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成り代わり?いいえ身代わりです  作者: 工藤麻美
孤児から侯爵令嬢に至るまで
1/2

1話


至って普通に生きてきたと思う。女で警察官っていうのは珍しかったんだろうけど。


それでも普通に働いて、普通に寝て、普通に成功も挫折もしてきた。


強いて言うなら恋愛経験がまるでなかった人生だった。そこだけが悔しい。警察官なんて色気ないし休みも不定期だから仕方ないのかもしれない。


まあそんな風に日々を過ごし、警部補から警部にも昇進して、さあこれからだ!と思っていたときだった。電車のホームから線路に突き落とされたのは。


仕事柄、恨まれることも珍しくないのでそこまで驚きはしなかった。徹夜明けで警戒心が足りてなかった、というのもあった。しかしそれでも警察として恥ずかしい。そんな思いが一瞬よぎって、こんな仕事人間だから恋人もできないのかなぁ、なんて呑気に考えた。


親に孫の顔も見せてあげられないのか、ごめんねお母さん。赤ちゃん、抱っこさせてあげられなかっ____



グシャ



そうして私の人生は終わりを告げた。痛みすら感じないほど一瞬。私のせいで運行停止した電車の会社とその乗客たちに多大な迷惑をかけたことによる損害賠償の額にうわぁ……となったところまで考えてふと気づいた。


痛みはなかったが死んだのは確実。なのにどうしてここまで考えられる?もしかして幽霊にでもなったのか。しかし視界は暗いまま。そらを認識すると同時に自分が瞳を閉じている感覚を覚える。


「どこだここ……」


目を開くと見たことのない景色が広がっていた。古びた建物が並び、その窓から伸びた竿には汚れの取れていない服がズラッと干されている。


行き交う人々はかなりの数だけど、街が賑わっているわけではない。誰も彼もボロボロの服を着ている。それに日本人とは思えない彫りの深い顔。


「おいお前、そんなとこで何してんだ?」


呆然と立っていたら急に後ろから声がした。振り向くと褐色の肌の少年がこっちを見ている。


「?……あっ私に言ってる?」


日本語喋ってる、と思いつつ自分を指差せば呆れたような目で見られた。


「お前しかいないだろ、そんな道のど真ん中で突っ立ってるやつ」


で、何やってたんだよ。と少年は質問を繰り返した。しかし何をしているかなんて明確な答えは持っておらず答えられないでいると訝しげな目で見られた。


「だいたいなんでお前みたいなやつが……おい、走れっ!!」


「は!?」


「いいから……クソッ」


訳もわからず動け出さないでいるとそんな私に苛立ったかのように彼は私の手を掴んで走り出した。


「ちょ、ちょっと待って……話を!」


「いいからついてこい!!」


「走りにくいよ!!」


片手を取られてひきづられるように走る体制に不満の声を上げると手を離された。


「ほら!止まんなよ!!」


「わ、分かったっ!」


一体全体何が何だか分からないけど、とりあえず少年の後をついていった。すると通るのは道が入り組んだところばかり。しかも複雑に曲がっていってまるで誰かを撒いているような道だった。


目的は果たせたのか少年は立ち止まるとこちらを振り返った。その顔には疲れた様子が一切ない。それに対して私は息切れをして膝に手をついてしまう体たらくだ。おかしい、体は鍛えていたはずなのに。


なんとか呼吸を整えて彼に向き直ると、ハッとした。ずっと少年と心の中で呼んでいたくらい、彼はまだ幼い。それなのに三重後半に差し掛かった私と身長が変わらない。彼が高いんじゃない、私が低いんだ。


どういうことだと思い、自分の姿を確認しようとするも、鏡になるものがなくてそれはできない。ただ視界に移った腕は黄色人種らしからぬ、真白な色だった。


「お前、人攫いに狙われてたんだよ」


「え……」


その言葉に愕然とする。人攫い。ヒトサライ?いつの時代の話だそれは。


「ま、その見た目じゃなあ」


ちょっと待って私どんな外見してんの!?確かめる術がないのが惜しい。


というか当初の疑問がまだ解決されていない。ここはどこなのだろう。もう絶対日本じゃないのは分かるけど、それにしたってまるでここは……


「スラムでお前みたいなやつ初めて見たよ」


「お前みたいって……?」


「だから、魔力持ちのやつ!」


そこで聞きなれない単語が出てきた。魔力持ち?


「まりょくもち?」


「なんだ知らねぇのか?元来、魔力はその人間の髪や目、肌の色素に影響する。所持する魔力が多いければ多いほど色素は薄くなるんだ。そしてそれは権威の象徴でもある。今の王族だってほとんどが白に近い銀髪だしな」


頭の中で「?」が飛び交っている。まりょく?おうぞく?イミワカンナイ。けれど、そんなの気づかないのか少年は続けた。


「まあ黒や茶色の奴もゼロって訳じゃないけど、ほぼ無いに等しい。俺なんか特にそうだ」


そう言った彼は確かに黒髪黒目。肌だって褐色だから彼の言う「魔力持ち」には当てはまらない。


「でもお前は金髪に緑色の目、肌の色も白い。かなりの魔力の量だ。だいたいそんな奴は貴族って決まってんだよ。なのにそんなのがスラムにいりゃあ攫われて奴隷商人に売られたっておかしくないわな」


What? 今なんつった?


金髪緑眼?私の純日本人の血どこいった。なんでそんな欧米人みたいになってんの!?


混乱している私を見て彼は少し考えると少年は口を開いた。


「とりあえず、お前どうせ行くところもないんだろ?なんか危なっかしいし、俺たちんところに来いよ、歓迎するぜ!」


そう言って彼は歯を見せて笑った。褐色の肌のに白い歯がよく映える、なんてぼうっと考えながらさっきとは打って変わって優しく引かれる腕に従い、歩き出した。





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