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終末世界の救済術式  作者: 永依 聖
第二章 少女と楽園の葬送曲
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第二十七話


「第二騎士団副団長、サウエル=スパーディアーーー我等が権威の下に跪け!」


 話も聞くことなく良嗣達へと突っ込んでいく。彫りの深い精悍な顔が深さを増し、前を向いて揺るがない。猪突猛進の猪を彷彿とさせる。

 常人であれば突然襲いかかってきたことに目が眩むが、そんなことよりも目の前の男が教会、それも聖教会直下の騎士団副団長という言葉の方が衝撃を与えた。


 丁度逕路の先にいた鉄屑が咄嗟に出現させたライフルで剛剣を受け止める……否、ライフルはへし折れ、飛び退いていたからこそ鉄屑は左右の半身にならずにいた。

 勢いそのままに追撃に移ろうと返す刃のために持ち手を捻ったところで横合いから鉄屑に向かう彼以上の速度で飛んできた良嗣が膝蹴りを見舞った。手を返していたために盾としても機能するであろう幅を持つ剣は、しかしその役目を果たせなかった。


 常人ならば肋どころか背骨まで粉砕されているだろう衝撃を受けてなお、膝すらついていないのは見た目通りのタフさ、ということだろうか。

 弾き飛ばされた事で、図らずも教会勢対魔術師という構図になっているが、大司教を守るように囲む騎士たちから剣を向けられている事で挟み撃ちの様相になっていた。


「第二……イタリアの騎士が何故日本にいる?」


「ん?……成る程、貴様がオーダーにあった司教か。貴様の裁きは後だ。まずはそこの魔術師共を主の前に送ってやらんとな」


 真正面に来たことを好機ととったか、本来いるはずのない彼がここにいる理由を尋ねた。

 同じ教会の人間の言葉であれば聞く耳を持っているのか、直情的に見えた足を一旦停止させユーリア=デントリーグの問いに返す。果たして答えと呼べるかは微妙なラインだが、オーダーであるという事は既にユーリア=デントリーグと良嗣達魔術師との共闘関係が筒抜けであることは疑いようがない。

 騎士団の団員、それも副団長ともなれば命令を下せる人間は極限られる。第二騎士団長は当然として、十二使徒の歴々、そしてーーー。

 それでも団長以外が下すことなど殆どないが。

 現在聖教会が抱える騎士団は十二あり、原則置かれた国外に出ることない。団内の縦の繋がりは強いが、それぞれ横の繋がりは団長クラスならまだしも平騎士には無に等しいのだ。ヨーロッパに至っては騎士団同士の距離が近すぎることで不仲を謳われることも当たり前となっていた。そんな体制では他騎士団の例え団長の命令であっても素直に従うとは考え難い。

 あり得ないと否定しつつもユーリア=デントリーグの脳内では今回の展示会の切っ掛けともなった一人の狡獪な枢機卿の顔がチラついた。


(考え過ぎ、か)


 息を吐き、残った残像を吹き消した。


「成る程、聖教の騎士、それも役職持ちか。これは逃げるが勝ちかな?」


「だな。にしても余計にややこしくしやがったなアイツ」


「いや、言葉通りならどの道参戦してきただろうよ」


 爆弾は爆発とともに消え失せ、鉄屑は脱兎のごとく跳ねていった。そうして一人、また一人と戦線を離脱していく。

 口では仇のように叩き潰すと言っていながらも次々にいなくなっていく魔術師に頓着していないのか、誰一人邪魔されることはなかった。

 そして一人残った良嗣は怪訝な顔で距離を取る。普段ならば十分対策できる十数メートルの距離が今はどこか心許ない。


「ん?貴様は逃げんのか?」


 ギャリギャリと石床を剣で刻み弄びながら問う。仕方なくではなく、自らの意思として逃げることを容認していることが取れる。


「……ったく、どっちなんだよ」


 早々に突撃一択の見たままの脳筋なのか、しかし急に停止し無関係とばかりに見逃したり。不安定にもほどがある。二重人格と言われても今の良嗣なら信じるかもしれないくらいだ。それほどに動と静の差が激しかった。


「お前的にここで俺達が逃げるのは構わないのか?」


 他に誰もいないのだから返ってくる答えは大凡わかっている。それでもそんな無意味な質問をしたのは、良嗣一人ではどう状況を推移させるべきか判断に迷ったからに他ならない。

 ほぼ十割推測できることでも、本人の口から聞くことで踏ん切りをつけられる場合もある、ということだ。


「構いませんよ?開幕に登場人物の紹介は必然。プロローグで死んでは本末転倒でしょう?それでは紹介の必要がなくなってしまう。あぁ勿論、その辺の脇役なら別ですが」


 周りの騎士へと目をやる。同じ鎧を纏った彼等は誰が誰とも似つかない。姿形で言えば確かに脇役という言葉がピッタリだ。だが演劇とは違う。脇役呼ばわりされて喜ぶはずもなく、サウエル=スパーディアに向けられていた敵意は即座にサンに向けなおされた。

 しかし当然気にも留めず、それまで蚊帳の外となっていたサンはさも当然と言わんばかりに外の道を示した。


「ならありがたく退かせてもらうぜ」


 その言葉を最後に良嗣もその場を離脱した。

 終わりも、ルールも、サンの目的も。結局何も知ることはできず、ただ人生最大であろう厄介なゲームスタートの号砲だけを収穫に。


「良かったのか?」


 味方というわけではあるまいに、不意に口をついたのは心配だった。それだけ意味不明な行動だったということか。


「構わんさ。もとより戦力も計れぬうちに吶喊など、そんなもの阿呆のすることだ。まぁウチの団長がそういう手合いだがな!」


 豪気な笑い声が鼓膜を激しく揺さぶるが、不思議な心地良さがある。大小気にしない性格とでも言えばいいのか。無論会って数分、それも潜在的どころか明確に敵認定している相手を好意的捉える者などいない、が草原を吹き抜ける風の自由を象ったようだった。

 或いはこれがカリスマかと、ユーリア=デントリーグは評価した。


「それに個人的には其奴の方に気が割かれて仕方がない。何故こんな所にこんな化物がいる?」


「初対面で化物呼ばわりか。初めてではないけどやっぱり嬉しいものではないね」


 サンは苦笑する。

 怒りでも呆れでもなく、ただそう言われることが()()()()のことのように受け止めていた。

 サンの態度は聖教の騎士団副団長という相手であっても変わらない。飄々としていて、周りをあまり関知していない。殻に閉じこもる蝸牛でももう少し気を配っているはずだ。


 無視されている感覚さえ覚えたサウエル=スパーディアは不意を突くように床を削っていた剣先をサンへと跳ね上げた。


「言ったでしょう?これはプロローグ。これ以上は雑味だ」


 剣を見ることすらしていないにも関わらず、剣だけでなく握った腕、加えて足までもが静止していた。どれだけ力を込めようと、コンクリートの中で固められたように前後左右、いずれにも動かない。

 諦めたように全身から力を抜くと、そのまま背中から倒れこみ、バク転の要領で起き上がる。力を抜いた結果軸足が機能しなくなったためだった。


「軽くあしらうか。まさしく化物だな」


「そう言う君は凄い自信家ですね」


 やはり化物という言葉は好きでなはいのだろう。逆手にとった皮肉にしかしサウエル=スパーディアは笑いで答えた。


「応ともさ!でなければ第二騎士団の副団長は務まらんーーー()()についていくことはできんよ」


 そういう彼の目は決して団長という人物を馬鹿にしたものではなく、むしろ尊敬の類だ。それも当然か。でなければ副団長など務めている訳も無い。


「まぁどうでもいいことですけど。では。いい働きを期待しています」


 そう言い残し、サンは今し方教会の天井にしたように砕け散り、風に攫われ消えていった。

 ユーリア=デントリーグもサウエル=スパーディアも、どちらも脇役でしかないのだと言われている気がしてならなかった。

 であれば主役は誰なのか。

 二人は当然知る由もなく、その主役本人でさえこの時は気づいてはいなかった。


「気に食わぬ奴だ。……しかしすることもなくなったな。我もそろそろ帰るとするか」


 抜き身の剣を鞘に納め、教会に対し踵を返した。


「私はいいのか?」


「全て片付くまではな。我の一存で斬ることができればすぐにでも斬るが……後日査問会が開かれる。よかったな、命が延びたぞ」


 延命されたと聞いてもその前の単語のせいで喜びようもない。

 所属の教会こそ聖教会とアイスランド教会と異なるが、ほぼ全教会の基盤である聖教会から派生したアイスランド教会が要望に「No」と言えるわけがなく、間違いなくその瞬間出世の道は閉ざされるだろう。地位を手にするために少なからない犠牲を払ってきた。今更引くことを容易に容認など許容できるはずがなかった。


「それも仕方なし、か。であればここを拠点として使うがいい。急なことだったのだろう?」


 まだ報告内容によっては減刑も考えうると、誰の目から見てもあからさますぎる態度だったが、教会の人間であれば当然、加えて法術師の側面から見ても理にかなっていることは確実。これを断る理由はないはずだった。


「阿呆が。査問対象と同じ飯を食えるわけがないだろう。何より家には困っておらん。なぁ、マーク」


「御意に。すでに整っております」


「我等が今今着いたとでも思ったのか?もう二日になるわ」


 いつからいたのか。男の存在に誰も気がつけなかった。

 巨漢の横、一歩後ろに傅く男の存在を。似通った白の服に身を包み、しかし動きやすいよう配慮した結果なのか華美な装飾は一切なく、色さえ黒ならば暗殺者の装いだ。


「異常な魔力反応があることは聞いておる。であればなあ?」


 同意を求めてのことか。はたまたその考えに至って当然だと虚仮にしているのか。サウエル=スパーディアが笑うその背に人影が追加されていく。

 総勢十二名。第二騎士団の四分の一が日本に降り立っていた。


「一人で来るわけがないだろう?」


 第三()()

 余程の力を持たなければ一人では勢力にはなり得ない。そしてユーリア=デントリーグ達が第二騎士団と共闘できるならばこうは言わなかっただろう。だが不可能、すでに彼等は第二勢力なのだから。


 サンVS魔術師&アイスランド教会VS第二騎士団。


 三つ巴の争いの火蓋が切って落とされた。


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