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終末世界の救済術式  作者: 永依 聖
第一章 機人は世界に終わりを告げる
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第八話

 二人は何を話すでもなく各々が自分たちの家へと帰っていった。話す気分になどなれるはずがない。


 冬弥は自室で横になり天井を見上げた。

 こうして戻ってみれば嫌な夢でも見ていたような違和感が現実と非現実とを行き来させた。

 ゆっくりと目を閉じれば焼きついた死霊少女の姿が思い浮かび、見ないようにするために再び瞼をあげる。


「……どうしたらいいんだろうな」


 冬弥はイニアリテール=ネクロに告げられた言葉を脳内で幾度となく反芻する。

 全てを見透かされたような口ぶり。

 理解できない謎の助言。

 そしてなによりまた会いに来るという拒否権のない、「参加」に丸打たれた招待状付きだ。

 いつ訪れるかわからない災害に常に怯えていられるほど人の精神は強くない。多少の割り切りは必要だ。


「あー、もう。ばれてるんだろうな、多分」


 ボフッ

 冬に近づき厚さを増した布団に体を埋める。極度の脱力からかもう指先一つ動かさなかった。

 何も決められないまま冬弥は眠りについていった。




 死神を隣に感じてから数日。

 教室に設置されたスピーカーからチャイムの音が聞こえ皆が一斉に筆記具を置く。中には往生際の悪い一部生徒が教師の目を盗みコソコソと書き足していた。

 テスト最終日、イニアリテール=ネクロから生還してから数日、冬弥の顔色はあまり優れているとはいえなかった。それは未だ改善策を立てられていないことを如実に表しており、理解できないたった一言の暗号が不安を煽っていた。


「どうしたんだよお前、相変わらず深刻そうな顔して。テストの出来でも悪かったのか?」


「いやテストはできたんだけど」


「お前わざとなのか?万年赤点ギリギリの俺に対する当てつけか?」


「んなわけ


「ちょっといいかしら。佐武君、少し御防君かりるわよ」


「あ、ああ。どうぞ」


 テストの答案を持って教師が出て行き、修二はここのところ普段と違う様子の冬弥を心配していると、その最中で鞄を持った怜が冬弥を連れ去った。カーストなんてものは幸いこのクラスにはないが、仮に設定すればわずか数日でヒエラルキーのトップに躍り出た彼女に逆らえるはずも、また理由もなかった。


「……なんか前にもこんなことがあったような」


 どことなくデジャブを感じた。

 一人残された修二も部活には入っておらず、意気揚々と鞄を持つ。


「俺も帰るかな」


 夜にでも何があったか聞こうと心に留め、修二はこの珍しくも素晴らしい午前帰宅でゲームを楽しもうと一人帰路についた。




「どうしたんだよ、お前から誘うなんて」


 あの日から言葉を交わしていなかっただけに冬弥は驚いた。

 互いにどう声をかければいいのか距離感を掴み損ねた結果顔を合わせる度にギクシャクしてタイミングを逃し続けていた。

 下駄箱に直行した二人は揃って歩き出す。部活もテストで休みの今、門までのアスファルトは帰る生徒で溢れかえっている。向かう方向は駅か自宅か。駅に大多数をもっていかれたことで次第に制服は減っていき、数分もすれば昼前の住宅街には少年少女の二人のみとなった。

 怜は冬弥の前を歩き振り返ることなく話す。


「……あんたさ、()()()()()()()()正直不干渉を言い出しといて自分でも何言ってるって思うけど、まああんな事があった後だとね。少しでも脅威は少ない方が良いわ」


「脅威?」


「ええ。この先何が起こるとも限らないってわかったし。それなら味方は多いに越したことはないわ。彼の王様が言うにはあなたは狙い目らしいしね」


 大魔術師のお墨付きを貰った冬弥に対し、既に怜は当初のような格下に対する驕りなど持ってはいなかった。

 思いもよらぬ提案に冬弥は逡巡する。組むことのメリットはすぐに理解できるが、当然デメリットもあるはずだ。握手した瞬間手をもぎ取られるのが魔術師の世界だ。迂闊には頷けない。

 その様子を予め予測していたのだろう、怜はすぐに答えを出さなくてもいいと伝える。

 信号に差し掛かったところで青い人型が点滅し二人は動きを止めた。


「即決できるようなことでもないしね。それに相手の実力も性格もわからないのに判断しようもないでしょう?魔術師としては当然のことね」


「それは、まあそうだな」


 冬弥の是を聞き怜は僅かに口角を上げる。


「と言うわけで明日、空いてるわよね?」


「明日?いや明日は……」


「テスト終わりで休みだし丁度いいと思ってたのよ。こういうのは早い方がいいしね。あとで連絡するから携帯貸しなさい」


 予定を確認する気など更々なかったことを早口で返答を遮った時点で察した。冬弥の心境を怜もまた察したのか満足そうな顔で頷く。まさかデートのお誘いなわけもなく、十中八九魔術関連だろうことは話の流れからして確かだった。

 差し出された携帯を手に取りタタッと自分のアドレスを打ち込む。

 返された携帯のアドレス帳を見ればナ行の一番上には「那上 怜」とフルネームで登録されていた。


「じゃあね御防君、私こっちだから。またあとでね」


 目的を終えた怜は丁度信号の発光が青に変わったのを確認し横断歩道を渡る。

 冬弥は立ち止まったままその背を見送り、入れ替わるように変色した方へと九十度進行方向を傾ける。

 また面倒な事にならなければいいな、と希望的観測を多分に思いつつも真逆になりそうな感じたくもない感覚が拭いきれなかった。


 ピロンッ


 ポケットにしまった携帯からメッセージの受信を知らせる音が聞こえ、早速怜からだろうかと開く。

 今さっきの事なのに早すぎやしないかと相手を決めてかかった冬弥は少し呆れ気味に内容に目を通す。


『やっほー。

 那上さん何の用だった?もしかして告白だったり?俺をおいてそんなんがあったらーーー


 途中まで読んで若干後悔した。

 おかしいとは思っていたがまさかと差出人をみれば少し前に教室に置いていった少年の名前が漢字二文字で表示されていた。

 疲れがどっと押し寄せ、気だるさが付加された体をトボトボと動かした。

 テスト終わりにあったほんの少し気を紛らわせてくれた爽快感は既になくなり、イニアリテールと出会った日の夜に感じていた不安と煩わしさに似たものがふつふつと湧いてきていた。


「色々面倒事が増えてくなぁ」


 ゆったりと生きていた少年には怒涛の連続で、静かだった以前の生活を懐かしむように言葉を紡いだ。




ピロンッ


『明日八時駅前集合でよろしく』


『早すぎじゃね?』


ピロンッ


『御防君は毎朝何時に起きているのかしら。

 普段と変わらないでしょ?』


『休みの日くらいゆっくりしようぜ』


ピロンッ


『(猫の怒った顔)』


『…お前そんな感じだったっけ?スタンプとかちょっと恐怖を感じたぞ』


ピロンッ


『こういうの初めてだから。使って見たかったのよ、これ』


ピロンッ


『(ヘッドスピンをする熊)』


ピロンッ


『可愛いでしょ?』


『使い所がわからねぇ』


ピロンッ


『(劇画タッチの兎)』


ピロンッ


『(如何とも表現しがたい軟体生物)』


ピロンッ


『(別パターンの軟体生物)』


ピロンッ


『(軟体生物)』


ピロンッ


『(軟t



「鬱陶しい!」



 返信しなくても回転寿司のように永遠ネタが送られてきては反応を求めるように間が空く。初めてスマホを触った子供並みの粘着力だ。かまってちゃんだ。

 ベッドに投げ捨てたスマートフォンを拾い上げ、結局暫く付き合わされた冬弥が眠る頃には二時を回っており、疲労感倍プッシュで普段寝つきが悪い彼も数秒で夢の世界へ落ちていった。

面白いと感じた方はお付き合いいただけると嬉しいです。

次は明日0:00投稿予定です。

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