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斉家の血筋

 

 夕明の家、斉家はもとを辿れば帝の一族、(こう)家の血が流れている。


 今の帝よりも三代前の治世、二人の皇子がいた。母は違うが年は同じで、しかも生まれた日にちも数日という違いだった。


 本来なら、後に斉家の血筋となる長子が太子となるはずだった。

 だが、次子である皇子を産んだ母方の親族が高官(こうかん)ばかりで、当時の帝に圧をかけたらしく、折れてしまった帝は後に生まれた方を太子と立てたのだ。


 そればかりか、太子の周りの者達は親王となった夕明の曾祖父を何度も毒殺しようとしかけてきたのだという。

 しかし、致死量のある毒物を食べても、具合を悪くし、寝込むことはあるが必ず回復してしまうことから、親王だった曾祖父は宮殿内で恐れられるようになってしまった。

 

 その後は自ら帝位争いから身を引き、官位を返上して、夕明が住んでいる水蓮宮を建ててから、閉じ籠るようになったのだ。



 曾祖父はそれから妻を(めと)り、帝が代替わりしても緩やかに過ごしていた。

 だが、彼の兄である帝には皇子が一人しか生まれず、しかも病弱だったことから、帝位を奪い取るために巻き返しを狙うのではと再び命を狙われることとなった。


 それは曾祖父のもとに生まれていた息子が帝位を望んでいると、どこからか根の葉もない噂が立ったことが発端だった。

 しかも今度は曾祖父だけではなく、彼の息子と娘にまでその毒牙が伸びてきたのである。


 曾祖父は帝の刺客によって仕掛けられた毒を体内へ入れてしまったというのに、子ども共々、結局は無事だったため、そこで初めて毒に対して耐性がある身体を持っていることに気付いたのである。

 

 その後は毒が効かぬ一族として、忌み嫌われ恐れられていたが、それならば、と皇族の毒見役として任じられるようになったことが毒見役の斉家の始まりであった。



 やがて臣下として認識されるようになり、命を狙われることはなくなったが、それからも帝や皇族の指名があれば、毒見役として馳せ参じるようになった。



 しばらくして、曾祖父の母の姓が(さい)だったこともあり、名を変えて、それからは皇族の名である(こう)家ではなく、斉家として名を遺すことにした。


 だが、毒見役をやるには毒に詳しくなければ駄目だと思った今は亡き夕明の祖母は、薬師家系の婿を取り、あらゆる毒についての知識を学ぶことにした。


 また毒だけでなく、人に対して良い薬も勉強することで自らも薬師と毒見役を兼業し、この水蓮宮に薬草を育てるようになったと聞いている。

 そうやって、薬師と毒見役として斉家は、周りに敵を作らないようにしつつ、穏やかに暮らす事を決めたのである。




 現在、自分以外の斉家の者は亡くなっているため、当主の座は今、夕明にあると言ってもいいだろう。

 それでも生活に何か支障があるわけではなかった。母からは生前、毒の知識も薬の知識も叩き込まれ、ここで食べる分の野菜の作り方や、お茶の葉の作り方も教わった。


 薪だって自分で割ることが出来るし、風呂も沸かすことが出来る。一人で生きていくには不便だと思う事は何もなかったのだ。


 だが、生活に不便はなくとも、この身に入れた毒によっていつか突然死んでしまうのではないかと密かに恐れを抱いていた。


 毒に耐性があるとはいえ、その身に毒が蓄積されていくのに変わりはないのだ。身体に少しずつ負担が圧し掛かるのは仕方がないのだろう。


 ……でも、それが生きるために与えられた役目だもの。


 この毒見役としての役目が作られた時、曾祖父の兄であった帝は鼻で笑ってこう言ったのだという。


 ──死なない身代わりなんて、これ程、都合が良いものはないだろう。


 その言葉を聞いた時、曾祖父は何と思っただろうか。そして、毒見役を引き受けてきた一族達はどんな気持ちで、自分達の死を望んでいた者の血縁者の身代わりとなっていたのだろうか。


 今となっては、先祖達が抱いていたものなど、分かりはしない。

     

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