第1014話。へっぽこ軍団の終末世界旅行…15…【カラミータ】。
【ドゥーム】中央都市国家【カラミータ】上空。
ソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】と、【ロヴィーナ】のロズリン・ロヴィーナ皇太王女と、スチュアート卿と、タルボット准将は【カラミータ】上空の【スパイ・ドローン】の【キー・ホール】がある位置に【転移】して来ました。
眼下に広がるのは、【微小機械】・パンデミックで古代に滅んだ都市【カラミータ】の遺構です。
【ロヴィーナ】は、古代都市【ロヴィーナ】の近くにある巨大な岩盤の中を刳り貫いて築かれていましたが、【カラミータ】は都市の真下の地下にシェルターがあるのだとか。
なので【ロヴィーナ】より多少狭いのだそうです。
古代【カラミータ】は、かつて存在していた5か国中最大の国力を誇る覇権国だったと伝承されていました。
しかし現在は500人程の人口を有するだけの国家と呼ぶには余りにも小さなコミュニティでしかありません。
それは【カラミータ】のシェルターが【ロヴィーナ】より狭いという理由もありますが、【カラミータ】が現代の【ドゥーム】において最も魔物が濃く危険だと言われる【大平地】の真ん中にあるからです。
危険ならば他のシェルターに移り住むという選択もありますが、【カラミータ】にはコミュニティが維持されている意味と目的がありました。
それは今ソフィア達が目にしている巨大な鏡の化け物のような構造物。
【カラミータ】の地上部都市遺構の四方に配置されたパラボラ・アンテナのような異様なオブジェクトです。
「あの巨大な丸いアンテナみたいなのは何じゃ?」
ソフィアは訊ねました。
「本来の名称は……【太陽炉】……ですが、私達【ロヴィーナ】の者や【カラミータ】人は【太陽光反射砲】の略称でSRCと呼んでいます」
ロズリン皇太王女が説明します。
「SRCとは、つまり太陽光を集めて反射させて攻撃する兵器という事か?」
「はい。タルボット将軍が詳しいです。将軍、ソフィア様にご説明して差し上げて下さい」
ロズリン皇太王女はタルボット准将を促しました。
「はっ。SRCは直径100mの反射鏡に太陽光を集光・反射させます。本来は都市中央の塔にある【魔力変換機】に四方から太陽光エネルギーを集めて魔力を生成する目的で造られたモノですが、現代では魔力生成も行いますが、専ら防衛兵器として用いられています。焦点位置の温度は数千度に及び、魔物はもちろん砂や岩石すら蒸発させる威力を誇ります。【カラミータ】は【強化外骨格】の攻撃兵装としての技術は【ロヴィーナ】には及びませんが、あのSRCによって高い防衛力を有します。またSRCで生成される魔力は膨大な為、【魔法石】に充填された魔力を交易品として【ロヴィーナ】に輸出しています。【カラミータ】はエネルギー輸出都市として【ロヴィーナ】の産業基盤も支えています」
タルボット准将は説明します。
「ほほ〜う。魔力生成装置と兵器を兼ねるオブジェクトで、また元手が太陽光じゃから費用対効果も高い。ふむふむ、中々面白きモノじゃ。じゃが夜間はどうするのじゃ?太陽光魔力生成は【ドラゴニーア】でも開発研究をしておるが太陽が沈んでしまえば役に立たぬし、天候にも左右され中々計算が立たぬ故、実用化には課題があると聞いた事があるのじゃ」
「夜間にSRCを起動して攻撃を行う必要がある場合には、日中に生成して貯めてある魔力を【光子】に還元して撃ちます。それから、大気中湿度が0の【ドゥーム】の天候は、晴天か、稀に砂嵐のどちらかしかありません」
「なるほど。つまり日中に生成される魔力量が、それだけ膨大で余剰があり、また【ドゥーム】の天候に関しては言うに及ばずじゃったな……」
「ははっ」
「ならば砂漠地帯の【イスタール帝国】ならSRCは効率的に運用出来るやもしれぬ。【イスタール帝国】なら【ドラゴニーア】の永年に渡る同盟国じゃし、安全保障上の懸念もない。【カラミータ】のSRC技術を教えてもらえれば土産話になるの。ふむふむ、興味深い」
ソフィアは何度も頷きました。
「しかしながら、兵器としては多少問題もあります。焦点位置の調整が中々繊細で数m離れると効果がなくなります。また反射鏡が巨大な為、素早く機動する魔物などを狙うのも困難なので【カラミータ】の周囲は地雷原になっております。【カラミータ】は防衛型の都市と言って差し支えないでしょう」
「一長一短はある訳じゃな……。まあ、あらゆる設備は、全て使いようじゃろう」
「ささ、ソフィア様。【カラミータ】に向かいましょう」
ロズリン皇太王女が促します。
「うむ」
ソフィアは頷きました。
・・・
シェルター都市国家【カラミータ】。
【カラミータ】のシェルターは、やや手狭らしくソフィア達は一番広い空間だという【地下格納庫】に案内されます。
「偉大なる救世神【神竜】様。そして神聖なる女神の使徒たる皆様。【カラミータ】に御降臨遊ばされました事、誠に幸せの至りでございます。私はシドニー・カラミータ。【カラミータ】の女王を相務めさせて頂いております」
【スキュラ】の女性……シドニー・カラミータ女王は跪き恭しく礼を執りました。
シドニー女王の背後に居並ぶ【カラミータ】の住民達も一斉に跪き拝礼します。
「【カラミータ】の民よ。この御方こそ、至高の叡智を持つ天空の支配者にして、深淵なる思慮を持つ海洋の支配者……セントラル大陸の守護竜にして、世界の中心【ドラゴニーア】に君臨する元首……畏くも【ドゥーム】をも含む現世における最高神たる【神竜】……その尊き御名はソフィア様で在らせられる」
オラクルが【ロヴィーナ】でしたように長い口上を高らかに紹介しました。
「【カラミータ】の民よ。我はソフィアじゃ。宜しく頼む」
ソフィアは手を上げて言います。
この後、【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】のメンバーと【カラミータ】の王族の紹介が行われたり、軍楽隊らしき者達の演奏などがあり、ソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】の歓迎式典は終了しました。
ソフィア達と【カラミータ】首脳は、女王の執務室に移動します。
移動の途中ソフィア達は、狭いという【カラミータ】らしく真っ直ぐ伸びた通路を歩きました。
【ロヴィーナ】では推定数50mの高い天井の広大な地下空間が広がり建物が並んでいましたが、【カラミータ】では真っ直ぐ伸びた地下通路の左右に部屋がある構造です。
通路も特別広い訳ではありません。
・・・
女王の執務室。
「ソフィア様、皆様。ようこそ【カラミータ】に、お越し下さいました。ロズリン、スチュアート卿、タルボット将軍、お久しぶりですね。遠路遥々ご足労でした」
【スキュラ】の女性であるシドニー女王が改めて挨拶しました。
「うむ。世話になるのじゃ」
ソフィアが言います。
「シドニー陛下。お久しぶりでございます」
ロズリン皇太王女は恭しくカーテーシーをしました。
「ロズリン。この場は公式の場ではないので畏まらなくて良いのですよ」
「わかりました。シドニー叔母様」
「ふむふむ。シドニーとロズリンは叔母姪の関係じゃったのか?」
ソフィアが訊ねます。
「はい。私の母の兄君がシドニー叔母様の配でございますので直接の血縁はごさいませんが、義理の叔母姪の続柄でございます」
ロズリン皇太王女が説明しました。
「とはいえ、【カラミータ】と【ロヴィーナ】は遠縁を辿れば多かれ少なかれ皆多少の血縁はございますので、そういう意味では私達も係累には違いありません。ソフィア様、皆様。まずは、どうぞお掛け下さいませ」
シドニー女王が着席を促します。
一同が席に着きました。
「早速じゃが、我は【創造主】から与えられた試練により……この地を救え……という使命を果たさねばならぬ。此度【カラミータ】を訪れたのも救いに繋がりそうな情報を得る為じゃ。【微小機械】・パンデミックに関する事など、何か救いに関係しそうな情報があるなら教えて欲しいのじゃ」
ソフィアは単刀直入に依頼します。
「畏まりました。テス、ソフィア様に【カラミータ】が知り得る事を全てお伝え申し上げなさい」
シドニー女王は傍らにいる【マーメイド】の女性テス宰相に命じました。
【ロヴィーナ】のロデリック王は自ら実務を執り陣頭指揮も行っていたのと対照的に、【カラミータ】のシドニー女王は実務を臣下に任せ自らは専ら裁可を与えるに届める君臨すれども統治せずのタイプの君主です。
これは単にタイプの違いであって、どちらが優れているとか、望ましいとかいう類の話ではなく、双方に長所・短所がありました。
例えばロデリック王のようなトップ・ダウン方式の場合。
意思決定と実行が早く、リソースの集約的・一元的な利用が可能で、リーダーの能力が高ければ既成概念を打破したり革新的な飛躍がもたらされたりします。
反面、集合知が使い難かったり、現場の情報(特に悪い情報)がリーダーに正確に伝わり難かったり、リーダーが判断を誤ると致命的なミスに繋がり易くなりました。
対してシドニー女王のようなボトム・アップ方式の場合。
集合知のメリットが発揮され易く、現場の情報が組織で共有され易く、意思決定のプロセスが重層的に出来てダブル・チェックやトリプル・チェックが行え致命的なミスを防ぎ易くなります。
反面、意思決定が遅くなったり、リソースが分散して非効率だったり、責任の所在がはっきりせず誰も責任を取らない(あるいは責任を取りたくない)ので縦割りの弊害が起きたり保守的な思考になりがちでした。
これは双方の長所・短所で、彼方を立てれば此方が立たずというトレード・オフの関係が成り立つので、一概に何方が良いとも悪いとも言えません。
「【カラミータ】の中枢が知っている【微小機械】・パンデミックに関する情報は、【ロヴィーナ】が知るモノと基本的には同じだと思います。唯一【カラミータ】だけが持つ知識……と申しますか、技術がございます」
テス宰相は言いました。
「それは何じゃ?」
ソフィアは身を乗り出します。
「【カラミータ】は休眠している【微小機械】に働き掛けて再起動させる技術を持ちます」
「何じゃと!?」
「まあっ!」
ソフィアとロズリン皇太王女は目を見張りました。
「これは【カラミータ】の中枢の極少数しか知らない機密でございますので、【ロヴィーナ】の王族にも情報開示しておりません。しかし他意はございません。何分と情報の種類が極めて危険性が高いモノでございますので、リスク回避の為に止むを得ず秘匿していたモノ。【ロヴィーナ】のロデリック王には、格別のご理解を賜われれば幸いでございます」
「うむ。そのように危険な情報を知り得る者の数が増えれば、その分リスクも増える故、情報を【ロヴィーナ】の王族にも伏せたのは致し方ない判断じゃろう。ロズリンよ、【カラミータ】の立場には汲むべきところがあるのじゃ。其方から父ロデリックに口添えし、【カラミータ】と【ロヴィーナ】に相互不審や疑心暗鬼が起きぬように配慮してやれ」
ソフィアは言います。
「は、はい。畏まりました」
ロズリン皇太王女は了解しました。
「で、つまり【カラミータ】が【微小機械】を再起動させられるとするなら、研究次第では逆に【微小機械】を人為的に休眠させられる可能性も……更にその延長線上には、もしかしたら【微小機械】を完全に機能停止させられる技術を獲得出来る可能性もある、と?」
ソフィアは訊ねます。
「仰る通りです。私共【カラミータ】では、それを最優先事項として研究しております」
テス宰相は説明しました。
「是非その研究成果を共有したい」
ソフィアは言います。
「もちろんでございます。こちらが【カラミータ】が持つ資料の全てでございます。しかし生憎その研究の第一人者である者が現在【ダウン・フォール】のシェルターに調査に出払っております。私共でも一応ご説明は可能なのですが、専門的な知識という意味では、その者に説明させるのが最も詳細で誤解などが生じないと思われます」
テス宰相は【微小機械】再起動に関する資料をソフィアに手渡して言いました。
「ふむ。確かに研究の第一人者がおるなら、その者に説明をしてもらいたいところじゃ」
ソフィアはテス宰相から受け取った資料を右から左にオラクルに渡しながら言います。
「現在その者は【ダウン・フォール】からの帰路の途上。急がせておりますので、おそらく3日あれば【カラミータ】に戻ると思います」
シドニー女王は言いました。
「なるほど、3日か……。我らは【ディストゥルツィオーネ】にも向かって情報収集を企図しておる。じゃから一旦【ディストゥルツィオーネ】行った後に、改めて【カラミータ】に戻って話を聞く事になるじゃろう」
ソフィアは言います。
「畏まりました」
シドニー女王は頷きました。
「で、その者の名は何と申すのじゃ?」
「その者の名はメディア・ヘプタメロン。古代【ドゥーム】最高の天才科学者にして【微小機械】・パンデミックを引き起こした張本人クアトロッタ・ヘプタメロン博士の実の母親でございます」
シドニー女王は言います。
「な、なぬーーっ!?」
ソフィアは驚愕しました。
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