第1010話。へっぽこ軍団の終末世界旅行…11…ルート・スキップ。
本日2話目の投稿です。
シェルター都市国家【ロヴィーナ】。
王の間。
ソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は【ロヴィーナ】のロデリック・ロヴィーナ王から【ドゥーム】に破滅をもたらした……災厄……と呼ばれる環境破壊の原因が【微小機械】・パンデミックだったと聞かされました。
それを引き起こしたのも、また原始的な知性と自己再生産能力を持った【微小機械】・ネットワークという人工知能です。
しかし、これは、あくまでも環境を破壊したプロセスと結果であり、因果関係で言えば、そもそもの原因は人種の欲望に端を発していました。
「まったく……人種とは愚かな事をするものじゃな」
ソフィアは嘆息します。
「まったくですね」
オラクルは頷きました。
ソフィアの言葉に対してロデリック王以下の【ロヴィーナ】側の面々は、【ドゥーム】に破滅をもたらした【微小機械】を造り出したのは自分達海生人種の先祖ではなく、古代に滅んだ陸生人種達だったので多少他人事のように考えています。
「ロデリックよ。其方は今……【微小機械】・パンデミックを引き起こしたのは、古代の陸生人種で、自分達海生人種は関係ない……などと考えておらぬか?」
ソフィアは詰問しました。
「えっ、あ……」
ロデリック王は口籠もります。
ロデリック王はソフィアからの不意の詰問に対して、本音では……自分達海生人種の責任ではない……と即座に断言したかったのですが……もしも、そう言えば、神であるソフィアから何らかの説諭や叱責を受けるのかもしれない……という予感がして答えを躊躇しました。
それは正しい判断です。
「もしも其方らが……古代の陸生人種達が全て悪いのだから、自分達は当事者ではない……などと考えておるとするなら、それは心得違いじゃ。其方ら海生人種の先祖達も【ドゥーム】に暮らす生命体として生存権を持っておったのじゃ。じゃから、陸生人種達が【微小機械】による魔力生成技術を開発し、その事業を行っておった時に、其方らも【ドゥーム】世界の共同体の一員として……その【微小機械】を用いたエネルギー・インフラの安全性は担保されておるのか?……と訊ね、情報提供を要求すべきだったのじゃ。そして、安全性に不安があるとするなら、それを止めさせる必要もあったのじゃ。事実【微小機械】・パンデミックによって古代の【ドゥーム】文明は滅びてしまったではないか?もちろん【微小機械】を開発し暴走させパンデミックを引き起こした張本人で最も責任が重いのは古代の陸生人種達じゃ。じゃからこそ、連中は絶滅という形で既に罰を受けておる。しかし海生人種も【ドゥーム】全体が破滅するような【微小機械】の開発と暴走を放置した責任の一端はあるのじゃ。【ドゥーム】に暮らす生命体群の一員としてな。我なら古代陸生人種達が何か危険な研究開発をしておらぬか情報を集めて、仮に【微小機械】技術の安全性に少しでも懸念があると思えば、まずは外交ルートで情報の提供を要求し、陸生人種の側が無視するなら、最悪は武力に訴えてでも阻止したであろう。それをしなかった其方の先祖達は被害者ではあるが、丸っきりの無辜という訳ではなく、怠惰だったという意味で多少の問題があったと断ぜざるを得ぬ。其方ら海生人種も【ドゥーム】に生存権を持つ共同体の一員なのじゃから。事実、其方ら古代の海生人種の子孫達は、現在の【終末後の世界】で塗炭の苦しみに苛まれておるではないか?この【ドゥーム】の悲惨な現状の責任の大半は、既に滅びた古代の陸生人種にあるが、古代の海生人種達も無為無策だったという点で、あまり褒められたモノではない。つまり【微小機械】・パンデミックは、其方らにとっても他人事ではないのじゃ」
「ははーっ。お言葉、至極ごもっともでございます。仰せの通り【微小機械】・パンデミックに関しては、我々の先祖である古代海生人種も当事者でございました。決して他人事ではございませんし、我々も真摯に現状を受け止めております」
「ふむ。ならば良いのじゃ。もしも其方らが……自分達には一切関係のない出来事……などと言うのなら、我は【創造主】からの試練をクリアする方法を見付けたら、其方らの都合は無視して直ぐに【ドゥーム】から去るつもりじゃった。しかし、其方らが当事者の一員として問題に向き合う気概と覚悟があると言うなら、我は出来得る限り其方ら【ドゥーム】の民の救いになる事をするつもりじゃ」
ソフィアは……神は自ら助くる者を助く……という信念を持っていて、自分の身に降りかかる出来事に対して真摯に向き合う姿勢を持たない者に対しては、存外に冷酷な一面もありました。
「ははーっ。有り難きお言葉。【ドゥーム】に棲まう全ての生命体に成り代りまして、お礼を申し上げます。ありがとうございます」
ロデリック王は咄嗟の機転で、ソフィアからの詰問に対する正解を答える事が出来たのです。
「しかし、1つわからぬ事がある。【微小機械】・パンデミックを引き起こした【微小機械】は、もう動かなくなっている筈じゃ。何故なら【微小機械】達がエネルギー源とする水も、再生産やメンテナンスに必要な素材とする植物と土も、もはや【ドゥーム】には全くないのじゃからな?」
ソフィアは訊ねました。
「仰る通りです」
【ロヴィーナ】のロデリック王は肯定します。
「で、あるならば何故今も【ドゥーム】では植物が全く育たぬのじゃ?何故砂漠に土壌を移植しても直ぐに分解されてしまうのじゃ?【微小機械】らが動かなくなったなら、水は簡単ではないかもしれぬが、限られた範囲内での土壌や植物相の復元は可能じゃろう?」
「ソフィア様が仰る通り、現在【微小機械】達は動かなくなっています。しかし【微小機械】はなくなった訳ではなく、存在はしているのです。エネルギーである魔力を無駄に消費しない為、あるいは自らの故障リスクを低減する為に休眠してはおりますが、【微小機械】は今も尚【ドゥーム】中に無数に存在しております。奴らは近くに水や植物や土壌を見付けると、休眠状態から目覚め群がってそれを捕食するのです」
「なぬっ!」
ソフィアは辺りをキョロキョロ見回しました。
「大丈夫でございます。この【ロヴィーナ】を含めた5つのシェルター都市には何故か【微小機械】は侵入出来ません。シェルター内には何らかの対【微小機械】防疫機能が働いているモノと思われます。なので、シェルターの中に居れば安全です」
「ん?シェルター都市が5つとな?我はオックスフォード中尉から……現在あるシェルター都市は3つ……と聞いたが?」
「それは現在人種によるコミュニティが維持されているシェルター都市が3つだけという事で、元々シェルター都市は全部で5つあるのです。古代【ドゥーム】の大陸にあった5つの旧国家の、それぞれの首都に隣接して5つのシェルター都市が建造されています。外にある廃墟の【ロヴィーナ】は西方国家の首都でした。【カラミータ】は中央国家の首都、ディストゥルツィオーネ】は東方国家の首都でございます。この他に南方国家の【ダウン・フォール】と、北方国家の【デマイズ】がございます。【ダウン・フォール】と【デマイズ】は、そこで暮らす人口が都市を運営可能な、あるいは種の存続を可能とする最少人数を下回ってしまった為、他のシェルター都市に合流致しました」
生物、主に動物には……最小存続可能個体数……というモノがあります。
動物には群などのコミュニティが長期持続的に存続する為に、最低限の必要個体数というモノがありました。
生存競争、災害、環境変動などで個体数が減っても、その減少数を吸収して絶滅を免れる数と言い換える事も出来ます。
また、遺伝的に近い個体同士が繁殖する事で子孫の多様性を奪い脆弱にならないように遺伝的多様性を担保する必要があるという意味でも最小存続可能個体数という概念が提起される場合もありました。
つまり【ダウン・フォール】と【デマイズ】は人口が減り最小存続可能個体数を下回った事で、他のシェルターに移らざるを得なくなったのでしょう。
「う〜む……各シェルター都市の名が【廃墟】、【天災】、【破壊】、【没落】、【終焉】……そして、この世界の名が【差し迫った死】か?何ともはや、示唆的じゃな……」
ソフィアは言いました。
ソフィアは……【創造主】が、【ドゥーム】を【終末後の世界】として創ったのだから、地名もそういう世界観で統一されているのだろう……と推定します。
それは正解でした。
「ソフィア様。位置座標を確認致しましたが、私達が最初に【ドゥーム】に降り立ち【再配置】されたエントリー地点は、どうやら【ダウン・フォール】の近くだったようです」
オラクルが説明します。
「そうか、ならば、もうしばらく探索を続けておったら、【ダウン・フォール】を発見しておったのかもしれぬな?」
「はい、おそらく」
「じゃが、ロデリックの話によると【ダウン・フォール】には誰もいなかったのじゃ。早々に【ロヴィーナ】に来て、ロデリックに会い【微小機械】・パンデミックの話を聴けた事は僥倖じゃったの」
「ソフィア様の御威光の賜物かと……」
「ふむ。我には【天運】があるのじゃ」
「はい」
実は初日にソフィアが魔物を狩りまくった場所の、すぐ近くにある岩盤の中にシェルター都市【ダウン・フォール】がありました。
あの岩盤はエントリーしたプレイヤー・パーティが【再配置】されてしばらくすると起きる魔物の【襲撃】・イベントで劣勢に立たされて撤退する場所だったのです。
プレイヤー達が【サンド・ワーム】や【砂漠・ワーム】など砂中から襲い掛かって来る厄介な無数の魔物から逃れる為に最適な行動を取れば、必然的に地面が硬い岩盤の上に登りました。
そしてプレイヤー達は、自然な流れでシェルター都市【ダウン・フォール】を発見し、内部で物資などを補給したり、有用なツールなどを見付けたり、NPCに出会ったり、他のシェルター都市の場所などのシナリオを進行させるヒントを知る事が出来るのです。
しかしソフィアはユーザーなどと比べて、あり得ない戦闘力があり魔物の【襲撃】を軽く全滅させてしまったので、本来なら導かれる筈の岩盤にあった【ダウン・フォール】をガン無視してシナリオを、すっ飛ばしてしまいました。
また、プレイヤー達の【ロヴィーナ】への到着は、もっと後になる筈だったのです。
【ロヴィーナ】を訪れたプレイヤー達は、初め……突然やって来た素性が良くわからない怪しい来訪者……という扱いで【ロヴィーナ】の住人からの信用が低く、有用な情報は何も教えてもらえません。
もちろん警戒されているので最初から【ロヴィーナ】の国王なんかには会えないのです。
プレイヤー達は【ロヴィーナ】軍に協力して魔物と戦ったり、生産系などの【職種】であれば壊れた設備の修理をしたり(ここで【ダウン・フォール】で見付けたツールや資材が役に立つ)、【回復・治癒職】なら【ロヴィーナ】の住人の病気や怪我を治療してあげたりする事で徐々に信頼を得て、やがて【ロヴィーナ】王に拝謁出来るようになり、王から【微小機械】・パンデミックの事を教えてもらう事が出来ました。
しかしソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は……異界から【ドゥーム】を救う為に降臨した圧倒的な力を持つ偉大なる神……という絶大なネーム・バリューによって苦労せずにシナリオを進めています。
実は【終末後の世界】のシナリオ・チャプターにおいて……【ロヴィーナ】王の話……は、もう折り返し地点を超えて、シナリオの佳境近くになっていました。
このままクリアまで突き進むと、ソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】はゲーム時代の【終末後の世界】のリアル・タイム・アタックで世界記録を更新するペースなのです。
もちろんソフィア達が、すっ飛ばしたルートで取りこぼしたアイテムや希少素材などが沢山ありましたが、別にソフィアはアイテム漁りや素材集めをする気はないので問題ありません。
そもそもソフィア達は、この【終末後の世界秘跡】における最重要キャラである【導き手】にも出会っていませんでした。
【導き手】は【カラミータ】から【ダウン・フォール】に探索に来ていて、偶然プレイヤー達と出会う(もちろん、普通にプレイしていれば会うようにルートが敷かれている)筈だったのですが、ソフィア達は、それもガン無視しています。
「とりあえずは【微小機械】を何とかすれば良いとわかっただけでも収穫ありじゃ。出来れば【微小機械】の構造を調べてみたいのじゃが、どうにかして【微小機械】を見付ける事が出来ないモノかの。【マップ】にも反応がないのではサンプルを回収するのも大変なのじゃ」
ソフィアは言いました。
「ソフィア様。【微小機械】は見えますし、割と簡単にサンプルも回収出来ると思います」
ロデリック王は言います。
「なぬ!?何処じゃ?」
「正確に申しますれば、【微小機械】本体は極めて小さいので肉眼では見えません。しかし休眠中の【微小機械】は硬い鉱物の外殻を生成して身を守ります。その外殻が、ある程度の大きさがあるので肉眼で見えるのですよ」
「それは何じゃ?」
「【微小機械】の外殻は、この【ドゥーム】世界で最も多い固体物資……つまり石英でございます」
「石英……つまりは、砂か?」
「はい。【ドゥーム】世界に幾らでもある砂の、ほぼ全ては休眠中の【微小機械】の外殻です」
「なっ、膨大な数ではないか!?」
ソフィアは驚愕しました。
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