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終末世界の救済術式  作者: 永依 聖
第一章 機人は世界に終わりを告げる
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第十三話

 樋田勇斗と二人が出会ってから二日、再開の日取りは殊の外早く訪れた。

 廃工場とはうって変わり暖房の効いた店内で勇斗を待っていた。


 カランッ


 客の来店をドアベルが二人に告げる。話し合いのために少しでも客足が少ない昼前を選んだ甲斐あり数える程しか他客はいなかった。

 入り口を見れば勇斗がキョロキョロと戸惑っている。あまり待ち合わせの経験がないのだろう。店員に話しかけられ慌てる勇斗を手招きで呼び寄せる。


「一昨日ぶりだな」


「すいません、お待たせしましたか?」


「いや俺達もまだそんなに経ってないさ…………ん?」


 申し訳なさそうにする勇斗の背後に見覚えのある黒い布が見え隠れしていた。ゆらゆらと目を惹き、何だったかと思えばチラッと覗いた白い髪から数珠繋ぎで記憶の底から引き上げた。

 何故も何もこの間まで自分が使っていたマフラーだと理解するのに時間はかからなかった。


「勇斗君、君の後ろにいるのはその、知り合いか?」


 ぶつかり抱き止めた少女の影がちらつく。


「あっそうです。こいつ人見知りらしくて……。ほら」


「……その、この前はありがとうございました……」


 体に対して大きめなせいでマフラーで隠れた口元がもごもごと動きか細い声が聞こえる。

 変わらずグレーのワンピースを着た少女は目を伏せ伺う様子で見ていた。


「どういたしまして。とりあえず二人とも座りなよ」


 空けておいた二人掛けの椅子に促し座らせる。立ちっぱなしだったからか水とおしぼりを持ったウェイターの女の子が少し困っていた。


「それでその子は?君も何を話したいかは分かっていただろう?」


 勇斗との関係は現状魔術師と魔法使いというだけでしかない。友人でもなければご飯に誘うほどの知人でもない。ならば会う理由など馬鹿でもわかる。中学生だから推測できなかったなどなんの弁明にもならない。

 にも関わらず友達なのか知らないが無関係な少女を伴うなど、それで怒るほど二人とも狭量ではないが呆れるくらいは当然だった。


「それはもちろん!……実はチユ、この子なんですけど、チユも魔法?が使えるみたいで。それでここに連れて着たんです」


 まさかの魔法使いが二人目。

 抱えたくない事柄が次々に積まれていく。

 平穏無事に日々を過ごしたい冬弥は机に突っ伏した。


「どうしたのよ?」


「俺の凪いだ日常がどんどん大時化の中に巻き込まれていく気が……」


「もう今更よ。そもそも魔術師の時点でそんな日常底の方に沈んでったも同然よ」


 おっしゃる通りで。


 気を取り直し少年少女の話を聞くとしよう。もしかしたら勇斗の勘違いでいたって普通の女の子である可能性もある。

 世にも珍しい魔法使いが近場に二人もいるはずがないと冬弥は自分に言い聞かせた。


「それで?どんな魔法が使えるんだ?」


「そうね、見せてもらわないことには判断のしようがないもの。ここで使っても問題ないようなら見せてもらえるかしら」


「はい、わ、かりました」


 たどたどしく話すチユはテーブルに置かれていた爪楊枝を一つ摘まみ取り指の先端に突き刺す。

 プツリと刺さった先から一滴ほどの血が溢れ出た。


「ちょっと何してんだ!危ないだろ!」


 幼気な少女の自傷行為に冬弥の語気も強まる。

 魔術魔法のことなどこの瞬間は頭から離れ、ただ言いようのない怒りと心配が胸中を占めていた。


 何事かと数少ない客と店員が四人の方を注目する。


「あー、…すいません」


 マズいと怜とアイコンタクトをとり、謝ることで一先ずその場を収める。


「すまん取り乱した。……でもあれは仕方ないだろ」


「そうね、私もびっくりしたけど怒鳴ることないじゃない。……それに()()も仕方ないわ。一番手っ取り早いのは確かみたいだしね」


 チユはおしぼりで傷ついた指先を拭う。するとどうか、あるはずの傷など一切なく綺麗なままの肌がそこにはあった。

 父親が医者兼魔術師であり、その研究内容もわずかながら目にしていた冬弥は自然と一つの回答にたどり着く。


「治癒魔術か。回帰か?それとも修復か?」


 元より傷などなかったことにする回帰型治癒魔術。

 元の状態に復元する修復型治癒魔術。

 現代で主流といえるのはこの二つであり、どちらを取っても容易に習得できるものではない。


 目の前にいるのは自分よりも年下の幼い少女であり、見た目などあてにならない魔術師であっても使いこなせるとは到底思えなかった。

 なら、勇斗と同じか……。


 横目で怜の返答を待つ。


「どっちでもないわよ、全く、分かってて聞いてるのかしら。間違いなくこの子も魔法使いよ」


(でしょうね、はい)


 何度目かわからないため息は嫌という程感情のこもったものだった。

 一生に一度出会うことも極々稀な魔法使いとの対面が僅か数日の間に二度も起ころうとはなんて数奇なものだろうか。


「すまんな、用事を思い出したわ。俺はこれで……」


「―――どこにいくのかしら?」


「ッ!?」


 逃げ出そうとする冬弥の足に黒い円環がクルクルと回り、いくら力を込めても足は微動だにしなかった。


「おま、こんな所で使うなよ……!」


 人の目がある場所での魔術行使は厳禁だと理解してるだろ!?

 言葉にできないぶん目で訴えるも涼しげな顔で受け流される。


「逃げようとするあんたが悪いのよ。それにそれなら最悪バレてもアクセサリーで押し通せるわ」


 左足で回転するリングは確かにぱっと見イカしたファッションアイテムにしか見えない。よく見てみれば一切足には触れておらず不規則に揺れているのだが。


 逃げるという選択肢を根本から消された冬弥は脱力して再び腰を下ろす。


「だいたいなんで逃げるのよ。少し()()を教えるだけじゃない。最後まで面倒見るって言ってるわけじゃないのよ?」


「わかってるさ。でもそうやって関わる以上放っておけなくなるじゃないか」


 ニュースでさえ感情移入が甚だしいと言われているのだ。相手の人となりを知ってしまえば何だかんだとお節介を焼くことは目に見えていた。

 初対面なのに巻いていたマフラーをあげるくらいだ、魔法使いとして千荊万棘であればこそ立ち塞がる困難は命を賭けることもあるだろうことは想像に難くなかった。


「……今回だけ、今回だけだ、うん」


 今回だけ。

 「今日だけ」、ではなくすでに彼らにお節介な部分が本人の表層の意志に関係なく言葉に表れていた。


 暗示をかけるように呟いた冬弥は改めて二人と向かい合う。

 やりとりを見た勇斗の顔には不安と困惑が渦巻いており、とてもではないが魔術世界(こちら)側に来ていいとは、いや来させるべきではないとさえ思った。

 当初から一貫してその思いは変わらない。

 しかし、


「……あと戻りはできない、か」


 知ってしまえば金輪際無視することができる代物ではない。


 冬弥の意思も固まった。


「賽はなんとやら、仕方ないしやりますか。ある程度常識を叩き込んどきゃ余程大丈夫だろ」


「決まったようね。……前も言ったかもしれないけどあんたは少し慎重にすぎるわ。この子達だってきちんと教えこめば十分戦力になり得るわ。……魔術師ならわかるでしょう?リターンには相応のリスクが伴って然りってことは」


「そりゃ、まあそうだが」


「それに自分で解決できるだけの力がつけばあんたが気をもむこともないでしょ?」


 それもそうか、と冬弥達の指針は決まった。

 危険を引き寄せないよう魔術世界の常識を教える。

 魔法を少しでも使いこなせるよう基礎を教える。


 これだけを決めるために話し合っていた時間は無駄に長く、すでに周りの席は昼食を求める客で埋まっていた。


 長いこと待たせたウェイターに料理を注文し、昼食をとりがてら出来得る限り教えられることを順を追って話していく。

 三原則に加え、暗黙の了解や禁止事項、危険地帯など危険に晒される可能性のあるものを優先的に、二人も遊びじゃないと理解しており真剣な面持ちで聞いていた。




「―――とまぁこんなとこかしら。くれぐれも無闇に使うんじゃないわよ、それが一番確実な安全策なんだから」


「わかりました」


「……(こくこく)」


 怜の体験談を入り交ぜた想像を絶する話(ファンタジー)に勇斗とチユはなすがままに頷いた。


「堅い話も済んだことだし、少しくらい親睦を深めに行きましょうか」


 怜にしては珍しい提案に冬弥は怪訝な顔で見つめる。


「いいですね、それ!みんなで行きましょう!」


 遊び盛りで友達と遊びつかれるなんてこともない年頃の勇斗は間髪入れず反応する。

 チユの反応をチラチラと横目で確認していることは正面の二人には丸わかりで可愛らしいことだ。

 覗き見られている本人も満更ではないようで興味深げに怜をみていた。


「いいんじゃないか?この機を逃したらこいつは二度と言わないだろうしな」


「反対はなしね。それじゃあ行きましょ。会計はこいつが払ってくれるわ」


「俺かよ!まぁいいけどさ、さすがに中学生に出させるわけにはいかないし」


 とは言え高校生にとってもファミレス昼食四人分は軽いものではなく、軽くなった財布をポケットに仕舞い四人は店を出た。


面白いと感じた方はお付き合いいただけると嬉しいです。

次は明日0:00投稿予定です。

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