第101話。進撃!
名前…ノヒト・ナカ
種族…【神格者】
性別…男性
年齢…なし
職種…【調停者】
魔法…多数
特性…多数
レベル…99
本作の主人公。
ゲーム会社の社員にして、公式ゲームマスターだったが、異世界転移した。
全ステータス・カンスト、当たり判定なし、ダメージ不透過、攻撃力無限大、不死身、不老不死、無敵というチートな存在。
ゲーム運営側ガイドラインと、ゲームマスター遵守条項と、世界の理を守る。
世界の中の、法律、公序良俗、倫理、公衆衛生は、なるべく守る。
それ以外は好きなように振る舞う。
これが行動原理。
【大密林】深部。
私達は、進撃を続けていました。
【超位】の魔物が出現し始め、ソフィアが勢い勇んで突撃し、【クワイタス】で【超位】の魔物をバッサバッサと斬り殺し、私は周辺にいる【高位】の魔物を広域殲滅、オラクルがソフィアの散らかした魔物の残骸を回収して行きます。
「【雷霆】。これでよし。ソフィア、そろそろ、お昼ご飯に戻りますよ」
私は、遠くでミキサーのように【クワイタス】を振り回して、【超位】の魔物を細切れにしているソフィアに向かって、呼びかけました。
ソフィアへの食事の報せは、大声で叫ぶ必要はありません。
ソフィアは、ご飯、という単語にピクリッと反応して、魔物の死体を回収し、戻って来ます。
ほらね。
「ノヒトよ。武器戦闘も、存外、悪くないモノじゃの?手足の延長のようなモノで、思っていたほど不自由は感じないのじゃ」
「ソフィアは、私と同じように、あらゆる武器熟練値のステータスがカンストしているからだね。ソフィアは、特別、なんだよ」
「なのじゃ」
ソフィアは、私が言った、特別、のフレーズを褒め言葉と解釈したようで、とても嬉しそうに頷きました。
「ノヒト様。また【宝物庫】がいっぱいになりました」
オラクルが【宝物庫】が2つ装着された右腕を差し出します。
オラクルには、両腕に2つずつ、合計4つの【宝物庫】を渡していました。
「凄まじい、狩の効率だよ。【高位】以下の魔物を全て消滅させているにも関わらず、【超位】だけで、この量……」
私とソフィアは、それぞれ、引くくらい大量の【超位】の魔物を狩っています。
なにしろ、900年放置されていた【大密林】ですからね。
魔物の等級は、ダンジョンの最深層レベル。
魔物の濃さは、ダンジョンの数百倍。
こんな美味しい狩場は、他にありません。
私は、オラクルの【宝物庫】の中身を、私の【収納】に移します。
「ノヒトよ。今日のお昼ご飯は、オムライスが食べたいのじゃ。ジャガイモ亭に行くのじゃ」
ソフィアは、言います。
「ソフィア、ごめんよ。しばらくは、食事時には、【アトランティーデ】王城で、情報確認をしながらに、なるんだよ。だから、食事は、【アトランティーデ】王城でするんだ。ソフィアとオラクルだけ、【ドラゴニーア】に戻って食事して来るかい?」
「いいや、ならば、我慢するのじゃ」
ソフィアは、ガッカリしたように言いました。
「ソフィア様。ディエチにオムライスを作らせては、いかがでしょうか?材料はディエチの【宝物庫】に揃っておりますし、彼女は料理スキルを極めておりますよ」
オラクルが言いました。
「そうじゃ、そうするのじゃ。プレーンタイプと、半熟タイプと、両方食べたいのじゃ」
ソフィアは、言います。
「それは、よろしいですね〜」
オラクルは、ニッコリ微笑みました。
なるほど。
ディエチは、私が、そのように造ったのでしたね。
ディエチには、私の料理スキルがトレースしてありました。
私は、全ステータスがカンストしていますので、当然、料理スキルも超一流なのです。
トレースされた能力は、オリジナルには及びませんので、私に比べて、ディエチの料理スキルは、幾らかステータス値が減衰してしまいます。
しかし、それでも、ディエチは、世界トップクラスの料理人と同等の技術を持っていました。
私も、ディエチに何か作ってもらおうかな。
私が作れば、ディエチより上手に出来ますが、面倒です。
それに、誰かに作ってもらった料理の方が何故か美味しく感じるのですよね。
不思議です。
私は、現在地に転移座標を設置して、王都【アトランティーデ】王城に【転移】しました。
・・・
昼食。
「こっちの半熟トロトロのオムライスの中身はトマトベースのチキンライスなのじゃ。絹肌のような表面のプレーンタイプの中身はチキンピラフなのじゃ。我は、半熟タイプを勧めるが、プレーンタイプも絶品じゃぞ。仕上げにかけるソースも複数用意したのじゃ。オムライスは至高の芸術なのじゃ」
ソフィアは、【アトランティーデ海洋国】の王家や重鎮達に、オムライス道、なるモノを布教していました。
昼食は、【アトランティーデ】王城の料理人達により準備してあったのですが、ソフィアが王家の面々に半ば無理やりオムライスを勧めたのです。
なので、テーブルには、高級なコース・ランチと、オムライスが併存するという、奇妙な状況になっていました。
にしても、量が多過ぎませんか?
大きなオムライスが2種類、その他にコース・メニューもあるのです。
私は、比較的、食事の量が食べられる方ですが、王家の姫様達は……。
この世界では、食べ物を粗末にするような食文化は、宮廷にも、市井にも存在しません。
日本人が創った世界観ですから、贅沢はしても、食材は無駄にしない、というのが世界共通の価値観として根付いています。
なので、王族とはいえ、出された食べ物は残さない、というのが、最低限のテーブルマナーでした。
地球では、食べきれないほどの食事をテーブルに並べる事がもてなしで、それを、ほとんど残す、というのがマナー、などという食文化を持つ国もあるやに聞きますが、それは日本人には、到底理解出来ません。
ソフィアのオムライス攻撃を受けた、【アトランティーデ海洋国】の王家の人々。
男性陣は、お腹が苦しそうでしたが、なんとか完食。
女性陣は、相当にキツそうです。
結局、食材掃除機のソフィアが最後は責任を持って、全てを処理しました。
量はともかく、オムライス自体は好評。
【アトランティーデ海洋国】の王家の人々は、オムライスを食べた事がなかったそうです。
サウス大陸では、お米が珍しいですし、鶏卵や鶏肉も貴重でした。
サウス大陸のタンパク源は、もっぱら魔物肉。
畜産は、盛んではありません。
「米は、麦やトウモロコシに比べ、収量が多いのです。また、暑さや湿度に強く、水田で育てると、収量がさらに増加します。連作障害も起き辛く、暖かい気候に対応した品種なら、【アトランティーデ海洋国】でも、良く育つと思いますよ」
「そうじゃ。全てではなく、何割かを麦やトウモロコシやイモから、米に変えてみてはどうじゃ?食材が増えれば民の食文化も多様になる。また農業植生の多様化という意味でも危機管理となるのじゃ」
「なるほど。味も良い。粉に挽かなくても、茹でればすぐ食べられる。利が多いですな」
ゴトフリード王が言いました。
「もし、望むなら、【ドラゴニーア】から、種籾と農具、それから農業指導員を送るのじゃ」
「是非、お願い致します」
ゴトフリード王が言います。
「家禽類の飼育も、比較的簡単ですし、畜産の中ではコストがかかりませんよ」
「そうじゃ。鶏も飼育するのじゃ」
「確かに、安全に肉や卵が手に入り、供給量が安定するのは、利があります」
ゴトフリード王が言いました。
「うむ。我が国から、家禽類の飼育に長けた、【ゴブリン】達を指導員として送ろう」
「【ゴブリン】……ですか?」
王家の面々が眉をひそめます。
ああ、【ゴブリン】の評判は、とても悪いですからね。
大概は、そういう反応になります。
サウス大陸は、元々【獣人】が暮らしていた土地でした。
従って、伝統的に、サウス大陸には多様な種族が住み、種族差別は、ほとんどありません。
しかし、そのサウス大陸でも【ゴブリン】は、とても嫌われていました。
その悪いイメージは、イースト大陸の【ゴブリン自治領】に住む【ゴブリン】達による無法な振る舞いが世界中に知れ渡っているのが原因です。
けれども、きちんとした養育環境と、正しい公的教育を受けて育った【ゴブリン】は、他の人種と同様に秩序を乱す存在ではありません。
子供の教育というのは、人種の知能と理性の形成にとって極めて重要なのです。
「セントラル大陸の【ゴブリン】は、皆、善い【ゴブリン】なのじゃ。法や規範を守り、社会の秩序を守り、真面目に暮らしておる。それにの、【ゴブリン】達は、家禽類の飼育に長けておるのじゃ。【ドラゴニーア】では、新たに、ウオヴォ・マエストロ、という称号を創ったのじゃ。味と品質の高い卵を生産する養鶏農家を褒賞する目的なのじゃが、最初にウオヴォ・マエストロの称号を得た10人の内、6人までが【ゴブリン】じゃった。これは、種族人口比から言えば、凄い事なのじゃ。【ゴブリン】達は、卵の匠達で、我は、その功績を高く評価しておるのじゃ」
鶏卵名人は、最近、ソフィアの肝入りで創設された新しい称号でした。
ウオヴォ・マエストロになると、【神竜】形態のソフィアが卵を食べる姿を模った勲章が【神竜】自身から授与されます。
ウオヴォ・マエストロの叙勲を受けた者は、ウオヴォ・マエストロを称号として公式の場で用いる事が許され、儀礼格式は4大権者に準ずるモノなのだそうです。
また、国から報奨金も与えられました。
4大権者とは、立法・行政・司法・神竜神殿のトップ。
大神官のアルフォンシーナさんが、この地位にあります。
その儀礼格式に準ずるという事は、ウオヴォ・マエストロは、神官長エズメラルダさんや、軍長官のイルデブランドさんと儀礼上同格。
つまり、竜騎士団長のレオナルドさんは、公式の場では、ウオヴォ・マエストロを上位者として扱わなくてはいけません。
【ドラゴニーア】には、貴族制も爵位もありませんが、この称号は、実質、一代限りの爵位に等しい扱いとなっています。
ソフィア……いくら卵好きでも、やり過ぎでは?
ゲームマスターは、基本的に、国の政には、口出ししませんが……。
「そうなのですね。【ゴブリン】に、そのような長所が、あるとは……」
ゴトフリード王は言いました。
「王陛下。是非、ソフィア様の、ご厚情を、お受けになるべきです。養鶏は大規模な設備がなくとも始める事が出来ますし、卵は栄養価の高い食品でもあります。また、我が国には、【蜥蜴人】や【蛇人】など、卵を好む種族も多く、国民の潜在需要もあります。そして、何より、サウス大陸解放後は、魔物肉の供給量は減少します。畜産業を奨励しないと、我が国は、肉の需要を全て輸入で賄わなくてはならなくなります。急がないといけません。【ゴブリン】の養鶏家の方々が、そのように優秀なのならば、我が国に招いて教えを請いましょう」
エイブラハム相談役が言います。
エイブラハム相談役は、現実主義者。
サウス大陸奪還作戦に反対していた理由も、民の暮らしを守る為だったのだ、と理解出来ますね。
為政者として、イデオロギーなどには関係なく、自分が置かれた状況下で常に最善手を打ち続ける、という嫌いじゃないタイプの人物です。
「う、うむ、そうだな。ソフィア様、是非、お願い致します」
ゴトフリード王は言いました。
「うむ、すぐ手配するのじゃ。これで、サウス大陸が解放された後、我が遊びに来た時に、オムライスを食べられるのじゃ。それから、親子丼という物も、あってじゃな。これも、また……」
ソフィアの卵道の講義は続きます……。
・・・
昼食後。
私達は、再び出撃。
午前中に到達した場所まで【転移】しました。
すぐに、ソフィアが【クワイタス】を引っさげて、突撃。
私が後方支援。
オラクルが回収という連携。
ソフィアは、【クワイタス】を完全に使いこなしていました。
【古代竜】のブレスさえ、【クワイタス】で斬ってしまいます。
相変わらず、ソフィアはデタラメですね。
どうやったら、そんな事が可能なのか、ゲームマスターの私でさえ意味不明なのです。
しばらく進撃し、上空で休憩。
「ソフィア様。どうやったら、ブレスを斬る、などという事が出来るのですか?」
オラクルが訊ねました。
「魔力をいっぱい込めて斬ってみたら、斬れたのじゃ」
「なるほど」
「オラクルも、盾で【古代竜】のブレスを完全に防ぐとは、中々にやるではないか?」
「これは、【アイギス】の性能のおかげです。私は、ただ盾の背後に隠れているだけでございますよ」
オラクルは、謙遜します。
「いや。如何なる盾も、【古代竜】のブレスを防ぐのは、容易ではない。オラクルの技量と魔力の高さがなければ、出来ぬ芸当なのじゃ」
「お褒めに預かり光栄です」
「なのじゃ」
ソフィアとオラクルの相性は、抜群のようですね。
なによりです。
・・・
休憩後。
私とソフィアで、前衛と後衛を交代しながら、どんどん進撃して行きました。
「ソフィア、止まって下さい」
「む、どうした?」
「見て下さい。あれが【人食い沼】です。【ジャバウォック】が湧いています」
私は、遠くに見える湿地帯を指差します。
【ジャバウォック】は、強力な精神攻撃を持つ【超位】の魔物。
一応、【古代竜】に分類されていますが、厳密には、【竜】族とは、別種族です。
外見は、ネス湖のネッシーのイメージとして知られる首長竜に似ていますが、ヒレを持つ首長竜とは違い、脚と翼を持っていました。
【竜】族に比べ、首が細長く頭部が小さいのが特徴です。
ソフィアは、私が促した視線の先を見つめて、嫌な顔をしました。
「ここから、【神竜砲】をお見舞いしてくれる」
ソフィアは、【神竜の咆哮】を収束させて放つ新しい技を、【神竜砲】と名付けたようです。
「いえ、私が狩って来ますよ。確かに、【ジャバウォック】には、遠隔からの攻撃がセオリーですが、私には精神攻撃は、効きませんし、第一、沼は底なしなので、ここから撃つと、沼に落ちた死体は回収出来なくなります」
「うむ。ノヒトに任せるのじゃ」
私は、高速飛行で接近して、15頭の【ジャバウォック】の首を斬り飛ばし、死体を【収納】に収めました。
もちろん精神攻撃を放って来ましたが、私には無効です。
ソフィアと合流して、さらに先へ進みました。
【人食い沼】の周囲は広大な湿地帯。
900年前は、【蜥蜴人】の狩場だったと、記憶しています。
今は、人種が、どこにも存在しませんが……。
「湿地の魔物は、狩らぬのか?」
ソフィアが訊ねます。
【マップ】上には、敵性反応を示す赤い光点が無数にありました。
「湿地の魔物は、基本的に湿地の外には出ません。ここの魔物達は、スタンピードで溢れたダンジョン由来の魔物ではありませんよ。なので、討伐の必要はないでしょう」
「なるほどの。900年前は、人種が踏み入る事が難しかった湿地帯が、今は、逆にスタンピードの被害を受けずに元の生態系を維持している。皮肉なのじゃ」
ソフィアは、言います。
もう、日が傾いて来ましたが、予定していたよりかなり早く進捗していますね。
【クワイタス】を手にしたソフィアの戦闘効率が、格段に上がり、進撃速度が大幅に上がった為です。
「おっ……」
ソフィアが声を上げました。
ソフィアも感じたのでしょう。
「ソフィア。たった今、【パラディーゾ】の【都市結界】……つまり、【ファヴニール】が張る【神位結界】の領域内に入りましたよ」
私達は、900年前、サウス大陸中央国家【パラディーゾ】だった領域に入りました。
「【ファヴニール】めは、きちんと仕事をしておるようじゃ。【結界】に、我を拒絶するような意思は感じなかったのじゃ。今頃、我らの存在を【ファヴニール】は感じておろうの?」
「そうだね。もうすぐ、【ファヴニール】を復活させてあげられる。ほら、ソフィア、見えて来ました。あれが、【パラディーゾ】の北端の街【ベルベトリア】ですよ」
「おーっ、やっと着いたか」
私達の眼前には、【ベルベトリア】の黄土色の都市城壁が見えていました。
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