第1008話。へっぽこ軍団の終末世界旅行…9…終末の物語。
【渓谷の町の遺構】。
「むむむ〜、そいやっ!むむむ〜、そいやっ!」
ソフィアは、謎の節回しで掛け声を発しながら、魔法をブン回していました。
グレモリーがやるような効率を突き詰めた上での高出力魔法ではなく、【神竜】の地魔力の無尽蔵さに任せた、燃費ダダ漏れの無造作極まりない暴威と呼ぶべき魔法の運用です。
早めのランチを終えてから尚もタップリと時間を掛けて食後休憩をしたものの、ソフィア達はバイパー小隊の面々から訊けるだけの情報は粗方聞いてしまいました。
彼らは軍人としては、それなりに知識も教養もありましたが、それでも科学者や政治家や考古学者ではないので、ソフィア達【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】が【秘跡】をクリアする為に必要なヒントになりそうな情報は持ち合わせていなかったのです。
そもそもバイパー小隊は、ゲーム時代にユーザーが普通にプレイしていれば基本的には死んでしまっている筈のモブ・キャラ達でした。
元来バイパー小隊には、ゲーム会社から【秘跡】のクリアに必要なキー情報など持たされいないのです。
ソフィアは、やる事もなくなり仕方がないので時間潰しにバイパー小隊から請われて土木作業を始めました。
土木作業とは砂に埋まった町を、そっくり掘り返す事です。
あり得ない馬鹿出力の【理力魔法】で町を数十mも埋め尽くしている砂を全て空中に浮かべて、【圧縮】と【白熱】で溶解させ高密度圧縮処理をして太く巨大な強化石英ガラス柱に加工して……それで町の周囲に巨壁を建てるという荒技でした。
並べて地面にブッ刺した強化石英ガラス柱の隙間を溶着して、城門に相当する場所を【収束ブレス】で刳り貫いて、壁と町の地面と建物を全て【神位バフ】で補強すれば、上空以外からは魔物が侵入出来ない堅牢な砦町が出来上がります。
しかし【渓谷の町の遺構】の建物は、実は不壊・不滅の【初期構造オブジェクト】だったので、【神位バフ】は必要ありませんでした。
ソフィアは壊れて朽ち果てた廃墟が、まさか【創造主】による【初期構造オブジェクト】だとは思いもしなかったので、不必要な魔法による補強をしてしまったのです。
バイパー小隊がビルの屋上や天井や床などに穴を開けていたではないか?
アレは穴が空いたビルとして、最初からプログラムされたモノなのです。
その他壁が崩れた家屋や、半ば倒壊した商店や、石畳の舗装が剥がれた街路や、上部構造が崩落した水道橋なども、壊れた廃墟の状態がデフォルトの不壊・不滅の【初期構造オブジェクト】でした。
つまり【渓谷の町の遺構】は、最初から廃墟という体裁のコンセプト・デザインで創られた町だったのです。
そんな事とは露知らず、ソフィアは彼女なりに頑張って魔法の出力を加減しながら建物を壊してしまわないように慎重に砂を排出していました。
何故ならソフィアは……建物の中にまで詰まった砂を自分がパワー・プレイで乱暴に排除しようとすれば、砂と一緒に建物の屋根や天井や床が抜けてしまう……と考えたからです。
ソフィアは魔法や膂力の出力なら馬鹿みたいなレベルで上げられますが、精密性を上げるのは少し苦手でした。
しかし、この【渓谷の町の遺構】は不壊・不滅の【初期構造オブジェクト】なのですから、そもそも【神格者】の【神竜】がフル・パワーで破壊を試みても絶対に壊れません。
つまりソフィアなりの慎重な作業は初めから意味のない努力だった訳です。
兎にも角にも、ソフィアがバイパー小隊に約束した通り町から砂は全てなくなりました。
ソフィアの仕事をナカノヒトが見たら……。
「まあ、【創造主】(ゲーム会社)が最初から壊れた町を創り出すという意図や目的が、ソフィアにとっては意味不明でしょうから、わざわざ【鑑定】を用いてまで【初期構造オブジェクト】である事を確認しなかったのは致し方ありません。ただし、それでも町の地面を全てを一律に【神位バフ】で固めてしまったのは頂けません。これでは地下構造物として存在する地下室や上下水道管などを後で利用出来なくなりますよね?少し地下をサーチすればわかるでしょうに……。それに防御側の人員は城壁の上には登れないのですか?尖塔とまでは言いませんが、せめて内側から壁に昇れる階段くらいあっても良いのではありませんか?それから城門のトンネルに門扉をはめ込む溝はないのですか?これでは城門の門扉が付けられないか、然もなければ単なる蓋になってしまいます。そして透明なガラス円柱を並べてあるので時間帯によっては様々な場所で日照が焦点を結んで集光熱によって、とんでもない事故が起きそうですね?全体的に評価して、今回のソフィアの建築というか、リフォームはなっていません」
……などなど微に入り細に入り色々と使い勝手の悪さをチクチク指摘されるかもしれません。
また、グレモリーが見たら……。
「土木・建築ってのは構造計算。つまり数学なんだよ。同じ強度なら、なるべく資材を少なく……同じ資材量なら、より強く……ってのが基本。この工事は無駄が多い。端的に言って酷いね」
……などと、そもそも論でダメ出しをするかもしれません。
しかし、ソフィアとしては初めて自分だけの力で何かを建築してみたので、とても満足でした。
爽やかな充実感さえあります。
特に壁が透明で向こう側が透けているのが、ソフィア的には、お洒落ポイントでした。
また城壁の表面がツルツルなので手掛かりがなく、仮に魔物が襲撃して来ても壁にはよじ登れないという点で実用に適っていると自画自賛しています。
そもそもソフィアが土木作業などを始めたキッカケは……。
「ソフィア様なら、もしかして、この砂に埋まった町を丸ごと発掘したりなんか出来ますか?」
……というカンタン一等兵が軽い気持ちで発した質問でした。
「ふん。そんな事は、至高の叡智と深淵なる思慮を持つ天空と海洋の支配者たる我にとっては造作もない。何なら掘り出した砂をガッチガチに固めて鉄壁の防壁を造る事も容易いのじゃ」
ソフィアは……フンスッ……と鼻息を吹きました。
「マジっすかっ!?すっげ〜っ!カッコ良い〜っ!?」
カンタン一等兵は手放しで褒め称えます。
という訳でホイホイと乗せられたソフィアは、まんまと建築重機代わりに使われているという状況。
自然な流れで【神格者】を使ってしまうカンタン一等兵は、もしかしたら相当の策士かもしれません。
ついでにオラクルとヴィクトーリアはソフィアの指示で、かつて水道橋として使われていたであろう崩れた構造物を修復する羽目になりました。
おそらく、こういう構造が複雑な建造物の修復は、大雑把な性質のソフィアには面倒だったのです。
水道橋も修復後にソフィアが【神位バフ】で補強したので、もう壊れません。
ウルスラもソフィアが強化石英ガラスの巨壁をブチ建てた余りの強化石英ガラスの円柱を1本もらい、それをソフィアに頼んで縦半分に切断してもらい、中身を刳り抜いて砂を入れ【祝福】で花を咲かせ花壇にして町角を飾ったりしていました。
ただし、すぐに花は枯れてしまうでしょう。
完全に砂がなくなった【渓谷の町の遺構】。
バイパー小隊は、今まで砂が崩落する可能性があって危険な為発掘を諦めていた建物から砂がなくなったので、全ての建物を探索してお宝を見付けられるかもしれないと喜んでいます。
そうこうしていると……。
「ソフィア様。【キー・ホール】が【ロヴィーナ】上空に到着しました」
オラクルが報告しました。
「うむ。では【ロヴィーナ】に向かうかの」
ソフィアは言います。
パスカル伍長が魔法通信で【ロヴィーナ】の司令部に……今からソフィア様達御一行をお連れします……と報告しました。
【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】とバイパー小隊は、【ロヴィーナ】に向かって【転移】します。
・・・
シェルター国家【ロヴィーナ】。
【ロヴィーナ】という単語の意味は、ソフィアにとっては破滅や崩壊……それから廃墟を意味しました。
町……いや国家にそのような名前を付ける感性は少し理解に苦しむところながら、バイパー小隊によると……【ロヴィーナ】は【ロヴィーナ】として出来た時から、そう呼ばれているので、何故その名前なのか?などは、あまり深く考えてみた事もない……との事。
しかし現地にやって来てみれば、此処が【廃墟】と呼ばれている意味がわかります。
【ロヴィーナ】と呼ばれる場所には、今までソフィア達がいた【渓谷の町の遺構】と同じように、朽ち果てた都市の跡がありました。
人が誰も住んでいない壊れて荒廃し打ち捨てられた都市遺構……。
「これは……。滅びておるではないか?」
ソフィアは訊ねます。
「ああ、これは古代都市の【廃墟】ですが、自分達が本拠地にしている【ロヴィーナ】は、この先にあります」
オックスフォード中尉が説明しました。
「この先?岩山以外に何も見えないのじゃが?」
ソフィアは怪訝な顔を見せて首を捻ります。
「はい。アレがそうです」
オックスフォード中尉は頷きました。
「なぬっ、アレが?」
ソフィアは、自分が今見上げている岩山……もしくは隆起した岩盤が【ロヴィーナ】だと聞かされて驚きます。
そもそも【ロヴィーナ】がシェルターだと聞いていたソフィアは、何らかの地下構造物だと考えていました。
確かに地下に構築されてはいましたが、地上から見て下方にあるというイメージは覆されたのです。
つまり結論から言えば【ロヴィーナ】は山を1つを刳り貫いたシェルターでした。
「災厄と世界最終戦争を生き延びた自分達のご先祖様達は、あの岩山を掘って内部にシェルターを造り上げました。岩山の中を丸ごと刳り抜いて造られたのが自分達の本拠地……シェルター都市国家【ロヴィーナ】なんです」
オックスフォード中尉は説明します。
「なるほど。しかし、岩山1つを刳り貫くとは、剛気な……」
ソフィアは呟きました。
先行するバイパー小隊に案内されて【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は岩山の麓までやって来ます。
「バイパー小隊。帰還した。開けてくれ」
オックスフォード中尉が岩山に一角に向かって声を掛けました。
すると……。
「了解」
応答があったのです。
スピーカーからの声でした。
刹那……岩山の麓の一角の岩肌が消え、そこにトンネルが出現したのです。
トンネルが出現したというか、元の状態が岩肌に見えるように擬装されていました。
「【幻影】?いや、【幻覚】?馬鹿な!我の眼を欺くなど。まさか、これは【神位級】の偽装ではないか?それに、このトンネルは【創造主】による【初期構造オブジェクト】なのか?あり得ぬ。いや、間違いない。このトンネルの壁に貼られている石材は【不滅の大理石】じゃ。このトンネルは【創造主】が創ったモノじゃ。何故じゃ?全く意味がわからぬ」
ソフィアは酷く混乱します。
ソフィアの理解を超えていたのは、オックスフォード中尉は先程……災厄と世界最終戦争によって古代都市【廃墟】が滅び去った後、生き残った海生人種がやって来て巨大な岩山を刳り貫きシェルター都市国家【ロヴィーナ】が造られた……と説明した事でした。
しかし、そんな事は、あり得ません。
何故なら、古代都市が滅びた後に近くの岩山を人種が刳り貫いてシェルターを掘ったというのならば、そのトンネルの壁面材が【創造主】が創った【初期構造オブジェクト】としてしか存在しないオーパーツの【不滅の大理石】である筈がないのです。
それでは時系列が完全にあべこべでした。
ソフィアは慌てて地上にある滅びた古代都市【廃墟】を【鑑定】します。
「なぬっ!」
ソフィアは絶句しました。
壊れ朽ち果てた古代都市【廃墟】もまた、【創造主】が創り出した【初期構造オブジェクト】である事が判明したのです。
「ソフィア様。この【廃墟】は、初めから滅び去った廃墟として創り出されております。地名ではなく、【領域】のフィールド表示自体が……【廃墟】……となっていますので」
オラクルも驚いて報告しました。
「うむ。理由はわからぬが、どうやらそうらしい」
ソフィアは頷きます。
1つハッキリした事がある……つまり【廃墟】も、その後に創られたシェルター【ロヴィーナ】も、全ては【創造主】が創り出したモノという事じゃ……そして、おそらく、さっきまで我らがいた【渓谷の町の遺構】もじゃ……つまり、この【ドゥーム】世界は、滅びの淵に立たされた文明という設定も含めて、全てが【創造主】によって、そう在るべし、として創られておるのじゃ……更に時系列的に考えれば、【ドゥーム】世界に破滅をもたらした災厄も世界最終戦争も全て【創造主】が意図し引き起こした事象じゃ……何故そのような事になっておるのかは全くわからぬが、この【秘跡】が一筋縄では行かぬという事だけは間違いない……何しろ、我らは今【創造主】の奴めによってシナリオが書かれた【終末後の世界】という遠大な物語の中にいるのじゃから。
ソフィアは【念話】で説明しました。
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