第1025話。へっぽこ軍団の終末世界旅行…26…高密度魔力波放射。
【カラミータ】南方100km地点。
ソフィアとメディア・ヘプタメロンは、ようやく邂逅を果たしました。
メディアは、この【秘跡】である【終末後の世界・マップ】の砂の世界【ドゥーム・シナリオ】において、プレイヤー・パーティと最初に出会うように設定されている【導き手】です。
ソフィアは、【秘跡】へのエントリーから6日目にして、ようやく【導き手】に出会いました。
「おっと、服を着なければならぬ……」
ソフィアは言います。
ソフィアは砂漠の地面に【避難小屋】を設置しました。
「こ、この家は?」
メディアは訊ねます。
「【避難小屋】という【神の遺物】じゃ。慌てておった故、とりあえず取り外せる装備品類を外して、この中に放り込んでおいたのじゃ。鎧は脱ぐのに時間が掛かる故、そのまま【神竜の咆哮】推進で飛んだら案の定燃え尽きてしまった。アレは脱着するのに、いちいちバインディングやら何やら固定器具を全て外させねばならぬ故、面倒なのじゃ。ノヒトに貸与されておる【死の戦乙女の鎧】を消滅させてしまったのじゃ。……怒られるじゃろうか?いや、鎧の存在目的は着用者の身体保護の為じゃ。つまり【死の戦乙女の鎧】は見事に目的を果たして燃え尽きたのじゃからして、致し方ない。それに急がなければ、メディアが危うかったのじゃから、我の判断は間違っておらぬ。うむ、大丈夫じゃ。我はちっとも悪くない。じゃからして、ノヒトには怒られないのじゃ」
ソフィアはブツブツと喋りました。
ソフィアはドアを開けて【避難小屋】に入って行きます。
メディアは【避難小屋】の戸口で……自分も入室すべきか?外で待つべきか?……と逡巡しました。
「メディアよ。ちょっと来て着替えを手伝って欲しいのじゃ。背中の紐が結べぬ」
ソフィアが【避難小屋】の中からメディアを呼びます。
「あ、はい。では、失礼致します」
メディアは【避難小屋】に入りました。
「くっ、手が届かぬのじゃ……。何故、こう神官服というモノは子供1人では着られぬような不便なデザインになっておるのか?我には全く理解出来ぬ。前留め式にするか、然もなければ、せめてジップ・アップ方式にして欲しいのじゃ。神殿の保守的で伝統を重んじる思考も時と場合によっては良し悪しじゃ」
ソフィアは短い腕を背中に回して悪戦苦闘しています。
「この紐を結べば宜しいのですね?」
メディアは訊ねました。
「うむ、頼む」
「ん、よいしょ……。結べました」
メディアは、ソフィアの【完全治癒】で再生してもらったばかりの片腕が未だ組織が馴染んでいないので、かなり苦労しながら紐を結びました。
「ありがとうなのじゃ。しかし、大気の摩擦熱というモノは恐るべきモノじゃ。【神の遺物】の鎧すら、いとも簡単に燃え尽きてしまうのじゃからして……」
ソフィアは言います。
「それは摩擦熱ではございませんね。気体は圧縮すると発熱し、引き延ばすと冷却する性質がございます。ソフィア様は亜光速という凄まじい速度で飛行なさったので進行方向の空気が猛烈に圧縮され大気中の分子同士が激しくぶつかり合い高熱を発生させたのです」
メディアはソフィアの身に起きた現象を説明しました。
「なるほど。つまり前方に溜まって圧縮される大気中の分子を、どうにかして排除するギミックを考えれば燃えないように出来るのじゃな?う〜む、問題はそれをどうやるかじゃが……。ノヒトは……【転移】以外で大気中を超光速で動く必要がある時には、進行方向に真空を作る……と言っておったが、任意空間にどうやったら真空を作れるのじゃろうか?【風魔法】の応用か?それとも【空間魔法】か?どんな【魔法公式】になるか見当もつかぬ」
ソフィアはブツブツ言いながら冷蔵庫を開けて、中から何かを取り出します。
ソフィアは両手に持ったガラス容器の1つをメディアに渡しました。
「これは?」
メディアは訊ねます。
「フルーツ牛乳じゃ。ゴキュゴキュゴキュ……ぷは〜っ、上手い。一仕事終えた後の1杯は格別じゃ。美味しいから飲むと良い。メディアは、この炎天下の屋外にいたのじゃから喉が渇いたじゃろう?」
ソフィアはフルーツ牛乳を一気に飲み干して言いました。
「ありがとうございます。……あら?これは、とても美味しい飲み物でございますね?」
メディアは目を見張ります。
「うむ。【ソフィア・フード・コンツェルン】が自信を持って売り出す新商品じゃ。さて、では【カラミータ】に向かうぞ」
「あのう。出来ましたら、私と分かれて撤退した兵士達を拾って一緒に帰還したいのですが?」
「良かろう。すぐに追い付くじゃろう」
ソフィアとメディアは【避難小屋】から出て、ソフィアは【避難小屋】を【収納】に回収して【飛行】で上空に飛翔しました。
メディアもソフィアの後を追い掛けます。
・・・
【カラミータ】。
ソフィアとメディア・ヘプタメロンは撤退していた【カラミータ】の軍用【乗り物】に追い付き、兵士達を拾って【カラミータ】のシェルターまで一気に【転移】して帰還しました。
ロズリン皇太王女達【ロヴィーナ】の3人と、シドニー女王達【カラミータ】の面々は、ソフィアとメディアと兵士達が1人も犠牲を出さずに帰還した事に安堵します。
【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】のメンバーは、ソフィアを信頼しきっているので当然の事として受け止めていました。
ソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】と、ロズリン皇太王女達【ロヴィーナ】の3人、メディアとシドニー女王達【カラミータ】の指導部は、女王の執務室に移動して、早速メディアの話を聴く事にします。
まず、ソフィアはメディアに【微小機械】・パンデミックと、【微小機械】・ネットワークについて訊ねました。
メディアの説明は、先日ソフィア達がシドニー女王から受け取った資料に書いてあった内容と変わりませんが、繰り返し【微小機械】の基本構造から順を追って説明が行われたのです。
長年研究を続けて来た専門家であるメディアから直接詳細な話を聴けて、疑問点や確認事項を1つ1つ質せたので、【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】……特にオラクルとヴィクトーリアにとっては有意義な情報共有になりました。
そしてオラクルとヴィクトーリアは、【微小機械】の無力化について1つの可能性を見出したのです。
それはグレモリー・グリモワールの攻略本に記載されているような特別なリソースは何も必要とはせず、ソフィアの労力だけで瞬時に完了する方法でした。
しかしオラクルとヴィクトーリアは、未だメディアのレクチュアが続いていたので、話に割り込んだりはしません。
「メディアは【微小機械】を再起動させる事に成功したようじゃが、その方法とは具体的には、どうするのじゃ?」
ソフィアは質問しました。
「魔力波を用います。高出力の魔力を信号として送波する事によって【微小機械】に働き掛けると、周波数帯によっては【微小機械】が反応を示したのです。再起動といっても完全に稼働状態になる訳ではなく、休眠状態から一瞬起動して微弱な魔力波を返して来ます。その後、すぐに休眠状態に戻り、以降は同じように魔力波を送波しても無反応となります」
メディアは説明します。
「高出力の魔力波のう……」
「おそらく魔力波信号を受信した事で、【微小機械】は一度休眠状態から目覚めて、正規の命令かどうか確認したのだと思われます。しかし私が送波したのは、言わば不正命令でしたので、再度休眠し以降は同じ周波数帯の魔力波には反応しなくなったのだと思われます。つまり誤作動のようなモノかと」
「ソフィア様。メディアさんからの説明を聴いた限り、蓋然性の問題としてソフィア様なら【ドゥーム】の【微小機械】を全て破壊する事が可能なのではないかと思われます。これはヴィクトーリアも同じ結論に達しました」
オラクルは……今が話の区切りのタイミング……と見て切り出しました。
「なぬっ!それは、どうやるのじゃ?」
ソフィアは身を乗り出します。
同席する全員もソフィア同様に色めき立ちました。
「魔力波は位階で上回る【結界】以外の、あらゆる物体を透過して何処までも直進します。そして高出力の魔力は時に【結界】や魔力サーキット・ブレーカーや魔力アースなどの保護措置が講じられていない【魔法装置】の回路を壊す事もあります。そういう用途で、敵の兵器の破壊を企図した【魔力パルス爆弾】や、敵の兵器の制御を乗っ取ったり誤作動させるような魔法や装置も現実に存在しています。つまり魔力波に反応するギミックを持った【微小機械】は当然外部から送られてくる魔力波に対して開かれた状態となっています。その【微小機械】にソフィア様が【神位】の出力で魔力波を浴びせれば、誤作動どころでは済みません。更にソフィア様が魔力を高密度に収束して放射すれば【微小機械】を完全に破壊する事が出来ると思います。私やヴィクトーリアのような【自動人形】もそうですが、精密な【魔法装置】には過剰な魔力に曝露された事を検知すると魔力を瞬時に遮断して魔導回路を守るサーキット・ブレーカーや、過剰魔力を他に流すアースのシステムが組み込まれていますが、周知の通り【微小機械】は極小さな機械機構ですので、当然あまり複雑で高性能なギミックは搭載されていません。グレモリー様が提起した攻略法から推測するに、おそらく原始的なサーキット・ブレーカーやアースの機構を備えているのだとは思いますが、それは【超位級】までの過剰魔力から保護するギミックです。ソフィア様の【神位】の魔力波を防げるのは、【神位】のギミックである必要があります。もちろん神ならぬ者が【神位】のギミックを構築する事は物理的に不可能です。であればソフィア様が高密度に収束した魔力波を放射すれば【微小機械】の回路を過剰魔力によって瞬時に焼き切る事は難しくありません。ソフィア様が屋外で【神位】の高密度魔力波を全方位に向けて爆発的に放射すれば、【ドゥーム】に存在する全ての【微小機械】を一瞬で完全に無力化してしまえます」
オラクルは説明しました。
「本当か!?」
「はい。シミュレーションの結果、【微小機械】には、ソフィア様の【神位】の高密度魔力波から、回路を保護する手段は何も持ち得ないと断言出来ます」
「良しっ!今やるのじゃっ!すぐやるのじゃっ!」
ソフィアは立ち上がります。
「お待ち下さいませ。多少の事前準備が必要です。ソフィア様が高密度に収束した魔力波を全方位に放射した場合、位階で上回る【創造主】が創った初期構造オブジェクト……つまりシェルターの内部や【太陽炉】などの古代構造物は壊れる事はないとしても、それ以外の【魔法装置】や【乗り物】や【魔導兵器】などは、サーキット・ブレーカーなどの回路を保護するギミックがなければ瞬時に壊れてしまいます。なので【ドゥーム】の全人種コミュニティに、壊れて困るモノを出来る限りシェルター内に格納してもらったり、【乗り物】や【魔導兵器】で外出している者達をシェルターに帰還させたりする必要があります。屋外活動中の【乗り物】などが突然壊れてしまった場合、魔物に襲撃されれば無防備なので死者が出てしまいますので」
「うむ。それは道理じゃな。では、すぐに【ロヴィーナ】のロデリックと、【ディストゥルツィオーネ】のヴァレーラに連絡して段取りをさせるのじゃ。準備が整い次第、我の高密度魔力波攻撃によって【微小機械】を殲滅してやるのじゃ」
「ソフィア様。【デマイズ】にいるヴァンダービルト【ディストゥルツィオーネ】前王以下ベロボーグ派にも伝えなければいけません」
「そうじゃ。シドニー、すぐヴァンダービルトらに連絡をせよ」
ソフィアは【カラミータ】のシドニー女王に指示しました。
「畏まりました」
シドニー女王は了解します。
「私も父ロデリックに連絡致します」
ロズリン皇太王女が言いました。
こうして急転直下【微小機械】の無力化方法が判明したのです。
「オラクルよ。【微小機械】の無力化が成れば、即ち【秘跡】のクリア条件を満たすのか?」
ソフィアは訊ねました。
「未だわかりませんが、おそらく大丈夫だと思います」
オラクルは答えます。
「そうか。我も大丈夫じゃとは思うのじゃ」
「【箱庭の書】をキーとして【秘跡】に強制エントリーされる瞬間、ノヒト様は……ソフィア様のスペックならば何とかなる……と仰いました。スペックとは、つまり【神位級】の位階の事だと解釈すれば、この方法論は正に……何とかなる……の顕著な帰結だと思われます」
「うむ。気付いてみれば呆気ないが、こういうモノはフレーム問題と云うのじゃ。無限に存在する選択肢から1つの着眼点に到達するのは、それが、どんなに単純であっても容易ではない場合もあるからの。今回は、正に、そのようなケースじゃった」
「仰る通りかと……」
その場にいた全員に、弛緩した雰囲気が漂いました。
事実オラクルが気付いた方法論は、この【秘跡】(【終末後の世界】の【ドゥーム・マップ】スペシャル・シナリオ)のクリア条件を満たしています。
しかし、それがソフィアにとって望ましいグッド・エンドであるかどうかは、また話が別でした。
終末まで残り93日……。
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