第1015話。へっぽこ軍団の終末世界旅行…16…メディア・ヘプタメロン。
【カラミータ】女王の執務室。
「な、なぬーーっ!?」
ソフィアは驚愕しました。
ソフィア達は、【カラミータ】のシドニー・カラミータ女王とテス宰相から……現在休眠している【微小機械】に働き掛けて再起動させる方法を発見した……と聞かされたのです。
人為的に【微小機械】の活動をコントロール出来るとするなら、その技術を更に研究すれば、もしかしたら【ドゥーム】に存在する全ての【微小機械】を機能停止する方法も見付かるかもしれません。
そして【カラミータ】で【微小機械】関連研究の第一人者なのがメディア・ヘプタメロンという女性でした。
彼女は、古代【ドゥーム】最高の天才科学者にして【微小機械】・パンデミックを引き起こす原因となる【微小機械】・ネットワークの開発者クアトロッタ・ヘプタメロン博士の実母だというのです。
「どういう事でしょうか?クアトロッタ博士とは、古代の【ドゥーム】の陸生人種の科学者だと聞いています。古代の人種の母親が何故現代の【ドゥーム】にいるのでしょうか?」
ティアが質問しました。
一口に古代と言っても、単に古い時代という意味合いの場合には、相当広い年代を意味しました。
最も広い解釈ならば【神話の時代】と呼ばれる【英雄】大消失以前の900年前を境に、それ以前の年代全てを古代と呼ぶ場合があります。
しかし歴史学的には現在919年の世界暦を遡り世界暦元年を基準に紀元前2千年前以前を古代、紀元前5千年前以前を超古代と定義する事が普通でした。
前者の意味で云われる広義の古代ならば、【賢聖】ディーテ・エクセルシオールや【権聖】ユリウス・ターペンタインなど存命の歴史の紡ぎ人達も少数ながらいるので、メディア・ヘプタメロンなる人物が生きている可能性もありえます。
しかし、900年前時点では既に【ドゥーム】は【終末後の世界】として在ったので、それはあり得ません。
シドニー女王やテス宰相が言う古代とは、ソフィア達の理解で云う紀元前5千年前以前の……超古代……を意味していると推定されました。
何故なら、【ドゥーム】の住民達の話を聞く限り、その時点の【ドゥーム】の魔法学や科学は、現代や【英雄】達がいた【神話の世界】と比べても優越していると判断出来るからです。
【ドゥーム】に限らず【ストーリア】においても、現代や【英雄】達がいた【神話の世界】より、紀元前5千年前以前の超古代の方が魔法文明が発展していました。
その高度に発達した魔法文明が【創造主】によって【弱体化補正】された契機は【魔神】が起こした2度目の叛乱です。
その後900年前に【英雄】の大消失が発生し、現代【ストーリア】は更に文明が衰退していました。
【聖格者】ならば人種でも長命の生を持ちますが、しかし生物学的限界として人種の最高寿命は、どんなに永くても2千年程だと云われています。
であるならば、【ストーリア】基準で紀元前5千年以前から生き続けている人種などいる筈もありません。
より厳密に言えば、【箱庭の書】を開く事で行ける【終末後の世界・マップ】の【ドゥーム】は、【オーバー・ワールド】からは時間軸が独立していて、新たにプレイヤーがエントリーする度に常に時間軸が巻き戻されるので、現代【オーバー・ワールド】より900年あまり年代を差し引く必要があります。
つまり、メディア・ヘプタメロンの推定年齢は5千歳以上。
幾らなんでも人種が5千年生きる事は出来ません。
なのでソフィアやティアは、超古代の人種である筈のメディア・ヘプタメロンが今も生きているとは俄かには信じられなかったのです。
「言い伝えによるとクアトロッタ・ヘプタメロンの父親は【ドライアド】でした。そして母親のメディア・ヘプタメロンは寿命を持たない【真祖】の【ヴァンパイア】なのです」
シドニー女王は説明しました。
「あ〜、なるほど、メディアなる者は、寿命を持たない種類の【魔人】であったか。そうであれば数千年生きておってもおかしくはないのじゃ」
ソフィアは納得します。
因みに、オラクルとヴィクトーリアは、メディア・ヘプタメロンが寿命がない種類の【魔人】であるか、あるいはメディア・ヘプタメロンが娘のクアトロッタを生んだ後に【リインカーネーション】して【知性体】として転生し寿命を超越して超古代から悠久の時を生きて来た可能性を想定していたので特段驚きませんでした。
ウルスラ?
彼女は特に何も考えていません。
というかウルスラは、メディア・ヘプタメロンが何者だったとしても大して興味がないのです。
「メディア殿は【ヴァンパイア】だったのですか?どおりで昔からメディア殿は全く歳を取らないし、いつも布で目を隠しておられて不思議に思っていたのです」
ロズリン・ロヴィーナ皇太王女が驚きました。
「はい。実はメディア様は【カラミータ】の庇護者様なのです。目を布で覆っておられるのも【魔人】の赤い眼を隠し周囲の者達を怖がらせない為です。この事を知るのは【カラミータ】の王族と、それから【ロヴィーナ】のロデリック王陛下は、ご存知です」
シドニー女王は言います。
「稀に【魔人】がスポーンする事は聞いておりましたが、【魔人】は人種を殺して捕食する恐ろしい者達で、まさか人種と共に暮らす【ヴァンパイア】がいるなんて……」
ロズリン皇太王女は言いました。
「私は生まれた時からメディア様を知っておりますのでメディア様を恐ろしいと思った事はございませんが、確かにメディア様以外の【魔人】に対しては恐怖心があります」
シドニー女王は言います。
「うむ。人種の中にも救いようがない極悪人がいるように、【魔人】と言っても個体差は様々じゃ。我の友人にはトリニティという【エキドナ】がおる。【エキドナ】は世界の【魔人】の中で最強個体の内の1種じゃが、トリニティは実に優しくて子供好きでチャーミングな娘じゃぞ。そしてトリニティはゲームマスター代理という【世界の理】の守護者の1人じゃ。斯様に【魔人】と言っても色々いるのじゃ。じゃからメディアなる【ヴァンパイア】もトリニティのように人種と仲良く出来るタイプなのじゃろう」
ソフィアが見解を述べました。
「そうなのですね」
ロズリン皇太王女は頷きます。
こうしてソフィアは、現在南のシェルター【ダウン・フォール】への調査活動から帰還の途中というメディア・ヘプタメロンと後日改めて会談する事になりました。
メディア・ヘプタメロン。
彼女はゲーム時代から存在する名持ちNPCで、ある理由で一部ユーザー達からの人気が高いキャラクターです。
そして彼女が【終末後の世界】の【秘跡】においてストーリー進行役となるプレイヤー達の導き手でもありました。
「ところでじゃが、【ロヴィーナ】と【カラミータ】では【ロヴィーナ】の方が立場が強いのは何故じゃ?ロデリックから……【ロヴィーナ】の方が【カラミータ】より人口が2倍近く多いから……と、その理由を聞いたが、人口と国力は単純に同じではない。仮に人口が単純に国力となるなら、我らの世界では人口20億に迫る【ザナドゥ】が世界最高の超大国である筈じゃ。しかし実際には世界最高の超大国は人口3億人そこそこの我が【ドラゴニーア】であり、【ザナドゥ】は経済力や科学力や産業力、それから国民の生活水準や文化水準が下から数えた方が早い途上国に過ぎぬ。我の見たところ【カラミータ】は【太陽炉】という【ロヴィーナ】にはない強力なエネルギー・インフラを保有しておる。概してエネルギーを握っておる国の方が立場は強くなると思うのじゃが?」
ソフィアが訊ねます。
ロズリン皇太王女達【ロヴィーナ】側の代表3人は、微妙な表情をしました。
何故なら……【ロヴィーナ】の方が【カラミータ】より立場が上だ……などという事を【カラミータ】の首脳陣の前で公然と認める事が憚られたからです。
こういう事は、仮に事実であっても外交上のマナーとしてオブラートに包むモノでした。
「確かに【ロヴィーナ】の方が立場が強いのは事実でございます。【ロヴィーナ】は【カラミータ】からエネルギーである魔力を購入してくれていますが、しかし本来【ロヴィーナ】は自国だけでエネルギーを自給可能なのです。【ロヴィーナ】が【カラミータ】から輸入している魔力は余剰在庫のようなモノで、なくてもエネルギー消費を抑えれば良いだけで困りません。一方で【カラミータ】は食料を自国だけで自給出来ません。【カラミータ】は魔力を【ロヴィーナ】に売り、代物として【ロヴィーナ】から魔物肉などの食料を輸入しているのです。従って、【ロヴィーナ】は【カラミータ】がなくても生存可能ですが、【カラミータ】は【ロヴィーナ】がなければ滅びてしまいます。【ロヴィーナ】の立場が強いのは当然の事でございます」
【カラミータ】のシドニー女王は気分を害す事もなく正直に答えます。
「【カラミータ】が食料を自給出来ない理由は何じゃ?」
「【ロヴィーナ】には【リフリジレイター】という強力な軍用【強化外骨格】がございますが、私共【カラミータ】の【強化外骨格】は火力や機動力や速度が低く、専ら屋外作業用の防護服という扱いなのです。軍用【強化外骨格】がない理由は、手狭な【カラミータ】には大規模な工場がないからです。私共の【強化外骨格】は強大な魔物との戦闘には向かないので魔物の狩猟がままならず、結果食料を十分に確保出来ません」
「なるほどの。理解したのじゃ」
「ソフィア様。【カラミータ】の中をご覧になりますか?」
シドニー女王は訊ねました。
「うむ。少し視察してみよう」
ソフィアは頷きます。
ソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は、シドニー女王に案内されて【カラミータ】の施設や設備を視察して回りました。
・・・
ソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は、【カラミータ】の各施設を見て回ります。
施設というか、ほとんどは部屋でした。
【カラミータ】は通路の左右に部屋に並び、その階層が地下に何層も連なる構造となっています。
なので【ロヴィーナ】のように開けた広大な空間はありません。
つまり【ロヴィーナ】の中央広場のような場所もないので、就労年齢に満たない小さな子供達が走り回って遊べるような場所は各階層の通路という事になり、ソフィア達は大勢の小さな子供達を間近に目にしました。
【カラミータ】も【ロヴィーナ】同様に子供を出来るだけ多く産み育てる事を重視し産児推進政策を実施しています。
【ロヴィーナ】や【カラミータ】に子供が多い理由は、もちろん出産や子育てをし易い子供に優しい社会だからではなく……無理矢理にでも子供を沢山産み育てなければ人口が維持出来ず【ドゥーム】の人種文明が滅びてしまうから……というのは、子供好きなソフィアにとっては残念な現実でした。
「オラクルよ。スイーツは【ロヴィーナ】の子供らに配ってしまったから、もうないのじゃ。何か【カラミータ】の子供らを喜ばせる方法はないモノじゃろうか?」
ソフィアは訊ねます。
「そうでございますね。手持ちがなければ作ってしまうという方法がございます」
オラクルは答えました。
「なぬっ!作れるのか?【ドゥーム】で入手可能な材料でじゃぞ?【ドゥーム】には自然界に植物がない故、フルーツも小麦粉もベーキング・パウダーもチョコレートもナッツもない。そして致命的な事に砂糖もないのじゃ。どうするというのじゃ?」
「【ドゥーム】で入手した材料と、それからソフィア様や私達の【宝物庫】の中にある素材を必要な分量使わせて頂ければ、人数分のお菓子を作る事は可能だと思います」
「本当か?ならば任せるのじゃ」
「お任せ下さいませ」
ソフィア達は視察を終えて、昼食を食べる為に戻ります。
・・・
昼食後。
おにぎりなどの出来合いの食料で昼食を済ませたソフィア達は、オラクルの指導の元【カラミータ】の子供達の為にスイーツ作りを始めました。
まずスイーツに欠かせない甘味の元は、昨日ウルスラが【ロヴィーナ】で貰って来た大量のデンプンからブドウ糖を生成して使います。
オラクルとヴィクトーリアは【錬金術】系の魔法も極めているので問題ありません。
次にソフィアが狩った【サンド・ワーム】を解体して肉を取り出しました。
【サンド・ワーム】の半透明で水分をタップリ含んだ肉の主成分は、コラーゲン。
コラーゲンからゼラチンを作ります。
更にソフィア用の食材ストックから大量の卵と牛乳を……。
「待て待て待て……我の卵を使うのか?」
ソフィアは大好物の卵のストックを使われる事に難所を示しました。
ソフィアは小腹が空いた時のオヤツにケーキなどを食べますが、TPO的にケーキなどを取り出して食べる事が出来ない場合には最低限とりあえず茹で卵と牛乳さえコソッと食べさせておけば文句を言わないので、この2点はオラクルにとって最重要物資として普段から大量にストックされています。
「はい。ブドウ糖とゼラチンだけで出来るモノはマシュマロとゼリーです。もしも卵と牛乳があればプリンとアイスクリームも作れます。プリンとアイスクリームは止めますか?プリンとアイスクリームがあれば【カラミータ】の子供達に喜ばれると思いますが?」
オラクルが確認しました。
「むむむ……。卵は全て使うのか?」
ソフィアは訊ねます。
「およそ半量です」
「うむ。半分ならば卵と牛乳のストックを放出する事を許可するのじゃ」
「畏まりました」
こうしてオラクルとヴィクトーリア、それからディエチを始めとする【自動】・シグニチャー・エディション達によって、【カラミータ】の子供達の為に、マシュマロとゼリーとプリンとアイスクリームが大量に作られました。
これは夕食時に【カラミータ】の子供達200人程に配られます。
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