第1011話。へっぽこ軍団の終末世界旅行…12…秋のスイーツ祭。
シェルター都市国家【ロヴィーナ】。
「【ドゥーム】に存在する砂の、ほぼ全てが【微小機械】じゃと……」
ソフィアが言外に……それを期限内に全て処理するのは無理なんじゃなかろうか?……という諦観を滲ませて呟きました。
「ソフィア様。【ディストゥルツィオーネ】と【カラミータ】を訪問してみれば何か有益な情報が得られるかもしれませんよ」
オラクルが明らかにモチベーションが下がったソフィアを励まします。
オラクルの提案は世界・システム的に妥当でした。
【終末後の世界】はロール・プレイング・ゲームである【ストーリア】の【秘跡】なので、基本的にNPCとの会話によってシナリオが進行するように設定されています。
「う、うむ……」
ソフィアは浮かない表情で頷きました。
「そろそろ子供達にスイーツを配りましょう」
オラクルは、やる気ダダ下がり状態のソフィアの気分を何とか盛り上げようと試みます。
「そうじゃな。うむ、子供らの笑顔を見るのは良い事なのじゃ」
ソフィアは、あまりにも難易度が高過ぎると思われる無理ゲーの事を一旦忘れる事にしました。
現実逃避です。
ソフィアは、ロデリック王に……子供達にスイーツを配って喜ばす作戦……の要諦を伝えました。
ロデリック王は、ソフィアの心遣いに感謝します。
・・・
【ロヴィーナ】中央広場。
ソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】とロデリック王達【ロヴィーナ】指導部は、各家庭に触れを出して、子供達を中央広場に集めるように伝えました。
多くの大人達も幼い子供達の引率や、スイーツ祭の運営役として駆り出されます。
「秋のスイーツ祭じゃーーっ!皆の者スイーツは食べたいかーーっ!?」
ソフィアがコールしました。
「「「「「おーーっ!」」」」」
【ロヴィーナ】の子供達がレスポンスします。
もちろん、このコール&レスポンスは、事前に……こういうふうにして欲しい……とオラクルとヴィクトーリアとティアが段取りしていました。
つまり仕込みです。
「ウサギちゃん絵皿が欲しいかーーっ!?」
「「「「「おーーっ!」」」」」
ウサギちゃん絵皿とは、ついさっきオラクルとヴィクトーリアが……スイーツを載せるお皿が必要だ……と気付いたソフィアに言われて慌てて作った子供達の人数分のお皿でした。
オラクルとヴィクトーリアが屋外から採取して来た砂を魔法で焼き固めたモノです。
お皿の真ん中には……秋のスイーツ祭には、ウサギちゃん絵皿が付き物じゃからな……というソフィアの意味不明な希望を汲んで、可愛らしいウサギちゃんがデザインされていました。
お皿の素材は【微小機械】の外殻である砂が使われていますが、高熱で処理したので砂の中に休眠している【微小機械】は完全に破壊されています。
そもそも砂を【ロヴィーナ】の内部に持ち込む時に【創造主】が創った対【微小機械】防疫ギミックで、【微小機械】は排除されるので【ロヴィーナ】の内部が汚染される心配はありません。
「先ず14歳以下の子供達の中から、年長者を生まれた順番で早い者順に50人を選出するのじゃ。王族や指導部の子供達は、その50人から除外する。子供らの社会に親の影響力によるドグマを介在させぬ為の措置じゃ。50人の子供らは多数決で50人の中から数学が得意な者や公正な者じゃと思う者を10人を選抜せよ。その10人に我らが提供するスイーツのリストから子供らの人数(489人)分のスイーツの公平な分配をやらせる。3時間後にそれを生まれた日で年少の子供達から順番に選んで行くのじゃ。2歳以下の者は本人が選べぬ場合、親や保護者が代理で選ぶ事を許す。一旦選んだスイーツは後から交換などは許さぬ。また選んだ後から文句を言う事も許さぬ。大人や兄や姉達が、弟や妹達からスイーツを奪った事がわかったら返してもらうのじゃ。既に食べしまっておっても必ず返してもらうのじゃ。我の取り立ては厳しいのじゃぞ。覚悟しておくが良い」
ソフィアが集まった子供達と、引率や運営係の大人達に宣言しました。
ソフィアの決めたルールに従い子供達から年長者50人が選ばれて早速多数決で10人が選び出されます。
先程オラクルが高速で書き起こしたスイーツ目録が選ばれた10人に手渡されました。
子供達の代表10人は集まって真剣な顔で相談を始めます。
ソフィアが、それを見届けて満足気に頷くと、【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は子供達と分かれて【ロヴィーナ】の各所に移動しました。
実は【ロヴィーナ】の子供達の中には、既に大人と同等の仕事を持つ者達が相当数いて、その子供達が抜けた仕事の代役として【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】が【ロヴィーナ】の各所でお手伝いをしに向かう訳です。
【ロヴィーナ】に限らず【ドゥーム】は滅亡の淵に立つ限界世界。
子供達にも労働をしてもらわないと、全滅もあり得るので、【ドゥーム】には児童福祉法などは存在しません。
児童福祉を重んじた結果コミュニティ全体が滅びてしまうと本末転倒だからです。
それについては日頃……子供の味方……を公言しているソフィアも文句を言うつもりはありません。
ソフィアとティアは、傷病者の治療。
ソフィアは細々とした魔法制御が不得手(面倒)なので、治療のメインは神殿で修行を積んだ優秀な【回復・治癒職】でもあるティアの役目でした。
ソフィアは無尽蔵の魔力タンクとしてティアの魔力を【回復】する役目です。
ただし実は【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】で最高の【回復・治癒職】はソフィア自身でした。
やる気になればソフィアは【神位級】の【完全治癒】を行使可能なのです。
しかしソフィアは緻密さや細かな調節を要求される作業が大嫌いで、更に、それを何度も繰り返すとなると苛々して……キーーッ!……となるので、ティアに丸投げしただけでした。
なのでソフィアは、ティアでも手に負えない難病や重傷の患者は、自分が治療してあげるつもりなのです。
オラクルとヴィクトーリアは【自動人形】・シグニチャー・エディション5体を助手として、【強化外骨格】 関係や工場関係の修理や改良点の指導などを行う予定。
シェルター内部の基幹技術は【創造主】が創った不壊・不滅の【初期構造オブジェクト】ですので、メンテナンス・フリーで耐久年数も無限なので修理の必要はありませんが、【ロヴィーナ】の技術者が増設した機械部分に関しては多少老朽化や部品などの不足による不具合が起きていました。
【超位超絶級】の万能【魔法使い】であるオラクルとヴィクトーリアなら、その機械の構造が理解出来れば、強力な【修復】や【加工】で、あらゆる機械を新品状態に戻せますし、より良いシステムに改造も出来ますし、部品がなくても【錬金術】で無から素材を生み出せてしまいます。
ディエチと【自動人形】・シグニチャー・エディション5体は夕飯の炊き出しの準備。
今夜の食事はソフィアが狩った獲物を放出して【砂漠・ドラゴン】の焼肉パーティでした。
ウルスラとトライアンフは、ソフィアが狩った【サンド・ワーム】や【砂漠・ワーム】を【ロヴィーナ】の解体場に運ぶ任務が与えられています。
実はソフィアは、自分が狩った魔物の一部を【ロヴィーナ】に無償で提供する事にしました。
もちろん窮乏する【ロヴィーナ】に対する善意の寄付という意味合いもありますが……【秘跡】の期間中まだまだ大量の魔物を狩れそうだ……と考えたソフィアが【宝物庫】を圧迫している魔物を売却価格が低いモノから放出して多少整理したという意味合いもあります。
ついでにウルスラ達は、ソフィアが預かったバイパー小隊が狩った【サンド・ワーム】1頭や、彼らの【強化外骨格】の【リフリジレイター】4機と武装や、彼らが【渓谷の町の遺構】で見付けた【乗り物】などを【ロヴィーナ】の担当部署に返還する役目も任されていました。
・・・
ソフィアとティアは仮設診療所となった【ロヴィーナ】の一角で患者さん達の治療に当たっています。
どうやら軽症・軽傷の【ロヴィーナ】の民は当初異界の最高神とその首席使徒であるソフィアとティアの治療を受ける事(それも無償で……)に気後れしていたらしく集まりが悪かったのですが、業を煮やしたソフィアが……【ロヴィーナ】の民は全員診療所に来い。肌荒れや深爪でも構わぬ。怪我や病気が全くなくとも健康診断じゃ。高々900人を治療するくらい、どうという事もないのじゃ……と命じた事で、今は長蛇の列が出来ていました。
ティアの治療をソフィアが景気良くサポートする事で、行列はみるみる減って行きます。
するとバイパー小隊の面々が家族や婚約者を連れてやって来ました。
「バイパー小隊は治療したじゃろう?」
ソフィアは言います。
バイパー小隊は【渓谷の町の遺構】でのランチの際に怪我などを治療していました。
「えっ?怪我や病気がなくても強制参加って聞いて来たんすけど?」
カンタン一等兵が言います。
「それは……本人に自覚症状がなくとも何らかの重大な疾病になっておる可能性もある故、素人考えで大丈夫などと判断せずに健康診断として来い……という意味じゃ。バイパー小隊は、その健康診断も既に終わって問題ないとわかっておるのじゃ」
ソフィアは意図を説明しました。
「あ、なるほど。なら自分は婚約者の付き添いっす」
カンタン一等兵は婚約者のオードリーを指差して言います。
オードリーは【スキュラ】でした。
「では、サーチしますので、椅子に座って下さいね?」
ティアがオードリーに言います。
「あ、はい。服はどうしましょう?」
オードリーは訊ねました。
「そのままで結構です」
「はい。お願い致します」
「……最近気分が悪かったり、嘔吐したりする事はありませんでしたか?」
ティアは表情を変えずに訊ねます。
「あ……はい。少しですが……」
オードリーは小さな声で答えました。
「オードリー。病気なのか?そんな事全然言わなかったじゃないか?」
カンタン一等兵は驚いて訊ねます。
「ううん、大丈夫だから……」
「嘔吐するなんて大丈夫じゃないだろう?」
「本当に大丈夫なの……」
「お2人は婚約なさっているのですよね?オードリーさん、カンタンさんがお相手なのでしょう?」
ティアが訊ねました。
「はい。もちろんです」
オードリーは頷きます。
「なら、お伝えしても?」
「あ、はい」
「カンタンさん。7週目です。おめでとうございます」
ティアは表情を変えずに言いました。
「えっ?」
カンタン一等兵は固まります。
「ですから、オードリーさんは現在妊娠7週目です」
「はい?」
「だから、赤ちゃんが出来たのよ……」
オードリーは答えました。
「マジか!?俺が父親になるのか?女の子か?男の子か?」
カンタン一等兵は驚きます。
「あと4週程しないと性別はわかりませんよ」
ティアが説明しました。
「そ、そっすか……。俺の子供……」
「良かったな。結婚祝いが懐妊祝いと一緒になりそうだな?」
オックスフォード中尉が祝福します。
バイパー小隊のメンバーと、その家族も口々に祝福の言葉をカンタンとオードリーに言いました。
実はプレイヤーが【終末後の世界】の【秘跡】をゲーム会社が意図した通りにルート進行させると……カンタン一等兵らバイパー小隊は任務中に魔物から襲われて全滅し、オードリーもお腹の子供の父親であるカンタン一等兵を失い悲嘆に暮れる……という悲劇的な状況になります。
しかし、現在のシナリオは……バイパー小隊をソフィアが救った世界線……なので、このような幸せな雰囲気に包まれていました。
「お次の方どうぞ」
ティアが、おめでたい雰囲気の一同を促します。
「あ、はい。お願いします」
バイパー小隊の隊長オックスフォード中尉が診察椅子に腰掛けました。
「何じゃ。オックスフォードの事は昼に診て、オデコの傷を治して……あとは一部以外は健康じゃ……と伝えた筈じゃろう?」
ソフィアが訊ねます。
「はい。この際、その一部の治療もお願いする事にしました」
オックスフォード中尉は頭を掻きました。
「ふむ。しかし、昼の時には……治療を行うとリハビリの期間が必要で、任務に差し支えるから治療はしない……と言っておったではないか?」
「それが事情が変わりまして……。今回ソフィア様達を【ロヴィーナ】にお連れした功績で大尉に昇格して中隊を任される事になりました。バイパー小隊のメンバーも全員昇格で、バイパー中隊になります。その関係で元バイパー小隊の4人は2週間の褒賞休暇を貰えたんです。自分の古傷は最短1週間リハビリすれば新しい組織が馴染む……という事でしたので治療をお願いする事になりました」
オックスフォード中尉……改め大尉が説明します。
「ふむ。じゃが我は、【ドゥーム】の人種コミュニティを探しておった故、どちらにしろ【ロヴィーナ】には、いずれ訪れたと思うぞ。別にバイパー小隊の功績と言う程の事もないのじゃ」
「はい。自分達はソフィア様に命を救われた側なので、それは仰る通りです。ただし指導部は……バイパー小隊がソフィア様をお連れしなければ、【ロヴィーナ】以外のシェルターに、ソフィア様と最初に拝謁する栄誉を奪われたかもしれない……と考えているようで、それも含めての功績です」
「なるほど。面子の問題という訳か?」
「はい。それと今後の政治的影響力とかじゃないですかね?」
「下らぬの」
「仰る通りです」
「わかった。ではティア治療してやれ」
ソフィアはティアに指示しました。
「では、患部を見せて下さい」
ティアはオックスフォード大尉に言います。
「はい。……よっと」
オックスフォード大尉は、膝のジョイントを操作して両脚の義足を取り外しました。
オックスフォード大尉の膝下は両脚ともありません。
彼は若い頃、両脚を戦闘で失っていたのです。
「ソフィア様。患部が古く、欠損部位が乱れていて、尚且つ肉が不規則に盛り上がっていますので、私の能力では完全な治療は難しいかもしれません」
ティアは言いました。
「うむ。ならば我がやろう。……身重のオードリーは見ない方が良いじゃろう。少しショッキングな事になるからの」
ソフィアは言います。
「あ、はい。では、失礼します」
オードリーは頭を下げて退席しました。
「隊長。では、また後で……」
カンタン一等兵……あらため上等兵はオードリーに付き添って退席します。
「他の者は、ここにいて良いのか?まあ、兵隊は見慣れた光景かもしれぬがの」
ソフィアは【収納】からオリハルコン製のショート・ソードを取り出して改めて訊ねました。
一同は頷きます。
因みに秋のスイーツ祭の分配会場の方にいる子供達と、引率と運営係の大人達はスイーツを配る際に一緒に診察と必要なら治療も行う予定なので、ここにはいませんでした。
なので子供達がグロいシーンを見る心配はありません。
「【無痛】。ソフィア様、どうぞ……」
ティアがオックスフォード大尉に麻酔代わりの【無痛】を掛けました。
「うむ。……ふんっ!【完全治癒】」
ソフィアは剣を振るってオックスフォード大尉の患部を薄く切断すると、【完全治癒】で新しい脚を生やします。
「おおっ……脚が……」
オックスフォード大尉は自分の脚を触りながら言いました。
「オックスフォード。新しい組織は1週間程度で馴染むが、其方は長年義足で生活しておった故、自分の脚の使い方や感覚を取り戻すのには相応の慣れや訓練が必要じゃ。真剣にリハビリとトレーニングをすれば2週間あれば何とかなるじゃろう。ただし違和感があったら大事を取って、しばらく【リフリジレイター】には乗るな。脚を動かす神経は神経信号伝達型の義足を使っておった故、退化はしておらなんだようじゃからリハビリをすれば比較的早く【リフリジレイター】に乗れるようになるじゃろう」
ソフィアが説明します。
「ありがとうございました」
オックスフォード大尉は深々と頭を下げて礼を言いました。
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