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終末世界の救済術式  作者: 永依 聖
第二章 少女と楽園の葬送曲
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第十六話

「出てきたはいいけどどこに向かってるんだ?」


 年末で人通りの少なくなった朝の大通りをローの後について歩く。迷っているわけではなさそうだがローが魔術を使った様子はなく、どこを目指しているのか冬弥には見当がつかなかった。


「何となくありそうな方よ。多分あっちの方にいるのよ」


「勘!?」


 まさかの根拠のない探索発言に冬弥は往来であることを忘れ声を上げた。


 冬弥よりマシだと言ったローの言葉を鵜呑みにしたのは冬弥だが、それが魔術すら使わない本能頼りだとは思いもしなかった。それならば冬弥が一人で探すのと変わらない。


「おいおい冗談だろ?俺と変わんないじゃないか」


「失礼なのよ。これでもサンに褒められたのよ?“ローは野生の感性が凄いね”って」


「それって褒めてるのか?」


 そこはかとなく馬鹿にしている感が漂う言い回しに、しかし冬弥も実は途轍もない勘をしているのかもしれないと少しの期待を滲ませる。これで一般レベルの当てずっぽうではローと行動を共にするメリットなど無いも同然なのだから期待するのも無理はなかった。


 それでもやはり迷ってはいないのだろう。足取りは快調にとばしていく。

 日に揺れ燦めく髪は嫌でもすれ違う人々の目を引き、常に視線が集まる居心地の悪さはローと冬弥の距離となって表れた。


「どうしたのよ?そんなに離れていたら話しにくいったらないのよ?」


「あぁ、ゴメン。……有名税ってこんな感じなのかと思ってな。一緒にいるだけで周りも大変なんだな」


「You may they?哲学か何かかしら?」


「……そうそうそんな感じだ」


 何か間違っている機がしたが説明するのも手間だと投げやり気味にその通りだと肯定する。

 間違った日本語はこうやって広まっていくのだろう。


 ローが歩幅を落とし、冬弥の横へ並ぶ。


「そのサンだっけ?どんなやつなんだ?」


「サン?……そうね、Äiti、お母さんみたいなのよ。世話焼きで料理が上手くて物知りで。私のお願いを全部叶えてくれるのよ」


 どんなお菓子が好きでたまにおっちょこちょいが垣間見えて、歌が上手で。

 滝のように言葉が次から次へと流れ出ていく。

 どうしようもなく好きなのだと、端々から、柔らかな微笑みから、絶え間なく伝えられる。


 軽い気持ちが重い気持ちで返された冬弥も悪い気はしなかった。

 もし仮にこれが修二によるものであったなら糞の役にも立たない惚気だと回し蹴りで頭を蹴り抜いていたが、ローが見た目に少女だからか一生懸命な子供を見ているようでどこか温かくなるものとなっていた。


「それがね―――」


「わかったわかった。続きは帰ってからにしよう。それよりそろそろ着きそうか?」


「あっ、ええ、もう見えてくるのよ」


 少し物足りない、そんな顔を見せたが目的を思い出し本筋へと戻る。


 咄嗟に出たローの言葉に冬弥は何か違和感を感じた。何故かローの言葉が引っかかった。


(見えてくる?)


 まるで何があるのか知っているような物言いではないか。明確にあるものでなければ見えてくるとは言わないだろう。

 冬弥にしろローにしろ断言出来るはずがないものをローはハッキリと「見える」と言った。さらに言えば勘を頼りに歩いてきたはずなのに、だ。


「おい、ロー。お前の目的って一体―――」


 左斜め前方に現れた建物に冬弥の目は奪われた。そしてローが何を目指していたのか、前日を振り返り焼き直しなのかと目頭を押さえた。


 うどん。

 達筆で書かれた看板に木造の店舗が味を出している地元でも人気のうどん専門店だった。

 掲げられた期間限定のポスターの写真に目を輝かせるローを冬弥はジトっと見下ろす。


「なあ」


「どうしたのよ?」


「まだ、着かないのか?」


「?もう着いてるのよ?」


「どこに」


「あそこなのよ」


 一縷の望みもバッサリと切られ店を指差すローに「お前は探す気があるのか」と問いただしたくなる。更々ないのではないか。

 ローは足をそわそわとさせ店に近づいていく。

 まだ朝食を食べてから一時間も経っていないのにまだ食いたいとはこの体のどこにストックされていくのか人体とは不思議なものだと未知の世界に想いを馳せる。


「せめて昼になるまで待てないのかよ。食い意地張りすぎ」


「ち、違うのよ!?確かに食べたいのは事実だけど……。でも私の勘がここを指しているのもホントなのよ!」


 心外な!とローは店に入るでもなく睨め付ける。


「やっぱり。間違いないのよ!誰かは知らないけど魔術師(シャーマン)がいるのは確実なのよ!」


 ローの瞳は特別製であることは冬弥も知ることだ。おそらく魔力の塊を見たのだろう。


 本当に勘だけで見つけてしまったのか。だとすればサンの言う「野生の感性」にも頷けてしまう。


「マジかよ」


「マジなのよ」


 早くも依頼達成か、いきなり視野外から飛び込んできたチャンスボールに冬弥も浮き足立つ。

 良嗣の少しは驚いた顔でも見られるだろうかなどと皮算用をするのも無理はなかった。


 冬弥は体を力ませる。


「行くか」


 扉を開けようと手をかける。


 ガチャ


 扉が開く。しかし冬弥の手は掴もうと固まったままであり、とっさに端へと避けた。

 丁度タイミングが被ったのだと道を譲った。


「どうぞ」


「あ゛ぁ?」


 斜め上から浴びせられた声。それは感謝ではなく。

 どうして自分は威圧感のある声をかけられているのだろうか。冬弥はそんな礼儀知らずに物申そうと下げていた目線を声の方向に合わせる。


「誰かは知らないけど―――」


「知らねえとは酷ぇじゃねえか」


「あんたッ」


「また会ったな小僧」


鉄屑(スクラッパー)……!」


 サングラス越しの目は笑っていた。


 良嗣とのいざこざや軽い態度が良い印象を与えるわけもなく、冬弥の警戒値は二段飛びで上昇した。

 よりにもよってイかれたこいつかと運の悪さを呪った。


「なんであんたがここにいるんだ?」


「あ?いちゃ悪いのかよ。つーか俺の方こそ教えてくれよ。なんでお前がここにいるのかをよぉ」


 殴りかかってくる勢いだ。

 これでは昨日のグリンピースよろしくグチャッと握られかねない。原型が保たれていないずんだ餅の餡のような末路は御免被りたい冬弥は後ずさる。


「……俺は昼飯を食べにきたんだ」


 嘘は言っていない。昼を待てない食いしん坊の本音を代弁しただけだ。


「俺だってそうさ。たまたまここだ、ってだけでなぁ。……おい嬢ちゃん。こいつの言ったことは本当か?」


 嫌な予感が冬弥に考えろと急かす。

 なんか面倒だなぁと悟ったのかローはそろりと少しづつ二人から離れていっていた。

 突然的にされたローは冬弥からの視線に気づく。

 熱を帯びたアイコンタクトに、任せてくれ、と無い胸を張った。

 そして嫌な予感は的中してしまった。

 そして、言ってくれるなよ、と願う時に限ってどうしてかピンポイントで狙い打たれるのは何故だろうか。


「もちろんなのよ!でもサボっていたわけじゃないのよ?探し物もちゃんとやっているのよ!」


 あちゃー、と顔を覆う。


 何故こんな所に鉄屑がいたのか。

 こっそり出していたスマホの画面には『世田谷』の文字。

 彼等が立っているのは八等分された地図の焦げた部分、境界線上に相違なかった。


「勝手に入ってくるたぁ度胸あんじゃねえか」


「態とじゃないですよ。……それにこの位置ならグレーゾーンだ」


 焦げ落ちたということは実際どちらの範囲に含まれていたかは曖昧だ。


 冬弥は何とか乗り切ろうと強化の術式を使いつつ距離を空けようと退がる。

 どうにも嫌な予感が警鐘を鳴らして止まない。

 「もうどうしようもない」と。


「ごちゃごちゃと煩ぇな。こちとらもう暴発しそうでよ。早いとこ始めようや」


「ッ、待てッ!街のど真ん中なんだぞ!?」


「ったく。お前らは縛られすぎなんだよ。三原則だか何だか知らねえがそんなもん守る義理はこれっぽっちもねぇ」


 どこから取り出したか、鉄屑の手には子供ほどの銃が握られている。

 ただ違うのがまるで生きているように唸りを上げ光っていた。


「どうやらお前はやり過ごしたいみたいだが……生憎もう遅ぇんだわ」


 銃口が冬弥を捉える。


 冬弥の脇を()()が掠め、路肩に停まっていた車を貫く。場所が悪かったのか、撃ち抜かれた車は盛大な音と共に爆発四散し空から鉄屑の雨を降らせた。


「んじゃ、始めるとしようか」


 ジャコン、と応えるようにその手の相棒は次の弾をリロードした。

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