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終末世界の救済術式  作者: 永依 聖
第一章 機人は世界に終わりを告げる
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第三話

「ちょっといいかしら」


 六限の授業が終わり、定型文が話されるだけと化したホームルームも五分程で終了する。

 放課後の部活に勤しむ大多数の生徒が待ち侘びたように荷物を持ち教室を後にする。そんな中目的は違えど彼等と同じように出て行こうと立ち上がる帰宅部の冬弥に対し怜は小声で話しかける。


「??」


 あれだけ鮸膠もなかった怜からの誘い。

 まさか話しかけられるとは露ほども思わなかった冬弥は驚き、それと共に話す事なんてあったかと疑問を持った。

 そんな冬弥の事は御構い無しに怜は話を進めていく。


「この後時間ある?」


「まぁ、特にやることはないけど……」


「なら校内の案内をお願い」


「……なんで俺に?」


 内容を聞き、脳内の疑問符はさらに増える。

 遠巻きに様子を見ていた女子達がキャーキャーと黄色い声を上げている。

 そんな脳内桃色な君達の想像していることでは絶対ない。なぜってもう嬉し恥ずかしの顔じゃないから。獲物を捉えたハンターの目だから。

 そうだ、と案内なら話していた女子にしてもらえば良いじゃないかと冬弥は口にしようとした。

 しかし、


「他の子は部活があるみたいなのよ。まぁ隣になった縁みたいなものよ。少しくらい付き合いなさい」


 この少女はメンタリストなのだろうか。二度目の疑惑がかかる。

 そんな自分本位とも取れる物言いに遮られ、逆らいようのない圧が襲った。


「お、おう。わかった」


 前の席の悪友の不思議な、それでいて羨ましそうな顔に見送られ、冬弥は怜の後に続き教室を出ていった。

 そんな顔をするなら代わってくれ。怜が「何いってんのこいつ」という表情になることは間違いないが。




「ここが音楽室な。……取り敢えずめぼしい所はこれで全部だな。これで大丈夫か?」


 その後体育館、食堂、保健室など順々に巡っていき三階の端にある音楽室が冬弥の考えるおおよそ学校生活で使用するであろう最後の場所だった。

 初めのうちは冬弥も出来得る限りの説明をしていたがそのどれに対しても怜は同じような反応で、それを見た冬弥もやる気を削がれたのか本当にただ案内するだけになっていた。


「……そうね、ここには屋上はあるのかしら」


「あるにはあるが、特に何もないぞ?」


 昼時に好んで使用する生徒もいたが、冬弥にとっては必要のない、使うことのない場所だった。だからか言われるまで気がつかなかった。


「そ。行くわよ」


 しかし怜はそうでないのか音楽室から踵を返し屋上へ繋がる階段へ向かう。

 これで終わりだと思っていた冬弥は溜め息をついたが、ここまできたら皿までと諦め先に出た怜を追った。


 階段前で待っていた怜と共に十二段の階段を上っていく。鍵はかかっておらずドアノブを捻ると金属製の扉は容易く彼等を受け入れた。


「っと」


「っ!」


 開けた瞬間、凝縮され溜まっていた空気が逃げ場を求めるように強烈な風が冬弥と怜の間を駆け抜けた。

 目を瞑り顔をしかめながら髪を押さえる怜に対し、こうなると知っていたのであろう冬弥は軽く目を細めるだけで屋上に足を踏み入れた。


「凄い風ね。お陰で髪がグシャグシャだわ」


 しかし手のみで頭全体をカバーできるはずもなく、怜の髪は疎らにはね、それを手櫛で整えていた。


「この季節はな。ほらあっちに山が見えるだろ?そこからの風がよく通るんだよ、ここ」


 十数キロ先に見える山々を指差す。山の頂は白く染まっており雪がその存在が遠目にも訴えている。

 そこから吹く風は景観のために植えてある草木を絶えず揺らしている。


「なるほど。だから人っ子一人いないのね」


 怜は辺りを見渡し納得した様子で呟く。こんな悪条件がなければ少年少女がたむろするにはこれとない場所であり、事実夏場はそれなりの人数が使用していた。

 そこから暫く互いに無言の間が広がった。

 聞こえるのは風の擦れる音とグラウンドから流れる運動部の掛け声だけで。気不味い、という感覚よりもあるべくしてある間隔だったのだろう。二人は顔色を変えることなく視界に広がる光景を暫く見ていた。既に空は赤焼けており地上には黒く伸びた影が規則的に動いている。


 冬夜から話すことなどなく、少女が黙ってしまったために無言の状態が続く。

 数分、少年の感覚にして数十分どちらからともなく口を開く。


「良い街よね、ここは。私が前にいた所に比べたら天国みたい」


「どんなとこにいたんだよ。…まあ、少なくとも悪くはないよな」


 この茜色の眺望も手を貸したのだろう。会って間もない、そんな何もない関係にも関わらず冬弥はただこの場にいるだけで言いようのない、哀愁に似たものを怜から感じずにはいられなかった。

 普段得られることのない感覚に気を抜いていたのだろう。

 冬弥は次にかけられた言葉に耳を疑った。


「……ねぇ。一つ、聞いて良いかしら」


「……?」


 目線でその先を促す。


「あんたさ―――」



 ―――魔術師でしょ?



 音が消える。

 煩わしいほどに鼓膜を揺らしていた音は脳に伝達される驚愕という信号に掻き消され、冬弥の周囲から全ての音が消え去った。


「っ!……は?何を言ってるんだお前は」


 冬弥からは怜は横顔しか見えず、しかし揺れ動く髪の合間に覗く視線はそれだけで気を急かした。

 あまり長く返さないのは不味いと判断させられた(・・・・・)冬弥は、しかし怜の満足いく返答ができなかったのか少女の瞳には鋭さが幾分か増す。


「ここで気にする必要はないわよ、三原則(それ)。それにこれは確認みたいなものだから。……やっぱ上位じゃないか。これなら良いとこ下の上かしらね」


 怜は指を重ねパチンッと一つ鳴らす。と同時に二人を包むようにシャボン玉のような虹の光彩の膜が上昇していきドーム状になるように頂点で一点に纏まる。今広がったというよりはあったものに色がついていった感じだ。


「認識阻害の結界よ、って言っても急造の間に合わせだけど。一般人相手ならこれでも問題ないわ」


「……いつからだ?」


「ここに来てから、初めからよ。正直気付かないとは思わなかったわ、あんたの家それなりに有名だったし」


 冬弥は落胆を表すようにクシャリと髪を掻く。

 有名、と言われたことからも魔術に関してはそれなりの造詣があったのかもしれない。


「どうしたのよ?」


「……まさかこれくらいのことに気づかないなんてって思ってな。自分が大した魔術師じゃないって事は分かってたんだが、目の前で使われてこれは正直ヘコんだよ」


 言い訳ではないが冬夜は久しく魔術の世界からは離れていた。ここ最近こそ修練と称して魔術に触れているが、数ヶ月以内の話であり、少年には数年のブランクがあった。

 しかし、いくら他の魔術師と疎遠になって久しいとはいえ、目の前で魔術を使われて欠片も気が付かないレベルまで落ちていたと改めて認識し、「あの世で父さんが起こってるだろうな」と冬弥は溜め息を漏らした。

 というか学校で魔術師に会うなんて予想外すぎた。


「別に気にする事はないわよ?私の方がそれなりに高いレベルにいるってだけの話だから。序列で言ったらこれでも同年代ではそこそこ上なのよ」


 誇るでもなく純然たる事実として怜は語る。

 上から目線で多少でも誇らしくしてくれれば割り切りようもあるのに、こうも平然とされては嫌でも力の差を叩き込まれる。

 まぁそうしてクールな方が印象的には合っているが。

 しかし冬弥には一つ引っかかった。


「序列?そんなものがあるのか?」


「あんたそんな事も知らないの?イギリスにある魔術結社(マギトゥルマ)の一つが出してるのよ。大体二週毎に更新されていくわ」


「それって合ってるのか?あやふやにも程があると思うんだが」


 世界中の魔術師が対象なんて不可能だ。馬鹿馬鹿しい。

 たった何百人へのアンケートであたかも全国民の平均ですよ、みたいな統計が蔓延る世の中だ。信じるほうがアホらしい。

 それも当然で謂わば小さい国の国民全ての身体能力を測定し、更にそれを誰もが納得できるように順位付けるに等しい。そんな事は到底出来るものではなかった。数百人でも面倒極まりない。

 そんな事が二週毎に確実に出来るというのならば世の中の統計会社は商売上がったりだろう。


「精度は確かよ。それに序列って言っても単純な強さで決まってるわけじゃないもの。魔力量、使える魔術の種類、その練度とかで決まるらしいわ」


「そんなのどうやって計測するんだよ?まさか一人一人測ってくわけでもないだろ?魔術師が素直に教えるとも思えないし」


「当たり前じゃない。残念だけど方法については一切公表されてないわ。噂では一人の魔術師が全てやってるって話よ」


 実に嘘くさい。

 そんな冬夜の顔に対し、怜はいたって真面目な顔で話を続ける。


「ってこんな話はいいの。あなたこの街に住んでるんでしょ?」


「あ、ああ。それがどうしたんだ?」


 会話の方向をガラリと回転させられた冬弥は頭の中では今の魔術師事情を引きずりつつも答えを返す。


「私もここらへんに住もうと思ってるんだけど、一応話を通しておこうと思って。ほら、反りが合わないと魔術師同士っていざこざが起きやすいから。……それでどうかしら?」


「……別に俺は構わないが」


「じゃあこの話は終わり!基本不干渉でいくつもりだけどこれからよろしくね、御防君」


 嵐のように来て、嵐のように去るとはこの事か。前触れなく少年を弄んだ少女は一人スッキリして横を通り過ぎる。

 そうして一方的に切り上げた怜は帰ろうとドアに手をかけ、しかし何か忘れ物でもしたように止まった。


「ああそうだ、一つ聞いてもいい?」


「なんだよ」


 投げやり気味に投げ返した言葉のボールを怜は苦笑して受け取る。

 全くいつまで落ち込んでいるのか、と。


「気にする事ないのに。あんたさ神格って知ってる?神様の格ってやつ」


「まぁ知識程度には知ってるけど。専門じゃないから触りくらいしか知らんよ」


「そう。……なんでもないわ、今のは忘れて。……い………で……わ」


 そう言うと今度こそ怜は屋上から去っていった。最後の呟きは風に攫われ冬弥まで届くことはなかった。心ここに在らずの少年には風がなくても届かなかったかもしれないが。

 一人残された冬弥は不可視の力に引き留められるかのように暫くその場に佇んでいた。

面白いと感じた方はお付き合いいただけると嬉しいです。

次は明日0:00投稿予定です。

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