第102話。パラディーゾ北端の街ベルベトリア。
名前…グレモリー・グリモワール
種族…【ハイ・ヒューマン】
性別…女性
年齢…なし
職種…【大死霊術師】、【大魔導師】
魔法…多数
特性…【才能…死霊術、完全管制、複合職】
レベル…99
主人公がプライベートで作成し、遊んでいたアバターだったが、主人公の異世界転移と同時に異世界転移した。
主人公本来の人格から、社会人としての常識的な振る舞いの部分を全て失わせ、ダークサイドのロールプレイの部分が残ったので、人格はかなり傍若無人で直情即断傾向である。
全ダンジョン攻略を10周達成し、神格の守護獣を倒すなどの驚異的なゲーム・キャリアがあり、5年間世界ランキング1位に君臨したが、その後は隠遁しスロー・ライフに……しかし、裏では実質世界最強を維持していた。
火力・攻撃力は全ユーザー中屈指ながら、防御力は紙。
夕刻。
私達は、【ベルベトリア】に入街しました。
【ベルベトリア】の街は、廃墟そのもの。
【ベルベトリア】は、ゲームの世界観によって創造された基幹デザインの一部でした。
従って、街自体は、【創造主の魔法】で創られた、初期構造物である為、建物の傷みは全くありませんが、建物の内外は酷い荒れよう。
そして、もちろん、人種が1人も存在しません。
私達は、かつてメインストリートだった場所を歩きます。
路上に打ち捨てられたままの、何かの残骸……これは、自立駆動車ですね。
腐食が酷くて、元が何なのか、すぐにはわかりませんでした。
否が応にも、900年の時の流れがわかります。
たくさんの駆動車や、浮遊移動機などは、全て、破壊されて、コアが取り出されていました。
破壊の痕跡を見ると、どうやら人種による略奪などではありません。
おそらく、魔物が、外装を食い破り、コアである【魔法石】を食糧としてしまったのです。
「酷い有様じゃ……」
ソフィアは、言いました。
「そうだね」
時折、【超位】の魔物が出現するので、倒しながら歩きます。
魔物は、建物の影などに潜んで、奇襲を仕掛けてきますが、私とソフィアには、【マップ】機能があるので、全く意味をなしません。
静まり返る【ベルベトリア】の街は、無人の都市間定期飛空船と、都市内巡回飛空船だけが、不気味なほど規則正しく運行していました。
【ファヴニール】が張る【神位結界】を越えてから、【大密林】の道中とは劇的に違う事がありました。
端的に言えば、魔物が薄いのです。
【神位結界】の中にも魔物はいました。
しかし、数は、【大密林】より、圧倒的に少ないですね。
これは、【神位結界】は【中位】以下の魔物を通さず、また、内部に魔物をスポーンさせない為でした。
人種に飼い馴らされた騎竜・騎獣、または、【調伏】された従魔など、人種に対して敵性反応を示さない魔物は、その限りではありません。
【高位】以上の魔物は、【神位結界】でも、越境してしまいます。
しかし、【結界】の内部には魔物が湧かないので、内部に浸入した【高位】以上の魔物の餌がありません。
おそらく【神位結界】内部を住処としている魔物達は、【高位】以上の魔物で互いに食い合うか、【神位結界】の外に餌を獲りに行くのでしょう。
おかげで、私達は、【ベルベトリア】に入って、【超位】の魔物を狩った後、広域殲滅攻撃で、掃除を行う必要がありませんでした。
「ノヒトよ。あの、レストランの厨房に、【宝箱】があるのじゃ。きっと食在庫じゃ。中を見てみよう」
「ソフィア、それは泥棒がやる事ですよ」
ゲームマスターの業務上の必要な措置として、都市を全て灰燼に帰す事は認められていますが……都市内の他者の資産を着服する事は、ゲームマスターの遵守条項に違反します。
つまり、魔物の殲滅の為に広域殲滅魔法で消滅し尽くす事は出来ますが……どうせ消滅させるのだから同じ事……勿体ないから活用しよう……などと考えて着服する事は許されません。
「盗ったりしないのじゃ。ちょっと中身を覗くだけなのじゃ」
「それもダメです。ソフィアの私物が入った【宝物庫】の中身を知らない人が勝手に見たらどう思いますか?」
「それは嫌じゃ。なら、やらないのじゃ」
ソフィアは、自由奔放ですが、聞き分けは良い娘。
理を説いて諭せば、私の言う事は聞いてくれます。
私達は、襲撃して来る魔物を打ち払いながら、【ベルベトリア】の中央に位置する、塔に向かいました。
見上げると、高層建築がそそり立っています。
この世界では、各大陸ごとに特色がありますが、その1つに、都市を象徴する構造物の違いがありました。
基本的に、各大陸の守護竜を信仰するのは、神殿なのですが、その形状と名称が各大陸で異なるのです。
セントラル大陸では、神殿。
イースト大陸では、寺院。
ウエスト大陸では、聖堂。
サウス大陸では、塔。
ノース大陸では、聖域。
サウス大陸の守護竜……【ファヴニール】への信仰は、それぞれの都市中央に立つ塔を、その拠り所とするのです。
地上300mを超える塔の最上階に、【ファヴニール】への祈りを捧げる礼拝堂がありました。
私達は、【ベルベトリア】の塔に登ります。
【創造主の魔法】によって創られた初期構造物は、不壊・不滅の仕様なので、エレベーターも問題なく作動しました。
礼拝堂のあるフロアに降りて、転移座標を設置。
【アトランティーデ海洋国】に避難している旧【パラディーゾ】の聖職者を継ぐ方々から、私は、【パラディーゾ】を始めとするサウス大陸各都市の塔に転移魔法陣を構築する許可をもらっていました。
守護竜を信仰する聖職者の方々は、基本的に【調停者】と【神竜】の頼みは、断りません。
私もソフィアも、彼らが信仰する、神の側、の存在なのですから。
「ノヒトよ。ここは、大陸中央国家の四方にある主要都市の神殿……あ、いや塔じゃから、チュートリアルが行えるのじゃ」
「そうだね」
「オラクルは、チュートリアルに参加させられぬのか?」
「残念ながら、非生物は、チュートリアルに参加出来ないよ」
「試してみるのじゃ」
「無理だよ。そういう設定だからね」
「一回だけ、やってみて欲しいのじゃ」
「一回だけだよ」
私は、礼拝堂のチュートリアル用の魔法陣の上に、オラクルを立たせて、イベントの発動キーである守護竜の彫像を動かしてあげました。
チュートリアル用の魔法陣は、発動を示す光を発していますが、オラクルはチュートリアルのイベント空間には転移しません。
「壊れているのではないのか?」
ソフィアは、チュートリアル用の魔法陣に近付きます。
「あ、ソフィア……」
ソフィアは、チュートリアルの魔法陣に触れ、姿が掻き消えました。
・・・
1秒後。
「あやつめ……またしても、我に【神竜の咆哮】を吐きおって……」
ソフィアが、【センチュリオン】以来2度目のチュートリアルから帰還しました。
チュートリアルは、何度でも参加出来ますが、2回目以降は、何も【贈物】はもらえません。
操作方法を覚えてしまったユーザーにとっては、チュートリアルは時間の無駄でしかないのです。
リセマラを何度も繰り返すユーザーはいますが、同一キャラで、2度目のチュートリアルに挑む人は、ほとんどいません。
「ソフィア、遊んでいないで下さい。夕ご飯を食べに戻りますよ」
「ノヒトよ。今回は、【クワイタス】と【神竜砲】があったおかげで、我の圧勝じゃった。楽勝じゃったぞ」
チュートリアルに参加すると、3回、相手を変えて模擬戦闘を行います。
模擬戦闘の、最後の相手は、自分自身の能力をコピーした相手。
とはいえ、能力をコピーしただけの存在で、戦闘AIは低レベルなので、頭を使って戦えば、倒せない相手ではありません。
ソフィアは、楽勝、と言っていますが、相当苦戦したはずです。
何故それがわかるかと言うと、チュートリアルの中の1日は、正確に、外の世界の1秒。
ソフィアは、チュートリアルの魔法陣に乗って強制転移してから、1秒後に戻って来ました。
つまり、ソフィアは、チュートリアルで、自分のコピーと丸1日近くは、戦っていたはずです。
それをソフィアに追及したりはしません。
私は、空気が読める大人ですので……。
ソフィアは、【センチュリオン】で自分自身のコピーと戦った時は、丸3日の死闘を繰り広げたのだそうです。
その時と比較すれば、楽勝だったのは、間違いないのでしょう。
相手は、戦闘AIが未熟だといえ、【神竜】には、違いないのですしね。
私達は、【アトランティーデ海洋国】の千年要塞に【転移】で向かいました。
・・・
千年要塞。
もう、日暮れでした。
ソフィアには、時々、食べ物を与えていましたので、空腹を訴えて来る事はありませんでしたが、夕食を待たせているので……早く早く、と急かして来ます。
冒険者ギルド支部で、昨日の買取査定金額を確認しました。
おっふ……凄い金額です。
私は、255万金貨(2550億円相当)。
ソフィアは、144万金貨(1440億円相当)。
そのまま、買取をしてもらい、入金を確認。
昨日の狩の獲物からは既にコアを取り出して、私とソフィアが確保していました。
解体後の肉は、【ドラゴニーア】の騎竜繁用施設に送ってもらう事にしています。
送料は、買取金額から差し引いてありました。
これで、マリオネッタ工房に立て替えてもらっている100万金貨(1千億円相当)の借金が返済出来ますよ。
すぐに、銀行ギルドの出張所から送金して借金を完済しておきます。
これで、差し引き、私の保有現金は、158万金貨(1580億円相当)となりました。
続けて、私とソフィアの、今日の獲物を買取依頼します。
私は、【超位】の魔物……185頭。
ソフィアは、【超位】の魔物……207頭。
私の場合、狩をした時間が倍になって、狩った獲物の数も倍になっているので、この数は順当ですが、ソフィアは……。
前日の4倍に増えています。
狩の効率が昨日までの2倍に高まった、という事でした。
これは、【クワイタス】と【神竜砲】の使用による効果でしょう。
ソフィアは、【クワイタス】により近接戦闘力が上がり、【神竜砲】により遠隔対個体戦闘力が上がり、広域殲滅力は、元より世界最強です。
全く、付け入る隙のない、最強の存在となった、と言えるでしょう。
もちろん、私というチートな存在は除いて、ですが……。
・・・
私達が、【アトランティーデ】の王城に戻ろうとしていると、聖衣を纏った集団が現れました。
【パラディーゾ】の聖職者達です。
彼らは、【パラディーゾ】に連れて行って欲しい、と懇願しました。
「端的に言って、足手まといです」
私は、拒否します。
「うむ。邪魔、以外の何物でもないのじゃ」
ソフィアも突き放しました。
「仮に死んでも構わないので、何卒、お願い申し上げます〜」
聖職者達は、叩頭いて懇願します。
「ほう……。連れて行って、あなた方に死なれたら、私の気分が悪いのですよ。私が気分を害しても、そんな事は、一切構わない、と?一応、私は【神格者】。あなた方からは、配慮される存在、のはずですが……。その私に、あなた方は、意図的に迷惑をかけ、不愉快な思いをさせたい、と、そう仰る訳ですね?」
私は、最大限の嫌味を言いました。
「そうじゃ。そういう思慮が働かないのならば、我が【ファヴニール】に言って、其方達を全員、使徒の任務と権能から排除してやるのじゃ。それでも良いのじゃな?」
ソフィアは、もはや直接的に、脅迫をします。
「お許し下さいませ。私どもが間違っておりました」
聖職者達は、額ずいて言いました。
「うむ。聖職者たる者、私欲ではなく公益によって動かねばならぬ。他者の迷惑を一顧だにしない信仰心などというものは、我も【ファヴニール】も、絶対に是認しないのじゃ。それを心せよ」
「ははーーっ、畏まりました」
聖職者達は、平伏して言います。
まあ、気持ちはわからないでも、ありません。
自分達が信仰する神が復活間近という状況なのですから。
しかし、邪魔な者は、邪魔なのです。
せっかくのヌルゲーが、脆弱な聖職者達を守りながら侵攻すれば鬼畜レベルの難易度になってしまいますからね。
死んでも構わない、などと言われたところで、私達は、聖職者達を放置する事は出来ません。
過剰なハンデキャップになってしまいます。
現時点では、とても連れて行く事は出来ませんよ。
「もう、しばらく、お待ちなさい。すぐ、【ファヴニール】は、復活するでしょうから」
私は、聖職者達に告げます。
私達は、王都【アトランティーデ】の王城に【転移】しました。
・・・
夕食。
ソフィアの武勇伝は、止まりません。
王家の面々は、喝采して激賞しています。
ソフィアは、フンスッ、と胸を張り過ぎて、もはや後ろに仰け反りそうになっていました。
まあ、良いでしょう。
今日1日のソフィアの戦果は、207頭の【超位】の魔物に、無数の【高位】の魔物。
間違いなく、誇るべきモノですので。
「【パラディーゾ】に連なる聖職者達が、ご迷惑を、おかけした、とか。申し訳ありません」
ゴトフリード王が頭を下げました。
「陛下が謝る類の問題では、ありませんよ」
「そうじゃ。我が、キツく言っておいたから、無茶な事は、せんじゃろう」
「ありがとうございます」
ゴトフリード王は、言います。
王というのは、大変ですね。
国家の全ての尻拭いをしなければいけません。
あらゆる事の責任を取る、という事が、王権と表裏一体となった、王の職責なのですから。
私なら、絶対に耐えられません。
・・・
夕食後。
ソフィアは、オラクルとディエチに世話をされながら、入浴。
何が楽しいのか、浴室からは、キャッキャ、と笑うソフィアの声が漏れて来ます。
私は、マリオネッタ工房の会計責任者であるイヴェットと、スマホで話し、間違いなく、私からの送金が行われた、という報告を受けました。
これで、借金から解放されましたね。
良かったです。
それから、ファミリアーレからのメールに返信。
みんな、頑張っているようです。
ファミリアーレのメンバーには、軍や衛士機構からの、スカウト攻勢が来ている、との事。
モルガーナは、竜騎士団への入団が、ほぼ内定。
良い事です。
しかし、私は、まだ、弟子達の指導を終わらせるつもりは、ありません。
全員、最低1年間は、みっちり仕込む予定です。
中途半端な指導で弟子を手放して、仮に彼らが戦死や殉職をしてしまったら、私は自分を絶対に許せないでしょう。
・・・
ソフィアが、お風呂から上がり、ディエチから牛乳をもらって、一気飲み。
「ぷはーっ、この一杯の為に働いておるのじゃ」
ソフィアは、卵型クッションを持って、ベッドに潜り込みました。
今日は、忘れずに、オラクルのバックアップ・コアへの記憶の上書きを行なって後……ソフィアは、すぐに、寝息を立て始めます。
私は、内職。
飛空巡航艦のクルーとする【自動人形】・シグニチャー・エディションを製造しなければいけません。
オラクルが手伝ってくれるので、どんどん、完成して行きました。
オラクルは、【高位】の【加工】が使えるので、本当に助かります。
時折、モゾモゾと動く、ソフィアの様子を微笑ましく思いながら、私とオラクルは、一晩中、作業を続けました。
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