第1027話。へっぽこ軍団の終末世界旅行…28…クエスト・フェロー。
【カラミータ】近郊の【大平地】。
「ブワ〜ッ、ブワッブワ〜ッ!」
ウルスラが魔物を引き寄せるギミックがある【神の遺物】の【誘引の角笛】を吹き鳴らしました。
すると、砂の地面の彼方此方がモコモコと盛り上がり、やがてソフィアが仁王立ちする場所に大量の【サンド・ワーム】がワラワラと群がって来ます。
「そりゃーーっ!とりゃーーっ!あ、こら、砂の中に逃げるなっ!この、ニョロニョロめーーっ!」
猛威を振うソフィアは先程から大量の【サンド・ワーム】の死体を積み上げていました。
それをオラクルとヴィクトーリアが【宝物庫】に回収して、【宝物庫】が一杯になると【カラミータ】と【ロヴィーナ】と【ディストゥルツィオーネ】に【転移】しては各シェルターの【収納】アイテムや冷蔵庫や冷凍庫に移し替えるというルーティンを繰り返しています。
ティアは【カラミータ】のシェルター内の【避難小屋】で【スパイ・ドローン】の【キー・ホール】を用いた、とある任務を行っていました。
ソフィアは朝食後から【カラミータ】のシェルターの外に出て魔物を狩りまくっています。
獲物は【サンド・ワーム】ばかりでした。
ソフィアとしては、食べて不味くはありませんが、かと言ってゼラチン質の肉自体に味がなくて美味しい訳でもない【サンド・ワーム】を狩っても嬉しくはないのですが、水分豊富な【ワーム】系の魔物は水が貴重な【ドゥーム】のシェルターに提供すると喜ばれるので結果オーライ。
張り切って狩をしています。
現在ソフィアは……暇潰しの為の暇潰し……をしていました。
今日も朝から【カラミータ】、【ロヴィーナ】、【ディストゥルツィオーネ】の代表団達が……【微小機械】無力化以降の【ドゥーム】をどうするか?……という議題で首脳会議を行っています。
昨日の会議にはオブザーバーとして一応1日同席したソフィアでしたが……もう彼女は会議に飽きていました。
しかし、【微小機械】の無力化は明後日に実行する予定なので、ソフィアは、それまで特にやる事もないのです。
だから狩猟?
いいえ、話はそれ程単純ではありません。
暇を持て余したソフィアに対して、オラクルが、とある提案をしたのです。
その提案とは……【サブ・クエスト】に挑戦してみないか?……というモノ。
この世界には【創造主】(ゲーム会社のプログラム)によって発給される【秘跡】と呼ばれる、一種の試練あるいはイベントがありました。
【秘跡】には様々な種類があるのですが、ザックリと大別して攻略に何日も、場合によっては何週間・何か月もの長い期間が掛かる【メイン・クエスト】や【フル・クエスト】と呼ばれるモノと、1日あるいは最短なら数十分というような短時間で終わる【サブ・クエスト】や【ミニ・クエスト】と呼ばれるモノに大別出来ます。
つまり現在ソフィア達がエントリー中の【終末後の世界】の【ドゥーム・シナリオ】は【メイン・クエスト】でした。
そして【ドゥーム・マップ】内には、幾つかの【サブ・クエスト】が存在するのです。
オラクルはグレモリー・グリモワールの著作……【ゾンビ】でもわかる【秘跡】攻略法……の記述から、それを知っていて、暇を持て余して少しつまらなそうにしているソフィアに……挑戦してみてはどうか?……と提案しました。
各シェルターや、街や町などの廃墟が点在する他は、地平線の彼方まで砂漠しかない【ドゥーム】では、ソフィアが暇潰しを出来るようなモノがありません。
ソフィアは、オラクルの提案に飛び付きました。
つまり、これが、そもそもの暇潰し計画です。
しかしソフィアは……【神の遺物】のアイテムが手に入る……だとか……貴重な資源が手に入る……だとかというタイプの【サブ・クエスト】には全く興味がありませんでした。
ソフィアは大富豪でセントラル大陸に君臨する神様でもあるので、金銭で買えたり、あるいはナカノヒトやミネルヴァに強請れば貰えたり貸与してもらえるような報酬なら、【オーバー・ワールド】に返ってから幾らでも手に入るからです。
なのでソフィアの希望は……。
【サブ・クエスト】それ自体が面白そうである事。
そして【ドゥーム】にとって何か役に立ちそうな事。
その基準でソフィアが選んだ【サブ・クエスト】は少し遠方に存在するので、現在【キー・ホール】の1機が全速力で現地に向かっているところでした。
【キー・ホール】が【サブ・クエスト】の発生する場所に到着するまでの暇潰しの暇潰しでソフィアは現在のところ魔物を狩っている訳です。
退屈なソフィアをジッとさせておく事は、誰にも不可能ですので。
因みにソフィア達が【ドゥーム】に持ち込んだ【キー・ホール】は4機ありますが、【サブ・クエスト】発生地点に向かっている1機の他3機は【ロヴィーナ】と【カラミータ】と【ディストゥルツィオーネ】の上空を偵察・監視していました。
「ソフィア様、ウルスラ様。そろそろ【キー・ホール】が現地に到着致します。狩は終わらせて下さいませ」
オラクルが【キー・ホール】を管制しているティアからの【念話】による報告を受けて伝えます。
「わかったのじゃ」
ソフィアは集まった魔物の最後の一群を簡単に始末をして狩を終えました。
・・・
ソフィア達は一旦【カラミータ】で昼食を食べて、各シェルターの代表達から会議の進捗報告を聴きます。
会議の進捗は順調そうでした。
どうやら各シェルターの代表は、【微小機械】が無力化された後には統一政体を選択して民主共和制の単一国家【ソフィア・ランド】(仮)を樹立する方向に帰結したのだとか。
各シェルターのリソースや資源は、しばらくは全国民に均等に分配する配給制経済を継続するものの、シェルター外の開拓地に関しては、入植者達に開拓した土地の所有を認め、やがては自由市場経済への移行を目指すそうです。
ソフィアは、それを了解しました。
別に良いとも悪いとも評価はしません。
【ドゥーム】の事は、【ドゥーム】の民が決めれば良いからです。
ソフィアとウルスラとトライアンフの不死身組は【サブ・クエスト】に向かう為に準備を整えました。
オラクルとヴィクトーリアとティアは【カラミータ】に残り各シェルターの代表達の会議にオブザーバー参加します。
「お気を付けて行ってらっしゃいませ」
オラクルは言いました。
「うむ。戦果を楽しみ待っておれ」
ソフィアは言います。
ソフィアはウルスラとトライアンフを連れて、【キー・ホール】を目標に【転移】しました。
・・・
【ドゥーム】南西端【ピラミッド】。
ソフィアとウルスラとトライアンフは、巨大な石積みの構造物が聳えるに場所に到着します。
所謂【ピラミッド】。
【ドゥーム】の【ピラミッド】は地上300mの正四角錐の形状をした【初期構造オブジェクト】でした。
ソフィア様……データは全て【スマホ】に送ってあります……迷宮はシンプルな構造なので迷う事はないと思います……御武運を。
オラクルが【念話】で伝えて来ました。
うむ……わかったのじゃ……では、攻略したら連絡するのじゃ。
ソフィアは【念話】で了解します。
ソフィアが、この南西の【ピラミッド】の【サブ・クエスト】を選んだ理由は、攻略すると【クエスト・フェロー】と云う特殊なユニットを味方に出来るからでした。
【クエスト・フェロー】とは【秘跡】の間だけ仲間に出来る味方ユニットの事を指します。
つまり【秘跡】をクリアした以降は、【クエスト・フェロー】を【オーバー・ワールド】に連れ帰る事は出来ない期間限定の味方ユニットでした。
期間限定ですが、【クエスト・フェロー】は基本的に不死身でスペックも高い事が普通なので頼りになります。
グレモリー・グリモワールの……【ゾンビ】でもわかる【秘跡】攻略法……によると、プレイヤーは【オーバー・ワールド】から【ドゥーム】に持ち込んだ希少な資源や【神の遺物】のアイテムなどを【カラミータ】の【太陽炉】に接続して【微小機械】を改造する事で、【ドゥーム】の環境を回復して【秘跡】のクリア条件を満たす方法論が記されていました。
そして【秘跡】のクリア条件をフル・マークで達成して最大の報酬を獲得するには、この南西の【ピラミッド】の【サブ・クエスト】を攻略して【クエスト・フェロー】を助け出して【ドゥーム】の大地を祝福させる必要があるとも書いてあったのです。
【ドゥーム】の【クエスト・フェロー】は、名持ちの【上位妖精】でした。
実はソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】が【ドゥーム】に【再配置】された際に、ウルスラが感じていた微弱な【妖精】の反応の正体が、この【上位妖精】だったのです。
ソフィアは、【微小機械】を改造する為の希少資源や【神の遺物】のアイテムを【オーバー・ワールド】から持って来ていないので、【微小機械】を改造する事が出来ずに止むなく破壊する事になりましたが、その後に【上位妖精】に大地の祝福を行わせる事で【ドゥーム】の環境回復の効率を少しでも高めようと考えました。
その為の【ピラミッド】攻略です。
ソフィアは気合いが入っていました。
【上位妖精】に大地の祝福を行わせれば、数百年掛かると思われる【ドゥーム】の環境回復事業が多少なりとも早く済むかもしれません。
そして【妖精】の【祝福】ならば、種や苗がなくても、虚無から様々な草花を芽吹かせる事も出来るので植物の多様性も広がります。
現在【ドゥーム】の住民の多くがソフィアの使徒になっていました。
しかしソフィアが【ドゥーム・マップ】の【秘跡】をクリアした際に、自分の使徒となった【ドゥーム】の住民を【オーバー・ワールド】に連れて行く事は出来ません。
なのでソフィアは、せめて【上位妖精】に大地の祝福を行わせて、【ドゥーム】の環境回復の支援をしてあげたかったのです。
これは【ドゥーム】を去らなければならないソフィアからの恩寵……あるいは、お詫びの印でした。
「ウルスラ。行くぞっ!」
ソフィアは眦を決して【ピラミッド】の入口を目指して歩き始めます。
「ハイヨー、トライアンフっ!」
ウルスラがトライアンフに跨ってソフィアの後に続きました。
2柱のオベリスクの間を通り抜けると、【ピラミッド】の正面に地下へのスロープが続いています。
ソフィアとウルスラとトライアンフは、スロープを降りて行きました。
・・・
【ピラミッド】地下1階層。
「ウルスラ。索敵を頼むのじゃ」
ソフィアは指示します。
「了解。サ〜チ……うわっ、何かいっぱいいるよ〜」
ウルスラは言いました。
「うむ。この【ピラミッド】は【超位超絶級】の難易度じゃ。【ドゥーム】の【秘跡】内【サブ・クエスト】としては最難関の地下迷宮じゃ。【敵性個体】の数も強度も他の【サブ・クエスト】とは比較にならぬ」
「近いっ!12時方向。数6。げっ!あれ何?」
ウルスラが【ピラミッド】を守る【敵性個体】を見付けて報告します。
「【不死者】の【ミイラ】じゃ。奴らは【聖魔法】と火を弱点とするが、我は【聖魔法】は好みではないし、地下で火を使うと酸欠になる。【聖魔法】と火の次に【不死者】の対抗となるのは【光魔法】じゃな。ウルスラは魔法の反射でダメージを受けないように、我が合図をしたらトライアンフの口の中に隠れておれ」
「了解。ん?別にアタシ達は酸欠ではダメージを受けないんじゃない?」
ウルスラが訊ねました。
「良いのじゃ。こういうのは雰囲気なのじゃ。撃つぞっ!3……2……1……今っ!」
ソフィアは身も蓋もない事を言って合図をします。
ソフィアは、こういう如何にもなパーティ戦闘のやり取りみたいなモノを一度やってみたかっただけでした。
トライアンフが当たり判定がない口の中の安全地帯に主人のウルスラを匿います。
「くらえっ、干からびた死体めーーっ!【光子爆裂】」
ソフィアが【神位光魔法】の【光子爆裂】を放ちます。
瞬殺。
【不死者】への対抗も何も……。
【神位魔法】なら相性など全く関係ない、明らかなオーバー・キルでした……。
・・・
【ピラミッド】女王の間。
ソフィア達が……女王の間……と【マップ】表示されている広い石室に入ると、中ボス戦の【バトル・フィールド】が形成されます。
【バトル・フィールド】は戦闘に勝つか、味方が全滅するまで閉じ込められる仕様がある領域でした。
すると、昆虫型の魔物……つまり【魔蟲】が21頭スポーンします。
【魔蟲】を【鑑定】すると、ボス個体は【スカラベ】、【眷属】の【魔蟲】は【深淵サソリ】……と表示されました。
【スカラベ】も【深淵サソリ】も【超位級】の【魔蟲】。
【スカラベ】は【蟲】系の魔物としては珍しく強力な魔法を使い、【深淵サソリ】の尻尾の毒は強力で、双方共に難敵です。
中ボス戦が始まりました。
「ウルスラ」
ソフィアは指示します。
「はい」
ウルスラが返事をすると、トライアンフが口の中にウルスラを保護しました。
「【光子爆裂】」
ソフィアが魔法を詠唱します。
殲滅。
戦闘で【神位魔法】を行使可能ならば、もはや難易度設定自体が無意味になるので、オーバー・キル以外の何ものでもありません……。
お読み頂き、ありがとうございます。
もしも宜しければ、いいね、ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークをお願い致します。
活動報告、登場人物紹介&設定集もご確認下さると幸いでございます。
・・・
【お願い】
誤字報告をして下さる皆様、いつもありがとうございます。
心より感謝申し上げます。
誤字報告には、訂正箇所以外のご説明ご意見などは書き込まないようお願い致します。
ご意見ご質問などは、ご感想の方にお寄せ下さいませ。
何卒よろしくお願い申し上げます。