第1022話。へっぽこ軍団の終末世界旅行…23…古代兵器。
【ディストゥルツィオーネ】。
ソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は起床しました。
いつものように身繕いと朝食を済ませます。
「ソフィア様。私には1つわからない事がございます」
ティアが質問しました。
「何じゃ?」
ソフィアは訊ねます。
「ソフィア様が懸念されていた【カラミータ】と【ロヴィーナ】連合軍と【ディストゥルツィオーネ】の戦争についてでございます。現在ソフィア様のお導きにより、ほぼ戦争は回避されたと見て差し支えありません。しかし、そもそもの話として、私は【カラミータ】と【ロヴィーナ】連合軍が【ディストゥルツィオーネ】を攻めても一方的な殺戮となり、戦争にはなり得ないと思うのです。メディア・ヘプタメロンには【ディストゥルツィオーネ】を攻める理由がある……いえ、あったという事は理解出来ます。しかし【ディストゥルツィオーネ】には戦争をする理由がありませんし、戦力もありません。戦争とは双方にそれなりの戦力があって初めて成立するモノ。【ディストゥルツィオーネ】の前王ヴァンダービルト以下のベロボーグ派は出奔し、おそらく【カラミータ】と【ロヴィーナ】の連合軍側に付いてしまいます。【ディストゥルツィオーネ】の最強戦力チェルノボーグも【盟約】に縛られて【ドゥーム】の住人を殺せない。残る【ディストゥルツィオーネ】の民は今日の食事にすら事欠く飢餓状態でした。だとするなら【ディストゥルツィオーネ】には、そもそも戦争遂行能力がないのではありませんか?【ディストゥルツィオーネ】は、【カラミータ】と【ロヴィーナ】の連合軍に蹂躙されて全滅するだけだと思います。これは戦争とは呼べません」
「うむ。その見立ては的を射ておる。じゃが、犠牲を顧みなければ【ディストゥルツィオーネ】にも戦う術はあるのじゃ。そして、その戦術は敵勢が大軍で視界が開けた砂漠で開戦に及べば、相当程度有効でもある」
「それは、どのような戦術なのでしょうか?」
「【生贄のトーテム】じゃ。【生贄のトーテム】は供物を捧げれば魔物や【知性体】をスポーンさせられるギミックを持つ【神の遺物】じゃ。供物の量や質によっては、強力な魔物や多数の魔物を呼び出せるじゃろう。我が【ディストゥルツィオーネ】の将帥ならば、まずは降伏を考える。ティアの言うように普通に戦えば今の【ディストゥルツィオーネ】には勝ち目はない。もしも降伏が受け入れられなければ、子供達とその看護を行う最小限の若い女達をシェルターに残し、残りの大人全員でシェルターを出て野戦にて【カラミータ】と【ロヴィーナ】の連合軍を迎え討つ。砂漠に簡易的な陣地を構築し敢えて敵勢に包囲させる。そして敵が陣地を総攻撃して来たタイミングで、陣地にいる全員の命を対価に【生贄のトーテム】を使い、魔物や【知性体】を呼び出す。肉体部位だけで【上位悪魔】のベロボーグがスポーンしたのじゃ。1千人あまりの人種の生命を対価にしたら、ベロボーグ以上の戦闘力を有する魔物や【知性体】がスポーンするじゃろう。そして【ディストゥルツィオーネ】が【カラミータ】や【ロヴィーナ】のシェルターを攻め落とすのは不可能じゃとしても、【ディストゥルツィオーネ】に攻め寄せた大軍に壊滅的な損害を与える事は可能じゃ。まあ、その後に勝ち筋がないという絶望的な状況には変わりないが、何もしないよりはマシ。降伏を選択しないのであれば、この戦術以外に選びようがない」
「しかし、チェルノボーグを従わせられたのはクアトロッタ・ヘプタメロンが強大な力を持っていたからで、ベロボーグを従わせられたのはヴァンダービルト王が【ディストゥルツィオーネ】最高の【魔法使い】だったからです。現在【ディストゥルツィオーネ】に残る者達に、そのような強力な魔物や【知性体】を従わせられる者がいるでしょうか?」
「従わせる必要はない。包囲する敵が陣地に総攻撃を仕掛けて来たタイミングで、陣中に強大な戦闘力を有する魔物や【知性体】をスポーンさせるだけで、後は勝手に【カラミータ】と【ロヴィーナ】の連合軍がスポーンした魔物や【知性体】に攻撃してヘイトを買って乱戦になるだけじゃ」
「なるほど……しかし、取りうる戦術が自殺特攻だけとは悲壮な……」
「うむ。戦争とは、そういうモノじゃ」
ソフィアが説明した戦術が、ゲームとしての【ドゥーム】のシナリオで【ディストゥルツィオーネ】軍が実際に行った戦い方でした。
ソフィア達は【避難小屋】を出ます。
ソフィアは【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】の【避難小屋】とロズリン皇太王女達が宿泊した【避難小屋】を【収納】に回収しました。
・・・
【ディストゥルツィオーネ】での滞在は2泊3日目です。
【ディストゥルツィオーネ】の疲弊状態が、【ロヴィーナ】や【カラミータ】と比べて酷かったので、ソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は、【ディストゥルツィオーネ】のシェルターの機器類やインフラ関係の修理に余計時間と労力を要しました。
そのおかげもあって、【ディストゥルツィオーネ】は壊れていたデンプン生成機などが再稼動しています。
本来このデンプン生成機は、【創造主】が創った初期構造オブジェクトなので壊れないのですが、デンプン生成を用途に応じて細かく調整する後付けの制御装置が人種により造られたモノで、それが壊れていた為にデンプン生成機本体も操業を停止したままになっていました。
つまり、この後付け装置を取り外してしまえば、デンプン生成機は復旧したのですが、現在の【ディストゥルツィオーネ】では、そんな単純な事すら理解出来ないレベルで技術水準が退歩していたのです。
二酸化炭素からデンプンを生成出来る設備は、【ドゥーム】のシェルター都市にとっては生命線とも言える基幹インフラ。
それが復旧した事は幸いでした。
ともかく、とりあえず今後【ディストゥルツィオーネ】の民が自らの肉体部位を原料にして【フレッシュ・キューブ】を製造して食べるような最悪の状況からは脱却した筈。
もちろん継続的に魔物を狩る方法を考えなければ、デンプンだけでは、いずれ栄養失調で全滅してしまいます。
【ディストゥルツィオーネ】の住人は、ソフィア達から提供してもらった【サンド・ワーム】20頭と【砂竜】と【砂漠竜】少し(ソフィアのストックの全て)の在庫がある内に、継続的に魔物を狩る為の何らかの局面打開策を考えなければいけません。
そして、ソフィア達は、【ディストゥルツィオーネ】で継続的な魔物の狩を可能とする方法として昨日チェルノボーグの話に出たモノを見に行きました。
・・・
【ディストゥルツィオーネ】の格納庫。
「これが古代の超技術で造られた【ゴーレム】兵団です。兵団とはいえ3体しかありません。そして昨日も申し上げたように、これらの【ゴーレム】は完全に壊れてしまっています。これを修理が出来れば魔物の狩に利用出来るとは思いますが……」
チェルノボーグが説明しました。
「何と……これは凄いのじゃ。【ゴーレム】技術の先端を行く【グリフォニーア】にも斯様に見事な【ゴーレム】は造れまい。【神の遺物】の【ゴーレム】のようじゃ」
ソフィアは口を開けて感嘆します。
「では、拝見します」
オラクルが言いました。
オラクルは【ゴーレム】の骨盤辺りのハッチを開けて基幹部を覗き込みます。
昨日ソフィアは、今後【ディストゥルツィオーネ】が自力で魔物の狩を行える方法として、ミネルヴァから貸与された【オリハルコン・ゴーレム】を何体か【ディストゥルツィオーネ】に与える事を考慮しました。
しかし、このミネルヴァから貸与されている【神の遺物】類は、基本的に又貸し厳禁だったのです。
緊急時だから致し方ないので貸与してしまえ……という考えも一瞬浮かびましたが、さすがのソフィアも全宇宙の管理者であるミネルヴァとの約束を意図的に破る勇気はありませんでした。
ソフィア自身がミネルヴァから何らかのペナルティを科されるのは止むを得ないとしても、ソフィアだけでは済まず【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】や【ドラゴニーア】やセントラル大陸全土にミネルヴァのペナルティが波及する可能性もあります。
ミネルヴァには、それをする権限も能力もありました。
そのくらいミネルヴァとは強大な【神格者】なのです。
おそらくノヒトと対抗し得る存在は【創造主】とミネルヴァだけじゃろう……と、ソフィアは考えました。
そして昨日ソフィアが言った……【オリハルコン・ゴーレム】を貸与してやりたいが、これはミネルヴァという世界の【管理神格】から貸与されたモノ故、断りなく又貸しは出来ぬ……という言葉を受けて、チェルノボーグが……【ゴーレム】なら【ディストゥルツィオーネ】にもあります。壊れていますが……というやり取りがあり……その【ゴーレム】を修理出来れば、【ディストゥルツィオーネ】の狩猟兵器として活用出来るのではないか?……という話の流れになり、今日改めて【ゴーレム】の状態を確認しに来た訳です。
「この【ゴーレム】は、古代【ドゥーム】で災厄を生き延びた人種同士で行われた世界最終戦争で使われた強力な【魔導兵器】です。各シェルターには、この古代【ゴーレム】がそれぞれ数体ずつ現存しますが、全て致命的に壊れています。しかし【ロヴィーナ】や【カラミータ】の【強化外骨格】には、これら古代【ゴーレム】の技術がリバース・エンジニアリングで活用されています。しかし技術の一端は再現出来ても、この【ゴーレム】自体を修理する事は出来ていません」
【ロヴィーナ】のロズリン皇太王女が言いました。
「基幹部に組まれた【魔法陣】が複雑極まりなく、私達の理解の範疇を超えています。又そもそも私達の技術体系とは全く異なる想像を絶する超技術が使われているらしく、この【ゴーレム】の技術の再現はもちろん、修理すら永久に出来ない可能性も示唆されています」
ロズリン皇太王女の夫スチュアート卿が補足説明します。
スチュアート卿は【ロヴィーナ】の魔法学研究者なのだとか。
「ふむ。オラクル、直せそうか?」
ソフィアは訊ねます。
「……基幹部の【積層型魔法陣】の解析が困難です。私のスペックでは、少なくとも年単位の解析期間が掛かりそうですね。そして解析が出来たとしても、それを修理・再現出来るかどうかは、また別問題です」
オラクルが言いました。
「ぬぐっ。とてもではないが年単位では間に合わぬ……」
「ソフィア様ご自身で解析なさってみては如何でしょうか?ソフィア様の演算能力は【神位級】。本来ならソフィア様は、私達などより遥かに強力なスペックをお持ちです」
オラクルが言います。
「う〜む。我は、そちら方面の面倒は苦手じゃ。それに自慢ではないが我は工学魔法の基礎すら良く知らぬのじゃぞ。基本的に我は勉強というモノは嫌いなのじゃ。じゃが、まあ、一応見るだけ見てみるかの……」
ソフィアがオラクルと場所を入れ替わりました。
「何か、おわかりになりましたか?」
オラクルが訊ねます。
「……全くわからぬ。わかる筈もない。そもそも我は、回路図も良く読めぬのじゃからして……。ん?おっ?何か閃いたっ!わ、わかるっ!何故だか知らぬが、わかるぞっ!凄い、ふむふむ……ここを、こうして、それから、これが、こう……と。でもって、こっちから、アレしてソレ……。良しっ!【完全復元】」
ソフィアは壊れた古代【ゴーレム】に【完全復元】を掛けました。
すると……。
ブインッ……。
古代【ゴーレム】が起動したのです。
「ソフィア様。凄ーーっ!動いた〜っ!」
ウルスラが興奮して宙返りを打ちました。
「うむ。我に掛かれば、こんなモノじゃ。わ〜っはっはっは〜……」
ソフィアは腰に手を当てて踏ん反り返ります。
「さすがはソフィア様。おそらくパスが繋がるアルフォンシーナ様の視点を介して見聞きした工学魔法の知識を、ソフィア様は記憶なさっておいでだったのでしょう」
オラクルは言いました。
「いや、アルフォンシーナが見聞きした工学魔法などと言っても、我は工学魔法の基礎すら知らぬ故、何かを見たとしても全く理解出来ぬぞ」
ソフィアは答えます。
「では、何故この【ゴーレム】は直ったのでしょうか?」
オラクルが驚いて訊ねました。
「わからぬ。何だか急に閃いたのじゃ」
ソフィアは言います。
実はソフィアが古代の超技術で造られた【ゴーレム】の基幹部の解析と復元を行えたのは、ソフィアの脳に共生する【知性体】フロネシスの仕業でした。
フロネシスはナカノヒトが【神竜】に無限の魔力を与えて……ソフィア……と【名付け】を行った際に、ソフィアのステータスが設定限界を突き抜けた事で、ソフィアの脳の中で独立したソフィアの、もう1つの自我です。
つまりフロネシスは本質的にはソフィア自身。
フロネシスはソフィア自身でありながら、同時にナカノヒトと【盟約】を結んでいて、ナカノヒトの支配下にもあるという複雑な状態にありました。
ナカノヒトはゲームマスター権限を用いて、フロネシスにソフィアを全力で守る事を命じています。
その対価としてフロネシスは、ナカノヒトからゲームマスター権限に関する情報以外の、ナカノヒトが知り得る知識を全て与えられました。
古代の超技術だろうが何だろうが、チーフ・ゲームマスターであるナカノヒトから知識を与えられているフロネシスになら、人種に可能な事であれば不可能は何もありません。
フロネシスは本質的にはソフィア自身なので、ソフィア本体が閃いたという体裁にして、フロネシスがナカノヒトから与えられた知識を、それとなくソフィア本体に教える事くらいは苦もなく実行出来ます。
こうして古代の超技術によって造られた【ゴーレム】3体はソフィア(フロネシス)によって新品同様に復元されました。
この強力な【ゴーレム】を使役すれば、魔物の狩が行え【ディストゥルツィオーネ】の飢餓は解消されるでしょう。
【ディストゥルツィオーネ】だけ強力な古代【ゴーレム】が復活したのでは不公平だ……という事で、ソフィアは【カラミータ】と【ロヴィーナ】でも、【ディストゥルツィオーネ】と同じ3体の古代【ゴーレム】を復元する事になりました。
そしてソフィアは古代【ゴーレム】を、ソフィアの価値観において侵略戦争や犯罪行為には使用出来ないようにバック・ドア・プログラムを仕込んでおいたのです。
ソフィアは、その旨を【ディストゥルツィオーネ】や、その他のシェルターにも伝えました。
・・・
「ではの。また【ディストゥルツィオーネ】に立ち寄る事もあるじゃろう」
ソフィアは見送りに集まった【ディストゥルツィオーネ】の民達と庇護者のチェルノボーグに挨拶します。
これからソフィア達はメディア・ヘプタメロンに会いに【カラミータ】へ向かわなければいけません。
メディア・ヘプタメロンは、この【終末後の世界】の【ドゥーム・マップ】における【導き手】でした。
「ソフィア様。並々ならぬ御高配を賜りまして、感謝の言葉もごさいません」
【ディストゥルツィオーネ】評議会のヴァレーラ代表は伏して感謝の意を伝えます。
「気にするな。これは【創造主】から与えられた……【ドゥーム】を救え……という使命の一環。【ディストゥルツィオーネ】の民達の為に役立ててくれれば、それで良い」
「ありがとうございます」
ソフィア達は【カラミータ】に向かって【転移】しました。
お読み頂き、ありがとうございます。
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