52.夏祭り!
今回、諸事情により非常に短い話となっております。
申し訳ありません。
祭囃子の音色というものは、夏の気配を運んでくる。
草を炒ったような夏の夜の匂いと、建ち並ぶ屋台から鼻腔をくすぐる美味しそうな匂い。
空は暗く染まり始め、神社の敷地内に張り巡らされた提灯に温かな色合いの光が灯っていく。
大きな鳥居の前に玲治と多気が到着すると、既に他のメンバーが待ち構えていた。
「あっ! お兄ちゃーん! こっちこっちー!」
「おう、みんな早いな」
「私たちも今しがた着いたところだ。待ったわけではないぞ」
今日集まったのは七人。同好会メンバーに加えて寺内が、以前の肝試しのときのようについてきている。活動の一環とは言えやっていることはただの遊びと変わらないので、こういった部外者の参加はよくあることだ。
夏休み前も、部室でゲーム大会を行うときは参加者を募ったりしている。まぁ大体が遊戯女王の異名を持つ笠良城にボコボコにされるのだが。
「さて、と。カメラのバッテリーも十分だし、さっそく祭りを楽しむとしようか」
「何よ、また撮影するわけ? カメラがこっち向いてると楽しむに楽しめないんだけど」
しかめっ面をしながら言う笠良城の肩がばしん、と叩かれる。
「そんな気にせんでええって菰野ちゃん! 可愛らしい浴衣姿、ばっちり撮ってもらい!」
「いたっ! 骨折る気!?」
多気が回すカメラに、一人一人の浴衣姿が映し出される。
みな派手なデザインや変わった意匠がこらされているわけではなく、違いは色合いと模様くらいのものであったが、それでも随分と印象が変わるものだと、玲治は思った。
一向が鳥居をくぐって祭りの中へと入っていくと、そこは多くの人が楽し気に行き交う祭りの真っただ中。
屋台はおなじみのわたあめやたこ焼き、カステラ焼きにから揚げ、ラーメンに牛タン焼きなど様々な飲食屋に加えて、射的、型抜き、輪投げ金魚すくいといった遊戯屋も充実していた。
さてさて、最初はどこから行こうかと、石畳の上を歩きながら相談が始まる。
「目移りしちまうな。どこから行く?」
「ボクわたあめ食べたいっ!」
「あたしはリンゴ飴がいいわ。今まで食べたことないのよね」
「今日は運転もないし……ビール売ってるのはどこかしら? から揚げと一緒にやりたいわね」
「腹ごしらえならがっつりラーメン行かへんか?」
「わかっていないねぇみんな。祭りの屋台メシと言えば焼きそばだろうに」
「む……間をとって、全部行けばいいのではないか?」
当然ながらここまで人数がいると意見もバラバラだ。
やんややんやとあっちだこっちだ飛ぶ声に、玲治は目を伏せて眉をひそめる。
これはまとまりそうにない。どこから行くか、なんて問いかけた自分が悪かった、と。
「時間はあるんだし、姉さんの言う通り全部行ける余裕はあるだろ。じゃんけんか何かで順番決めようぜ」
「ふむ……じゃあとりあえず、どの屋台に行きたいかをみんな決めようか。それからじゃんけんをして、順番決めといこう」
「希望は一コだけなんか?」
「二つまでにしておきましょうか。被る屋台も出てくるでしょうし、そっちの方が順番の不満も少なくなるでしょう」
話がまとまったようで、全員が周囲を見渡しながらうんうんと唸りはじめる。
どこへ行こうか、何を食べようかと考え、その間にじゃんけんで何を出そうかと考えている者もいるだろう。
「んー……よっしゃ! あたしは決まったで!」
「ボクもっ!」
「みんな決まったかい? ……よし、それじゃあじゃんけんだ」
「フンッ。お生憎様ね、例えじゃんけんだろうがゲームに変わりないわ。一番はあたしのものよ」
「そこまで気合い入れなくてもいいだろ……」
全員で輪になって、腕を出す。
お決まりの台詞が、祭囃子の中に響き渡った。
「さいっしょはグー! じゃんけーん――!」




