第1004話。へっぽこ軍団の終末世界旅行…5…遭遇戦。
【ポスト・アポカリプティック・ワールド】。
砂に埋もれた町の廃墟。
ソフィアは町の廃墟を探索するのにも飽きて来ました。
考古学者ではないソフィアには、人が暮らしていない古いだけの遺構など大して面白くもありません。
「まだ。あやつらは地下におるのか?もしや、ここの地下が連中達の拠点で、もう今日は何処へも出掛けないなどという事はあるまいな?」
ソフィアは愚痴ります。
その時、丁度バイパー小隊が地上に戻って来ました。
【スパイ・ドローン】の【キー・ホール】で上空から現地を監視していたティアが、その情報を速やかにソフィアに報告します。
「んっ!?何者だ?よ、幼女?何故こんな場所に!?」
【強化外骨格】の【リフリジレイター】に身を包んだバイパー小隊の隊長オックスフォード中尉は、こんな危険な場所にはいる筈がない幼い子供の容姿をしたソフィアを見付けて驚愕しました。
「お〜、第一村人との遭遇じゃな。待ちくたびれたぞ」
ソフィアは言います。
「隊長。あの幼女はセンサーに【魔力反応】が全く出力されません」
副小隊長のパスカル伍長が報告しました。
「強力な【認識阻害】……つまり、高位の【悪霊】の類かっ!?ちっ、コッチは実体弾装備しか持ってないんだぞ……」
オックスフォード中尉は焦ります。
バイパー小隊の武装は全て実体弾兵器でした。
実体弾による銃火器類は運動エネルギーや熱エネルギーなど非魔法系の攻撃で【敵性個体】にダメージを与えられるので、位階に拘らず大半の【敵性個体】に有効な武器でしたが、概して実体弾は【物質的肉体】を持たない【知性体】には効果が薄いのです。
例えばバイパー小隊のメンバーに魔法適性が高く【闘気】を練る事に長けた者がいれば、実体弾に魔力を纏わせて【非物質的肉体】の【知性体】にもダメージを与えられますが、残念ながらバイパー小隊には【魔法使い】も【闘気】を扱える者もいませんでした。
そもそも【強化外骨格】の【リフリジレイター】による戦闘技術を磨いて来た、この地の軍隊には【魔法使い】も【闘気】を扱える者も絶対数が少ないのです。
もしも凶悪な【悪霊】と【遭遇】してしまった場合、バイパー小隊には、もはや【魔導・タービン・エンジン】を暴走自爆させて爆散した魔力によって【悪霊】にダメージを与えるくらいしか打つ手がありません。
「我はソフィアじゃ。怪しい者ではない。其方らが攻撃を仕掛けて来ない限り敵対する気はないのじゃ」
ソフィアは言いました。
いやいやいや、レベル4の危険領域にロクな武装もせず独りでいる幼女の姿をした何者かが、怪しくない筈がないだろう?……と、オックスフォード中尉は心の中で激しくツッコミを入れます。
「お、俺は【ロヴィーナ】軍【強化外骨格】師団所属バイパー小隊の隊長オックスフォードだ。お嬢ちゃんは、何者なんだ?」
オックスフォード中尉は、いきなり襲って来ないソフィアに対して、一応今のところ【敵性個体】ではないという前提で訊ねました。
しかし、同時にオックスフォード中尉は暗号通信で……何かあれば、アフター・バーナーを使って即時離脱するように……とバイパー小隊の部下達に指示を与えています。
オックスフォード中尉が、もしもの時に戦闘ではなく撤退を選択したのは……おそらく高位の【知性体】だと思われる未確認生命体に対して、バイパー小隊の武装では役に立たない……と判断したからでした。
そしてオックスフォード中尉の歴戦の軍人としての危機察知能力が、目の前にチョコナンと佇むソフィアに対して激しく警鐘を発していた事も、逃げの一手を選ばせた理由です。
オックスフォード中尉は気付いていました。
目の前にいる幼女の姿をした何かは、おそらく途轍もない化け物だという事を……。
「じゃから我はソフィアという名前じゃ。種族を訊いておるなら、我は【神竜】じゃ」
ソフィアは質問に答えます。
「でぃ……【神竜】!?そんな、まさか……」
オックスフォード中尉は息を飲みました。
言い伝えによると、異界には【神竜】という最高神がいて、その【尻尾の打撃】は山を崩し、その牙はオリハルコンすらバターのように噛み砕き、その【ブレス】は一国を焼き尽くすのだとか……。
「信じておらぬのか?では、証拠を見せようではないか……んっ?」
ソフィアは一度指輪に手を掛けましたが、突然明後日の方向に視線を向けます。
今だ……。
「離脱っ!」
オックスフォード中尉は、ソフィアが注意を逸らした隙に命じました。
途端バイパー小隊は、【リフリジレイター】をアフター・バーナーで加速させて逃走を図ります。
しかしバイパー小隊が逃走を図った脱出方向の目前の砂が突如として盛り上がり、【サンド・ワーム】が群を成して地中から溢れ出しました。
もちろんソフィアが余計な事をした所為でバイパー小隊が狩った【サンド・ワーム】の死体の匂いに引き寄せられて集まった【サンド・ワーム】の群です。
「ぐあっ!避けられんっ!」
ドーーンッ!
オックスフォード中尉の【リフリジレイター】が【サンド・ワーム】に衝突し跳ね返って地面に打ち付けられました。
【リフリジレイター】は半壊して起動しなくなります。
「くそっ!」
オックスフォード中尉は、衝撃で打ち付けた額から血を流しながら、必死に【リフリジレイター】を再起動させようとしますが全く作動しません。
おそらく基幹部に損傷を負ったのでしょう。
このままでは【魔導・タービン・エンジン】が爆発する危険もありますが、オックスフォード中尉の【リフリジレイター】は搭乗ハッチがある背中を下にして地面に倒れ動かなくなってしまったので緊急脱出も出来ません。
【魔鋼の棺】。
動力を失った動かない【リフリジレイター】の異名でした。
万事休す。
オックスフォード中尉は死を覚悟しました。
その時。
「うぉーーっ!」
キュイーーン……ガガガガガガ……。
撤退し掛けていた【機関銃手】のナオミ上等兵が引き返して来て、30mm【魔導機関砲】を掃射しながら突撃して来たのです。
ナオミ上等兵が【サンド・ワーム】の群の敵視を引き付けている隙にパスカル伍長とカンタン一等兵もオックスフォード中尉の救出に戻って来ました。
多少口は悪いけれども部下思いのオックスフォード中尉を見捨てて逃げるような者は、バイパー小隊には誰もいません。
「隊長っ!」
パスカル伍長が、オックスフォード中尉の【リフリジレイター】を抱き起こします。
すかさずカンタン一等兵がオックスフォード中尉の【リフリジレイター】の後部ハッチを開きました。
オックスフォード中尉は自機から這い出して、パスカル伍長の【リフリジレイター】の背中に捕まり再度撤退を始めたのです。
そこで彼らが見たのは、信じられない光景でした。
「どっせーーいっ!ちょうりゃーーっ!」
長巻【クワイタス】を引っ提げて空を飛び縦横無尽に荒れ狂う暴風の如きチンチクリンの幼女……つまり、ソフィアです。
ソフィアは10頭あまりの【サンド・ワーム】をすれ違い様に一瞬にして斬り伏せ、次々と地中から溢れ出す【サンド・ワーム】をソフィアのオリジナル技である【神竜の咆哮】を収束させた【神竜砲】で薙ぎ払いました。
正に蹂躙戦。
「ま、まさか、あの女の子が……本物の【神竜】なのか!?」
オックスフォード中尉は呟きます。
ソフィアの見た目は人種の幼女でしたが、人種は【ブレス】を吐けません。
バイパー小隊の全員も、ソフィアが異界の最高神たる【神竜】か、あるいは少なくとも【神竜】の分離体である事を理解しました。
・・・
砂の地面の至る所が、ソフィアの【ブレス】の熱によってガラス結晶化しています。
【サンド・ワーム】の無数の死体も、未だプスプスと燻っていました。
「大事ないか?」
ソフィアはバイパー小隊に訊ねます。
「【神竜】様。お助け頂き、ありがとうございます」
オックスフォード中尉は地面に平伏して礼を述べました。
「「「ありがとうございます」」」
バイパー小隊のメンバーも、オックスフォード中尉と同様に頭を下げて礼を言います。
彼らは【リフリジレイター】を脱着して、生身でソフィアに相対していました。
異界の最高神たる【神竜】に対して【リフリジレイター】に乗ったまま謁するのは、非礼だと思ったからです。
現在地は全5段階の上から2番目に当たるレベル4の危険領域でしたが、たった今【神竜】のあり得ない戦闘力を目にしたばかりのバイパー小隊の面々は……もはや【リフリジレイター】から降りても【神竜】がいる限り危険はない……と判断していました。
「で、オックスフォードよ。其方は先程【ロヴィーナ】軍に所属しておると言っておったが、【ロヴィーナ】とは、この地の人種コミュニティの名称か?」
ソフィアは訊ねます。
「はい。【ロヴィーナ】は、この世界【ドゥーム】に存在する3か国の内の1国でございます」
オックスフォード中尉は答えました。
「ふむふむ。3か国あるのか?我は、【オーバー・ワールド】から来た故、この地の世情に疎いのじゃ。詳しく教えて欲しいのじゃが?」
「ははっ。恐れながら【神竜】様……」
「ソフィアじゃ」
「はい。ソフィア様。ご説明の前に、この場所から離れた方が宜しいかと思われます。このように【サンド・ワーム】の死体が多数転がっておりますと、新たな【サンド・ワーム】を引き寄せてしまいますので。匂い消しの粉末剤も、もう、あまり手持ちがないので、この数の【サンド・ワーム】全ての分量は足りません……」
あ……。
ソフィアは自分が仕出かした失敗に気が付きます。
ソフィアは先程バイパー小隊が狩った【サンド・ワーム】の死体が粉塵塗れで薄汚かったので、気を利かせたつもりで、その死体を【洗浄】してしまいました。
しかし、聞けば、あの粉塵は【サンド・ワーム】の死体の匂いを消す薬品だったとの事。
だとするなら【サンド・ワーム】が件の【サンド・ワーム】の死体の匂いに引き寄せられて集まって来た理由は、ソフィアの所為でした。
ソフィアは……これは不味い……と考えます。
「う、うむ。何も全く一切合切丸っと問題ないのじゃ。我が地面を【神位バフ】した故、半径数百mに渡って地中から【サンド・ワーム】は出て来られぬ。ここから数百m離れた場所から地上に出た【サンド・ワーム】からは奇襲を受ける心配はないのじゃ」
ソフィアは慌てながら説明しました。
「……なるほど。神の御技でございますな。御見逸れ致しました。申し訳ございません」
オックスフォード中尉は……さすがは神……と感心します。
「構わぬ。この世界は【差し迫った死】という場所なのか?何とも示唆的な名前じゃな?で、其方達が暮らす【ロヴィーナ】の首都の場所や、他の人種コミュニティは何と言って何処にあるのじゃ?」
地名が示唆的なのは、当然でした。
元来この【秘跡・マップ】は、【終末後の世界】という世界観で創られたモノなのですから。
「はい。【ロヴィーナ】は、ここから北方にあります。この辺りは概ね【ロヴィーナ】の勢力範囲でございますが、ここから東北東方向に【カラミータ】という国がございます。【ロヴィーナ】と【カラミータ】の位置関係は東西同緯度上に並んでおります。【カラミータ】は【ロヴィーナ】と同盟を結ぶ友邦国で、このカンタン一等兵は【カラミータ】人です。それから【カラミータ】から同緯度上を更に東に向かった果てには【ディストゥルツィオーネ】という国がございます。ナオミの先祖は【ディストゥルツィオーネ】からの移民でございます。現在我々【ロヴィーナ】と【カラミータ】は、【ディストゥルツィオーネ】との交流はありませんが、時々遥か東の果てから魔力反応が探知されるので、おそらく【ディストゥルツィオーネ】も滅びてはいないと思われます」
オックスフォード中尉は説明しました。
「うむ。我は【創造主】からの【秘跡】を受給して、この地に降り立ったのじゃ。それで……この地を救え……という面倒、あ、いや、使命を与えられておる。じゃから、情報を集めて、この地を救う手立てを考えねばならぬのじゃ。じゃから、とりあえず【ロヴィーナ】という国の首都に行きたいと考えておるのじゃが、案内してもらいたい」
「おおっ、ソフィア様は【ドゥーム】をお救い下さる為に降臨なさった、と?それは素晴らしい。是非【ロヴィーナ】にお越し下さいませ。きっと、みんなも喜ぶでしょう」
「ふむ。で、首都は近いのか?遠いようなら、近場の都市でも構わぬ。通信でも何でも、とにかく其方らの代表者に話が通じれば良いのじゃ」
「首都もなにも、【ロヴィーナ】は1箇所しかございません。【カラミータ】も【ディストゥルツィオーネ】も同じでございます。現在、災厄を生き延びている人種は3つのシェルターに避難した者達の子孫だけでございまして、【ドゥーム】の人種コミュニティは、事実上その3つのシェルターだけなのです」
「なぬっ?それは誠か?」
「はい。極稀に罪を犯してシェルターから放逐されたり、様々な理由で自らシェルターを去る者もおりますが、基本的に、この【ドゥーム】で大規模なコミュニティと産業インフラと防衛ギミックが残された3つのシェルター以外に、人種が長期間生存可能な場所はございません」
「ならば現在の【ドゥーム】の総人口はどのくらいなのじゃ?」
「そうですね。【ロヴィーナ】が180世帯、およそ900人。【カラミータ】は、およそ500人です。【ディストゥルツィオーネ】は最大で2千人程いたと知られておりますが、彼の地とは交流が途絶えておりますので現在の人口はわかりません」
「何と……。この広大な【マップ】に僅か3千400人あまりしかおらぬのか?それだけ、過去に【ドゥーム】を襲った災厄なるモノの被害が大きかったという事じゃな?」
「いいえ。災厄の後も人種は10万人程は生き延びました。人口が現在のような少数にまで減ったのは、災厄の後、我々の先祖達が限られた資源を奪い合った末に起こした人種同士の最終戦争によってです」
「何と愚かな……」
ソフィアは陰鬱な気分になりながら溜息を吐きます。
「仰る通りです」
オックスフォード中尉も同意しました。
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