第1021話。へっぽこ軍団の終末世界旅行…22…【フレッシュ・キューブ】。
本日3話目の投稿です。
【ディストゥルツィオーネ】。
起床したソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は各々身繕いと朝食を済ませて、【避難小屋】を出ました。
ソフィアは【避難小屋】を【収納】に回収します。
【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】が宿泊した部屋は【ディストゥルツィオーネ】のシェルターの1室でした。
隣室にはロズリン皇太王女達【ロヴィーナ】の一行がソフィアから借りた【避難小屋】で宿泊しています。
しかしロズリン皇太王女達は、夜の間ヴァレーラ代表以下【ディストゥルツィオーネ】の評議会員と外交上の話し合いをしていたので、あまり睡眠時間を取っていないと思われました。
どうやらソフィアからの連絡により【ロヴィーナ】も【カラミータ】も【ディストゥルツィオーネ】を敵視する理由が潰され戦争は回避出来そうな目算です。
【ディストゥルツィオーネ】の庇護者であるチェルノボーグを娘のクアトロッタ・ヘプタメロンを殺した仇だと思い込んでいたメディア・ヘプタメロンも、【カラミータ】を中継した魔法通信の結果ソフィアからの説明に納得したようで……娘のクアトロッタが自らの命を賭してまで後事を託したチェルノボーグの事を疑ってしまった事を真摯に謝罪して和解したい……と伝えて来ました。
今回も……【創造主】からの使命を帯びて【ドゥーム】に降臨した救世神たる異界の現世最高神【神竜】……というネーム・バリューが効果を発揮した形です。
他のプレイヤーなら、こうは簡単に問題が解決しなかった筈。
ソフィアは無自覚にフラグを何本も……ボキボキ……と、へし折っていたのです。
しかし、未だソフィアには運営からの……【秘跡】クリア……の通知は届きませんでした。
どうやらソフィア達が挑んでいるスペシャル・シナリオの【終末後の世界・マップ】である【ドゥーム】のクリア条件は戦争回避だけでは満たされないようです。
「おはようございます」
ロズリン皇太王女が、ソフィア達に朝の挨拶をしました。
「うむ。おはようなのじゃ。昨晩は遅くまで【ディストゥルツィオーネ】側と会議をしておったと聞いておる。ご苦労じゃの」
ソフィアはロズリン皇太王女を労います。
夜間も睡眠をしないオラクルとヴィクトーリアは情報の収集と分析をしていたので、ロズリン皇太王女達の動向も知っていました。
「ありがとうございます。100年ぶりの国交回復ですので様々な懸案を話し合いました。有意義な会談が出来たと思います」
「それは重畳じゃ」
ソフィアは内心……【ドゥーム】の人種による外交努力を無にしない為にも、【秘跡】の攻略を失敗出来ない……と気を引き締めます。
ソフィアはロズリン皇太王女達に貸し出していた【避難小屋】を回収しました。
・・・
【ディストゥルツィオーネ】評議会・議場。
「昨日は昼と夜の炊き出しや、諸々の作業があって聞きそびれたのじゃが……【フレッシュ・キューブ】というモノに聞き覚えがあるか?」
ソフィアは【ディストゥルツィオーネ】評議会のヴァレーラ代表に訊ねます。
オラクルとヴィクトーリアがグレモリーの著作……【ゾンビ】でもわかる【秘跡】攻略法……で調べた結果、プレイヤーが【フレッシュ・キューブ】というモノの取り扱いに関する立場で、【カラミータ】の庇護者メディア・ヘプタメロンと見解の相違に至ると、その後プレイヤーとメディアは敵対する……と記されていました。
「【フレッシュ・キューブ】とは私達が口にしている食料です。ベロボーグ派が【ディストゥルツィオーネ】を退去して以来、【ディストゥルツィオーネ】に残された者達には【魔法使い】が少なくなりました。その結果、満足に魔物の狩が出来なくなり、やがて私達は食料に事欠くようになりました。なので私達は虫や【魔蟲】を原料に【インセクト・キューブ】を製造するのと同じ製法で【フレッシュ・キューブ】を製造して食べるようになったのです」
ヴァレーラ代表は答えます。
「一般的に普及しておる訳ではないが、我らの世界にも【インセクト・キューブ】という昆虫や【魔蟲】原料による食品がある故、おそらく【フレッシュ・キューブ】が何らかの食品である事は想定しておった。で、どんなモノかと聞いておるのじゃが?」
「は……はい。それは……私達【ディストゥルツィオーネ】の者達が提供する肉体部位を加工した人肉加工食品です」
「なっ……何じゃと!?人肉じゃと!?人種の同族食いは【世界の理】によって禁忌に指定されておる」
「はい。もちろん禁忌に触れる行為である事は存じております。しかし、愚かな私達には、飢餓に苦しむ者達を生かす為には他に方法が思い付かなかったのです。肉体部位は欠損してもチェルノボーグ様の高度な【治癒】で再生可能でございますので、【フレッシュ・キューブ】は困窮する私達が得られる唯一の肉だったのです。この責任は全て【フレッシュ・キューブ】の製造を決定した私達評議会にございます。どうか【世界の理】違反の罰は、私達評議会員だけにお与え下さり、民達の事はお赦し下さいませ」
ヴァレーラ代表以下【ディストゥルツィオーネ】の評議会員達は全員床に伏して深く頭を下げました。
英語でfreshと綴れば……新鮮な状態や様子……を意味します。
しかしfleshと綴る場合、それは……人肉……という意味になりました。
このゲーム【ストーリア】は日本の企業が開発した作品です。
日本語表記ではfreshもfleshも両方フレッシュとなりました。
なのでソフィア達は【フレッシュ・キューブ】の英語の発音の違いには気付かなかったのです。
「飢えておって止むを得なかったとは言え……人肉か……」
ソフィアは頭を抱えました。
「生きる為に止むを得ず……という事でしたら、緊急避難として【世界の理】違反は情状酌量の余地があると思われます。今回の人肉食は、幸いにして死者は出ておりません。おそらく、ノヒト様もご理解頂けるのではないかと思います。もちろん、今後は人肉食を中止する必要はございますが……」
オラクルは推測します。
「うむ。【世界の理】違反にも重大なモノと、軽微なモノとがあるのじゃ。人死を出していない点で【フレッシュ・キューブ】は比較的軽微という解釈も成り立つ可能性はある。また人種が行う医療行為で輸血や臓器移植などは【世界の理】にも反しておらぬ。【フレッシュ・キューブ】を、そういった医療行為の緊急時における代替措置と解釈して、目を瞑る事は出来るやもしれぬ。そして、【世界の理】の守護者たるノヒトも【ディストゥルツィオーネ】の窮乏する現実を知れば、多少は理解を示してくれる筈じゃ。我からもノヒトに、【ディストゥルツィオーネ】に対して寛大な裁定を下してくれるよう口添えをしてやる事も出来るじゃろう」
ソフィアは言いました。
「ありがとうございます」
ヴァレーラ代表は言います。
「じゃが、もちろん我らが【フレッシュ・キューブ】の実態を知ってしまった以上、【神格者】として今後は【フレッシュ・キューブ】を是認する訳にはいかぬ。【ディストゥルツィオーネ】は【フレッシュ・キューブ】には頼らぬ食料確保の施策を考え出す必要があるのじゃ」
ソフィアは言いました。
「「「はは〜っ」」」
ヴァレーラ代表以下【ディストゥルツィオーネ】評議会員達は平伏して、ソフィアの命を了解します。
「つまり、メディア・ヘプタメロンは、チェルノボーグが娘のクアトロッタの仇じゃと誤解した事に加え、【ディストゥルツィオーネ】の者達が【フレッシュ・キューブ】という禁忌に触れていた事も相まって戦争を決意した訳じゃ。【フレッシュ・キューブ】の問題は誤解ではなく、既に確定事実として覆しようがない。これはメディアに対する慎重な説得が必要かもしれぬ」
ソフィアは眉をひそめて言いました。
「ソフィア様。わからないんだけど……メディア・ヘプタメロンって【ヴァンパイア】なんでしょう?【ヴァンパイア】とかの【魔人】って人種を襲って食べるよ。何で【魔人】のメディア・ヘプタメロンが人肉食の【フレッシュ・キューブ】を忌避するのかな?」
ウルスラが疑義を呈します。
「良い質問じゃ。【魔人】には……血の渇き……と呼ばれる一種の禁断症状があるのじゃ。血の渇きは【魔人】が生まれながらに本能として持つ……人種を捕食したい……という欲求に関する禁断症状じゃ。【魔人】は本能に従って人種を捕食すると、どんどん血の渇きが強くなり、益々人種を捕食したくなる。逆に生まれてから、人種を捕食していない【魔人】の個体は血の渇きが弱くなり、人種を捕食したいという欲求も薄れる。つまり人種コミュニティで人種と共存しておるメディア・ヘプタメロンは人種を捕食したいという欲求を抑えて、人肉食を遠避けておるのじゃ。もしも仮に【ディストゥルツィオーネ】の人肉食習慣を認めれば、肉体部位を【フレッシュ・キューブ】に加工して【治癒】で再生するという方法論は、危険を冒して魔物を狩り食料とするより安易で安全じゃから、【カラミータ】や【ロヴィーナ】でも同じように【フレッシュ・キューブ】による人肉食習慣が広まるかもしれぬ。そうなったら、血の渇きを抑える必要があるメディアは【カラミータ】や【ロヴィーナ】で人種と共存する事が困難になる。目の前で人肉を食べている者達を見ながら、自らは人種を捕食したいという欲求を抑えるのは苦痛じゃろうからな。じゃから、メディアは【ディストゥルツィオーネ】を攻め滅ぼしてでも【フレッシュ・キューブ】による人肉食習慣を認める訳にはいかぬのじゃ」
「そっか〜。アタシも誰かが目の前でケーキを食べているのに、自分はケーキを食べちゃダメって言われたら辛いもんね?」
「うむ。だからといって、我らはケーキ屋を破壊したりはせぬが、メディアの場合は本能に起因する問題じゃから、より深刻なのじゃろう。ともかくヴァレーラよ、今後は【フレッシュ・キューブ】食は禁止じゃ。【ディストゥルツィオーネ】の民全員に【契約】にて約束してもらう必要がある。良いか?」
ソフィアはヴァレーラ代表以下【ディストゥルツィオーネ】評議会員達に申し渡しました。
「「「はは〜っ」」」
ヴァレーラ代表以下【ディストゥルツィオーネ】評議会員達は伏して了解の意を示します。
直ちにソフィアは【カラミータ】を中継してメディア・ヘプタメロンと連絡を取り、【フレッシュ・キューブ】による人肉食をせざるを得なかった【ディストゥルツィオーネ】の致し方ない理由を伝え、また同時に……【ディストゥルツィオーネ】における【フレッシュ・キューブ】食の即時中止を命じて、今後二度と人肉食を行わせないように【契約】にて約束させた……と伝えたのです。
その報告を聞いたメディア・ヘプタメロンは忌避感を顕にして動揺していたそうですが、異界の神たるソフィアが責任を持って【ディストゥルツィオーネ】に【フレッシュ・キューブ】食の即時中止と再発防止を約束させた事で、一応は納得を得られました。
一部【ディストゥルツィオーネ】の評議会員からは……メディア・ヘプタメロンが知らない【ディストゥルツィオーネ】にとっては不都合な事実を伝えて、わざわざ藪を突く必要はないのでは?……という意見もありました。
しかしソフィアはメディア・ヘプタメロンに速やかに事実を伝えなければならないと考えたのです。
何故なら【ディストゥルツィオーネ】がメディア・ヘプタメロンに事実を隠蔽した上で、【ディストゥルツィオーネ】で【フレッシュ・キューブ】という人肉食が行われていた事が第三者からメディア・ヘプタメロンに伝わった場合、メディア・ヘプタメロンの反応は、より頑なで強硬なモノになる可能性があるからでした。
その第三者とは、チェルノボーグによって【ディストゥルツィオーネ】を追放させられて恨みを持つベロボーグ派です。
「こういう時は……率直に勝る交渉なし……じゃ」
ソフィアは言いました。
「さすがはソフィア様です」
オラクルは言います。
こうしてソフィアは、また戦争のフラグを1本へし折りました。
しかし相変わらず運営から……【秘跡】クリア……の通知は届きません。
「オラクルよ。ベロボーグ派の連中は見付かったか?」
ソフィアは訊ねました。
「はい。チェルノボーグの推定通り【デマイズ】のシェルターにヴァンダービルト前王達がいました。【カラミータ】から【デマイズ】に魔法通信を行わせたところ、ヴァンダービルト前王が受信し……チェルノボーグという凶悪な【上位悪魔】に支配された【ディストゥルツィオーネ】の反乱勢力によるクーデターにより【ディストゥルツィオーネ】を追われたので支援して欲しい……と依頼したようです。【カラミータ】のシドニー女王は、ソフィア様の要請に従って結論を保留しています。ヴァンダービルト前王は、【カラミータ】のシドニー女王と【ロヴィーナ】のロデリック王を説得して味方に引き込む為に使者を【カラミータ】と【ロヴィーナ】に送っているようです」
オラクルは説明します。
「ふむ。ヴァンダービルトめは、我が【カラミータ】と【ロヴィーナ】と逐一情報共有しておる事を知らぬ故、無駄な政治工作をしておるようじゃ」
「ソフィア様が出動してヴァンダービルトって奴をやっつけちゃえば良いんじゃないの?」
ウルスラが言いました。
「気持ちはわかるが、【秘跡】のクリア条件は……【ドゥーム】を救え……じゃ。ベロボーグ派も【ドゥーム】の住人には違いない。じゃからベロボーグ派を、いきなり攻め滅ぼす戦略は早計じゃ」
ソフィアが説明します。
「そっか〜」
「明日、我らは一旦【カラミータ】に戻りメディア・ヘプタメロンと会談に及ぶ。その結果、何か進展が得られれば良いのじゃがのう。特に【微小機械】関連でじゃ」
ソフィアは言いました。
一同は頷きます。
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・・・
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