第1028話。へっぽこ軍団の終末世界旅行…29…トレーディング・スポット(交易所)。
本日2話目の投稿です。
【ドゥーム】南西端【ピラミッド】。
ソフィアとウルスラとトライアンフは、【秘跡】内【サブ・クエスト】の【ピラミッド】を攻略中でした。
第1階層の中ボスを倒したソフィアは、スポーンした【宝箱】を開きます。
中身は【圧縮箱】でした。
【圧縮箱】は【宝箱】に入りきらない大きなサイズのアイテムが入っているという事なので、ソフィアは、その場で【圧縮箱】を解凍したりはしません。
巨大なモノが出たら【収納】枠を圧迫してしまい対処に困るからです。
ソフィアも学習していました。
ソフィア達は階段から第2階層に降りて行きます。
「ソフィア様。さっきから接敵する度にトライアンフの口の中に避難してばっかで面白くないよ」
ウルスラが不満を表明しました。
「【敵性個体】との戦力比較でウルスラは脆弱なのじゃから致し方なかろう。ウルスラが索敵して、我が叩く……という合理的な役割分担なのじゃ」
ソフィアは言います。
「え〜、つまんないよ〜」
「ならば、我が索敵でウルスラが攻撃でも構わぬぞ。しかし、ウルスラには【気絶・拘束】くらいしか有効な攻撃手段がないではないか?【気絶・拘束】は近接あるいは準近接攻撃じゃ。味方を【強化補正】する能力はともかく、自分の防御力は高くないウルスラが【敵性個体】に近接するには、どちらにしろ当たり判定なしのトライアンフの口の中に入って接近する必要があるのじゃ。同じ事ではないか?」
「それでも良いんだよ〜。アタシはトライアンフの口の中に隠れるのが嫌だって言ってる訳じゃなくて、戦闘に参加したいって言ってるんだから」
「ふむ。まあ、良かろう。ならば、この階層の戦闘はウルスラに任せるのじゃ」
「やった〜。トライアンフ、行っくよ〜っ!」
ウルスラは喜びました。
「にゃ〜っ!」
・・・
ウルスラを口の中に入れたトライアンフは、姿を消して地下通路を歩いています。
トライアンフの種族【チェシャー猫】は隠蔽に長ける種族で、身体を透明にする事が可能でした。
その際笑ったように見える大きな口だけを空間に残して移動する事が出来ます。
地下通路を歩いて来る【ミイラ】が6体。
ウルスラを口の中に入れて透明化したトライアンフとすれ違いました。
すかさずトライアンフが口を開けて、ウルスラが至近距離から【気絶・拘束】するという立ち回り……。
6体の【ミイラ】は次々にウルスラが行使する【気絶・拘束】の光の蔓で雁字搦めにされて地面に倒れます。
正にハメ技。
更に【気絶・拘束】は対象にダメージを与えず拘束するだけなので、領域に新しい【敵性個体】をスポーンさせない利点もありました。
ソフィアとウルスラとトライアンフは、遭遇する【ピラミッド】の【敵性個体】を転がしたまま放置して先を進んで行きます。
プレイヤーならばレベルや経験値や熟練値などを上げる為に【敵性個体】にダメージを与えずスルーしたりはしないでしょうが、ソフィアもウルスラもトライアンフもステータスが種族限界までカンストしている(ソフィアに至っては限界値を突き抜けている)ので経験値を稼ぐ意味がない為、別に【敵性個体】を倒しきる必要はありません。
・・・
ソフィアとウルスラは【ピラミッド】第2階層の中ボス領域まで、やって来ました。
中ボスが複数スポーンするのは、ソフィアが強過ぎるからです。
ただし中ボスだろうと雑魚だろうと、ソフィアが戦えば、どちらにしろ瞬殺なので大勢に影響はありません。
「ウルスラ。中ボス戦は【気絶・拘束】しただけでは、【バトル・フィールド】が開放されぬが、どうするのじゃ?」
ソフィアは訊ねました。
「もう、いっぱい戦ったから、後はソフィア様に任せるよ〜」
ウルスラが答えます。
「そうか。ならば、そうしよう」
ソフィアは鷹揚に頷きました。
ソフィア達は2回目の中ボス戦に挑みます。
第2階層の中ボスは【スフィンクス】。
【眷属】の【スフィンクス】を20頭従えてスポーンしました。
ウルスラはトライアンフの口の中に避難します。
「【神竜の咆哮】」
ソフィアがオリジナルの必殺ブレスを吐きました。
殲滅。
全く負荷がありません。
ソフィアはスポーンした【宝箱】を開きました。
今回も【圧縮箱】が出たので、この場ではアイテムを実体化させません。
「ウルスラ。終わったのじゃ」
ソフィアは言います。
「は〜い。あれ?ソフィア様、何かお店みたいなのがあるよ」
ウルスラがトライアンフの口の中から出て来て言いました。
【バトル・フィールド】が開放された先の進路に、今まではなかったお店のようなモノがあります。
中ボスを倒した後に出現したのだと思われました。
「ん?本当じゃ?こんな場所に何故、商店などがあるのじゃ?」
ソフィアは、明らかに場違いな商店の存在に首を傾げます。
ソフィア達の視線の先には、小さな雑貨店がありました。
【鑑定】すると、【罠】という訳ではありません。
ソフィア達は、その小さな店に入ってみます。
「いらっしゃいませ〜」
商店の店員らしき【妖精】がソフィア達に挨拶しました。
「【妖精】?見た事がない顔だね?」
ウルスラは、店員らしき【妖精】の顔の近くを飛んで言います。
一口に【妖精】と云っても様々な種族がありました。
例えば、ウルスラのような【妖精】や、【妖精】と呼ばれる種族は、手の平に乗る程小さな身体で、背中にはトンボや蝶のような翅を持ちます。
その他に【ニンフ】や【ファータ】と呼ばれる種族がいて、こちらは【人】や【エルフ】に良く似た外見をしていますが、通常は【物質的肉体】を持たない【霊体】なので少し透き通って見えました。
ただし受肉して【物質的肉体】を持つと、一見すると人種と区別が出来なくなります。
この店の店員らしき【妖精】は後者のタイプでした。
【妖精】族のトップ4個体に名を連ねる【妖精女王】のウルスラ程ではありませんが、彼女も相当に位階が高いようで豊富な魔力を持っています。
「【妖精女王】のウルスラ陛下。お初にお目に掛かります。私は名を持ちません。正式名称は……【交易所】の【妖精】……ですが、長いので略称の……【交易所の妖精】……と、お呼び下さいませ」
【交易所】の【妖精】……略称【交易所の妖精】は自己紹介をしました。
「【交易所の妖精】?つまり、ここは交易所なのか?」
ソフィアが当然の疑問を訊ねます。
「ここは【交易所】でございます。必要なアイテムを買ったり、不要なアイテムを売ったり出来ます。多少相場よりは私共の利益が高くなるような価格設定になっていますが、そこは、このような迷宮内にも拘らず利用出来る利便性をサービス料として頂いているという事で何卒ご了承下さい」
【交易所の妖精】が和かに答えました。
「ふむ。で、何故【交易所】などが、こんな場所にあるのじゃ?お客が来ぬ故、商売にはならぬじゃろう?」
「この【交易所】は、運営側が用意した【世界の理】的な店舗でございますので、そもそも商売を目的とはしておりません。ユーザー様、NPCに限らずご利用頂けるサービスの一環として、お考え頂いて差し支えありません」
「【世界の理】的な店舗とな?つまりチュートリアルや【秘跡領域】で【贈物】をくれる【泉の妖精】と同じような役割という事か?」
「仰る通りです」
「じゃが、我は今まで【交易所】なるモノの存在を全く知らなかったのじゃが?」
「【交易所】は【七色星・マップ】の開放に伴う新しいアップ・デート要素です。こうした【秘跡領域】内や【遺跡】内にランダムでスポーンします。もしも見掛けたら是非ご利用下さいませ。宜しくお願いします」
「そ、そうか。で、何が買えるのじゃ?」
「品揃えは、ご来店の都度ランダムで変わりますが、概ねお客様のレベルや所持金に応じて最適になるよう自動調整されます。食料、飲料、回復系アイテム、武器、防具、アイテム、【ガチャ・チケット】、その他諸々です。在庫は棚にあるだけの現品限りです。世界相場平均の大体2倍の価格設定になっております。割高なのは、このような不便な場所で営業している利便性を鑑みて、何卒ご了承下さいませ」
「2倍っ!高っ!法外な商売だよ。【妖精】族の風上にも置けないね」
ウルスラが怒り出します。
「ウルスラ陛下。そう仰られましても、この価格設定は【創造主】様がお決めになったモノで、勝手に安売りなどは出来ないのです。苦情は【創造主】様にお伝え下さいませ」
【交易所の妖精】は苦笑いして言いました。
「ウルスラよ。このような不便な場所で買い物が出来るのじゃ。多少高くても喜んで購入する者がおるじゃろう。例えば回復アイテムがなくて死にそうな者にとっては地獄に仏じゃ。じゃから、この割高な価格設定も致し方あるまい」
ソフィアがウルスラを窘めます。
「まあ、ソフィア様が、そう言うなら……」
ウルスラは言いました。
「【交易所の妖精】よ。ここで買取りもしてくれるのか?」
ソフィアが訊ねます。
「はい。冒険者ギルドや商業ギルドの直近の相場データを元に、大体50%で買取り致します。もちろん、この金額は魔物の素材などの場合、傷みが少ない良品である前提です。傷みが激しい場合は、相応に買取り金額も安くなります。全体的に買取り金額が渋いのは、ご了承下さい。そういう規則になっておりますので」
【交易所の妖精】は説明しました。
「売価は2倍で、買取り金額は半値?そりゃ〜、幾ら何でもボッタクリ過ぎじゃない?」
ウルスラが言います。
「いや、ウルスラよ、それも致し方なかろう。正規相場で買取ってもらいたければ、冒険者ギルドや商業ギルドに素材を持って行けば良いのじゃ。それが出来ぬ【秘跡領域】内や【遺跡】内で【収納】枠を圧迫する魔物の素材などを買取ってもらえるとするなら便利じゃ。我らはノヒトから貸与されて大量の【宝物庫】を持つが、普通は【超絶レア】の【宝物庫】は希少アイテムなのじゃ。【収納】枠がいっぱいになれば、せっかく獲った魔物の素材を、その場に捨てて行かなくてはならぬ。それを考えれば、半値でも買取りしてもらえれば、むしろ有り難いと考える者は多いじゃろうからな」
ソフィアが説明しました。
「ふ〜ん。まあ、便利なのは認めるけどさ〜」
ウルスラは言います。
「ご理解頂き恐縮でございます。ソフィア様、ウルスラ陛下。何か、ご入用の品物はございますか?」
【交易所の妖精】は訊ねました。
「う〜む。とりあえず食料と飲料は、あるだけもらおう。回復系アイテムは【アブラメイリン・アルケミー】製の【ハイ・エリクサー】が大量にあるから要らぬ。それから【ガチャ・チケット】は、あそこに置いてある【ガチャ・ベンダー】で使えるのか?」
ソフィアは言います。
「はい。あの【ガチャ・ベンダー】で使えます。【ガチャ・ベンダー】に関しては、当たりの確率が他の【ガチャ・ベンダー】と同じに設定してでございますので、ご心配なくお使い下さいませ」
「まあ、【ガチャ】の確率まで下げられたら、さすがに誰も【交易所】では【ガチャ】を回さぬじゃろうからの。では、【ガチャ・チケット】もあるだけ買おう。他は【神の遺物】はあるか?」
「【神の遺物】はございません。ゲーム・バランス的な配慮でございます」
「ならば他は要らぬかの……。あ、あの【給水の魔法装置】だけは買おう。この【ドゥーム】では【給水の魔法装置】は値千金に勝るアイテムじゃ。以上で会計を頼む」
ソフィアは【ギルド・カード】を渡しました。
「はい。ありがとうございます」
【交易所の妖精】は【ギルド・カード】を決済機に通してレシートと一緒に返します。
「アタシは、あの従魔用の首輪を買おうかな?トライアンフに……」
ウルスラが言いました。
「にゃ〜……」
トライアンフが一鳴きします。
「要らない?首が絞め付けられるのは嫌だ?ふ〜ん、わかった。なら、アタシは何も要らない」
ウルスラは【交易所の妖精】に言いました。
「畏まりました」
【交易所の妖精】は和かに頷きます。
「で、我らが去った後も、この【交易所】は、ここに残り続けるのか?」
ソフィアが訊ねました。
「いいえ。ご利用を終えたお客様がドアから出て行くと、しばらくして【交易所】は消えます。しかし、またランダムで【秘跡領域】内や【遺跡】内にスポーンします。その際は品揃えもランダムで変わります」
「なるほど、如何にも【創造主】が経営しておる業態じゃな?まあ、便利ではあるが……。この【交易所】のパンフレットは無料か?」
「はい。ご自由にお持ち下さい」
「ふむふむ。な、なぬっ!【交易所】は、アイテムとして個人でも所有可能なのか?」
ソフィアは驚愕します。
「はい。【七色星・マップ】には2つの大陸群がございます。その2つの大陸群の、どちらか片方の中央大陸の中央神殿で【ギミック・メイカー】の降臨イベントを起こすと、初回に限り【贈物】として【交易所】も選べます」
「それは【ストーリア】のセントラル大陸の中央神殿たる【竜城】で、【神竜】たる我を降臨させると貰える恩寵の選択肢のような位置付けなのか?」
「はい。【神竜】様の降臨イベントで貰える【避難小屋】に相当する他では入手不可能な特別なアイテムでございます」
「ほ〜う。それは是非手に入れたいモノじゃ。して、その【交易所】には、其方もセットで付いて来るのか?」
「いいえ。所有アイテムの【交易所】には店員は付いておりません。所有アイテムの【交易所】は1度ご利用になると24時間で在庫が回復します。品揃えはランダムです。販売価格が相場の2倍で、買取り金額が相場の半値という仕様は同じでございます」
「ふ〜む。なるほど、しかし余剰在庫を直ぐに買取って貰えるのは便利じゃ。特に、この【ドゥーム】などのような不便極まりない場所ではの。良し、今度ノヒトに頼んで、なるべく早く【七色星】で【交易所】を入手出来るようにしたいモノじゃ」
お読み頂き、ありがとうございます。
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活動報告、登場人物紹介&設定集もご確認下さると幸いでございます。
・・・
【お願い】
誤字報告をして下さる皆様、いつもありがとうございます。
心より感謝申し上げます。
誤字報告には、訂正箇所以外のご説明ご意見などは書き込まないようお願い致します。
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