第1012話。へっぽこ軍団の終末世界旅行…13…外交使節団の報告書。
本日2話目の投稿です。
シェルター都市国家【ロヴィーナ】。
ソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】の面々が各所で【ロヴィーナ】の支援や協力をした後、【ロヴィーナ】の民が交代で全員参加した焼き肉パーティが行われました。
ソフィア専属の料理番である【自動人形】・シグニチャー・エディションのディエチによる見事な調理と、各種スパイスやソースを使った味付けに【ロヴィーナ】の民は大感激しています。
また、普段は滅多に食べられない【砂漠・ドラゴン】と【炎竜】など【古代竜】の焼肉を無償でお腹一杯食べられる事も喜ばれました。
食後に子供達の代表が……なるべく公平になるように……頭を悩ませ真剣に決めた分配方法により【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】が提供したスイーツの分配も無事に行われ、今は子供達が嬉しそうにスイーツを味わっています。
ソフィア達が少しだけ心配した、【ロヴィーナ】では食べられない美味しいスイーツを巡る諍いなども全く起こらず、それどころかスイーツを貰った子供達は、それを自主的に家族や親類縁者に分けてあげるなど微笑ましい様子が見て取れました。
コミュニティ全体で協力しないと生き延びられない【ロヴィーナ】の民は、そもそもお互いに助け合って譲り合う利他共助の精神が小さな子供達にも浸透しているという事なのでしょう。
また、小さなコミュニティである【ロヴィーナ】は、王族も含めて全員が親戚みたいなモノだからなのかもしれません。
事実【ロヴィーナ】軍では戦死率が高いので、亡くなった軍人のパートナーと子供達が多いのですが、彼らも……【ロヴィーナ】の為に戦って亡くなった名誉ある戦士達の遺族……として共同体の中で大切にされ、生活に困るような事にはなっていないのだとか。
エゴイズムなどとは対極にある【ロヴィーナ】の互助的な状況に、ソフィアは満足気に頷きました。
ソフィア達が先程仮設診療所に来なかった子供達と一部の大人達の診察と治療を終えた後、ソフィア達へのお礼として、子供達を中心とした【ロヴィーナ】の民による歌と踊りにより、ソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】への感謝が伝えられて、焼肉パーティと秋のスイーツ祭は終了したのです。
子供達はソフィア達から貰った……ウサギちゃん絵皿……を家宝として大切にするのだとか。
「ソフィア様、皆々様。今宵は並々ならぬ御高配を賜り、誠にありがとうございました。【ロヴィーナ】の民を代表して改めて御礼申し上げます」
【ロヴィーナ】のロデリック王がソフィア達に改めて丁寧な礼を言いました。
「気にするな。我が好きでしている事じゃ」
ソフィアは鷹揚に言います。
「ははっ。ところで、ソフィア様は明日【カラミータ】に向かわれるご予定でございますね?」
「うむ。ロデリックから【カラミータ】に口添えをしてくれたそうじゃな。礼を言うのじゃ。ありがとう」
ソフィアは頭を下げました。
ロデリック王は魔法通信で【ロヴィーナ】の同盟都市国家【カラミータ】の王族と指導部に連絡し……明朝、異界の最高神たる偉大な【神竜】様と、高貴なるお供の皆様が【カラミータ】を訪問する予定だから、くれぐれも宜しく……と申し伝えていたのです。
【ロヴィーナ】と【カラミータ】は双方小さなコミュニティなので近親婚を避ける目的で若者達を相互に移住させるなどしている為、お互いに親戚が多く暮らしていました。
バイパー中隊のカンタン上等兵も、そういう経緯で【カラミータ】から【ロヴィーナ】にやって来た1人です。
なのでロデリック王からの紹介があれば、【カラミータ】でもソフィア達は丁重に遇され最大限の協力を得られると思われました。
【秘跡】に挑む通常のプレイヤー達なら【ロヴィーナ】と同様に【カラミータ】で信用を得るまでに、それなりの時間と労力とイベントの消化が必要なので、ソフィア達の扱いをユーザーなどが見たら……神様チートだ。ズルだ、ズル神だ……とクレームが来るかもしれません。
「実はソフィア様にご紹介致したい者を連れて参りました」
ロデリック王は言いました。
「紹介したき者とは誰じゃ」
ソフィアは訊ねます。
【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は【ロヴィーナ】の王族や指導部の目ぼしい者達は、既に紹介を受けていました。
「我が娘のロズリンと、ロズリンの夫のスチュアートは先刻ご紹介致しました。そして、これなるは【ロヴィーナ】最高の戦士タルボット准将でございます」
ロデリック王は紹介します。
ロズリン皇太王女は【ハゥフル】と【マーメイド】の【混血】で、【ロヴィーナ】の次期王位継承者でした。
スチュアート卿は、ロズリン皇太王女の配偶者で、魔法の衰退傾向が顕著な【ドゥーム】世界では希少な【魔導士】です。
「ふむ。タルボットか。精悍なる良き面構えじゃ」
ソフィアは言いました。
「ははっ。お褒めに預かり、ありがたき幸せ。光栄の極みでございます」
【サハギン】のタルボット准将は跪いて、自分の厚い胸板の鱗を、拳でガツンと叩いて言います。
「ソフィア様。この3名を【カラミータ】や、あるいは【ディストゥルツィオーネ】に向かわれる際の案内役としてお使い下さいませ。【カラミータ】は友邦でございますので、何も心配は要らないと思われますが、一応我が娘のロズリンがご一緒なら何かと話が早いかと存じます」
ロデリック王は言いました。
「うむ。【カラミータ】の王族はロデリックやロズリンの親戚なのじゃったな?ならば親戚同士スムーズに話が通るかもしれぬ。【カラミータ】に対して我らに協力を頼む際には役立つじゃろうの?じゃが、ロデリックよ……其方の思惑はそれだけか?」
ソフィアは……ジロリ……とロデリック王に鋭い視線を向けます。
「ははは……これは、さすがはソフィア様。私の思惑など御承知ですね?」
「当然じゃ。つまり、其方の娘と娘婿を我の案内役とする事で、【カラミータ】に対して……我ら【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】には【ロヴィーナ】が先に唾を付けた……とアピールしたいのじゃろうが?」
「いえいえ。唾を付けるなど滅相もない。ただ……最初にソフィア様達御一同様に謁する栄誉を受けた【ロヴィーナ】が、ソフィア様達御一同様の御案内を申し上げるので、ソフィア様達御一同様に対して御無礼を働くと【ロヴィーナ】が黙ってはおりません……という意思表示とお考え下さいませ」
「ふん。つまり【ロヴィーナ】が伺い知れぬ所で、我らが【カラミータ】に対して便宜を図り、【ロヴィーナ】が【カラミータ】の後塵を拝し、【ロヴィーナ】が【カラミータ】の風下に立たされる可能性を排除したい……と、そういう訳じゃろう?」
「いえいえ。【カラミータ】は、私共【ロヴィーナ】の友邦でございます。双方の関係は良好で、外交上の問題なども何もありません。ただ少しばかり【ロヴィーナ】の方が人口なども多く【カラミータ】より立場が上である事は否定致しません。立場が上であるからと言って【ロヴィーナ】は【カラミータ】を虐げたり、従属させたり、圧力を掛けるような事は過去一度もしておりません。【ロヴィーナ】と【カラミータ】は仲の良い兄弟姉妹のような関係性でございます。その自然で平和な関係性を、仮に【カラミータ】がソフィア様達御一同様の御威光を以って覆そうなどと考えるとしたら、多少私共【ロヴィーナ】にとっては面白くない事になります。もちろん友邦の【カラミータ】が、私共【ロヴィーナ】に対して、そのような抜け駆けをするとは思いませんが、もしも万が一にも、そのような事になれば、私共【ロヴィーナ】と【カラミータ】が築き上げて来た永年に渡る友好にヒビがはいるかもしれない……という一抹の不安が頭を過りましたので、念の為に【カラミータ】がおかしな考えを起こさないように老婆心ながら余計な気を回しました次第でございます」
「ふん、つまらぬ政治的な主導権争いじゃな。まあ、我も【ドラゴニーア】の元首として外交の経験がある故、ロデリックの気持ちもわからぬではない。じゃが、外交の駆け引きのダシに使われる側は、あまり愉快な気分ではないぞ」
ソフィアは一応苦言を呈しましたが、ソフィア自身も【ドラゴニーア】の元首という政治家の立場でもあるので……この程度の生臭い駆け引きは外交上良くある事……と腹を立てたりはしていません。
ナカノヒトならば自分自身の存在を誰かに政治利用されないようにキッパリ3名の同行を断ったかもしれませんし、グレモリーなら少しアゴをシャクレさせながら……はっ?……とロデリック王に嫌悪感を示したかもしれませんが、こういう場合のソフィアは政治工作にも多少の理解もありました。
ソフィアは、滅亡に淵に立つ【ドゥーム】において生き延びた人種同士が下らない政治的駆け引きを行う様子に……そんな事をしている場合か?……と些の疑問を呈したい気持ちもありながら……滅亡の淵にあるからこそ、些末な利害にすら敏感にならざるを得ない……という事もあるという感性もわかります。
「ははっ。申し訳次第もございません」
ロデリック王は跪いて謝罪しました。
「まあ、良い。【ロヴィーナ】が露骨に【カラミータ】に対して足を引っ張り、我を怒らせるようなら、我は以後二度と【ロヴィーナ】を助けはせぬ……というだけの事じゃ。その覚悟があってやるなら、勝手に好きなだけ政治工作をすれば良い。全ては自己責任じゃ」
「ははっ。間違ってもソフィア様の御不興を買うような真似は致しません。それは、私の身命に誓ってお約束申し上げます」
「うむ。わかれば良い。じゃが、何か危険があっても我らが必ずしも、この3名の者達を守るとは限らぬぞ。我らは3名の護衛ではないのじゃからな。それを踏まえて付いて来るなら3名を案内役として連れて行く」
「ははっ。ソフィア様の御言葉の通り、委細お約束申し上げます。【誓約】」
「ところでじゃが、ロデリックよ。【ディストゥルツィオーネ】とは近年交流がないと聞いておるが、どうなっておるのじゃ。我は【ディストゥルツィオーネ】も丸っと救わねばならぬ。王の間でも訊ねたが、何やら言い難そうにしておったのう?何か知っておるのではないか?意図的に情報を隠し立ていたすと……酷いのじゃぞ?」
ソフィアは多少脅しを含めて言います。
「いえ。意図的に隠し立てしたなど滅相もない事でございます。【ディストゥルツィオーネ】について知らないという事に嘘はございません。ただ……少し風の噂のようなモノは耳にしております。それが事実か、尾鰭が付いた、単なる妄言なのかは定かではなく……」
「何をグズグス言っておる。噂だろうが妄言だろうが、何でも良いから話してみよ。その情報の真偽・確度は我らが判断するのじゃ」
「ははっ。【ディストゥルツィオーネ】とは、先方から一方的に断交を通告されてから、もう彼此100年以上交流が途絶えております。【ディストゥルツィオーネ】は、かつては2千人以上の人口を誇ったシェルターです。【ディストゥルツィオーネ】は【魔法使い】の育成に注力する政策を掲げ相応の力を持っていました。それが、最後の訪問の際には何やら、おかしな雰囲気でございまして……」
「おかしな雰囲気とな?」
「はい。何処がどう……という訳ではなかったようですが、最後の使節団の1人であった大叔父の報告書によると……【ディストゥルツィオーネ】では新しい宗教が広まり、何やら異様な雰囲気であった……と」
「宗教か?」
「そうです。しかし、それは【創造主】様を主神とする伝統的な信仰体系とは掛け離れたモノで、【ディストゥルツィオーネ】の者達は、彼らが言うところの……ボーグ神……なるモノに祈り供物を捧げていたそうです」
「ボーグなどという【神格者】の名は聞いた事がないのう。まあ、【創造主】は自分や守護竜以外のローカル神に祈る事も別に咎め立てはせぬが……。そのボーグなるモノに祈るローカル宗教に何か問題があるのか?」
「はい。大叔父の報告書によれば、【ディストゥルツィオーネ】の民は、ボーグ神に供物として捧げる為に、全員が自らの耳や鼻を削ぎ落としていたそうです」
「なぬっ!何故そのような事を?」
「わかりません。【ディストゥルツィオーネ】の民達は大叔父達の外交使節団を追い払うように帰して、そのご後一切の交流が途絶えました」
「ふむ。狂気のカルト宗教にのめり込んだか……」
「なので、ソフィア様が【ディストゥルツィオーネ】に訪問なさる際は十分にご注意を」
ロデリック王は忠告しました。
「うむ。その忠告、確と覚えておこう」
ソフィアは頷きます。
終末まで残り97日……。
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