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終末世界の救済術式  作者: 永依 聖
第二章 少女と楽園の葬送曲
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第十七話

「オラいくゼェ!」


 次々と吐き出される弾丸が避ける冬弥の背に張り付くように追随する。

 地面が抉られ凡そ映画でしか見られない光景が繰り広げられていた。


「正気かあいつ!?」


 世田谷でテロ。死傷者多数。

 このままでは洒落で済むはずもない。まず間違いなく冬弥にもとばっちりがくるだろう。協会から来ようものなら最悪だ。

 粛清対象には容赦のない協会のことだ、「はい死刑」と軽く宣告され膝をつく自分の姿が想像できてしまうくらいには絶対的な権力と為すための力を持っていた。


「オイオイオイッ!逃げてばっかじゃつまんねぇじゃねぇか!」


 風で飛びそうになる中折れハットを押さえ、片腕で超重量級の銃を振り回す。

 三次元的な冬弥の動きに合わせ細かく照準を合わせるだけの技術と膂力を持っているということか。


 ガンッ!


 取り回しを誤ったか長い重心が道路脇に立てられた標識の鉄パイプを薙ぎ払い「く」の字に曲がり、さっきまで居たうどん専門店の壁を破壊し入店していった。


「チッ。ちとミスったか」


『勘弁してくださいマスター。()もタダではないよですよ?』


 鉄屑の動きが止まる。と同時に機械音声が銃声と入れ替わりで冬弥の耳に入った。

 女性の声だ。


「ウルセェな。少し当たっただけじゃねえか」


『ほうほう。鉄の棒を直角に曲げる程のエネルギー量が「少し」ですか。ええ、確かにそうかも知れませんね』


 肯定しているようでしかしその態度は真反対と言えた。そっぽを向き少し見下ろすような姿が声からイメージできる。きっと絵に描いたようなできるOLに違いない。


 突然始まったやりとりに戸惑う冬弥だったが、これが好機と逃走の準備に入った。


「ロー!どこにいる!」


「ここなのよ!」


「ここってどこだよ……って遠ッ!」


 えらく叫ぶ声が小さいと思ったら道を戻った道路の向かい側、かなりの距離を取っていた。

 自動販売機の陰から顔を覗かせている。


 やっちゃえ!、と拳を突き上げているモーションを繰り返すが、いまいち細かい動きが見えない冬弥はわたわたと慌てているようにしか見えない。


「逃すかよ!」


『まだ話は終わってないのですけどね』


「これが終わったら聞いてやらぁ!」


 重心を落とし狙いを定め、ラグなしに引き金を引く。


「うひゃぁ!」


 冬弥を狙うよりもローを撃った方が確実だと判断した鉄屑により、ローの自動販売機()が蜂の巣にされ血を散らすかのように飲み物をぶちまけた。


「ッ!無事か、ロー!」


「だ、大丈夫なのよ。……何なのよあの弓は。どこぞの英雄の持ち物だったら大変なのよ?あいつら地の果てまで追ってくるのよ?」


 何か嫌な思い出でもあったのか。鉄屑の銃を見て小さくあわあわ言っている。


 流石に冬弥が優れた魔術師だと感じただけのことはある。ハリネズミのように弾が球形に張られた盾に食い込んでいた。昨日の氷像といいこの盾といい、どうやらローは氷系統の魔術が得意なようだ。


 わたわたとよく分からないことを言っているがそれを考えるだけの余裕は冬弥にはなかった。


 全力を出せば逃げ切ることも、鉄屑を打ち倒すことも可能だろう。だがそれは市街地でなければ、の話だった。全力の冬弥が踏み込むだけでアスファルトは砕け、ビルを足場にすれば穴が空く。

 避難すらされていない突発的なこの状況ではどれだけ被害が出るか。


 何とか諦めてくれないものかと思案しつつ、ロングバレルを封じ込めようと肉迫する。


「沈めッ!」


『させませんよ』


 鳩尾に一撃。

 その寸前で横から()()()()()銃身に遮られ鉄屑の体には届かない。


 バラバラに破壊された中からマズルが覗き、コンマ数秒という短時間で断続したフラッシュが一つの閃光となって冬弥の視界を奪う。

 威力こそ落ちてはいたが銃弾には変わりなく、胴体にめり込み、庇った腕には裂傷が走った。


「ングッ。マジかよ」


 完全に捉えていたはずだった。

 鉄屑の目は冬弥の動きを追えず、残像でも見ているのか視線は前を向いていた。だが突き出した拳は受け止められ、傷を負ったのは冬弥だった。


 ただ話すだけのAI的魔術ではなく、寧ろ鉄屑より危険度は上だと判断した。

 今防ぐことができたのは鉄屑の腕ではない。あのAIによるオート機能のようなもののおかげだと。


 冬弥は跳び退き自然治癒力を強化し裂傷を癒していく。腹部にできた点字のような痣も誰にも見られることなく消えていった。


「おいおい、お前ホントに人間か?不死身の化けモンじゃねぇか」


「俺が化け物なら序列上位の連中はどうなんだよ?よっぽど化け物らしいぞ」


「アイツらはこの世界の住人じゃねぇよ。てか生き物じゃねぇ」


 確かにその通りだ。冬弥も一度序列上位同士の戦闘を見たことがあった。あれはあるいは世界の終わりなんじゃないかと思ったくらいだ。


 冬弥自身がどうかは自分ではわからないが、上位の魔術師が総じて人間を辞めている点は大いに同意した。


『ハガネ。わかったでしょう?あなたと彼とでは相性が悪過ぎる。ここは引いておきましょう』


「ハッ、冗談。ここまで楽しいのは久々なんだぜ?さすがあの闘人の連れだ」


『しかしーーー』


「それに相性が悪いだぁ?んなこと関係ねぇ。それはお前が一番わかってるだろ、サリー?」


 息をのむ、銃にその表現が正しいかは不明だが、銃に構うことなくマガジンを外し新しく召喚したマガジンを填め込む。


 本名は「ハガネ」というのだろうか、などと益体も無いことが冬弥の頭を一瞬過ぎる。


『……まだよく知りもしないのですよ?早計ではありませんか?』


「テメェは慎重すぎんだよ。それに俺もアイツも殺る気はねぇよ。なら本気でやるにこしたこたぁねぇって話だろ?」


『殺す気はないのに本気って矛盾してません?』


「オッと。嬉しいじゃねぇの。俺が勝つと思ってくれてんのか」


『……言葉のあやというものです』


 言って聞くような良い子じゃないことはこの相棒が一番よく知っている。きっと学生の頃はサボリ魔で先生を泣かせていたに違いない。

 それでも頭が悪いわけでは無い。銃弾で殺しきれない相手にいくら撃ち込んだところで倒せる道理はない。


 鉄屑はライフルを手放す。ポリゴンのように分解され構築されたのは二丁のマシンガンだった。


『全く。知りませんよ?ただでさえここまで()を見られているというのに』


 魔術戦とはつまり情報戦なのだとわかっているのだろうかとご主人様の戦闘脳を心配する。


「構わねぇよ。どうせここで打ち止めだ。それにそれをなんとかすんのが魔術的AI(テメェ)の仕事だろ?」


『……全く。しかし本気でやるのでは?』


 鉄屑は一瞬、明後日の方向を見た。そして一つ舌打ちをする。その鬱陶しそうな目は集る蚊を見ているようで。


「本気さ。だがさすがにこれ以上は()()()()()()。全力、とはいかねぇが付き合ってもらうぜ小僧ッ!」


 銃口を冬弥に向け、マシンガンが弾を吐き出す。

 リアル弾幕系シューティングが始まった。


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