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案じるもの

 

「という事ですので、今日は夕明様の傍に控えさせて頂きますので」


 水蓮宮に朝から訪ねて来たのは侍女姿の桃仙だった。何でも、成蓮に今日は自分の周りを警護するようにと言われたらしい。


 当の成蓮は表向きには具合を悪くして寝ているとのことだが、実は早朝にこっそりと宮殿を抜けだし、蒼信とともに実家の登家に用事のために帰っているらしい。


「でも、私を警護ですか……? 私は特に狙われていないので、大丈夫では……」


「念のため、です」


 真剣な表情でそう言われてしまい、夕明は苦笑する。


「分かりました。では、宜しくお願いしますね」


「はい」


 桃仙は気配を消すように静かだが、その表情はこの前の宴の際と違い、どこか固い気もする。


「そういえば、宴の際に約束していた胃薬なんですが、人数分揃ったのでお渡ししておきますね」


 夕明は戸棚から布に包んだ薬の山を取り出す。


「一応、胃が痛んだら飲む薬ですが、毎日食後に飲んでも大丈夫ですので。また、量が足りなくなったら言って下さい」


「夕明様……。ありがとうございます」


 (うやうや)しく、包みを手に取り、桃仙はやっと表情を和らげた。


「……もしかして、目元に(くま)が出来ているのって、これを作っていたからですか?」


 ちらりと視線を向けてくる桃仙に対して、夕明は曖昧に笑みを返す。


「昨日、眠れなくって。あ、私は好きでしたことなので、気にしないで下さい。むしろ、もっと早くにお渡し出来れば良かったのですが……」


「いえ、そんな……。お気遣い頂けて嬉しいです。さっそく、推家の皆で使わせて頂きますね」


 これで少しでも胃痛が和らぐといいのだが、それでも治まらない時は、もう少し強めの効能の薬草で薬を作った方がいいだろう。

 まだ、帝位争いは終わる気配を見せない。胃薬は蒼信達だけではなく、成蓮まで必要になるかもしれない。


「……どうかされましたか」


 夕明がいつの間にか、変な顔をしているのに気付いた桃仙が首を傾げる。


「あ、すみません。……ただ、まだ争いが終わらないなって思って……」


「……そうですね。こればかりはいつの時代も仕方がないでしょう」


「誰だって、自らの栄華を極めたいと思うのは良いですけれど、あまり長引くと臣下も大変ですもんね」


「ええ。……でも、きっと、もうすぐです」


 ぼそりと言葉を吐いた桃仙の声は小さすぎて聞き取れなかった。


「あ、そうでした。桃仙さん、良ければ宮殿の厨房まで付いてきてくれませんか?」


「それは構いませんけど、何をなさるのですか?」


「蒼信さんから聞いていると思いますが、殿下の食事に毒を入れている人を突き止めたのです」


孝文(こうぶん)という名前の男でしたね。今、別の者に見張らせています」


「そうなんですね。……少しだけ、見に行ってもいいですか?」


「え? 夕明様が、ですか? でも、それ以上は我々の仕事の範囲ですし、そこまでしていただかなくても……」


「自分の目で確かめたいのです。……それに、料理に毒を入れるなら、何の毒を入れたか分かる自分がいた方がいいですから」


「それは……」


 自分なら、一目見れば、使われている毒と野菜、野草の違いが分かる。それを料理に素知らぬふりをしながら入れる料理人は、どのような思いで料理を作っているのか様子も見たかった。


「……分かりました。ですが、毒を目視出来た場合は教えて下さいね」


「はいっ!」


 仕方ないという表情で桃仙は自分を見ていたが、夕明としては毒見役をやるからには、責任を持って、その役目を果たしたいと思う。


 もしかすると、孝文という男は誰かの指示で無理矢理に毒入りの料理を作らされている可能性があるため、それが誰の指示なのかということを知る必要があるのだ。


 皇族が、料理人を替えることは造作もないはずだ。だが、そうしないのは、わざと相手を泳がせておくだけではなく、料理人自身の身を案じている成蓮の意向なのだと思う。


 夕明はもう昼食の準備が始まっているはずだから、と桃仙を伴って、宮殿の厨房へと向かった。

    

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