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第1020話。へっぽこ軍団の終末世界旅行…21…メディア・ヘプタメロンの誤解。

本日2話目の投稿です。

【ディストゥルツィオーネ】。


 午後。


 ソフィア達は、【ディストゥルツィオーネ】の民達に医療行為と食料を提供し、壊れた機器類やインフラを修理した事で大いに感謝されました。

 ソフィア達に対する【ディストゥルツィオーネ】の民達の光点(マーカー)反応は真っ青になっています。

 ソフィアは【ディストゥルツィオーネ】の民達から異界の神としての絶大な信用を得ました。

 ウルスラが【ディストゥルツィオーネ】の庇護者である【上位悪魔(アーク・デーモン)】のチェルノボーグに一方的に喧嘩を売って交戦する……という小さなアクシデントはありましたが、双方に取り返しが付かない損害が出なかったので小さな問題です。


 チェルノボーグは現在ウルスラの【気絶・捕縛(スタン・バインド)】の拘束を解かれ、【ディストゥルツィオーネ】側の関係者として会談に同席していました。


 会談に先立ちソフィアは【アンサリング・ストーン】を取り出します。

【ディストゥルツィオーネ】の民達がソフィアを信用しているので嘘は吐かれないと予想されますが、チェルノボーグは欺瞞や詐術に長けた【悪魔(デーモン)】族なので念の為の措置でした。


「さてと、では改めて話を聞かせてもらおう。色々と訊きたい事はあるが順を追って……まずはヴァレーラよ、【微小機械(ナノ・マシン)】、または【微小機械(ナノ・マシン)】・ネットワーク、あるいは【微小機械(ナノ・マシン)】・パンデミックについて知り得る限りの事を教えて欲しいのじゃが?」

 ソフィアは訊ねます。


「はい。言い伝えによると、【微小機械(ナノ・マシン)】と呼ばれる目に見えない災厄によって【ドゥーム】全土が死の大地に変じてしまった事は存じております。ソフィア様のお話の流れから、それが【微小機械(ナノ・マシン)】・パンデミックというモノであろう事は理解致しました。しかし【微小機械(ナノ・マシン)】・ネットワークというモノについては、私達の言い伝えにはない言葉でございますので、それが何を意味するのかはわかりません」

【ディストゥルツィオーネ】評議会のヴァレーラ代表は答えました。


「ふむ。チェルノボーグは何か知らぬか?」

 ソフィアは【ディストゥルツィオーネ】の庇護者であるチェルノボーグに話を振ります。


 寿命を持たず永く現世に存在していた【上位悪魔(アーク・デーモン)】のチェルノボーグは、【ディストゥルツィオーネ】で最も多くの記憶と知識を持っていました。


「私もクアトロッタ・ヘプタメロンによって行われた【微小機械(ナノ・マシン)】の改造の結果、【微小機械(ナノ・マシン)】の暴走が発生し、【ドゥーム】から水と土壌と植物が失われた事しか知りません」

 チェルノボーグは端的に答えます。


「ふむ。では、チェルノボーグが【ディストゥルツィオーネ】の庇護者となった経緯を教えてもらいたいのじゃが?」


「私は【ディストゥルツィオーネ】の庇護者となって、未だ100年余りです。そもそもは、(いにしえ)に私と【盟約(コベナント)】を交わした者がおりました。その者こそがクアトロッタ・ヘプタメロン。クアトロッタは災厄……つまり【微小機械(ナノ・マシン)】の暴走を引き起こすキッカケとなる改造を行った科学者です。しかし私は【微小機械(ナノ・マシン)】の改造手法や災厄の経緯は良く知りません。私がクアトロッタによって呼び出された時には、既に災厄によって【ドゥーム】は半ば滅びていて、クアトロッタ自身も臨終の際にあり、私と【盟約(コベナント)】を結んだ直後クアトロッタは死んだので、私は彼女から災厄や、その他の情報について(ほとん)ど何も聞かされなかったのです」


「そうか。クアトロッタと【盟約(コベナント)】を結んだ其方が何故【ディストゥルツィオーネ】の庇護者となったのじゃ?」


「クアトロッタが私と【盟約(コベナント)】を行った経緯は、【生贄のトーテム】が関係しています。【トーテム】とは基本的に魔物などを周辺にスポーンさせるギミックを持つオブジェクトである事はご存知でしょうか?」


「うむ。我は【エルフヘイム】という場所で【トーテム】を用いた魔物の狩をした経験があるのじゃ」


「そうですか。仰る通り【トーテム】のギミックは魔物などを周辺にスポーンさせます。そして【トーテム】の種類によっては魔物以外もスポーンさせる事も可能なのです。私もクアトロッタによって【トーテム】のギミックによりスポーンしました。私が呼び出されたのは【生贄のトーテム】によってです。【生贄のトーテム】とは何らかの供物を捧げる事で、魔物や【知性体】をスポーンさせます。その供物の質によりスポーンする魔物や【知性体】は強力になります。クアトロッタは自らの生命を【生贄のトーテム】に捧げて、私をスポーンさせ、死ぬ直前に私と【盟約(コベナント)】を結びました。【盟約(コベナント)】の内容は……【ドゥーム】の人種を守れ……という内容。クアトロッタは自らの死後【盟約(コベナント)】が失効しないように、【生贄のトーテム】を私の依代に指定して、【生贄のトーテム】を所持する人種のコミュニティを守らせるように取り計らい、そして死にました。クアトロッタの最期の地は【ダウン・フォール】でした。その後私が依代とする【生贄のトーテム】はクアトロッタの意を汲む者達によって【ダウン・フォール】から持ち去られ隠されて流転して、最終的に【ディストゥルツィオーネ】に流れ付きました。従って、現在私は【ディストゥルツィオーネ】の人種を庇護しています」


「なるほど。チェルノボーグはクアトロッタの母親のメディア・ヘプタメロンなる者を知っておるか?」


「はい……存じております。メディア・ヘプタメロンは、一人娘のクアトロッタの死因が……私に取り殺されたからだ……と誤解したようで、私を滅殺し【生贄のトーテム】を破壊しようとしました。もちろん私はクアトロッタを取り殺した訳ではなく、クアトロッタは自らの生命を対価にして【生贄のトーテム】から私を呼び出したのですが、幾らその事を説明してもメディア・ヘプタメロンは信じません。彼女は私を娘の(かたき)と信じ、私を滅殺しようという執念を燃やしています。従って、私の依代である【生贄のトーテム】をクアトロッタの意を汲む者達が隠す必要があった訳です。当然ながら【ディストゥルツィオーネ】の者達は、【カラミータ】や、その同盟都市国家である【ロヴィーナ】に対して私と、その依代である【生贄のトーテム】の事を必死に隠しています。もしも私や【生贄のトーテム】の事をメディア・ヘプタメロンが知れば、娘を私に殺されたと誤解して復讐の怒りに燃える彼女は【ディストゥルツィオーネ】に攻めて来るでしょうからね」


「そうか……。どうやら話が繋がって来たようじゃ」

 ソフィアは、何となく【カラミータ】と【ロヴィーナ】の連合軍と【ディストゥルツィオーネ】が戦争になる理由がわかったような気がしました。


 つまり【カラミータ】の庇護者であるメディア・ヘプタメロンは、何らかの方法で【ディストゥルツィオーネ】にチェルノボーグと彼の依代である【生贄のトーテム】が存在する事を知り、誤解に基づく娘の復讐の為に、メディアが庇護する【カラミータ】と同盟都市の【ロヴィーナ】を巻き込んで戦争に打って出ると推定されます。

 だからこそ100年前に【ロヴィーナ】の外交使節団が【ディストゥルツィオーネ】を訪れた際に、【ディストゥルツィオーネ】側は【ロヴィーナ】の外交使節団を追い帰し、その後国交を絶たなければなりませんでした。

 国交があれば、いつか【ディストゥルツィオーネ】にチェルノボーグと彼の依代である【生贄のトーテム】がある事がメディア・ヘプタメロンに知られてしまうかもしれません。


「あ、あのう……」

【ロヴィーナ】のロズリン皇太王女が言いました。


「どうした?」

 ソフィアが訊ねます。


「私共【ロヴィーナ】が送った最後の外交使節団の報告によると……【ディストゥルツィオーネ】の民は、ボーグ神に供物として捧げる為に、全員が自らの耳や鼻を削ぎ落としていた……とありますが、それは【生贄のトーテム】に捧げる為だったのですか?」


「仰る通りです。【ディストゥルツィオーネ】の民達は、自らの耳や鼻……あるいは目や四肢などの肉体部位を【生贄のトーテム】の供物に捧げて、もう1体の【上位悪魔(アーク・デーモン)】を呼び出しました。それがベロボーグ。彼女もまた【ディストゥルツィオーネ】の庇護者となる事を期待されたのです。因みに供物として捧げられた肉体部位の欠損は、その後【治癒(ヒール)】によって順番に回復されています。その時に目や四肢など、直ちに生活に支障が出る部位の回復が優先され、鼻や耳など直ちに生活に支障が出ない部位の回復は後回しにされました。その時に偶然【ロヴィーナ】の外交使節団が来訪したので、彼らはその様子を目撃した訳です」

 チェルノボーグは説明しました。


「なるほど」

 ロズリン皇太王女は納得します。


「ん?話の本筋とは関係ないが、【ディストゥルツィオーネ】の民達が信仰するローカル宗教では、ベロボーグが姉神、チェルノボーグが弟神なのじゃろう?先に呼び出されたのはチェルノボーグじゃ。ならばチェルノボーグが兄で、ベロボーグが妹ではないのか?」

 ソフィアは素朴な疑問を口にしました。


「それは私達【悪魔(デーモン)】族には、【創造主(クリエイター)】によって創り出された順番というモノがございます。【悪魔(デーモン)】族は、その創り出された順番に意味を見出す習性があるのです。その順番でベロボーグが私より早く創り出されたので、彼女が姉で私が弟なのです。もちろん【知性体】には、生物のような遺伝子という概念がないので、遺伝学的な兄弟姉妹という意味とは異なりますが……」

 チェルノボーグが説明します。


「ふむふむ、なるほど。話の腰を折ってしまったな。で、ベロボーグ派は宗教的な教義の解釈の違いで分裂したと聞いておるのじゃが?」


「はい。私は【ディストゥルツィオーネ】の民ではないクアトロッタ・ヘプタメロンによって呼び出されました。対してベロボーグは【ディストゥルツィオーネ】の民達自身の痛みによって呼び出された個体です。また私は【生贄のトーテム】を依代としますが、ベロボーグと【盟約(コベナント)】を結んだのはベロボーグ派の領袖(りょうしゅう)である(さき)の【ディストゥルツィオーネ】の王ヴァンダービルト・ディストゥルツィオーネだからです。なので私よりベロボーグの方を上位の庇護者として敬う派閥が形成されました。ベロボーグ派は人数は少なかったのですが、しかし有力な【魔法使い(マジック・キャスター)】達が数多くベロボーグ派に所属していました。ヴァンダービルト王自身も、私やベロボーグには劣りますが【ディストゥルツィオーネ】の人種の中では最高の【魔法使い(マジック・キャスター)】の1人です。従ってヴァンダービルト王以下有力な【魔法使い(マジック・キャスター)】が出奔した現在、【ディストゥルツィオーネ】のシェルターに残った者達は脆弱な人種ばかりとなり、食糧となる魔物の狩が上手く行かなくなり、このように欠乏と飢餓に苦しんでいます」


「う〜む。何故【魔法使い(マジック・キャスター)】を数多く抱えて力があるベロボーグ派が出奔したのじゃ。力があるベロボーグ派が【ディストゥルツィオーネ】のシェルターを占有し、力なきチェルノボーグ派を追い出したり、あるいは隷属させたりしそうなモノじゃが?」


「それは、私がベロボーグやヴァンダービルト王達より圧倒的に強かったからです。ソフィア様の御見立て通りベロボーグ派は、現在【ディストゥルツィオーネ】に残る者達を力によって従えようとしましたが、私がそれを阻止しました。確かにベロボーグ派は、数多くの【魔法使い(マジック・キャスター)】を抱える派閥で人種の構成員達だけの力では、現在【ディストゥルツィオーネ】に残る者達を上回ります。しかし私は強大な力を持つ(いにしえ)の科学者であるクアトロッタ・ヘプタメロンの命を対価に呼び出されましたが、ベロボーグは数こそ多いとはいえ、所詮は肉体部位の供物によって呼び出されたに過ぎません。ベロボーグとヴァンダービルト王らは私に敗れ、【ディストゥルツィオーネ】から退去せざるを得なくなったのです」


「ふむ。確かにチェルノボーグは、ウルスラの【オリハルコン・ガーゴイル】を戦闘で圧倒したのじゃったな?普通の【上位悪魔(アーク・デーモン)】よりは遥かに強力じゃ」


「アタシのガーゴが〜……」

 ウルスラがガックリと肩を落としました。


「何だか申し訳ない事を致しました。しかし、私も身を守る為に必死だったのです」

 チェルノボーグは申し開きをします。


「うむ。チェルノボーグは正当防衛じゃから、気にする必要はない。ウルスラ、今回の件は其方の早とちりの所為(せい)で起きた結果じゃ。破壊された【オリハルコン・ガーゴイル】の事は諦めよ」

 ソフィアがウルスラに言いました。


「うわぁあ〜ん。ガーゴぉ……」

 ウルスラは泣き出します。


「まったく仕方がない奴じゃ……。しかし、チェルノボーグは、そのベロボーグ派を何故粛正したり拘束したりせなんだのじゃ?退去に留めるとは、随分と甘い裁定のような気もするが?」

 ソフィアは訊ねました。


「それは私はクアトロッタと……【ドゥーム】の人種を守れ……という【盟約(コベナント)】を結んでおりますので、【ディストゥルツィオーネ】の民達の防衛は出来ても、ベロボーグ派を害する事までは【盟約(コベナント)】に縛られて出来ません。ベロボーグ派も【ドゥーム】の人種には違いありませんので」

 チェルノボーグは説明します。


「それは道理じゃな。理解したのじゃ」


「ソフィア様。【ディストゥルツィオーネ】を追われたベロボーグ派が、チェルノボーグや【ディストゥルツィオーネ】に残った民達を恨み雪辱を期しているとするなら……この後、あまり好ましくない状況になると思われます」

 オラクルが言いました。


「ん?好ましくない状況とな?あっ、ヴァンダービルトらのベロボーグ派が、チェルノボーグを打倒して【ディストゥルツィオーネ】を奪還する為に援軍を頼むとするなら……」

 ソフィアはオラクルが言わんとする事を理解しました。


「はい。【ディストゥルツィオーネ】を庇護するチェルノボーグを打倒出来るような戦闘力を持つのは、【ロヴィーナ】軍の【強化(リーン・フォース)外骨格(・エクソスケルトン)】の軍団か、【カラミータ】の庇護者で【真祖】の【ヴァンパイア】であるメディア・ヘプタメロンです」


「ちっ……ヴァンダービルトらベロボーグ派は、メディア・ヘプタメロンが誤解によってチェルノボーグを娘のクアトロッタの(かたき)と憎み復讐を期しておる事を知っておる。むむむ、どうやら、これが【カラミータ】・【ロヴィーナ】連合軍と【ディストゥルツィオーネ】の戦争の開戦理由になると見て間違いないようじゃ。うむ、直ぐに【ロヴィーナ】と【カラミータ】に連絡し、仮にヴァンダービルトらベロボーグ派の連中から焚き付けられても軽挙妄動に走らぬように伝えるのじゃ。それから、ヴァンダービルトらベロボーグ派が現在何処(どこ)にいるか捜索する必要もある。戦争を止めるのじゃ」

 ソフィアは指示します。


 終末まで残り95日……。

お読み頂き、ありがとうございます。

もしも宜しければ、いいね、ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークをお願い致します。

活動報告、登場人物紹介&設定集もご確認下さると幸いでございます。


・・・


【お願い】

誤字報告をして下さる皆様、いつもありがとうございます。

心より感謝申し上げます。

誤字報告には、訂正箇所以外のご説明ご意見などは書き込まないようお願い致します。

ご意見ご質問などは、ご感想の方にお寄せ下さいませ。

何卒よろしくお願い申し上げます。

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