交易所の妖精】は満足気に頷きます。
・・・
「くっ、硬っ!」
ウルスラは、ソフィアと交換した【ガチャ・チケット】で【ガチャ】を回そうとしますが、【ガチャ・ベンダー】のサイズが、ウルスラには大き過ぎるのか、中々ハンドルが回りません。
「どれ、我が手伝ってやろう」
ソフィアが助力を申し出ます。
「うん。お願い」
ウルスラは素直に認めました。
ガチャガチャ……ゴトンッ。
ウルスラが両手で【ガチャ・ベンダー】を掴み、ソフィアが手を添えてハンドルを回します。
「ウルスラ。ここでは手狭じゃから、外に出てから纏めて【圧縮箱】を開けるのじゃ」
ソフィアは言いました。
「うん、わかった。何が入っているかな〜。えへへへ〜」
ウルスラは【圧縮箱】を抱えて、嬉しそうにニヤけます。
その後、ソフィアは購入した全ての【ガチャ・チケット】を使って【ガチャ】を回しました。
・・・
ソフィアとウルスラは、あれから小1時間ばかり【交易所】の中でグダグタしていましたが、3時近くになった事に気付き【交易所】内でオヤツを食べる事にします。
【交易所】の中には、お客用に小さなソファが1つだけ置いてありました。
ソフィアはソファに腰掛け、テーブルを【収納】から取り出して、そこでオヤツを食べようとしたのです。
しかし【交易所の妖精】から……飲食物の持ち込みは困る……と言われたので、【収納】内の食料は食べられず、致し方なく先程ソフィアが【交易所】で購入した食品と飲料を広げて食べていました。
「ふむ。この唐揚げ串やサンドイッチは、【ワールド・コア・ルーム】のフード・コートで売っておるモノと全く同じ味じゃ。価格は割高じゃが、味は文句なく美味しいのじゃ」
ソフィアは言います。
「そ〜だね〜。【ワールド・コア・ルーム】から仕入れをしているのかな?」
ウルスラが訊ねます。
「【交易所の妖精】よ。そうなのか?」
ソフィアは訊ねました。
「いいえ。【交易所】の品揃えは全て自動でスポーンするので、仕入れはしておりません」
【交易所の妖精】は答えます。
「ふむふむ。つまりは、【創造主】が管轄する飲食店ではレシピが共有されておるという事か?」
「そのようにお考え頂いて差し支えないと思います」
「なるほど」
・・・
1時間後……。
「じゃが、【交易所】は快適じゃの〜。空調が効いていて温度・湿度は完璧。その上、座り心地が良いソファが置いてあって、備え付けのウォーター・サーバーから無料で美味しい水が飲み放題じゃ。我は、ここに住めるな……」
ソフィアはソファに寝転がって【交易所】のパンフレットを読みながら言いました。
「本当だよね〜。【ドゥーム】は暑くて、湿度がないから、やたら喉が渇くし、何もないから暇を持て余しちゃう。それにケーキを食べたくても、周りの【ドゥーム】の住人が羨ましそうに見ているから、衆目の前でケーキを取り出して食べるのも、何か気不味いからね〜」
ウルスラはホール・ケーキを食べながら言います。
「あ、あのう……ウルスラ陛下。ケーキの持ち込みは困ります。それに御両名様……失礼ながら、当店のご利用がお済みでしたら、そろそろ、お帰り頂けませんでしょうか?【交易所】は【安全地帯】ではなく、あくまでも店舗でございます。あまり意味もなく長居をされては困りますので……」
【交易所の妖精】は苦笑いしながら言いました。
「固い事を言うな。ボチボチ出発するつもりじゃ……」
「そうそう……」
ソフィアとウルスラは言います。
・・・
更に2時間後……。
「「ZZZ……」」
ソフィアとウルスラは寝落ちしていました。
「お〜いっ!お前ら、本当に、もう帰れよっ!」
【交易所の妖精】は、とうとうキレたのです。
「むにゃむにゃ……。ああ、そうじゃな……。そろそろ行くかの……。ウルスラ、起きるのじゃ」
ソフィアは伸びをしながら、トライアンフの背中で爆睡するウルスラを起こしました。
「……朝ぁ?」
ウルスラは寝惚けて言います。
「いや、午後6時じゃ。ここは【サブ・クエスト・領域】の【ピラミッド】迷宮じゃ」
「あ〜、そうだった……」
「【交易所の妖精】よ。長居したな。では、そろそろお暇するのじゃ」
ソフィアは言いました。
「ありがとうございました。またの御来店をお待ちしております」
【交易所の妖精】は営業スマイルで言います。
「この無限に美味しい水が出るウォーター・サーバーの水を【宝物庫】に入れて持ち帰っても良いか?」
ソフィアは訊ねました。
【宝物庫】の容量は1万t。
ソフィアとウルスラが持っている空の【宝物庫】(トライアンフも持っている)の幾つかに、【交易所】の無限ウォーター・サーバーの水を大量に汲んで持ち帰れば、自然界に水が存在せず魔物の体液や【水魔法】や【給水の魔法装置】からでしか水が確保出来ない【ドゥーム】の各シェルターにとっては最高の土産となります。
「ウォーター・サーバーはお客様へのサービスで設置してあるモノですので、お持ち帰りはご遠慮下さいませ。まあ、お客様お1人様当たり水筒1つ1ℓ程度まででしたら、サービスの範疇という事で目を瞑りますが、さすがに【収納】アイテムに満タンというのは……」
【交易所の妖精】は難色を示しました。
「【世界の理】で禁止されておるのか?」
ソフィアは訊ねます。
「【世界の理】には明示してございませんが、常識の範囲でお考え頂きたいのです。あくまでも、御来店頂いたお客様へのサービスで提供させて頂いているモノでございますので……」
【交易所の妖精】は苦笑いしました。
「うむ。ならば致し方あるまい。では、我とウルスラとトライアンフの分で3ℓまでは持ち帰っても構わぬのじゃな?」
「お持ち帰り自体、あまり好ましくはありませんが、一応の線引きとして、お1人様1ℓまでは、私の裁量で認めましょう」
「わかったのじゃ」
ソフィアとウルスラとトライアンフは、各自の【宝物庫】に美味しい水を1ℓずつ汲みます。
「ではの、【交易所の妖精】よ。また来るのじゃ」
「バイバ〜イ」
ソフィアとウルスラは、【交易所の妖精】に挨拶をしました。
【交易所の妖精】は営業スマイルでお辞儀をしてソフィア達を見送りましたが、心の中では……やれやれ、やっと帰りやがったよ……と溜息を吐きます。
ソフィアとウルスラとトライアンフが【交易所】を後にすると、程なくして【交易所】は光の粒子に変わって消えました。
「あ〜、中途半端に寝ると余計に眠くなるのじゃ。もう【サブ・クエスト】も何だか面倒臭くなったの〜。そろそろ夕食の時間でもあるし……。ウルスラよ、後は超ダッシュで【ピラミッド】を攻略して戻り、夕ご飯を食べるとしよう」
ソフィアは伸びをしながら言います。
「そ〜だね〜」
ウルスラは同意しました。
ソフィアとウルスラは、最下層と思われる第3階層に続く階段を降りて行きます。
少なくともソフィア達の当初の目的であった……暇潰し……は【交易所】のおかげで首尾良く達成されました。
お読み頂き、ありがとうございます。
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・・・
【お願い】
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