第1026話。へっぽこ軍団の終末世界旅行…27…【ドゥーム】サミット。
【カラミータ】。
ソフィア達は起床しました。
そして【避難小屋】で朝食を摂ってからシドニー女王の執務室に向かいます。
昨日オラクルは【微小機械】の無力化方法として蓋然性が高いと思われる具体案を提起しました。
それは……ソフィアが高密度に収束した【神位】の魔力を屋外で全方位に放射して、【ドゥーム】に存在する全ての【微小機械】の内部機構を一瞬にして完全に破壊する……という方法です。
オラクルとヴィクトーリアの仮説を演算シミュレーションしたところ……成功する……という結論に至りました。
現時点でソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は、【微小機械】の無力化が【秘跡】のクリアに繋がるのか確証がある訳ではありませんが、おそらくクリア出来る公算が高いと予測されます。
事実ゲーム会社が設定したプログラム上、オラクルの提起した方法は【ドゥーム・マップ】のスペシャル・シナリオをクリアする条件を満たしていました。
昨日ソフィアの指示で【カラミータ】と【ロヴィーナ】と【ディストゥルツィオーネ】に連絡が行われ、ソフィアによる【微小機械】の無力化について情報共有が行われています。
各シェルターでは……救世神の【神竜】様が本当にやってくれた……と住人達が歓喜しているのだとか。
実際ソフィアの【マップ】に表示される【カラミータ】の住人達の光点反応は全員真っ青でした。
そして、大半の住人達に……ソフィアの使徒……というステータス表示が現れています。
おそらく【カラミータ】以外の各シェルターでも、住人の多くがソフィアの使徒になっている事は想像に難くありません。
ソフィアは内心少し困っていました。
何故なら、ソフィアが【微小機械】を無力化すると、おそらく【秘跡】のクリア条件は満たされ、ソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は【オーバー・ワールド】に帰還可能になります。
その際【ドゥーム】の原住民を一緒に連れて【オーバー・ワールド】に出る事は出来ません。
つまりソフィアは自分の使徒達を【ドゥーム】に残したまま、以後は永久に会う事も意思疎通する事も出来なくなる筈です。
縁もゆかりもない異界の人種であれば、ソフィアも【ドゥーム】の原住民など放置して帰る気でしたが、ソフィアの使徒であるなら話は別。
ソフィアは、何とかして【ドゥーム】原住民の使徒達をソフィア達が【オーバー・ワールド】に戻った後も継続して庇護する方法がないモノかと考え始めていました。
とはいえ、それは未だ……取らぬ狸の皮算用……です。
現在【デマイズ】にいる元【ディストゥルツィオーネ】の王ヴァンダービルト・ディストゥルツィオーネと、ベロボーグ派の元【ディストゥルツィオーネ】住人達に……ソフィアが【微小機械】を無力化する方法を見付けた……と連絡したのですが、どうやら彼らはソフィアが異界の神であるという事も、【微小機械】を無力化出来るという事も、信用していない様子。
ベロボーグ派は、ソフィアと会った事がなく恩恵を受けた訳でもありません。
また、ソフィアの戦闘力など強大なスペックについても、他のシェルターから伝聞で知らされただけ。
信じられないのも無理からぬ話ではあります。
現在ヴァンダービルト元【ディストゥルツィオーネ】王達ベロボーグ派が【ディストゥルツィオーネ】の庇護者であるチェルノボーグを倒す為に【デマイズ】から【カラミータ】と【ロヴィーナ】に外交使節団を送って援軍の要請をしに来ている途中なので、とりあえずベロボーグ派の使節にソフィアが謁して能力を証明する事で信用してもらおうという事になりました。
【ディストゥルツィオーネ】と紛争中のベロボーグ派も、ソフィアによって本当に【微小機械】が無力化される事を知れば、【ディストゥルツィオーネ】と内輪揉めなどしている場合ではない事を悟り協力的になってもらえると予想されます。
それを無視するなら、ソフィアはベロボーグ派などの事は放置して、高密度【神位】魔力放射による【微小機械】の無力化を実行してしまうつもりでした。
ソフィアによって高密度【神位】魔力放射が行われると、【創造主】が創った初期構造オブジェクトや、【創造主】の防護ギミックで守られていない【魔法装置】や【乗り物】や【魔導兵器】の回路などが壊れてしまう可能性があります。
屋外で突然【魔法装置】や【乗り物】や【魔導兵器】のシステム・ダウンが起きた場合、魔物に襲われれば無防備でした。
すぐにシェルター内など安全な場所に退避出来なければ命の保障はありません。
しかしソフィアからの警告を無視して非協力的な態度を取るなら、それ以上ソフィアが彼らを保護してやる理由も義理もないのです。
【カラミータ】と【ロヴィーナ】と【ディストゥルツィオーネ】は、ソフィアからの要請を受けて屋外にある壊れては困る【魔法装置】や【乗り物】や【魔導兵器】をシェルター内に格納し、また外部に出動している探索隊や輸送隊や狩猟隊などを最寄りのシェルターに退避させるように指示しました。
今日を含めて3日で、それが完了する予定です。
滅亡の淵にある【ドゥーム】では生存する人種の絶対数が少ないので、このような退避措置も比較的容易に行えました。
ソフィアは……都合良く仕組まれたような状況設定だ……と考えていますが、もちろん【秘跡】なので、この出来過ぎた状況はゲーム会社によって仕組まれた設定です。
因みに何も余計なモノが付加されていない純粋な魔力波は、生命体が浴びても害を及ぼす事はありません。
ソフィアによる【微小機械】の無力化決行は、一応明々後日の朝9時に仮決定されたのです。
閑話休題。
ソフィアは【転移】で【ロヴィーナ】のロデリック王と随行の指導部の何人かと、【ディストゥルツィオーネ】評議会のヴァレーラ代表と随行の評議会員を迎えに行き、【カラミータ】に連れて来ました。
各シェルターの代表が一同に会して……【微小機械】が無力化された後の【ドゥーム】をどうするか……という会議が行われる事になったからです。
言うなれば、【ドゥーム】サミット。
ソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は、魔力波放射の実行までの3日間特にやる事もないのでオブザーバーとして会議に参加する事にしました。
【微小機械】が無力化されれば【秘跡】のクリア条件が満たされる可能性があり、そうなればソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は【オーバー・ワールド】に帰還するので……せめて自分達が去った後の【ドゥーム】復興の道筋が付く様子を見届けたい……というソフィアの希望もあります。
この席で、【カラミータ】の庇護者であるメディア・ヘプタメロンが永年……娘のクアトロッタを殺された……と誤解していた事によって復讐心を滾らせていた、【ディストゥルツィオーネ】の庇護者であるチェルノボーグと再開して和解に至るという一幕もありました。
会議は【ドゥーム】の将来が話し合われる主旨でしたが、現在【デマイズ】にいる【ディストゥルツィオーネ】のヴァンダービルト元王達は、ソフィアが【転移】する為に必要な転移座標も、転移座標代わりとなる【スパイ・ドローン】の【キー・ホール】もないので迎えに行く事が出来ず、魔法通信による参加になります。
ただしヴァンダービルト元王達ベロボーグ派は……ソフィアを異界から【ドゥーム】を救う為に降臨した救世神……だと信じていないので、ゴチャゴチャ言わせないように受信拒否して一方的に会議の内容を聞かせるだけ。
後はベロボーグ派が会議の内容を聴くも聴かないも、彼ら次第という事になりました。
会議の内容は……自然界の水と土壌と植物を何とかして回復を試みる……という事は確定事項。
方法論は幾つか考えられますが、何れの場合も数百年単位の期間が掛かると予想されます。
しかし、滅びの元凶である【微小機械】が永久に無力化される前提があるので、仮に自分達の世代には無理でも、子や孫に今よりマシな未来を残してやる事が可能で、遙か子孫達には死の砂漠ではない自然環境を受け継がせる事も出来るという希望があり、会議の参加者達の表情は概して明るい雰囲気で進行しました。
とはいえ、【ドゥーム】で手に入れられる植物の種苗などは魔物がドロップするような特殊な種類に限られますし、動物に至っては絶滅しているので復元は不可能でしょう。
おそらく魔物を中心とした偏った自然環境にならざるを得ないと思われました。
しかし、どうする事も出来ないので致し方ありません。
会議の主題は……【微小機械】が無力化された後の【ドゥーム】の政体をどうするのか?……という事に変わりました。
【カラミータ】は現状維持を希望し、【ロヴィーナ】と【ディストゥルツィオーネ】は各シェルターを統合した統一政体を構築したいという希望をしています。
【ロヴィーナ】の思惑は……現在の【ドゥーム】で最大の政治力と産業力を持つ自分達が、未来の【ドゥーム】で影響力を行使したい……という事でした。
対して【ディストゥルツィオーネ】の思惑は……脆弱なコミュニティである自分達は独立しているより、他のシェルターと統一した方が生存率が高まる……という事です。
【カラミータ】は、【ロヴィーナ】と【ディストゥルツィオーネ】の中庸に位置する立場でした。
各シェルターの思惑や政治的な駆け引きが交錯していますが、ソフィアはオブザーバーに徹して自分の意見は言いません。
人種の営みは第一義的には人種自身で責任を持つべきだからです。
それなりに活発な議論が行われ、各シェルターの意見や立場の違いは露見しましたが、鋭く対立するような状況にはなりませんでした。
それもこれも、ソフィアという重しが働いているからです。
各シェルターの代表達には……どのような結論になるとしても、絶対条件としてソフィア様に御納得を頂ける妥結点を見出さなければならない……という共通認識が醸成されていました。
もはや【神竜】の使徒となっている各シェルターの代表にとって、ソフィアの承認という事が最優先事になっていたのです。
ただし未だソフィアの事を信用していない【デマイズ】のヴァンダービルト元【ディストゥルツィオーネ】王達ベロボーグ派は別ですが……。
様々な事が話し合われ、今日の会議は終了しました。
会議の後、各シェルター代表団を交えた夕食会が行われます。
振る舞われた料理は、ソフィアの料理番である【自動人形】・シグニチャー・エディションのディエチが作った魔物料理尽くしでした。
・・・
食後。
【ドゥーム】の住人達にとっては貴重なプリンと牛乳がデザートとして振る舞われています。
「あのう、少し疑問に思ったのですが……メディアさんは、クアトロッタ博士の実母……つまりクアトロッタ博士を出産したのですよね?」
ティアがメディアに訊ねました。
「はい。クアトロッタを産みました」
メディアは答えます。
「だとするなら1つ不思議に思うのです。ミネルヴァ様から教えて頂いた情報では、寿命を持たない【魔人】族は基本的に繁殖出来ない筈です。失礼ながらメディアさんを【鑑定】すると、寿命が設定されていません。【七色星】には【誕生の家】という繁殖力を持たない【魔人】が自分の遺伝子情報の一部を受け継いだ子供を授かれる特殊な施設もありますが、【ストーリア】に属する寿命がない【魔人】は【七色星】の【誕生の家】から子供は授かれません。であるならば、メディアさんがクアトロッタ博士を産む事は自然法則としての【世界の理】的には、あり得ないと思うのです。メディアさんは、どうやって繁殖したのですか?」
「なるほど、そう言われてみればそうじゃ?メディアよ、どうやって子供を作ったのじゃ?」
ソフィアが訊ねました。
「寿命の有無と繁殖の関係はティア様が仰る通りです。基本的に現在寿命を持たない種類の【魔人】は子を成せません。しかし超古代は違ったのです。超古代には寿命がない種族も雌雄の番による繁殖や、一部は単為生殖も可能でした」
メディアは説明します。
「あ〜、思い出したのじゃ。【魔神】が【創造主】に対して2度目の叛乱を起こした際に、【魔人】は【魔神】の側に付いて戦ったのじゃ。その叛乱は周知の通り【創造主】が勝利して【魔神】は完全に滅殺された。その時に【魔人】も【魔神】に加担した罪によって神罰を受けたのじゃ。【創造主】は二度と【魔人】らが叛乱などを企だてぬよう、2つの【世界の理】の運用変更を行ったのじゃ。1つは、魔法のギミック全体の【弱体化補正】。もう1つは、長命な種族は繁殖率を低く調整し、寿命がない種族は繁殖出来ないようにしたのじゃ。これによって事実上【魔人】は神に挑む力を失ったのじゃ」
ソフィアが説明しました。
「その通りです」
メディアは頷きます。
「つまり現代の魔法文明が、超古代より衰退しているのは超古代に行われた【創造主】による魔法の【弱体化補正】が原因なのですね?」
ティアが訊ねました。
「うむ、それも一因じゃ。超古代から世界に存在する我ら守護竜や【世界樹】や【神格】の守護獣、ノヒトやミネルヴァやトリニティやウィロー、それからメディアなどは、その【弱体化補正】を免れておる故、魔法が強大なのじゃ」
「ソフィア様。何故、人種の魔法も【弱体化補正】されたのでしょうか?【弱体化補正】が【魔人】への罰だとするなら、【創造主】と【魔神】の戦いには直接関与していない人種まで【弱体化補正】される理由がわかりません」
「知らぬ。当時の【創造主】が、どんな意図であったのかは、ノヒトかミネルヴァに訊いてみればわかるじゃろう」
「ティア様。人種は武器や道具を扱う熟練値と産業力など魔法以外の方法でバランス出来るからだとミネルヴァ様から教えて頂きました。【魔人】は道具を扱う能力が全体的に人種より低いので、結果的に魔法だけを【弱体化補正】すれば、相対的に人種は【魔人】との比較において優位になりますので」
オラクルが説明します。
「なるほど」
ティアは頷きました。
終末まで残り92日……。
お読み頂き、ありがとうございます。
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活動報告、登場人物紹介&設定集もご確認下さると幸いでございます。
・・・
【お願い】
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心より感謝申し上げます。
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