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終末世界の救済術式  作者: 永依 聖
第一章 機人は世界に終わりを告げる
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第十四話


「で?何でゲーセンなんだよ」


「学生が遊びにいく所って聞いたけど違った?それにあの子達も喜んでるみたいだし」


 勇斗は来馴れているのだろうか限られた軍資金をどれに投資するか吟味している。反してチユはあっちこっちと物珍しそうに見渡していた。


「あなたも初めてかしら、こういう所は」


「っ、はい。すごいですね、知ってはいましたけどなんて言うか、パワーがすごいです」


「そうね、音があれだけどたまには悪くないわね。……何か気になるものはあったかしら?」


「じゃあ、あれってなんですか?」


「あれはUFOキャッチャーね。上のアームで景品を取るよくあるやつね」


 小さな子供がクジラのキャラクターのぬいぐるみを取ろうと四苦八苦している。アームはぬいぐるみを掴むも僅かに持ち上がっただけですぐにポトリと溢れ落ちる。

 二回三回と同じことを繰り返し子供は諦めてベンチの親元へと走り寄っていった。




「それじゃ、何かあったらこいつに連絡しなさい。もれなくダッシュで駆けつけるわ」


「はは、絶対お前も道連れにしてやる」


 チユの門限が迫っているらしく、話し終わるとともに店を出る。


「はい、ありがとうございました」


 冬弥達にも慣れたのか最初のたどたどしさはなく、伏し目がちではあるが顔を向けあって話せていた。


 チユは駆け足で家路を急いだ。

 余程ギリギリなのだろうか、姿が見えなくなるまでノンストップで走り続けた。

 そのどこか切羽詰まった背中にに言いようのない不安が張り付いていた。


 気のせいだろう。そう騙すようにチユの姿から目を離す。


「お前はいいのか?」


「そうですね……少し行ってみたいところがあって。よかったら一緒にどうですか?」


 なんでもチユが困っていたところを助けてもらったのだと言う。

 誰でも来ていいと言っていたらしく一度チユのお礼も兼ねて訪ねてみたいと思っていたらしい。しかし一人で行くには勇気がでず、できればついて来てほしいと懇願された。


「俺はいいけど、那上はどうする?」


「構わないわ。どこにいくのかしら」





「はい、教会です!」





 近所の親切なおばあちゃんとか何らかの施設だろうとあたりをつけた二人だが検討ハズレも甚だしく、聞いた途端に顔色が変わった。

 魔術師にとって因縁でガチガチの関係だと説明したはずだよな?

 果たして忘れていたかと会話の内容を振り返る。

 うん、確実に言ったはずだ。

 危機回避のために知っておくことトップ5にはいる教会に触れていないはずがないと確信を持って言えるだろう。

 冬弥はまだ衰えていないはずだと回想を終える。


「御防君。惜しかったわね、この子のことは諦めましょう」


「……さすがに俺も庇いきる自身がなくなるわ。元々そんなにないのに」


「えっ!?なんでそんな顔で見てくるんですか!?」


 呆れられた理由の見当が本当についていないらしく、何故だと驚きで目を見開く。


「あれだけ教会、特に聖教関連は危ないって教えたじゃない。なのに数分後にはその危険に自分から行こうだなんて、今すぐ脳外科に行った方がいいんじゃないの?」


「……もちろんわかってましたよ、はい」


 思い出したのか、明後日の方へと目をやり口角が不自然に引きつっていた。


「で、でも全部が全部危険だとは限らないって行ってたじゃないですか!こんな下町の教会なら大丈夫ですって!」


 教会と一口に言っても聖教以外の可能性だってある。それに聖教にしても教会全てを一度に管理できるほど所属の魔術師がいるわけではない。管理しようと思えば数十万という魔術師が必要だ。それは現実的に不可能だろう。


 勇斗が主張するように主要な教会ならともかくこんな下町に配置することはほぼなかった。


 だが、そうじゃないと怜は続けた。


「確かにあなたの行きたい教会には魔術師はいないと私だって思うわ。でも一つ、重要なことを忘れてるわ。今でこそこんな風情溢れる感じだけど」


 専門的なことは任せよう。

 冬弥は無駄なことは言わないでおこうとただ黙って二人のやりとりを見守る。

 正直なところこの際行くだけなら吝かではなかった。一つや二つ増えたところで面倒事を抱えていることに変わりはないと、もうどうにでもなれーとある種の境地に達したその顔は遠くを見て笑っている。


 そんな冬弥をよそに怜は続けた。


「ここは司教座のお膝下には変わりないのよ。わざわざこっちに呼び込むことないじゃない」


「司教、ざ?」


 触り程度しか教えられていない勇斗は聞き覚えのない単語に疑問をのっけて投げ返した。


「そうよ。あそこのカテドラルの規模なら何人かいるのは確実だし、騎士クラスなんか出てきたらもう最悪の日間違いなしね」


 教会には守護の要を担う騎士団が複数存在している。

 もちろん普通に生活していれば出会うことはおろか知ることすらない。一般社会では騎士など廃れた遥か昔の制度でしかない。

 しかしローマはバチカンを守護する第一騎士団に代表されるように、この業界では知らぬ者はいない戦士(狂信者)の集団。魔術、教会では法術と呼んでいるが、騎士団はそのほぼ全てが並の魔術師を上回る法術師であった。

 騎士団は戦闘に特化した集団であり、その全てが日本国外に本拠を構えていた。であれば騎士団とかち合うことは早々ないだろう。

 しかし教会に所属する魔術師は騎士団を除いてもいまだ数多い。なかでも魔術師でありながら司教階級以上を与えられた者は団長に比肩する力を持っていた。


「……でも」


 それを聞いたうえで勇斗はまだ行きたい気持ちが上回っていた。


「身の危険は理解できたでしょ?なのになんでそこまでこだわるのよ、自分が救われたわけでもないのに」


「それは……」


 言葉に詰まる。

 言い出しにくいことなのか、怜の視線に萎縮して言えないのか。


 黙る勇斗に見かねて「仕方ない」と助け舟を出さざるを得なかった。


「いいんじゃないか、別に。よっぽどばれることなんてないだろ」


 魔術にしろ魔法にしろ使わなければ気づかれることは殆どない。魔力自体を感知できなければ普通の人間と同じだ。

 リスクがあれども限りなく低い。


 怜もそれは知っている。それを踏まえたうえでだした答えは「No」だった。

 自らの力の及ばない存在をすでに知っている。

 圧倒的存在との邂逅は怜を慎重にした。


「わかった。俺と勇斗だけで行ってくる。それなら文句はないだろ?」


 行きたくないのなら行かなければいい。

 どちらも譲る気がないのなら話し合い自体無駄でしかなかった。


 冬弥は勇斗の背中を叩き、早く行こうと前へと押し出す。


「待ちなさい」


 二人の背中に怜は待ったをかけた。


「私も行くわ。あんたは一応私の相方みたいなもんでしょ?勝手に死なれでもしたら困るのよ」


 憮然と言い放つ。


「オッケー。それじゃ揃って行くとしますか!勇斗君、道案内よろしくね」


「はい!任せといてください!」


 勇斗を先頭に冬弥は自然な形で怜の横に並ぶ。

 チラッと覗き見れば少し不機嫌な様子で前を見ている。おもちゃを取り上げられた子供みたいだ。


「何よ?」


 注がれる視線にたじろぐ。


「いや、別に?結局ついてきたんだなって。……心配なら素直にそう言えばいいのに」


 こっそり聞こえるギリギリの声で呟く。

 教会だ騎士だとごちゃごちゃ言ってはいたが詰まる所怜も勇斗のことを気にかけていたということだ。わざわざ落命して欲しくないと、やはり情が湧いていたのだろう。

 こっそり囁かれたことに怜は顔を仄かに赤らめる。

 虚を突かれ狼狽える姿は数瞬ではあったが非常に良いものだった。それは冬弥の表情からも察知できた。


「べ、心配なんてしてないわよ!ただ、自分の知らないとこで物事が進んでくのが嫌なだけよ」


 手の届く範囲全てを、あるいはそうでなくても知っていなければ気が済まない、その本質だけは邂逅を経ても残っていた。


「何してるんですか!置いてきますよ!」


 数歩先から勇斗が叫ぶ。生き生きとした足取りと顔は抒情性に富み興奮を示すかのように吐かれる息は白く染まる。

 その純粋な笑みに毒気を抜かれる。

 裏も表もない、心のままに自分の信じる道を進んでいく。その姿勢は遥か昔に無くした、或いは捨て去ったもので。


「……羨ましい限りだ。だけに惜しい、な」


「……そうね」


 透き通った純白は触れ、揺れ、どう変色していくのか。変わらずあり続けるのか、黒く濁った汚泥のように汚されてしまうのか。

 遠からず訪れる分岐点でもどうか自分をなくさないでほしい。

 陽に当たる勇斗はそれ以上に眩しく二人の目に映った。


「いいんですかーっ!」


「あなたがついて来いって言ったんでしょ!……全く」


「おう!今行く!……んじゃ早く行こうぜ、置いてかれる前にな」


 緩く傾斜のかかった道を追いかけた。

面白いと感じた方はお付き合いいただけると嬉しいです。

次は明日0:00投稿予定です。

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