第1019話。へっぽこ軍団の終末世界旅行…20…ウルスラ、危うし。
【ディストゥルツィオーネ】のシェルター内、最下層の通路。
「ハイヨーッ!トライアンフッ!」
「にゃ〜」
ウルスラは【チェシャー猫】のトライアンフの背中に跨って【ディストゥルツィオーネ】のシェルター内通路を疾走していました。
トライアンフに走らせるよりウルスラが自分の翅で飛んだ方が速いのですが、ウルスラは【使い魔】のトライアンフを得て以来、基本的にトライアンフの背中に乗って移動します。
ウルスラは、ソフィアから指示されて【ディストゥルツィオーネ】のシェルター内を探索していました。
探索と言っても、特段何か探すべきモノがあるという訳ではありません。
ウルスラ以外の【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】のメンバーは、現在それぞれの作業で忙しいのでウルスラの面倒を看ている暇がないのです。
なので、ソフィアが適当な口実を作って、ウルスラを忙しい作業場から体良く追い払っただけでした。
いつもはフリーダムに振る舞っていても、【神格者】として……やる時はやる……ソフィアと違って、ウルスラは常にマイペースなので、チームで分担・協力してタスクを処理するような場合、正直言ってウルスラは役に立たない……というか邪魔なのです。
しかしソフィアから……この任務は、我が股肱の腹心ウルスラにしか任せられぬ大役じゃ。頼むぞ……と言われたウルスラはノリノリでした。
「う〜ん?何か妖しいのが居るんだよね〜……。【認識阻害】をしているけれど、アタシのサーチ能力は誤魔化せないんだから〜。アッチだよ、トライアンフ」
ウルスラは何かを見付けたようです。
「にゃ〜」
・・・
「この部屋の中に何か居る。何だろう?う〜ん、【悪霊】っぽいんだけれど、瘴気反応が薄いんだよね?きっと、まだ力が弱い【妖鬼】とかだね。楽勝、楽勝。ブッ飛ばしてソフィア様のところに連れて行ったら、きっと褒められるね。ウルスラよ、其方は最高の【妖精】じゃ。凄い、偉い、可愛いってね」
ウルスラは言いました。
「んにゃ……」
「ソフィア様に報告した方が良いって?大丈夫だよ。瘴気反応が弱いって事は、この【妖鬼】は弱い。アタシは、【妖精女王】だよ。【知性体】同士の戦いでは位階差は絶対なんだから。【妖鬼】なんかの攻撃は、アタシなら全て【抵抗】しちゃうよ」
「にゃ……」
「平気、平気。もう、トライアンフは心配性だな〜。行くよ〜っ!」
ウルスラは魔法触媒の【テュルソス】を【収納】から取り出して言いました。
「にゃ〜っ!」
トライアンフは施錠された扉に飛び込みます。
扉に激突すると思った刹那……ウルスラとトライアンフは一瞬だけ受肉している【物質的肉体】から、【霊体】の状態に変わり扉を通り抜けました。
・・・
【ディストゥルツィオーネ】のシェルター内。
とある部屋。
「おや?【妖精】か?ほお、これは珍しい」
黒い影のようなモノが、ウルスラ達を見て言います。
「えっ?【妖鬼】じゃない?【上位悪魔】?ヤッベ〜っ……。お、お前は、ここで何をしている!?」
ウルスラは予想外の強敵と【遭遇】してしまった事に戸惑いながら言いました。
「いかにも私は【上位悪魔】のチェルノボーグです。あなたこそ、こんな場所に何をしに来たのですか?ここには強力な【結界】が張ってある筈なのですが?」
チェルノボーグは訊ねます。
「お前の弱っち〜【結界】なんか、この【妖精女王】のチョー強いアタシに掛かれば、これもんで、こうっ!なんだよ」
ウルスラはシャドー・ボクシングの真似をしながら言いました。
「【妖精女王】ですって!?ほう、これは面白いモノに出会えましたね。永く生きるものですね。ふふふ……」
「何を笑ってんのさ。随分と余裕をかましちゃってくれるじゃないの。お前なんか、アタシが、これもんで、こうして倒してやんよ」
ウルスラはシャドー・キック・ボクシングをして見せます。
「おやおや……【妖精】族という種族は争いを好まないと記憶していたのですが、【妖精女王】は随分と好戦的なのですね?それに私は、あなたに倒されるような事をした覚えがないのですが?」
チェルノボーグは泰然自若という態度で訊ねました。
「うるさいっ!お前は【上位悪魔】でしょ?【悪魔】族って言えば、人種を騙したり唆して悪事を働かせたり、人種に取り憑いて発狂させたり殺したりするモンじゃないか。この【ディストゥルツィオーネ】はソフィア様が救うと決めた【ドゥーム】の一部なんだよ。だから【ドゥーム】の人種の敵であるお前は、ソフィア様の敵。ソフィア様の敵はアタシの敵なの。抵抗を止めて大人しく無力化されなさい」
ウルスラはチェルノボーグに……ビシッ……と指を差して言います。
「何か根本的な誤解があるようですね?あなたは私を【ディストゥルツィオーネ】の敵だと決め付けていますが、私は古の【盟約】に従って【ディストゥルツィオーネ】の人種を庇護しています。それに【悪魔】にも個体差があり、必ずしも人種を害する存在という訳ではありません。まあ、私のように自らの意思で人種を庇護する【悪魔】というのは相当珍しい事は否定しませんが。私は過去に人種を害した事も、また今後害するつもりもありません。【ディストゥルツィオーネ】の人種達が、私の依代である【生贄のトーテム】に供物を捧げてくれているので、私はその対価として彼らを守っています。従って私は、あなたに攻撃されるような身に覚えがありませんし、戦いたくもありませんが……もしも、あなたが攻撃を仕掛けて来るというのでしたら致し方ありません。不本意ながら自衛の為に手向かいしますよ」
「アタシは、そんな口車には騙されないよ。【悪魔】てのは生粋の嘘付きなんだからね。手向かいするだって?ふんっ、アタシは【妖精女王】で元からチョー強いけど、今はソフィア様とパスが繋がって膨大な魔力を貰ってるから、もっと強くなっているいるんだよ。お前なんか、アタシのギャラクティック・アクセル・シュートでイチコロだからね。へっへ〜んだ。バ〜カ、バ〜カ、アッカンベ〜だ」
「そうですか……全く話が通じないという訳ですね?あなたと戦う理由はありませんし、その意義も見出せませんが、かと言って無抵抗にやられるつもりもありません。私にも、やらなければならない事があるのです。致し方ありませんね。ならば、お相手しましょう。手加減はしますが、もしも存在が保てないようなダメージを受けてしまっても、あなたから仕掛けて来たのですから、恨まないで下さいね」
「問答無用っ!これでも食らえ。出よ!ミネルヴァ様から貸与された最強ユニット……【オリハルコン・ガーゴイル】……その名もガーゴだっ!」
ウルスラは【収納】から【オリハルコン・ガーゴイル】を取り出しました。
「ほう、【超位超絶級ユニット】ですか?なるほど、強力な【魔導兵器】を所持していたから強気だったのですね。これは私も手加減をしていたら危なそうです。高い位階の【妖精】なら消滅しても復活出来るのでしょうから、遠慮なく思い切りやらせてもらいますよ」
「ガーゴ。行けーーっ!」
ウルスラは【オリハルコン・ガーゴイル】に【強化バフ】を掛けて命じます。
キュイィィーーン……カッ!
【オリハルコン・ガーゴイル】は口から【超位級】の【光魔法】である【光子砲】を放ちました。
「【融解崩落】」
チェルノボーグは【超位級】の【闇魔法】を放ち迎撃します。
【超位級】の魔法がぶつかり合い相殺されました。
キュイィィーーン……。
【オリハルコン・ガーゴイル】が2発目を放とうと魔力を収束させていると……。
「【融解崩落】」
チェルノボーグが先に詠唱を完了して魔法を放ちます。
ドガーーンッ!
【オリハルコン・ガーゴイル】のボディが破壊されました。
【融解崩落】のダメージと、【オリハルコン・ガーゴイル】自身の【光子砲】の暴発による自爆ダメージが入り、【オリハルコン・ガーゴイル】は半壊しています。
キュッ……キュイィィーー……。
半ば壊れながらも【オリハルコン・ガーゴイル】は三度魔力を収束しました。
「【融解崩落】」
また、チェルノボーグの詠唱の方が先に完了します。
ドガーーンッ!
ズズズズ……。
【オリハルコン・ガーゴイル】はグズグズに溶けて崩れ落ちました。
そして、チェルノボーグの【融解崩落】の余波は、ウルスラとトライアンフにも及んでいます。
トライアンフは床に爪を立てて踏ん張っていました。
しかし、ウルスラの姿はありません。
消滅……。
「【妖精】の方は死にましたが、この猫の【スピリット】は私の魔法を耐えましたか?それも無傷のようです。これは驚きましたね……。【鑑定】。ほう……当たり判定なし……ですか?そんな特性を持つ【スピリット】がいるのですね?知りませんでした。猫の【スピリット】……トライアンフと言いましたか?あなたの主人は消滅しました。私は、あなたと戦うつもりはありません。あなたは当たり判定なしの無敵の【知性体】のようですが、近接攻撃力は低く魔法も全く使えない。つまり【上位悪魔】である私に対して有効な攻撃手段がありませんね?私は、あなたを閉じ込めておくくらいの魔法は使えますよ。ですから、あなたは、このまま大人しく主人が復活する場所にお帰りなさい」
チェルノボーグはトライアンフに話し掛けました。
「にゃ〜」
トライアンフはチェルノボーグに向かって不敵に笑います。
次の瞬間……トライアンフが開いた口の中からウルスラが現れました。
「【気絶・捕縛】!」
トライアンフの口の中にいたウルスラが起死回生の最強技を放ちます。
「ぐっあ……」
チェルノボーグは拘束魔法を受けて瞬時に無力化されました。
「良しっ!作戦通り。どうだ見たか!バ〜カ、バ〜カ」
ウルスラは言います。
作戦通りというのは事実ではありません。
実際には【オリハルコン・ガーゴイル】が破壊され、その余波を受けてウルスラが消滅しそうになった瞬間に、トライアンフが自らの判断でウルスラを口の中に入れて守ったのです。
魔法が使えないトライアンフは猫程度の攻撃力しかありませんが、元来【チェシャー猫】は環境NPCなので……当たり判定がない……という仕様がありました。
つまりトライアンフの口の中は無敵ゾーンなのです。
そしてウルスラの【気絶・捕縛】は至近魔法。
【神格者】以外には、ほぼ【抵抗】不能という強力な拘束魔法です。
しかし遠隔攻撃ではないので、【気絶・捕縛】を行使するには脆弱なウルスラが敵に肉薄しなければならず、使い勝手が良くありません。
しかしチェルノボーグが……ウルスラが消滅して、残ったのは攻撃力が皆無のトライアンフだけ……と油断して近付いて来たので、標的が自分から寄って来てくれた状況。
本来ならウルスラには使い難い【気絶・捕縛】が刺さるシチュエーションを、チェルノボーグが自ら御膳立てしてくれました。
……という事が午前中にあったのです。
・・・
【ディストゥルツィオーネ】評議会・議場。
昼食後。
「で、ウルスラよ。ともかく無事であったのは、何よりじゃったが……其方は何故このチェルノボーグと交戦に及んだのじゃ?」
ソフィアは質問しました。
「え?何故って【上位悪魔】だからだよ」
ウルスラは答えます。
「うむ……。まあ、【妖精】族と【悪魔】族は天敵じゃから止むを得ぬが……。ウルスラは、こやつの光点反応を【マップ】で確認したか?」
「ううん。してないよ」
「はあ……。ウルスラよ、【悪魔】じゃからという理由だけで、いきなり攻撃を仕掛けるのは些か性急が過ぎるのじゃ。【マップ】を確認すれば、このチェルノボーグなる【上位悪魔】が……ウルスラに対して敵意も害意もない……と、わかった筈じゃ。稀にじゃが、【悪魔】族など【悪霊】の中にも人種と【盟約】を結んでおって【敵性個体】ではない者もおる。じゃから、正当な理由もなく攻撃を仕掛けるのは過剰じゃ。【世界の理】に反する可能性もある。ノヒトにゲンコツをされるかもしれぬぞ。その時には我は庇ってやらぬからな」
「えっ?ノヒト様のゲンコツ?あわわわ……」
ウルスラは……ナカノヒトから怒られるかもしれない……と知り青褪めました。
「まあ、今回は、このチェルノボーグを滅殺した訳ではなく、単に拘束しただけじゃから大事にはならぬじゃろうが、以後気を付けるのじゃ」
「うん。わかった。ならノヒト様には内緒にしておいてくれる?」
ウルスラは頷きます。
「いや、まあ、隠蔽したと思われるとノヒトのゲンコツが我にも飛んで来るやもしれぬ。じゃから、我はウルスラがチェルノボーグに無体を働いた事を丸っと一切合切知らなかった事にするのじゃ。我は何も聞いておらぬ。皆の者も良いな?」
ソフィアは【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】の面々に向かって言いました。
一同は肯定も否定もせず苦笑いをして誤魔化します。
ソフィアと口裏を合わせても、ゲームマスターのナカノヒトがその気になって調べれば隠し果せる筈もありません。
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