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56.二人きりの話

「あーっはっはっはぁ! あたしの圧勝ねっ!」


 いざゲームとなると、笠良城の力は無限に発揮される。

 とは言え彼女にとってゲームとはどこまでのことを言うのか。アナログからデジタルと、遊戯の種類は多岐にわたるが、その全てが得意なのだろうか。玲治にはわからないが恐らくこうではないかという予想があった。

 それは、人と競い合う・対戦する種目なら間違いなく圧倒的な実力を発揮できるのだろうという予想。負けず嫌いの天才とでも言うべきか、負けたくない気持ちが強すぎてそれが力にそっくりそのまま加算されるような。


 これが血統の力でないことに、玲治は人間の意地を見た気がしてならない。

 射的勝負は十発の弾で何個の景品を落とせるかというのを競うものだったが、結果玲治は三つの景品をゲットできた。とは言えどれも小さな箱ガムばかりで、笠良城には鼻で笑われてしまった。


 どや顔で銃口に息を吹きガンマンの真似事をする笠良城が落としたのは九つ。その内四つは、どうやってもコルク弾程度ではびくともしないと思われる大きな景品だった。


「お前ホントに血統持ちじゃないのか?」

「イピカイエー。血統なんて親の七光りみたいな才能じゃない。あたしは正真正銘の天才なのよ」

「天才、ね……」


 安売りすべき言葉ではないが、笠良城の才能はそう表現するしかない。

 玲治も納得するしかない。彼女がほくほくと抱える景品の山を見てしまえば。


「あれ? むぅ……お兄ちゃんとコモちゃんの勝負見逃しちゃったぁ」

「もうっ、どこ行ってたのよナギ。折角あたしがあんたのお兄ちゃんをボッコボコにしてたのに」

「情けない所を見られなくて俺は良かったんだがな」


 安物のガムを店のおじさんから受け取って、玲治はがくりと肩を落とす。


「どこ行ってたんやあきら?」

「少し道に迷ってしまってな」


 あきらは申し訳なさそうに笑ってから、真っ直ぐに玲治へと近づいていった。

 彼女は玲治の耳元に顔を近づけて、息がかかるくらいの距離で小さく囁く。


「玲治。あとで話がある、二人きりで……」

「は、話っ……?」


 あきらは小声になると息が多く混じる。

 かすれ気味のその声はくすぐったく、玲治は身体を固まらせるように両肩をすくめた。


「ああ。屋台を回り終わったら……な」

「わ、わかった」


 と、内緒話を終えると微笑みながらあきらは離れていく。

 二人きりで話す事とは一体何だろう。変に胸の高鳴りを覚える玲治だったが、それは自分の勘違いだとわかっていた。

 多分、話とは血統についてだ。あきらとなぎさがついていた嘘のことと、その嘘を見抜くことができる自分の血統のこと。それについて何か話があるのだろう。


 話してくれるならそりゃ訊いてみたい。

 どうして嘘をつくのか、何を隠そうとしているのか。

 だって、血の繋がったきょうだいなんだから。

 家族には嘘をついてほしくない、だって家族は心を許せる存在なんだから。そう玲治は考えている。


「さて。みんなまだお腹は空いているかな?」

「もちやで! まだわたあめしか食うてへんからな!」

「私もまだまだ食べられるぞ多気くん」

「ならば屋台メシの定番、焼きそばを食べに行こうか――」


 それから一行は屋台巡りを続けていった。

 焼きそばにラーメン、から揚げにフランクフルトと多くを食べ歩く際、最後の方はみんな胃がもたれそうだったがあきらだけは涼しい顔で平らげていく。

 ラーメンのときなんて、あきらと寺内しか食べなかったのに注文数が十杯だったもので、店主も数を間違えていないかと訊き返してきていた。もちろん九杯はあきらが綺麗に完食した。


 その後、金魚すくいや型抜きなどを楽しんで、なぎさの財布の中が寂しくなってきた頃。

 ようやく全員の希望していた屋台を完全制覇できた。


 祭りのフィナーレである花火打ち上げまであと少し。

 みんながベンチで休んでいる時に、あきらは玲治を誘って神社の境内へ向かった。


 祭りの喧騒が遠くなるにつれ、夏虫の鳴き声がより鮮明に聴こえ始める。

 提灯の明かりも届かぬ、月明りだけが照らす静かな場所だ。

 境内の方は屋台も出ておらず人影も見当たらない。二人きりで話すにはうってつけの場所だった。


「……玲治。立ち話もなんだ、座ってくれ」

「……ああ」


 こんな場所で二人きりになるのは何だか緊張する。

 そう思いながらも玲治は、短い階段に腰かけるあきらの隣に腰を下ろすのだった。

今回も少し短めの話となりました。

感想などお待ちしております(´▽`)

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