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終末世界の救済術式  作者: 永依 聖
第一章 機人は世界に終わりを告げる
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第四話

 魔術師の世界に法律はない。

 もちろん人間である以上憲法だとか条例だとか一般的な法律の効果がないわけではない。だがいくら法を犯したとて捕まらなければ意味はない。

 一般社会の法律で縛れるほど魔術師という存在は御し易いものではなく、それぞれの良心以外に抑止効果はなかった。

 だが魔術師全てが我が身全てな悪人、というわけではない。もしそうなら今頃モヒカンが闊歩するような世紀末が襲来していたに違いない。

 独善的な魔術師達の行動がエスカレートした結果、モヒカンの未来を阻止すべく善意ある魔術師達によってある原則を生み出すこととなった。最低限守られて然るべき原則を。


 一つ、魔術の秘匿。


 一つ、人間を用いた魔術実験。


 一つ、地球上の種の保存。


 魔術が最も多く人間に認知されていた時代であろう近現代ヨーロッパは科学の先駆けの時代であると同時に空前の魔術時代でもあった。

 それは魔術というものに多大な進歩と洗練をもたらすと同時に多くの惨劇をも生み出した。ある者は理論の証明の為と数十の子供を攫い、ある者は大規模な儀礼魔術の失敗で村落の一つを消し飛ばした。

 混沌とした世界だったが無論それを看過出来ない者も数多くいた。彼等が集まり、この三原則を生み出したことでこの時代も終息へと向かっていった。

 無論誰もが「はい守ります」と従うほど魔術師という生き物は柔軟でも協調的でもなかった。

 しかしその抵抗もたった一人の、当代最強の魔術師によって蝋燭の淡い炎のように吹き消された。


 マグレガー=メイザース


 現代まで続く魔術結社(マギトゥルマ)魔術協会(マジック・ソサエティ)の初代会長だった。


 それ以降彼の思想を引き継ぐかのように協会は魔術世界を監視し、その大部分に手を広げている。




 何年も変化しない目覚ましの音で冬弥はその目を開ける。未だ昨日のことが頭にこびりついて離れないのか珍しい事に無駄に足掻く事なく直ちにベッドから立ち上がる。

 そんな状況でも染み付いた習慣が冬弥の身体を動かす。


「……いってきます」


 定時に家を出た冬弥は昨日の事を考える。

 当人は不干渉と言っていたがこれまで他の魔術師との関わりが薄かった冬弥にとってはそれだけで済む事ではなかった。当然気になって仕方なく、文字通り寝ても覚めてもこの事で頭が埋まっていた。


(ていうかなんでこんな(ところ)に来たんだろうな……偶然か?)


 知りたいことは多々あるが、やはり一番気にかかったのはこれだった。

 目の前に突然知らない魔術師が現れればその理由を探るのは魔術師ならば常套で、自分の領域を知らない間に無闇矢鱈に弄られてはたまったものではない。もし少年が地脈を利用する系の魔術師だったら即追い出していても不思議じゃない。

 地脈に手を出されていても、地脈など関係ない魔術を使う冬夜には気付きようがないが。

 いくら考えても真っ当な理由が冬弥には思い当たらなかった。




「おはよ那上さん」

「ええおはよう」


 そんな冬弥の心配をよそに二日目にして怜はクラスメイトと和やかに談笑している。

 そんな様子をじっと見ていた冬弥は親友に怪訝な目で見られている事にも気づいていなかった。

 側から見れば女子を凝視する変な男子というのが今の少年を的確に表しているだろう。


「……へいへい冬弥さん、いくら気になるからって見つめすぎだぜ」


「はぁ?別に見つめてなんか…」


「いやいや、あんだけガッツリ見といてそれはないだろ」


 意識していなかった冬弥はそう言われて改めて自分のしていた事を振り返る。

 特に顔を隠すでもなく、合間毎に見るわけでもなく、只々じっと目線を送っていた。


「…確かにこれはヤバイな」


「だろ?」


 指摘されて初めて自身の行動を理解した冬弥は強制的に意識を外し見ないように努める。

 それでも深層意識は消せないもので、終始モヤモヤとした違和感に付き纏われた。

 本人はなんとか堪えているつもりだったが、見られている人間にとって分からないはずがなく、怜はチラチラと突き刺さる視線に対し段々とフラストレーションが溜まっていった。

 チラチラとお前は好きな子に素直になれない小学生か!、と胸ぐらを掴みたい衝動を抑えるので精一杯だ。案外この少女は短気だった。


 そしてとうとう四限目の終わりに目線で「ちょっと来い」と合図を送った。頻繁に見てくるぶん目を合わせるのはそう難しい事ではなかった。


「那上さん、よかったら今日も一緒に……」


「ごめんね、ちょっと用事があって。先に食べてて」


 勇気を持って昼食に誘ったクラスメイトをやんわりと追い返し先に出ていく怜に続き冬弥も教室を出る。

 数歩前を歩く怜の足は昨日よりも早く、心象がもろに動きにでていた。

 そしてつい十数時間前に通った、屋上へと続く階段の踊り場で足を止めた。


「あんたちょっと見過ぎ!いくら昨日のことがあるからってこうまで露骨だとこっちも気になって仕方ないわ」


「やっぱバレてたか」


 修二にバレてた時点で気づかれているだろうとは思っていたが、まさかこうして呼ばれるとは考えてもいなかった。


「当たり前じゃない、ずっとチラチラと見てきて。おかげで他の子からは早くも付き合ってるんじゃないかとか言われてもう散々よ」


「……そりゃ悪かったな」


 疲れた様子を見せつけるように額に手を当て首を振る怜に、本当に悪いと思ったのか冬弥は素直に謝る。

 見ているだけなら怒られるいわれはない、なんてのは昔の話だ。一歩間違えばストーカー、そうでなくてもセクハラ。住みにくい世の中なのか住みやすい世の中なのか。

 現代的なモラルのある少年は「女子に逆らっていけない」と思春期男子には至極真っ当と言える考えの末に真っ先に頭を下げた。

 頭を下げるのを見て多少は胸がすいたのか溜め息を吐く。


「分かったら気をつけなさい」


 そう言うと怜は駆け足で来た方へと戻っていく。

 一人取り残された冬弥は怒られた事に苦笑いしつつも弁当を食べに戻ろうと同じ方へ足を向けようと思ったが、僅かに逡巡し顔をすぐには合わせづらいのか食堂へと方向を変えた。




「どこ行ってたんだよ、昼終わっちまったぜ?」


「弁当忘れてちょっと食堂にな」


 なお忘れた弁当(昼ご飯)は鞄の中で夜ご飯へとジョブチェンジした。


「なんだよ誘ってくれれば行ったのに」


 口を尖らせる修二に連絡ぐらいはすれば良かったかと、冬弥は鞄に残った弁当をどうするか考えながら笑う。


「ま、いいさ。それよりどうする?今日はこれで終わりだし帰りどっか寄ってくか?」


「どうするかな、帰ったところで勉強するわけでもないしな」


 中間テスト期間に入ったため昼で授業が終わり各自自宅学習となっていた。しかし修二は全く勉強する気がない発言をしており、他のクラスメイトも騒いでおり物好きな一部の生徒以外には遊ぶ時間が増えたという認識で統一されていた。

 冬弥にしてもその一部の例外ではなく、修二の話に意気揚々と乗っていた。


「はーい、皆席について」


 どう時間を使うか議論していたところに黒木反奈女史の一声が水を差す。


「何を話していたかはあえて聞きませんけどちゃんと帰って勉強するんですよ?特に今は寄り道なんて絶対だめですよ!ただでさえ失踪者が最近多いって話なんですから。誘拐の可能性もあるんですからね!」


 普段はゆるいことで定評のあるこの先生だが珍しく厳しい口調で注意する。


「そんな話あったか?」


「そうだな、昨日そんなニュースがやってて妹達が騒いでたような…。てか朝見てなかったのか?」


 テレビは点けていたが一つ一つのトピックを注視できるほど安定した心理状態ではなかった、つまり上の空で見ていたために朝以外ニュースを見ない冬弥はタイムリーな情報を得られていなかった。

 この友人の記憶ではこの二日ばかりの間に少なくとも六件の失踪届けが出されているそうで、実際はこれよりも多いとみられてるらしい。出された届けはどれも未成年の子供が対象で大人の失踪者がいると仮定すると十件は優に超えると専門家は語ったそうだ。

 違う都市だが、対岸の火事と言えるほど遠い距離ではなかった。距離的には対岸くらいでも火事が歩き回って火の粉を飛ばしていては川一つ分はあってないのと同じだ。


「そんな事が起きてたのか」


「で、どうするよ?」


 教師の手前か自重気味に小声で冬弥に尋ねる修二。

 止めようか?などとは決して思ってない。笑顔には自重がない。

 に対しニッと笑顔で返す冬弥。しかしその笑顔は悪友同様に爽やかなものではなく含みを内包していた。


「ゲーセンくらいなら付き合ってやるよ」


「っし!そうこなくっちゃな」


 いそいそと机の中身を鞄にしまい始めた修二に話を続けていた先生は目ざとく見つけたのか小言をつらつらと並べる。

 静かにしまえばいいものを慌ててしまったのかガチャガチャと音を鳴らしていては気づかれるのも当然で、肩を小さくする修二を苦笑で見つめる冬弥だった。

面白いと感じた方はお付き合いいただけると嬉しいです。

次は明日0:00投稿予定です。

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