第1007話。へっぽこ軍団の終末世界旅行…8…空対空迎撃。
本日2話目の投稿です。
【渓谷の町の遺構】上空。
【装甲兵員輸送艦】船内。
「ウルスラよ……ゴニョゴニョ……」
ソフィアは何事かウルスラに話します。
「え〜っ……そんな事をしたらアタシのがなくなっちゃうよ〜」
ウルスラは忌避感を示しました。
「これは必要な事なのじゃ。我らが、この【ポスト・アポカリプティック・ワールド】の【秘跡】をクリアするには、【ドゥーム】の民達の協力が不可欠なのじゃ。その一環で先ずは【ロヴィーナ】の民を懐柔せねばならぬ。その為には【ロヴィーナ】の子供達に恩恵を与えるのが手取り早いのじゃ」
「でも、こっちではケーキもクッキーもチョコレートもジュースも、フルーツですらないんでしょ?子供達に配っちゃうと、アタシ達の分はどうするの?」
「じゃから、それは我らにとっては長くても3か月の我慢じゃ。ウルスラは【祝福】で、そこら辺に花を咲かせられるのじゃろう?その花の蜜でも舐めて我慢しておれ」
「やだよ〜っ!ケーキとジュースの味を知っちゃったら、もう花蜜なんかには戻れないもん」
「ちっ、なまじ舌が肥えた【妖精】は厄介じゃ」
「あのう、何を揉めていらっしゃるのですか?」
オラクルが訊ねました。
「うむ。我は今ストックしてあるお菓子やデザートを【ロヴィーナ】の子供達に振る舞ってやろうと考えたのじゃ。そうすれば、きっと【ロヴィーナ】の子供達は喜び、その様子を見た親達も喜ぶ。結果【ロヴィーナ】の民は皆、我らに協力的になってくれる筈じゃと考えたのじゃ」
ソフィアは説明します。
「なるほど。だからソフィア様は先程【ロヴィーナ】の子供の人数を訊ねていらっしゃったのですね?」
「そうじゃ。500人とは想定より数が多かったのじゃ。我とオラクルのストックを合わせても、おそらく足りぬ。じゃからウルスラとヴィクトーリアが持つ、ケーキやお菓子やデザートを供出してもらおうと相談しておるのじゃ」
【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】では、ソフィアのスイーツと、ウルスラのスイーツは別々に管理されていました。
ソフィアとウルスラは【盟約】を結んだ不可分の主従関係でしたが、ソフィアの【盟約の妖精】であるウルスラも自分名義の【ギルド・カード】と財産を持ち、ウルスラ自身が購入した物品はウルスラが所有権を持つので当然の話です。
またオラクルとヴィクトーリアは【神の遺物】の【自動人形】なので飲食はしませんが、彼女達もスイーツをストックしていました。
それはオラクルとヴィクトーリアの主人権限第1位のソフィアと第2位のウルスラに提供する目的で、オラクルとヴィクトーリアが自分の財産と意思で購入してストックしているモノです。
【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】には漠然としたルールがあり、ソフィアの面倒を主に看るのはオラクルで、ウルスラの面倒を主に看るのはヴィクトーリアの役割となっていました。
なので基本的に、オラクルが購入するスイーツ類はソフィアの好みに合うモノが選ばれますし、ヴィクトーリアが購入するスイーツ類はウルスラの好みに合うモノが選ばれています。
必然的にソフィアが持つスイーツと、オラクルがソフィアの為にストックしているスイーツはソフィアの意思で供出可能でした。
しかしウルスラが持つスイーツと、ヴィクトーリアがウルスラの為にストックしているスイーツは、ウルスラが許可しなければ、ソフィアの意思では供出出来ないのです。
もちろんウルスラはソフィアの【盟約の妖精】なので、ソフィアが【命令強要】を行使して命令すれば、ウルスラはソフィアには逆らえません。
ただしソフィアは、ウルスラに対しても、同様に主人権限を持つオラクルとヴィクトーリアに対しても、過去一度も【命令強要】をした事がないのです。
何か頼みたい事があれば、ソフィアは口頭でお願いして従者の立場であるウルスラとオラクルとヴィクトーリアが拒否したいと思えば拒否出来るようにしていました。
それはナカノヒトが美点として評価するソフィアの公正さを示す証左なのです。
「ウルスラ。どうしてもダメか?」
ソフィアは訊ねました。
「なら、半分……う〜ん、アタシとヴィクトーリアのストックの8割なら、あげてもいーよ……。ショートケーキとイチゴ・ミルクはダメだよ」
ウルスラは渋々言います。
「ありがとう、ウルスラ。オラクルよ、我とオラクルの持つスイーツの全てと、ウルスラとヴィクトーリアが持つスイーツの80%を【ロヴィーナ】の500人の子供達に、なるべく不公平が出ないように分配する事は可能か?」
ソフィアは訊ねました。
【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】がストックするスイーツ類は数が限られていて種類が様々なので、例えばイチゴのショートケーキを1切れ貰う子供と、クッキーを3枚貰う子供と、オレンジ・ジュースを1杯貰う子供……というふうに種類や数量が全く同じには出来ません。
それでも出来るだけ子供達には……公平に配ってもらった……と感じてもらわなければいけないのです。
そうでなければ喧嘩などが起こるかもしれず、【ロヴィーナ】の懐柔目的で供出したスイーツが却って逆効果になりかねません。
「完全な公平ではなく、なるべく……という事でなら、何とかなると思います。先んじて子供達の中の年長者達に私達が供出するスイーツの目録を渡し、それを見て子供500人で公平に分けられるように考えさせます。その上で、年長の子供達が分けた500人分のスイーツを、年少者から順番に選ばせて行くのです。選び終えた後に……やっぱり別のモノが良かった……などのクレームは一律に認められません。そうしておけば、年少の子供達は自分が選んだスイーツに文句は言えませんし、年長の子供達も自分達で公平になるように分けたのですから受け取ったスイーツが気に入らないとしても、それは自己責任という事になります。完全に不満が出ないようには出来ませんが、少なくともスイーツを配って却って険悪な状況になる事は抑制出来るでしょう」
オラクルは説明しました。
「なるほど。心理学じゃな?」
ソフィアは頷きます。
「その通りです」
【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】によるスイーツ懐柔作戦の要諦は定まりました。
「そりゃ〜、あまり良くない事になるかもしれません」
オックスフォード中尉が疑義を呈します。
「何か問題があるか?」
ソフィアが訊ねました。
「もちろん、ソフィア様達が【ロヴィーナ】の子供達に、こんな美味しいモノを下さるのは素朴に有難い事だと思いますし、感謝もします。しかし、その後の事を考えると子供達が可哀想で……。何しろ、このケーキという食べ物や、ジュースという飲み物は、とんでもなく美味しいです。こんな美味しいモノを自分らは食べた事がありません。子供達も同様です。もしも【ロヴィーナ】の子供達が親に……また、ソフィア様達が下さったケーキを食べたい……と言われたら、親は同じモノを子供に食べさせるのは不可能です。一度美味しいモノの味を知ってしまって、しかし今日を限りに二度と食べられないというのは、自分ら大人なら仕方がないと諦められますが、子供達には酷な話になりやしないかと心配です」
オックスフォード中尉は苦笑いしながら言います。
「うむ。まあ、短期的にはそうなるじゃろうな……。じゃが、そういう美味しいモノが現実にあると知れば……それを【ドゥーム】でも作れるようにしよう……という動機付けになるかもしれぬ。我は子供に夢を見させる事も、未来への投資として必要じゃと思うぞ。子供達が気の毒じゃからと言って過度に守旧的であったり抑制的であるのは、必ずしも良いとは限らぬ。【ドゥーム】に美味しいスイーツがないなら、自分が作れる方法や技術を考えてやる……という意欲に目覚める子供が生まれ、将来の発展に繋がる可能性に賭けてはみぬか?我は、そういう考えじゃ。それに存外、子供達というのは大人が心配するよりも逞しいモノなのじゃ。子供には大人より絶望に対する耐性が備わっておる。何故なら幼い子供は誰も人生に絶望して自殺したりはせぬ。そういう悲観的な思考をするのは大人だけじゃ」
ソフィアは問い掛けました。
「確かに……。わかりました。自分も夢を見るのは嫌いじゃないですからね。ソフィア様のお考えの通りになさって下さい」
オックスフォード中尉は笑って頷きます。
ビーーッ!ビーーッ!ビーーッ!
【装甲兵員輸送艦】の船内に警報音が鳴り響きました。
「何事じゃ!?」
ソフィアが言います。
「おそらく魔物ですね」
オラクルが答えました。
「我も【マップ】に捉えた。どうやら【炎竜】じゃな。我が出るか?」
ソフィアが訊ねます。
「1頭ならば全く問題ありません。【装甲兵員輸送艦】は【神の遺物】の戦闘艦でございますし、それに、この艦はノヒト様とミネルヴァ様が改造した特別製でございますので、【炎竜】など物の数ではございません」
オラクルが説明しました。
「うむ、そうか……」
ソフィアは鷹揚に頷きます。
ブーーーーーンッ……。
船内に鈍い音と振動が響きました。
【魔導機関砲】が自動迎撃を開始したのです。
「キュルアーーッ……」
【装甲兵員輸送艦】を追撃して来た【炎竜】は【魔導機関砲】の掃射を受けて痛声を上げました。
純正の【装甲兵員輸送艦】では、【魔導機関砲】が唯一の兵装です。
この【魔導機関砲】の口径は、バイパー小隊の機関銃手であるナオミ上等兵が携帯する【魔導機関砲】と同じ30mmですが、製造品のナオミ上等兵の【魔導機関砲】と違い、【装甲兵員輸送艦】の【魔導機関砲】は【神の遺物】。
威力が桁違いでした。
【炎竜】は【防御】と【魔法障壁】を剥がされて、身体にも傷を負ってしまいます。
【炎竜】は【装甲兵員輸送艦】には与し難しと考え追撃を止め、空中で首と身体を滑らかに捻りトリッキーなマニューバで航空機などでは不可能な、その場方向転換を行なって撤退を始めました。
通常であれば【古代竜】が逃げた場合、無理に追撃しないのが鉄則です。
もちろんソフィアのように【古代竜】より圧倒的に強ければ問題ありませんが……。
【古代竜】は高速で飛行する上に、先程のような変態的マニューバを駆使するので、航空格闘戦になると【神の遺物】の飛空艦艇でも1隻では相当に難しい相手でした。
また、【古代竜】は人種より知性が高いので、番のパートナーや【眷族】などを伏兵にしたり、何らかの罠を張っている可能性もあり深追いは危険でもあります。
しかし、ナカノヒトとミネルヴァが自重なしのフル・スイングして改造した、【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】の【装甲兵員輸送艦】は強力な船でした。
キュイーーン……カッ!
閃光。
純正の【装甲兵員輸送艦】にはない【光子砲】が放たれたのです。
チュドーーンッ!
爆発。
【炎竜】は背中から胸に貫通して一撃で【コア】を破壊され即死しました。
そして今回は射角が開けた近距離迎撃だったので必要ありませんでしたが、このノヒト製の【光子砲】は光学兵器なのに自由自在に曲がり【追尾誘導】するというチートなのです。
その名もズバリ、【追尾誘導光子砲】。
光速で飛来するモノに【追尾誘導】機能などがあれば、つまり撃たれたら絶対に避けられません。
正にチートとしか呼べない兵器でした。
因みにオラクルやヴィクトーリアなど【超位覚醒】済で、尚且つノヒトに改造されている【神の遺物】の【自動人形】には、砲タイプのモノより少し威力は低いですが、同じ【追尾誘導光子砲】が内蔵されています。
「うむ。楽勝じゃったな」
ソフィアが言いました。
「おそらく直撃を受けて【コア】は蒸発してしまったでしょうが、【古代竜】は、【コア】以外の部位も高値で売れますので死体を回収して参ります。地上に放置しておくと、他の魔物に食べられてしまいますので」
オラクルが言います。
すると【装甲兵員輸送艦】の後部ハッチが開きました。
それなりの高度を飛んでいますが、【装甲兵員輸送艦】は魔法的に気密が保たれているので、急減圧が起きたりはしません。
「オラクル。一応護衛を伴え」
ソフィアが声を掛けます。
「はい。ミネルヴァ様から頂いたコレが中々便利です」
オラクルは【収納】が【オリハルコン・ボール】を取り出して言いました。
【ボール】は、【ゴーレム】などと同じ非生物ユニットです。
チュートリアルや【遺跡】などに現れる【ボール】は空中に浮かび、体当たりや位階によっては魔法でも攻撃して来る【敵性個体】でした。
味方ユニットの【ボール】は平時は主人の頭上を飛んで追従し、戦闘時には飛ぶ盾として自動的に防御を行ったり体当たり攻撃や魔法攻撃を行います。
また、【ボール】は【魔法使い】が魔力を補給する魔力タンクとしても利用出来ました。
【ボール】の最上位機種の【オリハルコン・ボール】は【超位級】のユニット。
オラクル自身が【超位超絶級】なので、つまり【オリハルコン・ボール】を使用するオラクルは【超位級】2ユニット分の戦闘力を持ちます。
オラクルは後部ハッチから身体を投げ出して、【飛行】を詠唱して対空し、刹那の後消えました。
地上まで【飛行】で飛ぶより早いので【転移座標】を設置した場所まで【転移】したのです。
その後、すぐオラクルは地上に墜落していた【炎竜】を回収して戻りました。
一連の作業を見ていたバイパー小隊は……【ラ・スクアドラ・ディ・ソフィア】は【神格者】のソフィア以外にも、とんでもないスペックの【魔法使い】がいるのだ……と理解したのです。
オラクルと瓜二つの姿をしたヴィクトーリアも、当然オラクルと同等のスペック。
【妖精】と猫も、ただの【妖精】と猫の筈がない。
一見自分達と同じ海生人種の【マーメイド】の女性も、きっと……と。
神様と神様の従者様なら当然だよね……と、バイパー小隊の面々は、もはや驚き慣れし始めていました。
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