第1016話。へっぽこ軍団の終末世界旅行…17…オラクルとヴィクトーリアの密談。
【カラミータ】。
夕食後。
ソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は、【カラミータ】のシドニー・カラミータ女王から充てがわれた一室に【避難小屋】を置き、就寝の準備をしていました。
既に各自がシャワーなどを浴びて、ソフィアは着ぐるみパジャマに着替え、オラクルとヴィクトーリアの【バック・アップ・コア】への記憶のセーブも完了し、後は眠るだけです。
ソフィアがベッドを占有しているので、ティアは床に寝具を敷いて横になり、ウルスラは棚の上に小さなミニチュア天蓋付きベッドを置いて既に眠っていました。
トライアンフはウルスラの横で香箱座りをして眠っています。
オラクルとヴィクトーリアは立ったまま、【スパイ・ドローン】の【キー・ホール】を制御して情報収集を行う他、様々な作業なども並行して行っていました。
人化を取ったソフィアは【人】の5歳児見当のサイズなので、【避難小屋】据付けの大人サイズのベッドならば、ソフィアとウルスラとティアでシェアして眠る事は可能ですが、壊滅的な寝相のソフィアに押し潰されないようにソフィアとの添い寝は避けた方が無難です。
「子供達が喜んでくれて良かったのじゃ……」
ソフィアは誰に聞かせるでもなく呟きました。
夕食時にソフィア達が【カラミータ】の子供達に配ったスイーツは大変喜ばれたのです。
普段食べられない甘い物は、ほとんど娯楽と呼べるモノがない【ドゥーム】の民にとっては、この上ない贅沢でした。
【カラミータ】や【ロヴィーナ】は、超古代から受け継いだ相応に優れた科学技術や産業インフラなどもあり、その気になればオラクルとヴィクトーリアが行ったのと同じ方法でスイーツも生産出来る筈です。
【ロヴィーナ】や【カラミータ】には工場で化学合成されたデンプンからブドウ糖を生成する事が可能ですし、またアミノ酸類から合成された人工甘味料もありました。
ゼラチンは【サンド・ワーム】などの魔物の肉から取れ、卵や乳も鶏卵や牛乳は入手が困難だとしても、【コカトリス】など卵生の魔物や【パイア】など哺乳類系の魔物が【スポーン】します。
それらの材料からマシュマロやゼリーやプリンやアイスクリームだって作れました。
しかし、滅亡の淵にある【ドゥーム】では、スイーツなどは贅沢品に分類されています。
【ロヴィーナ】や【カラミータ】では配給品や購入可能な食材を使ってスイーツを各家庭で作る事もありました。
そういうホーム・メイドのスイーツは家庭で消費されたり、あるいは他の家庭で作られた食べ物や衣類や日用品などと物々交換される事もあります。
こういう自分達の家庭への配給品の枠内で物資をやり繰りして、生活の為に細々とした経済活動を行う程度なら誰も文句は言いません。
その結果、配給品が足りなくなっても自己責任だからです。
しかし【ロヴィーナ】や【カラミータ】の指導部が公的インフラである工場を動かしてまで生活必需品ではないスイーツが生産される事はありません。
公共の工場で、そんなモノを作る余裕があるなら、生存に直接関係する生産を行うべきだ……と考える人達が大半だからです。
なので、やろうと思えば出来ますが、【ロヴィーナ】や【カラミータ】ではソフィア達が提供したレベルの美味しいスイーツ類は生産されていません。
「良うございましたね……」
オラクルはソフィアに相槌を打ちました。
……が、その時点では、ソフィアは寝落ちしています。
オラクルは、そっと上掛けの毛布をソフィアに掛けてやり……お休みなさいませ、最愛なる我が君……と声を掛けました。
オラクルとヴィクトーリアにとって従者としての最優先業務は、ソフィアとウルスラの身の回りの世話です。
なのでソフィアとウルスラが起きている時は、何らかの任務を指示されていない限り、全力で主人達の世話をするのがオラクルとヴィクトーリアの役目でした。
しかしソフィアとウルスラが眠っている時は、特別何か任務を与えられていなければ、オラクルとヴィクトーリアは自分達の為に時間を使えます。
なのでオラクルとヴィクトーリアは、必要な作業を行いながら並行して深い思考に入りました。
オラクルとヴィクトーリアの演算リソースを同期して思考すれば、別々に行うより効率的な情報処理が行えるからでした。
ヴィクトーリア……グレモリー・グリモワール様によって書かれた……【ゾンビ】でもわかる【秘跡】攻略法(第9巻)……にデータ・アクセスしなさい。
オラクルは【念話】で指示します。
了解。
ヴィクトーリアは【念話】で応じました。
グレモリー・グリモワールが900年前の【神話の時代】に刊行した……百科事典・【ゾンビ】でもわかるシリーズ……は膨大な巻数を誇り、全ての巻が独立した専門書でありながら、全集を横断的に活用すれば、正に……世界の英知……とも呼べる網羅的データ・ベースとしても活用出来ます。
オラクルとヴィクトーリアは、この【ゾンビ】でもわかるシリーズの原書版を全て【竜城】のアーカイブからコピーして記憶していました。
最近では、何か必要な情報があれば世界の管理者であるミネルヴァに問えば正解を教えてもらえるので、【ゾンビ】でもわかるシリーズを調べる事は少なくなっていましたが、現在は【オーバー・ワールド】と隔絶していて連絡が取れなくなっているので、現在【ゾンビ】でもわかるシリーズは、オラクルとヴィクトーリアが最も頼りに出来る参照資料となっています。
【ゾンビ】でもわかる【秘跡】攻略法(第9巻)。
(本書は【秘跡】のネタバレを含むので、ご注意下さい)
【箱庭の書】について。
【箱庭の書】が発動キーとなった【秘跡】は全て【超位超絶級】の難易度なので、レベルが低いパーティは視認性がある魔力や光の粒子によるエフェクトを発する怪しい本を見付けたらページを開かない事をお勧めする。
もしも【箱庭の書】を入手して、当面攻略する予定がなければ、安全の為にオークションで売っ払ってしまうのが無難だ。
単に【秘跡】内で獲得が期待出来るお宝の価値だけではなく、珍しい書物としての価値でユーザーやNPCのコレクターが高額で競り落してくれるだろう。
中略。
【箱庭の書】の【秘跡】の中に【ポスト・アポカリプティック・ワールド】というシナリオが複数ある。
これらは独特の世紀末的世界観が楽しめるシナリオだ。
有名な……【ゾンビ】・パンデミック……のシナリオに未挑戦なら一度は試してみて欲しい。
これは傑作との呼び声も高い名作シナリオだ。
中略。
【ポスト・アポカリプティック・ワールド】。
砂の世界【ドゥーム・マップ】について。
【ドゥーム】のクリア条件はパーティのレベルや人数によって変動する。
低い難易度帯では、シナリオ終盤で起きる【カラミータ】・【ロヴィーナ】連合軍と【ディストゥルツィオーネ】軍による戦争で、どちらかの陣営に付いて戦って味方を勝利に導けば良い。
その時連合軍側に立てばラス・ボスはチェルノボーグという【上位悪魔】となり、【ディストゥルツィオーネ】側に立てばラス・ボスはメディア・ヘプタメロンだ。
メディア・ヘプタメロンは【ドゥーム・マップ】の【秘跡の導き手】として登場するが、チャプター……【フレッシュ・キューブ】……の分岐で、【ディストゥルツィオーネ】側に同情的な会話選択をすると、以後メディア・ヘプタメロンとは敵対する。
メディア・ヘプタメロンは……【太陽を呼び戻す魔血石】……という天候回復系の希少な【神の遺物】アイテムを持つので、これが欲しければ、チャプター……【太陽を呼び戻す魔血石】……の分岐で……【カラミータ】・【ロヴィーナ】連合軍側に味方する……とメディア・ヘプタメロンに約束すれば、援軍のお礼としてメディア・ヘプタメロンから貰えるが、その上で【ディストゥルツィオーネ】側で戦いたければ【太陽を呼び戻す魔血石】を手に入れた後に裏切れば良い。
裏切りにより【善行値】が大幅に下がるが、【太陽を呼び戻す魔血石】は、この【秘跡】以外では守護竜降臨イベントでしか入手出来ない希少で有用なアイテムなので、【善行値】を犠牲にしても入手する価値があるだろう。
【善行値】は後から善行を積み重ねれば回復可能だ。
【カラミータ】・【ロヴィーナ】連合軍側で戦いたいなら、裏切りによる【善行値】マイナスのペナルティは起こらない。
チェルノボーグも【生贄のトーテム】という【神の遺物】アイテムを持ち、プレイヤー・パーティが味方するか、味方すると騙して裏切れば入手可能となる。
しかし【生贄のトーテム】は【遺跡】などでも手に入るので、ここでしか入手出来ない訳ではない。
中略。
高い難易度帯では、そもそも【カラミータ】・【ロヴィーナ】連合軍と【ディストゥルツィオーネ】との戦争を回避する事が【秘跡】のクリア条件となる。
方法は様々あるが、手っ取り早いのは両陣営の最強戦力である【カラミータ】のメディア・ヘプタメロンと、【ディストゥルツィオーネ】のチェルノボーグを、プレイヤー・パーティが両方倒してしまえば良い。
ただし、これは所謂バッド・エンドなので、【太陽を呼び戻す魔血石】も【生贄のトーテム】も手に入らなくなるので注意が必要だ。
正攻法で攻略するなら、【ダウン・フォール】最深部にあるクアトロッタ・ヘプタメロンの【微小機械】研究所から設備を【カラミータ】に運んで移築し、修理して【太陽炉】に接続し、【微小機械】を改造して【ドゥーム】の環境回復を行わせて、【カラミータ】・【ロヴィーナ】連合軍と【ディストゥルツィオーネ】に戦争をする意味と目的を失わせれば良い。
しかし、【微小機械】に環境回復をさせる改造を施すには……オリハルコン数百kg、ミスリル数百kg、【ダンジョン・コア】級の【魔法石】4つ、【賢者の石】4つ……などの物資を【オーバー・ワールド】から持ち込み、最上位職の生産系の【職種】持ちがいなければ詰む。
【ドゥーム・マップ】ではオリハルコンもミスリルも【ダンジョン・コア】も【賢者の石】も入手不可能だ。
高難易度帯の【ドゥーム・マップ】に挑んで上記の物資がなければクリア不可能なので、【ドゥーム】内で高価なアイテムや希少素材などを粗方漁ったら、諦めてバッド・エンドを選択するか、パーティ全員で自殺するしかない。
その際【ドゥーム・マップ】に5箇所ある古代都市の【都市コア】から冒険者ギルドの情報インフラにアクセス可能なので、忘れずに入手したアイテムや物資を所有者登録しておく事。
そうすれば【ドゥーム・マップ】で入手したアイテムや物資は死亡時にロストしない。
中略。
上記2パターンのシナリオの他に特定条件を満たした場合にのみ発生するスペシャル・シナリオがある。
これは歴史上誰も攻略した事がないシナリオなので、現行版では攻略法を記せない事を了解願いたい。
現在……【ゾンビ】でもわかるシリーズ最新版……で【ドゥーム・マップ】スペシャル・シナリオの詳細をお伝え出来るよう鋭意取材中なので、乞うご期待である。
(本書【ゾンビ】でもわかる【秘跡】攻略法(第9巻)の現行版を既に購入済であれば、識別コードの入力で1冊に限り最新改訂版を特別割引価格で購入可能です)
【ドゥーム・マップ】の全3パターンの区別は、【スポーン】する魔物の種類で判別可能だ。
基本的に砂の世界【ドゥーム】では、野良の魔物の最上位個体は【砂漠・ドラゴン】に固定されている。
【砂漠・ドラゴン】以外の【古代竜】と【遭遇】するとするなら、その【ドゥーム・マップ】はスペシャル・シナリオだと判断して差し支えない。
【ドゥーム・マップ】は難易度が高いが、長大なシナリオでやり応えがあり、報酬も莫大なので、きっと楽しめるだろう。
プレイヤーに幸運と、【創造主】の加護が在らん事を祈る。
オラクルとヴィクトーリアはソフィア達を起こさないように【念話】による会議を始めました。
ヴィクトーリア……既に私達は【炎竜】と【遭遇】しています……つまり、この【ドゥーム・マップ】は、スペシャル・シナリオという事が判明していますが、スペシャル・シナリオは攻略法が不明です。
オラクルは【念話】で伝えます。
オラクルお姉様……そして、どうやら【カラミータ】と【ロヴィーナ】の連合軍と、【ディストゥルツィオーネ】で戦争が起こるという事は既定路線のようですね?……それからメディア・ヘプタメロンとチェルノボーグという【秘跡・ボス】の存在が示されています……どうしますか?
ヴィクトーリアが【念話】で答えました。
第一優先は言うまでもなくソフィア様の御身の安全……次にウルスラ様とティア様とトライアンフ、それから私とあなたの安全を担保した上での【秘跡】のクリア……【ドゥーム】の問題への対処は、それ以下の優先順位です……もしも【秘跡】のクリア条件がメディア・ヘプタメロンかチェルノボーグ、あるいは両者の殺害ならば、私達は粛々とそれを遂行するしかありません……ソフィア様が嫌がったとしても。
オラクルは【念話】で伝えます。
では、帰還方法が判明したら【ドゥーム】は見捨てて速やかに帰還出来るように、ソフィア様の意思を誘導しなければいけませんね?
ヴィクトーリアは【念話】で訊ねました。
ええ、それが最適解です。
オラクルは【念話】で肯定します。
終末まで残り96日……。
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【お願い】
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